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12章 王の恋人
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クルテの話はすぐに終わり、そのあとはフレヴァンスの愚痴や惚気をさんざん聞かされた。
「しかし、ぶっ飛んでたなぁ……マデルから聞いてたイメージと違い過ぎないか?」
「そうかもね。とにかく疲れた。眠いや。フレヴァンスがあんなにお喋りとは思わなかった」
いつもならとっくに眠っている時刻だ。
「寝るか?」
「まだ、明日のことを話してない」
明日のこと……王宮に行く話だ。
「さっき、グリムリュードの意識を感じた。ヤツを利用して王宮に入れない?」
「えっ?」
「ラクティメシッスもいた。だけど、わたしを感知してすぐに遮蔽を掛けた。それでグリムリュードの心も読めなくなった」
「なんだって? いったいどこに居た?」
「それがよく判らない。グリムリュードがわたしのことを魔法使いなのかなって考えたから気付いた。で、ラクティメシッスに『あの娘は魔法使いでしょうか?』って訊いた」
「それで?」
「ラクティメシッスは、『問題はあの娘じゃない』って答えて。そこでプツンと切れた」
遮蔽術が使われたってことか。
しかし……ピエッチェが苦笑する。
「フレヴァンスが知ってるってことはラクティメシッスも知ってると思ったほうがいい。アイツ、初対面の時から俺がザジリレン王だって気付いてたんじゃないか?」
「わたしのことは問題じゃない。それって問題なのはカティだってこと?」
「そう考えるのが順当だろうね――で、どう利用して王宮に入る?」
「具体的には何もない。だから黙ってた」
そういう事ですか。
噂によるとローシェッタは、カテロヘブの返還を求めるザジリレンと交戦寸前だ。ラクティメシッスがピエッチェの正体を知っているのならどう考えるだろう? 拘束してザジリレンに引き渡そうと考えるんじゃないか?
だとしたら、マデルからの連絡が途絶えているのも説明がつく。ピエッチェの引き渡しをラクティメシッスに要求され、どうしたらいいか迷っている、あるいは拒否してマデル自身が軟禁された。
でもしっくりこない。それではラクティメシッスの失踪の説明がつかない。クルテが感知できる範囲、ならば間違いなくララティスチャングに潜伏している。グリムリュードはともかく、ラクティメシッスの顔は知れ渡っている。ただでさえ目立つ容姿だ。王太子を見たと、すぐ口の端にのぼる。
行方不明と言う事はそんな目撃情報もないと言う事、ラクティメシッスは身を隠している。なんのために?
どう思う? クルテに意見を求めようとして横を見る。すると隣に座っていたはずのクルテがいない。ベッドで寝息を立てていた――
いくらも眠らないうちに揺り起こされた。
「カティ、起きて。グリムリュードが宿の前に来ている」
「うん?」
クルテが言うにはグリムリュードは一人、ラクティメシッスはいない。それは彼の心を読んで判っている。
「わたしたちのこと、マデルと一緒に密命を受けてるって今でも思ってる。で、命じたのはラクティメシッスだって」
「ラクティメシッスがそんなことを?」
「ううん、きっと言ってない。ラクティメシッスと話したことをあれこれ思い出してるけど、そんな話は出てこない。で、今、新たな密命を持って、宿の前でわたしたちを待ってる」
「それも思い込み?」
「いいや、手紙をカティに渡すよう命じられてる」
「手紙に密命が書かれているって?」
「グリムリュードはそう信じてる――この宿の前で立ってれば、向こうから来るって言われて、で、待ってる。わたしが気付くはずだってラクティメシッスは考えたんじゃないかな? でもグリムリュードは本当に来るのかって不安でいっぱい」
「ふむ……」
クルテがグリムリュードとラクティメシッスを感知したように、向こうもクルテとピエッチェを感知したのだろう。だから宿の場所が知られてしまった。
ラクティメシッスがピエッチェの正体を知っているのは間違いなさそうだ。でなければ彼がピエッチェに手紙を寄こす理由がない。それにしても密命って? 密書ではなく? ラクティメシッスに命令される謂れはないし、彼もそのあたりは承知しているはずだ。
少なくともラクティメシッスはピエッチェの正体をグリムリュードに明かしていない。ピエッチェを拘束する気はないと考えていい。その気なら、グリムリュードにそう命じるだろうし、彼だけでは心もとなければ兵を出して取り囲めば済むことだ。少なくとも手紙なんてまだるっこしい方法は使わない。
それとも、実はピエッチェの正体に気が付いていなくて、何か依頼してきたんだろうか? どちらにしろ、その手紙を読まない事には何も判らない。
「罠の危険性は?」
「そんなの判らない。グリムリュードも知らされていない何かがないと言い切る根拠がない」
それもそうだな……
「取り敢えず、行ってみるか」
ピエッチェが立ち上がる。
「考えたところで何も判らない。グリムリュードに会えば事態は動く。罠かそうでないのかが判るし、本当に伝えたいことがあってラクティメシッスが手紙を寄こしたのなら、その内容も判る」
カッチーには断ってから出たほうがいいか迷ったが、彼は朝まで起きない。だからメモを寝室のドアに挟み込んだ。必ずカッチーの目に留まるよう、メモにクルテが魔法を掛ける。
部屋を出たところで廊下に誰もいないのを確認し、クルテが姿を消した。きゅっと手首が掴まれたのを感じる。クルテはバンクルに化けていた。
寝付かれないので少し散歩してくると受付係に言って宿を出る。ローシェッタ王都ララティスチャングは深夜だというのに道が明るく照らされ、人影も多い。
(向こうの角にいる……こっちに気が付いた)
クルテの声が頭の中で聞こえた。
ゆっくりと、その方向へと歩く。あちらもゆっくりと近づいてくる。
「一別以来ですな」
グリムリュードが静かに言った。
「お一人ですか? お嬢さんは一緒じゃない?」
「俺ではなく、アイツに用事だったか?」
「いえ、そういうわけでは……主人から、あのお嬢さんがいれば疑われることはないと言われておりまして。有能な魔法使いなのだとか」
主人と言うのはラクティメシッスのことだ。名を言うのが憚られてのことだろう。
「なるほど……それで用件は?」
ピエッチェの問いに、グリムリュードがニヤリとする。
「判っていらっしゃるのでしょう? お手紙をお渡しするよう言い使っております。それと、何か訊かれたら、知っていることはなんでもお答えするようにと言われております」
「なんでも? なら訊きたい。マデリエンテ姫と連絡が取れない。彼女はどうしている?」
「しっ! その名を口になさるな」
グリムリュードが慌て、周囲を見渡す。行き交う人々は、道端で立ち話をする二人の男になど興味を引かれることもなく、自分の連れと楽しげに話しながら通り過ぎていく。
「実はちょっとしたトラブルがございまして……」
グリムリュードが難しい顔になる。
「ついでと言うのもなんですが、せっかく王都に戻ったのだからと主人がお嬢さまと結婚したいと父ぎみに打診したんです」
「それは自分の? それとも彼女のほうの?」
「お嬢さまの父ぎみに、です――で、猛反対されまして」
「反対する理由が思いつかないぞ?」
「最初はお嬢さまには勿体ない相手だの、そんなありきたりなことを言われたようです。それが……」
グリムリュードがピエッチェに抱き着きそうなほど近付いて声を潜める。
「主人に反逆の疑いが掛けられているのが本当の理由と、あとで判りました」
「えっ?」
思わず耳を疑うピエッチェ、グリムリュードの顔をマジマジと見る。
「なんでそんなことに?」
「妹さまの誘拐は主人の仕業だと、王宮で言いふらした輩がいるようです」
「なんだって? で、彼女の父親はそれを信じた?」
「そのようなのですが……この話をするとき、主人は笑っておりました。わたしには明かせない何かがあるのではないかと、わたしは考えております」
「ふむ……それが所在不明の理由なのか?」
「お察しがいい」
グリムリュードが頷いた。
「それで、彼女は?」
「はい、そうでした――で、帰都されたお嬢さまから主人とのことを聞かされた父ぎみは大層お怒りになり、お嬢さまを軟禁なさってしまったのです。お嬢さまの父ぎみのお立場はご存知でしょうか?」
「知っているが、名は言わないほうがいいのだろう?」
「はい。そんなわけでお嬢さまはわたしの主人はもとより、一切外部と連絡が取れなくなっております」
ラクティメシッスの失踪とマデルと連絡が取れない理由は判った。だが……
「それで、おまえの主人はこのあとどうするつもりだ? このまま隠れ続けるわけにはいかない。それに、彼の父親はどう考えている?」
「それについては、主人の手紙をお読みください。内容までは知らされておりませんが、今後のことを訊かれたら手紙を読んで貰えと言われています。それに、返事も聞いてこいとも」
今すぐ読めと言う事か――ピエッチェが手紙の封蝋を割る。
手紙を読み終えたピエッチェがニヤッと笑い、グリムリュードに向き直った。
「異論はないと伝えて欲しい――で、一つ朗報がある」
「朗報ですと?」
「うん……実はおまえの主人の妹を見つけ出して保護している」
「なんとっ!」
つい叫んだグリムリュード、道行く人の何人かが驚いてグリムリュードを見る。慌てて口を手で塞ぎ、しばらく様子を窺っていたが
「どういうことですか?」
周囲が関心を無くし行ってしまうのを待ってグリムリュードが訊いた。
「かなり込み入った話だし、おまえの主人を陥れようと企む連中も関連しているかもしれない。ここで話していいものか?」
「そうですか……うーーん、一度戻って主人の判断を仰いだほうがよさそうですね」
「ところでおまえの主人は安全な場所に?」
「もちろんです。そうそう、先ほどは失礼したと、そちらのお嬢さまにお伝えしろと言われておりました。そう言えば判るとのことです」
昼間に落ちあう約束をしてグリムリュードとは別れ、宿に戻った。散歩にはちょうどいい時間を過ごしている。宿の受付係は疑うことなく『お帰りなさいませ』とピエッチェを出迎えた。
クルテが姿を現したのは部屋に戻ってからだ。
「失礼したってことは、やっぱラクティメシッスは食えないね」
と笑う。
「アイツ、わたしが感知するのを期待してグリムリュードにわたしのことを考えさせたんだよ、きっと」
「なぁ……」
心配顔でピエッチェがクルテに言った。
「ラクティメシッスはおまえの正体にも気が付いているんじゃないのか?」
「うーーん、どうだろうね? まぁ、人間じゃないとは思ってるだろうけど。どうでもいいよ、そんなこと」
どうでもいいだなんて、俺は思ってない。
とにかく俺たちがまた一歩、目的に近付いたのは間違いない。
「しかし、ぶっ飛んでたなぁ……マデルから聞いてたイメージと違い過ぎないか?」
「そうかもね。とにかく疲れた。眠いや。フレヴァンスがあんなにお喋りとは思わなかった」
いつもならとっくに眠っている時刻だ。
「寝るか?」
「まだ、明日のことを話してない」
明日のこと……王宮に行く話だ。
「さっき、グリムリュードの意識を感じた。ヤツを利用して王宮に入れない?」
「えっ?」
「ラクティメシッスもいた。だけど、わたしを感知してすぐに遮蔽を掛けた。それでグリムリュードの心も読めなくなった」
「なんだって? いったいどこに居た?」
「それがよく判らない。グリムリュードがわたしのことを魔法使いなのかなって考えたから気付いた。で、ラクティメシッスに『あの娘は魔法使いでしょうか?』って訊いた」
「それで?」
「ラクティメシッスは、『問題はあの娘じゃない』って答えて。そこでプツンと切れた」
遮蔽術が使われたってことか。
しかし……ピエッチェが苦笑する。
「フレヴァンスが知ってるってことはラクティメシッスも知ってると思ったほうがいい。アイツ、初対面の時から俺がザジリレン王だって気付いてたんじゃないか?」
「わたしのことは問題じゃない。それって問題なのはカティだってこと?」
「そう考えるのが順当だろうね――で、どう利用して王宮に入る?」
「具体的には何もない。だから黙ってた」
そういう事ですか。
噂によるとローシェッタは、カテロヘブの返還を求めるザジリレンと交戦寸前だ。ラクティメシッスがピエッチェの正体を知っているのならどう考えるだろう? 拘束してザジリレンに引き渡そうと考えるんじゃないか?
だとしたら、マデルからの連絡が途絶えているのも説明がつく。ピエッチェの引き渡しをラクティメシッスに要求され、どうしたらいいか迷っている、あるいは拒否してマデル自身が軟禁された。
でもしっくりこない。それではラクティメシッスの失踪の説明がつかない。クルテが感知できる範囲、ならば間違いなくララティスチャングに潜伏している。グリムリュードはともかく、ラクティメシッスの顔は知れ渡っている。ただでさえ目立つ容姿だ。王太子を見たと、すぐ口の端にのぼる。
行方不明と言う事はそんな目撃情報もないと言う事、ラクティメシッスは身を隠している。なんのために?
どう思う? クルテに意見を求めようとして横を見る。すると隣に座っていたはずのクルテがいない。ベッドで寝息を立てていた――
いくらも眠らないうちに揺り起こされた。
「カティ、起きて。グリムリュードが宿の前に来ている」
「うん?」
クルテが言うにはグリムリュードは一人、ラクティメシッスはいない。それは彼の心を読んで判っている。
「わたしたちのこと、マデルと一緒に密命を受けてるって今でも思ってる。で、命じたのはラクティメシッスだって」
「ラクティメシッスがそんなことを?」
「ううん、きっと言ってない。ラクティメシッスと話したことをあれこれ思い出してるけど、そんな話は出てこない。で、今、新たな密命を持って、宿の前でわたしたちを待ってる」
「それも思い込み?」
「いいや、手紙をカティに渡すよう命じられてる」
「手紙に密命が書かれているって?」
「グリムリュードはそう信じてる――この宿の前で立ってれば、向こうから来るって言われて、で、待ってる。わたしが気付くはずだってラクティメシッスは考えたんじゃないかな? でもグリムリュードは本当に来るのかって不安でいっぱい」
「ふむ……」
クルテがグリムリュードとラクティメシッスを感知したように、向こうもクルテとピエッチェを感知したのだろう。だから宿の場所が知られてしまった。
ラクティメシッスがピエッチェの正体を知っているのは間違いなさそうだ。でなければ彼がピエッチェに手紙を寄こす理由がない。それにしても密命って? 密書ではなく? ラクティメシッスに命令される謂れはないし、彼もそのあたりは承知しているはずだ。
少なくともラクティメシッスはピエッチェの正体をグリムリュードに明かしていない。ピエッチェを拘束する気はないと考えていい。その気なら、グリムリュードにそう命じるだろうし、彼だけでは心もとなければ兵を出して取り囲めば済むことだ。少なくとも手紙なんてまだるっこしい方法は使わない。
それとも、実はピエッチェの正体に気が付いていなくて、何か依頼してきたんだろうか? どちらにしろ、その手紙を読まない事には何も判らない。
「罠の危険性は?」
「そんなの判らない。グリムリュードも知らされていない何かがないと言い切る根拠がない」
それもそうだな……
「取り敢えず、行ってみるか」
ピエッチェが立ち上がる。
「考えたところで何も判らない。グリムリュードに会えば事態は動く。罠かそうでないのかが判るし、本当に伝えたいことがあってラクティメシッスが手紙を寄こしたのなら、その内容も判る」
カッチーには断ってから出たほうがいいか迷ったが、彼は朝まで起きない。だからメモを寝室のドアに挟み込んだ。必ずカッチーの目に留まるよう、メモにクルテが魔法を掛ける。
部屋を出たところで廊下に誰もいないのを確認し、クルテが姿を消した。きゅっと手首が掴まれたのを感じる。クルテはバンクルに化けていた。
寝付かれないので少し散歩してくると受付係に言って宿を出る。ローシェッタ王都ララティスチャングは深夜だというのに道が明るく照らされ、人影も多い。
(向こうの角にいる……こっちに気が付いた)
クルテの声が頭の中で聞こえた。
ゆっくりと、その方向へと歩く。あちらもゆっくりと近づいてくる。
「一別以来ですな」
グリムリュードが静かに言った。
「お一人ですか? お嬢さんは一緒じゃない?」
「俺ではなく、アイツに用事だったか?」
「いえ、そういうわけでは……主人から、あのお嬢さんがいれば疑われることはないと言われておりまして。有能な魔法使いなのだとか」
主人と言うのはラクティメシッスのことだ。名を言うのが憚られてのことだろう。
「なるほど……それで用件は?」
ピエッチェの問いに、グリムリュードがニヤリとする。
「判っていらっしゃるのでしょう? お手紙をお渡しするよう言い使っております。それと、何か訊かれたら、知っていることはなんでもお答えするようにと言われております」
「なんでも? なら訊きたい。マデリエンテ姫と連絡が取れない。彼女はどうしている?」
「しっ! その名を口になさるな」
グリムリュードが慌て、周囲を見渡す。行き交う人々は、道端で立ち話をする二人の男になど興味を引かれることもなく、自分の連れと楽しげに話しながら通り過ぎていく。
「実はちょっとしたトラブルがございまして……」
グリムリュードが難しい顔になる。
「ついでと言うのもなんですが、せっかく王都に戻ったのだからと主人がお嬢さまと結婚したいと父ぎみに打診したんです」
「それは自分の? それとも彼女のほうの?」
「お嬢さまの父ぎみに、です――で、猛反対されまして」
「反対する理由が思いつかないぞ?」
「最初はお嬢さまには勿体ない相手だの、そんなありきたりなことを言われたようです。それが……」
グリムリュードがピエッチェに抱き着きそうなほど近付いて声を潜める。
「主人に反逆の疑いが掛けられているのが本当の理由と、あとで判りました」
「えっ?」
思わず耳を疑うピエッチェ、グリムリュードの顔をマジマジと見る。
「なんでそんなことに?」
「妹さまの誘拐は主人の仕業だと、王宮で言いふらした輩がいるようです」
「なんだって? で、彼女の父親はそれを信じた?」
「そのようなのですが……この話をするとき、主人は笑っておりました。わたしには明かせない何かがあるのではないかと、わたしは考えております」
「ふむ……それが所在不明の理由なのか?」
「お察しがいい」
グリムリュードが頷いた。
「それで、彼女は?」
「はい、そうでした――で、帰都されたお嬢さまから主人とのことを聞かされた父ぎみは大層お怒りになり、お嬢さまを軟禁なさってしまったのです。お嬢さまの父ぎみのお立場はご存知でしょうか?」
「知っているが、名は言わないほうがいいのだろう?」
「はい。そんなわけでお嬢さまはわたしの主人はもとより、一切外部と連絡が取れなくなっております」
ラクティメシッスの失踪とマデルと連絡が取れない理由は判った。だが……
「それで、おまえの主人はこのあとどうするつもりだ? このまま隠れ続けるわけにはいかない。それに、彼の父親はどう考えている?」
「それについては、主人の手紙をお読みください。内容までは知らされておりませんが、今後のことを訊かれたら手紙を読んで貰えと言われています。それに、返事も聞いてこいとも」
今すぐ読めと言う事か――ピエッチェが手紙の封蝋を割る。
手紙を読み終えたピエッチェがニヤッと笑い、グリムリュードに向き直った。
「異論はないと伝えて欲しい――で、一つ朗報がある」
「朗報ですと?」
「うん……実はおまえの主人の妹を見つけ出して保護している」
「なんとっ!」
つい叫んだグリムリュード、道行く人の何人かが驚いてグリムリュードを見る。慌てて口を手で塞ぎ、しばらく様子を窺っていたが
「どういうことですか?」
周囲が関心を無くし行ってしまうのを待ってグリムリュードが訊いた。
「かなり込み入った話だし、おまえの主人を陥れようと企む連中も関連しているかもしれない。ここで話していいものか?」
「そうですか……うーーん、一度戻って主人の判断を仰いだほうがよさそうですね」
「ところでおまえの主人は安全な場所に?」
「もちろんです。そうそう、先ほどは失礼したと、そちらのお嬢さまにお伝えしろと言われておりました。そう言えば判るとのことです」
昼間に落ちあう約束をしてグリムリュードとは別れ、宿に戻った。散歩にはちょうどいい時間を過ごしている。宿の受付係は疑うことなく『お帰りなさいませ』とピエッチェを出迎えた。
クルテが姿を現したのは部屋に戻ってからだ。
「失礼したってことは、やっぱラクティメシッスは食えないね」
と笑う。
「アイツ、わたしが感知するのを期待してグリムリュードにわたしのことを考えさせたんだよ、きっと」
「なぁ……」
心配顔でピエッチェがクルテに言った。
「ラクティメシッスはおまえの正体にも気が付いているんじゃないのか?」
「うーーん、どうだろうね? まぁ、人間じゃないとは思ってるだろうけど。どうでもいいよ、そんなこと」
どうでもいいだなんて、俺は思ってない。
とにかく俺たちがまた一歩、目的に近付いたのは間違いない。
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