214 / 434
12章 王の恋人
6
しおりを挟む
カッチーとジランチェニシスには、ローシェッタ国王との謁見を願い出てくると言って宿を出た。宿の支配人には『ララティスチャングを見て回りたい』と言って、街の観光案内地図を貰った。どちらも嘘だ。
「抜け駆けするつもりですか!?」
謁見を申し出てくると聞いたジランチェニシスは激昂したが、カテロヘブ王を連れて行かないと聞いて急に温和しくなった。
「申し込みだけ? ならばわたしがわざわざ行くほどのこともありません」
それでもピエッチェとクルテが二人だけで出かけるまで居間に居続け、カテロヘブを連れださないか監視していた。二人が出かけるとさっさと自分の寝室に戻ったことは、クルテがカッチーの心を読んで知っている。
カッチーは留守番を仰せつかったが、ジランチェニシスが勝手に外出したりカテロヘブに近付かないよう監視する役目もあった。同時に外部からの接触にも気を付けるよう言われ、ジランチェニシスが寝室に引っ込んでから、念入りに玄関ドアの施錠・かんぬきの点検をしている。そのあとはメインの居間でのんびり読書しながら役目を果たしていた――
「夏だな……」
切り売りのスイカをクルテが食べ終わるのを待ちながらピエッチェが呟いた。果物屋が店先に出した屋台、張り出されたオーシェードの下に置かれたベンチに座ったクルテが嬉しそうにスイカを食べている。
魔法で日差しの強さを調整しているとはいえ、季節をまりきり無視したりはしないのだろう。今日の日差しはそこそこ強い。日焼けしそうだ。
約束の時間よりずっと早く出てきた。すでに待ち合わせの場所を確認し、不審な点はないかを見たあとだ。ラクティメシッスの手紙を読んだ限り、彼は敵ではない。だがやはり念のため、用心するに越したことはなさそうだ。用心する相手はラクティメシッスではない。彼を陥れようとしている連中だ。
だから宿でララティスチャングの地図を貰った。いざというときの逃走路を知っておくためだ。逃走することになったら、カッチーとジランチェニシス、そしてオッチンネルテは敵の手中に落ちる危険がある。命まで取られはしないだろうから、いずれ奪還するしかない。それにそうなった場合、ジランチェニシスがどう扱われるかで敵の正体が掴めるかもしれない。
ラクティメシッスとフレヴァンスの排除に成功した。敵はジランチェニシスの王位継承権を主張してくるはずだ。ノホメの登場か? それとも別の誰かが表舞台に出てくるか?
「美味しかった――これはどうしたら?」
食べ終わったスイカの皮の始末に困ったクルテが、屋台の店番に話しかけた。店番は若い男だ。ピエッチェと同じくらいか?
「あ、そこの桶に放り込んで……このタオルで手を拭くといいよ」
差し出してきたのは絞ったタオル、クルテが微笑んで受け取る。
「冷たいのね。魔法?」
「うん、奥にある水桶の水は冷たいまま温くならない。その水で濡らして絞ったんだよ。なんだったら飲んでみる? 柄杓で汲みだして使ってるから、水桶の中身はキレイなんだ」
「そうなのね。でも、スイカを食べたばかりだから咽喉は乾いてないの」
屋台に並べられたリンゴを見ながらクルテが答えた。
「そっか……リンゴ、好きかい?」
「果物はなんでも好き」
すると店番がリンゴを一つ取って差し出した。
「これはサービス。誰にでもあげるわけじゃない。内緒だ」
「あら、いいの?」
「うん……また来てくれたら嬉しいな」
店員が頬を染める。
「そうね、用事を済ませたらまた来るかも――ありがとう」
ニッコリ笑ってリンゴを受け取るクルテ、店員がますます赤くなる。が、ピエッチェの咳払いでサッと蒼褪めた。
果物屋から離れるとクルテがクスクス笑い始める。
「店番のおニイちゃんを脅しちゃダメじゃん。わたしに妬くなって言うくせに、カティもすぐ妬くよね」
「馬鹿言え。あれは焼きもちじゃない」
「じゃあなんなの?」
「あれは……存在を示しただけだ」
「そっか」
クスクス笑いながらクルテがピエッチェの腕に絡みついてきた。二人の会話は果物屋までは聞こえなかっただろう。だけど後ろ姿はまだ見えていたはずだ――
「落とされましたよ?」
後ろから声を掛けてきたのはグリムリュードだ。すれ違いざま、クルテがわざと落とした花を拾い上げている。周囲は露店が軒を連ね、人通りが多い――打ち合わせ通りの場所、打ち合わせ通りの行動、他人のふりだ。
「あら、ありがとう……でも、それはあなたに差し上げる」
花はクルテが抱えた花籠から落ちたもの、小さく畳んだメモを仕込んでおいた。
「いいえ、わたしに花は似合いません」
グリムリュードが花籠に花を差し込む。もちろん掌の中でメモは外して読み、自分が用意したメモと一緒に花籠へ押し込んだ。
花につけたメモに書かれていたのはサロンの名、グリムリュードと別れたあと、ピエッチェとクルテは真っ直ぐその店に向かっている。
店に入り注文を済ませてから、グリムリュードが花籠に押し込んだメモを籠の中から出さずにクルテが読む。そしてピエッチェの頭の中で言った。
(ラクティメシッスご本人の登場だって)
(って、どこに?)
(変装してこの店に来るらしい)
(昨日の話と違うな。サロンで待ってたら迎えの誰かを寄こすんじゃなかったか?)
(気が変わったんじゃない? 自分で来たほうが早いって思ったのかも?)
(しかし変装? どんな? なまじっかな変装じゃ、すぐにバレそうだぞ?)
(ソワソワと出入口を見ちゃダメ、周囲に怪しまれる)
店員が注文品を持ってくる。果物の盛り合わせと菓子の盛り合わせ、それにカシス水がクルテの注文、ピエッチェはカモミールティーだけだ。が、店員が、
「果物はどちらに?」
と訊くと、
「お菓子はわたし、果物はこちら」
とピエッチェを示す。おいっと思ったが黙っていた。
「たまにはカティも何か食べなよ」
クルテが笑う。
「自分が食べたいから頼んだんだろう?」
「ローシェッタのお菓子はあんまり好きじゃないみたいだけど、果物ならいいんじゃないの?」
「おや、ローシェッタの菓子はお口にあいませんか?」
店に入ってきたばかりの女性客が急に声を掛けてきた。空席を探してここに来たらしい。栗色の髪、声も涼やかで美しいが見た目も飛びぬけて美しい。ピエッチェを見てクスッと笑った。そして、
「お待たせしました」
と一つ空いていた椅子に腰を下ろす。四人席の、もう一つにはクルテが花籠を置いていた。
「えっ?」
驚くピエッチェを気にすることなく女は店員を呼び、
「わたしにもカモミールティーを」
と頼んでいる。クルテも呆気に取られて女を見ている。が、すぐにニヤリと笑った。
「えっ!?」
(静かに!)
奇声を発しそうなピエッチェの、頭の中でクルテが怒鳴る。急な頭痛で『うっ』と呻いたピエッチェを、女が面白そうに見る。
(ラクティメシッスなのは判ってるな?)
頭痛が治まっていないピエッチェの頭にクルテの声が続く。
(声を作るのは辛いらしい。で、わたしとの脳内会話を希望している。カティの心が読めないのはなぜかと聞かれたが、判らないって答えた)
きっと森の女神の祝福のお陰だ。
(互いに相手の心を読まない約束だ。相手が言ってきたことだけを受け取る。読もうとした途端、交渉は決裂。それでいいか?)
(俺の考えはどう伝える?)
(わたしが伝えるに決まってる)
あ、そうか、俺が考えたことはクルテには筒抜けだった。
店員がカモミールティーを持ってきた。受け取ったラクティメシッスはニッコリと店員に微笑んで会釈した。運んで来た店員は女だったが、それでも頬を染めた。女が憧れるほど美しい女に化けたラクティメシッス、栗色の髪はきっとウイッグだ。
「お化粧が上手ね」
クルテがラクティメシッスに言った。少しばかり厭味っぽい。
「そう言えば、おまえは化粧しないな」
ピエッチェがクルテに言う。これはクルテからの脳内指示だ。三人揃って押し黙っているのも奇妙と言う事らしい。
「お化粧なんかしたことないし……したほうがいい?」
「いいや、おまえはそのままで充分キレイだ」
ラクティメシッスが笑いを噛み殺した――
雑談しながらの脳内会議は骨が折れる。クルテとラクティメシッスはスラスラ話が進むようだが、ピエッチェは時おり混乱し口籠った。それでもなんとか、夕食時までには打ち合わせを終えた。
そう、打ち合わせ……ラクティメシッスとの談合は交渉ではなく打ち合わせだ。昨日、グリムリュードから渡された手紙の内容に同意することは最初に伝えた。そのあとは具体的な作戦会議になった。
宿で貰った観光案内地図が役に立ったのはラクティメシッスがあることのため、場所を指定した時だった。初めてきた街で、さして目印になるようなものがないところへの道順を説明するのは難しい。テーブルに地図を広げ『ここに行ってみたい』などと話しながら、クルテとラクティメシッスは頭の中で別の場所のことを話していた。その間、ピエッチェは蚊帳の外、少しイラっとした。が、そんな事を気にしている場合じゃない。顔に出すことはなかった。
「それじゃ、また明日」
サロンの前でラクティメシッスとは別れた。ラクティメシッスの作り声を訊いたのは最初と最後だけだ。あとは地声、もっとも声量を控え言葉数も少なかった。さらに、咳き込んだり噎せたりして、咽喉の調子の悪さをアピールして誤魔化していた――
宿に戻るとジランチェニシスが寝室からすぐに出てきた。二人を待って気を張り巡らせていたのだろう。
「遅かったじゃないですか! 申し込みだけなのに、こんなに時間が掛かるものなのですか!?」
お怒りのご様子だ。
「あぁ、ついでだから、ララティスチャングを彷徨ついてきた」
クルテはソファーに座り、貰ったリンゴを出して嚙り付いている。羨ましそうにそれを見ているカッチー、そろそろ空腹なのだろう。
「それで? 国王とは会えそうですか?」
「うん。明日、謁見が叶うことになった」
「へっ?」
「だが非公式で、と言われている。場所は王宮じゃない」
ジランチェニシスが怖い顔でピエッチェを睨みつける。
「わたしを騙すつもりじゃないでしょうね?」
「そう思うなら、あんたは来るのをやめるかい? 別にそれでも構わない。だけど、カテロヘブは連れて行くし、肖像画も持って行く」
「うむ……あの絵を持って行くのなら、嘘はなさそうですね。いいでしょう、ご一緒します」
そこに夕食が運ばれ、ジランチェニシスは自分の分を運んで貰うと、そのまま寝室に引き籠った。
四人分の食事はダイニングに運んで貰う。
「肖像画ってあの絵? なんでアイツ、行くことにしたんですか?」
カッチーが訊いた。
「あとでな」
「何か面白いことになりそうですね」
カッチーがニヤリとした。
「抜け駆けするつもりですか!?」
謁見を申し出てくると聞いたジランチェニシスは激昂したが、カテロヘブ王を連れて行かないと聞いて急に温和しくなった。
「申し込みだけ? ならばわたしがわざわざ行くほどのこともありません」
それでもピエッチェとクルテが二人だけで出かけるまで居間に居続け、カテロヘブを連れださないか監視していた。二人が出かけるとさっさと自分の寝室に戻ったことは、クルテがカッチーの心を読んで知っている。
カッチーは留守番を仰せつかったが、ジランチェニシスが勝手に外出したりカテロヘブに近付かないよう監視する役目もあった。同時に外部からの接触にも気を付けるよう言われ、ジランチェニシスが寝室に引っ込んでから、念入りに玄関ドアの施錠・かんぬきの点検をしている。そのあとはメインの居間でのんびり読書しながら役目を果たしていた――
「夏だな……」
切り売りのスイカをクルテが食べ終わるのを待ちながらピエッチェが呟いた。果物屋が店先に出した屋台、張り出されたオーシェードの下に置かれたベンチに座ったクルテが嬉しそうにスイカを食べている。
魔法で日差しの強さを調整しているとはいえ、季節をまりきり無視したりはしないのだろう。今日の日差しはそこそこ強い。日焼けしそうだ。
約束の時間よりずっと早く出てきた。すでに待ち合わせの場所を確認し、不審な点はないかを見たあとだ。ラクティメシッスの手紙を読んだ限り、彼は敵ではない。だがやはり念のため、用心するに越したことはなさそうだ。用心する相手はラクティメシッスではない。彼を陥れようとしている連中だ。
だから宿でララティスチャングの地図を貰った。いざというときの逃走路を知っておくためだ。逃走することになったら、カッチーとジランチェニシス、そしてオッチンネルテは敵の手中に落ちる危険がある。命まで取られはしないだろうから、いずれ奪還するしかない。それにそうなった場合、ジランチェニシスがどう扱われるかで敵の正体が掴めるかもしれない。
ラクティメシッスとフレヴァンスの排除に成功した。敵はジランチェニシスの王位継承権を主張してくるはずだ。ノホメの登場か? それとも別の誰かが表舞台に出てくるか?
「美味しかった――これはどうしたら?」
食べ終わったスイカの皮の始末に困ったクルテが、屋台の店番に話しかけた。店番は若い男だ。ピエッチェと同じくらいか?
「あ、そこの桶に放り込んで……このタオルで手を拭くといいよ」
差し出してきたのは絞ったタオル、クルテが微笑んで受け取る。
「冷たいのね。魔法?」
「うん、奥にある水桶の水は冷たいまま温くならない。その水で濡らして絞ったんだよ。なんだったら飲んでみる? 柄杓で汲みだして使ってるから、水桶の中身はキレイなんだ」
「そうなのね。でも、スイカを食べたばかりだから咽喉は乾いてないの」
屋台に並べられたリンゴを見ながらクルテが答えた。
「そっか……リンゴ、好きかい?」
「果物はなんでも好き」
すると店番がリンゴを一つ取って差し出した。
「これはサービス。誰にでもあげるわけじゃない。内緒だ」
「あら、いいの?」
「うん……また来てくれたら嬉しいな」
店員が頬を染める。
「そうね、用事を済ませたらまた来るかも――ありがとう」
ニッコリ笑ってリンゴを受け取るクルテ、店員がますます赤くなる。が、ピエッチェの咳払いでサッと蒼褪めた。
果物屋から離れるとクルテがクスクス笑い始める。
「店番のおニイちゃんを脅しちゃダメじゃん。わたしに妬くなって言うくせに、カティもすぐ妬くよね」
「馬鹿言え。あれは焼きもちじゃない」
「じゃあなんなの?」
「あれは……存在を示しただけだ」
「そっか」
クスクス笑いながらクルテがピエッチェの腕に絡みついてきた。二人の会話は果物屋までは聞こえなかっただろう。だけど後ろ姿はまだ見えていたはずだ――
「落とされましたよ?」
後ろから声を掛けてきたのはグリムリュードだ。すれ違いざま、クルテがわざと落とした花を拾い上げている。周囲は露店が軒を連ね、人通りが多い――打ち合わせ通りの場所、打ち合わせ通りの行動、他人のふりだ。
「あら、ありがとう……でも、それはあなたに差し上げる」
花はクルテが抱えた花籠から落ちたもの、小さく畳んだメモを仕込んでおいた。
「いいえ、わたしに花は似合いません」
グリムリュードが花籠に花を差し込む。もちろん掌の中でメモは外して読み、自分が用意したメモと一緒に花籠へ押し込んだ。
花につけたメモに書かれていたのはサロンの名、グリムリュードと別れたあと、ピエッチェとクルテは真っ直ぐその店に向かっている。
店に入り注文を済ませてから、グリムリュードが花籠に押し込んだメモを籠の中から出さずにクルテが読む。そしてピエッチェの頭の中で言った。
(ラクティメシッスご本人の登場だって)
(って、どこに?)
(変装してこの店に来るらしい)
(昨日の話と違うな。サロンで待ってたら迎えの誰かを寄こすんじゃなかったか?)
(気が変わったんじゃない? 自分で来たほうが早いって思ったのかも?)
(しかし変装? どんな? なまじっかな変装じゃ、すぐにバレそうだぞ?)
(ソワソワと出入口を見ちゃダメ、周囲に怪しまれる)
店員が注文品を持ってくる。果物の盛り合わせと菓子の盛り合わせ、それにカシス水がクルテの注文、ピエッチェはカモミールティーだけだ。が、店員が、
「果物はどちらに?」
と訊くと、
「お菓子はわたし、果物はこちら」
とピエッチェを示す。おいっと思ったが黙っていた。
「たまにはカティも何か食べなよ」
クルテが笑う。
「自分が食べたいから頼んだんだろう?」
「ローシェッタのお菓子はあんまり好きじゃないみたいだけど、果物ならいいんじゃないの?」
「おや、ローシェッタの菓子はお口にあいませんか?」
店に入ってきたばかりの女性客が急に声を掛けてきた。空席を探してここに来たらしい。栗色の髪、声も涼やかで美しいが見た目も飛びぬけて美しい。ピエッチェを見てクスッと笑った。そして、
「お待たせしました」
と一つ空いていた椅子に腰を下ろす。四人席の、もう一つにはクルテが花籠を置いていた。
「えっ?」
驚くピエッチェを気にすることなく女は店員を呼び、
「わたしにもカモミールティーを」
と頼んでいる。クルテも呆気に取られて女を見ている。が、すぐにニヤリと笑った。
「えっ!?」
(静かに!)
奇声を発しそうなピエッチェの、頭の中でクルテが怒鳴る。急な頭痛で『うっ』と呻いたピエッチェを、女が面白そうに見る。
(ラクティメシッスなのは判ってるな?)
頭痛が治まっていないピエッチェの頭にクルテの声が続く。
(声を作るのは辛いらしい。で、わたしとの脳内会話を希望している。カティの心が読めないのはなぜかと聞かれたが、判らないって答えた)
きっと森の女神の祝福のお陰だ。
(互いに相手の心を読まない約束だ。相手が言ってきたことだけを受け取る。読もうとした途端、交渉は決裂。それでいいか?)
(俺の考えはどう伝える?)
(わたしが伝えるに決まってる)
あ、そうか、俺が考えたことはクルテには筒抜けだった。
店員がカモミールティーを持ってきた。受け取ったラクティメシッスはニッコリと店員に微笑んで会釈した。運んで来た店員は女だったが、それでも頬を染めた。女が憧れるほど美しい女に化けたラクティメシッス、栗色の髪はきっとウイッグだ。
「お化粧が上手ね」
クルテがラクティメシッスに言った。少しばかり厭味っぽい。
「そう言えば、おまえは化粧しないな」
ピエッチェがクルテに言う。これはクルテからの脳内指示だ。三人揃って押し黙っているのも奇妙と言う事らしい。
「お化粧なんかしたことないし……したほうがいい?」
「いいや、おまえはそのままで充分キレイだ」
ラクティメシッスが笑いを噛み殺した――
雑談しながらの脳内会議は骨が折れる。クルテとラクティメシッスはスラスラ話が進むようだが、ピエッチェは時おり混乱し口籠った。それでもなんとか、夕食時までには打ち合わせを終えた。
そう、打ち合わせ……ラクティメシッスとの談合は交渉ではなく打ち合わせだ。昨日、グリムリュードから渡された手紙の内容に同意することは最初に伝えた。そのあとは具体的な作戦会議になった。
宿で貰った観光案内地図が役に立ったのはラクティメシッスがあることのため、場所を指定した時だった。初めてきた街で、さして目印になるようなものがないところへの道順を説明するのは難しい。テーブルに地図を広げ『ここに行ってみたい』などと話しながら、クルテとラクティメシッスは頭の中で別の場所のことを話していた。その間、ピエッチェは蚊帳の外、少しイラっとした。が、そんな事を気にしている場合じゃない。顔に出すことはなかった。
「それじゃ、また明日」
サロンの前でラクティメシッスとは別れた。ラクティメシッスの作り声を訊いたのは最初と最後だけだ。あとは地声、もっとも声量を控え言葉数も少なかった。さらに、咳き込んだり噎せたりして、咽喉の調子の悪さをアピールして誤魔化していた――
宿に戻るとジランチェニシスが寝室からすぐに出てきた。二人を待って気を張り巡らせていたのだろう。
「遅かったじゃないですか! 申し込みだけなのに、こんなに時間が掛かるものなのですか!?」
お怒りのご様子だ。
「あぁ、ついでだから、ララティスチャングを彷徨ついてきた」
クルテはソファーに座り、貰ったリンゴを出して嚙り付いている。羨ましそうにそれを見ているカッチー、そろそろ空腹なのだろう。
「それで? 国王とは会えそうですか?」
「うん。明日、謁見が叶うことになった」
「へっ?」
「だが非公式で、と言われている。場所は王宮じゃない」
ジランチェニシスが怖い顔でピエッチェを睨みつける。
「わたしを騙すつもりじゃないでしょうね?」
「そう思うなら、あんたは来るのをやめるかい? 別にそれでも構わない。だけど、カテロヘブは連れて行くし、肖像画も持って行く」
「うむ……あの絵を持って行くのなら、嘘はなさそうですね。いいでしょう、ご一緒します」
そこに夕食が運ばれ、ジランチェニシスは自分の分を運んで貰うと、そのまま寝室に引き籠った。
四人分の食事はダイニングに運んで貰う。
「肖像画ってあの絵? なんでアイツ、行くことにしたんですか?」
カッチーが訊いた。
「あとでな」
「何か面白いことになりそうですね」
カッチーがニヤリとした。
10
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる