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16章 継承される流れ
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キッチンに行くと料理している女が一人いて、深々と頭を下げた。
「妹です」
チュジャバリテが女を見て言った。
「夕食の用意をさせておりました……まだ出来上がっていないようですが」
湯気を立てる鍋からはトマトの匂い、肉の焼ける匂いはオーブンからか?
「いや、食材は用意してきた。けれどせっかくなので夕食はいただくが、明日からは不要だ。気遣い、ありがとう」
「そうですか、それは助かります――食材はたまになら誤魔化しようもあるけれど、何日も通常より多くは買い込めない。しかし、調理のお手伝いなら出来ますよ?」
チュジャバリテの言葉にピエッチェが軽く笑う。
「そうだな、チュジャバリテ。おまえが手伝うと言うならお願いするが、妹にさせるつもりなのだろう? それは断りたい」
「いや、でも、それは――」
「できるだけ負担になりたくないと思っている。妹さんにまで迷惑をかけるのは心苦しいんだ」
けっして迷惑だなどと……見るからに温和しそうな妹が言い募りそうになるのを遮るピエッチェ、
「それにこちらの二人の女は料理が得意でね。自分たちで作る気満々だ。俺たちを顎で使うことも楽しみにしている。そして俺たち男はこの二人にあれこれ指図されたいんだ」
とニコニコ言うと、マデルが援護射撃する。
「料理するのが楽しみね。何を手伝って貰おうか?」
クリンナーテンとクスクス笑えば、チュジャバリテも妹も苦笑いするしかない。
チュジャバリテは出来上がっていないと言ったがそれは勘違い、実はもう完成していると妹が言った。あとは盛り付けるだけらしい。だったらこっちでやるわ、とマデルが引き受けた。鍋の蓋を取って『ロールキャベツだわ。美味しそう』とニッコリしている。
「それじゃ、お願いしていいですか?」
妹がマデルにそっと耳打ちした。
「国王の前だなんて、緊張に堪えられる自信がなかったの」
そんな大層なもんじゃないと思うが、やっぱり何も言わないピエッチェ、向こうから見たらそうなのだろう。
妹がそそくさと部屋を出ていき、ピエッチェが何も言わずキッチンを出た。盛り付けに取り掛かっていたマデルとクリンナーテンを残して、男たちはピエッチェについていく。
「手伝うんじゃなかったんですか?」
苦笑するラクティメシッス、ピエッチェは
「いや……」
と口籠ってダイニングから居間を覗き込む。
「クルテが居ない。アイツ、どこに行ったんだ?」
「そう言われれば……おや? チュジャバリテの奥さんもいませんね」
ラクティメシッスがチュジャバリテを見ると、
「あぁ……あれは階段をゆっくり上っているのでしょう。いや、今、悪阻でしてね」
髭面を赤らめて答えた。
「そりゃあ、大事にしなくちゃ……クルテのヤツ、一緒に居るのかな? ちょっと見てくるよ。アイツ、朝から体調が悪かったんだ」
「わたしも行きます。貧血でも起こして、奥さんに迷惑をかけているかもしれませんね」
ラクティメシッスに頷いたものの、それはないと思った。もしそうならそんな気配に二人の魔法使いは気付くはずだ。と、誰かが居間に入ってきた。クルテとチュジャバリテの妻だ。
「マリアネチェット!」
チュジャバリテが駆け寄った。ダウンしたのはチュジャバリテの妻のほうだった。クルテの肩を借り、やっとのことでここまで来たらしい。しかし、肩を貸しているクルテも真っ青だ。慌ててピエッチェもクルテの傍に行く。
「申し訳ない、申し訳ない」
チュジャバリテがクルテから妻を受け取ると誰に対してか、平謝りしている。すぐに手近なソファーに妻を座らせ、オドオドと顔を覗き込んでいる。
クルテのほうもいっぱいいっぱいだったようで、マリアネチェットが腰かけて夫のの呼びかけに頷いているのを見ると、フラッと倒れ込んだ。すぐそばに来ていたピエッチェが大急ぎで手を伸ばし抱きとめたので転倒しないで済んだが、こちらもフラフラだ。
「もうダメ。わたし、死ぬんだ」
「馬鹿言うな」
「怒られた」
「怒らないからしっかりしろ」
「無理」
そんなこと言うなよ、と言う代わりにそっと抱き寄せ耳元で囁いた。
「そうだよな。無理だよな。でもおまえ、俺より長生きするんだろう?」
クルテがハッとして、ピエッチェの顔を見た。
「そうだった……頑張らなきゃ。ねぇ、あとでお腹、撫でてくれる?」
「あぁ、いくらでも好きなだけ」
嬉しそうにニンマリするクルテを見て思う……おまえが単純なヤツで良かったよ。
ピエッチェとクルテの囁き声は、背後にいるラクティメシッスとジャルジャネには聞こえない。それでも仲睦まじさは見ていれば判る。
ジャルジャネがラクティメシッスの袖を引いて
「あの女性は?」
と小声で訊いた。クルテとピエッチェの仲が気になるらしい。
「あぁ、恋人ですよ」
ニヤリと答えるラクティメシッス、ジャルジャネが難しい顔になる。
「どこのお嬢さまなんでしょうか?」
「詳しいことはわたしも存じません」
「王妃にお迎えになるおつもりで?」
「今はそう考えていると思いますよ。ただ、初恋に逆上せ上がっているようなので、気が変わるかもしれませんが」
「初恋ですか……」
ジャルジャネがピエッチェとクルテを盗み見る。
それからもう一度ラクティメシッスに向き合った。
「わたしらは、あの女性にはどんな態度でいればいいのでしょう?」
「普通で。どうせあのお嬢さんは誰に対してもフランクだから、そのペースに引き込まれますよ」
クスッと笑うラクティメシッス、するとジャルジャネが今度はラクティメシッスをマジマジと見た。
「そう言えばあなたは? どんな身分のかたなのでしょう?」
「わたしですか? わたしは……ローシェッタ国の王室魔法使いです。そのあたりの詳しい事情は落ち着いてからゆっくり話しましょう。この様子だと明日以降と言うことに?」
「えぇ、今日は……あっ、忘れてた」
何を思い出したのか、ダイニングへと急ぐジャルジャネ、ラクティメシッスがついていくとキャビネットから何やら箱を出してテーブルに置いた。そこにキッチンからトレイを持ってマデルとクリンナーテンが出てきた。マデルのトレイにはローストチキン、クリンナーテンのトレイに乗っているのは数種類の揚げ物の盛り合わせだ。
「随分と豪華ですね」
思わずつぶやくラクティメシッス、ジャルジャネが
「一日遅れですが、お誕生日のお祝いをなさってください……我々は引き上げますので皆さんで今夜はごゆっくり」
と箱を開けた。中はいろいろな果物がポイップしたクリームともども飾られた大きなケーキだ。
「今朝はとんでもないものを出してしまって申し訳ありませんでした」
カッチーに謝罪するジャルジャネ、
「いいえ、そんな! 俺なんかにこんなことしていただいて、申し訳ないのはこちらです」
カッチーは恐縮するが、
「お心遣いありがとうございます」
ラクティメシッスもジャルジャネに礼を言ってから、
「カッチー、あなたは王の側近なんだから、遠慮しなくていいのですよ」
と微笑んだ。
「俺が? 王の側近……」
茫然とラクティメシッスを見るカッチー、マデルが
「そうよ、ラスティンの言う通り。慣れといたほうがいいわ」
と笑う。クリンナーテンは少し複雑な表情だ。カッチーの素性を心配しているのだろう。
居間に行くとチュジャバリテの姿がない。
「奥方を連れて本館に戻ると言ってた。あとはジャルジャネに聞いてくれって言われている」
ソファーに座ったままピエッチェが言った。ぐったり凭れかかっているクルテの肩を抱いて支えている。
ジャルジャネは見てはいけないものを見たような顔でそっと視線をずらし、
「ラスティンさまにご説明いたしましたので、わたしはこれで」
と部屋を出て行った。
「お嬢さん、食事はどうしますか?」
ラクティメシッスが立ったまま、心配そうに訊いた。ピエッチェがクルテを覗き込むと、
「ダイニングに行く。カッチーのお祝いだもん……ケーキって言ってるのが聞こえたよ」
ピエッチェの腕を肩から外して立ち上がった――
ちょっと興奮気味のカッチーを中心に、賑やかに食事が進む。キャビネットの下段にはワインも用意してあって、マデルとクリンナーテンは大喜びだ。もちろん、二人はカッチーにもワインを勧める。
「強くなっといたほうがいいわよ」
カッチーに言うマデル、ラクティメシッスが
「わたしへの当てつけですか?」
苦笑いした。一杯のワインをチビチビと舐めているだけのラクティメシッスだ。
「しかし……マデルも強いけど、クリンナーテンも凄いなぁ。二人でキャビネットの酒を飲み切ってしまうんじゃありませんか?」
「心配しなくていいわ。無くなったら補充してくれるってジャルジャネが言ってたでしょ――ピエッチェも飲んで。あんたはわたしより飲めるわよね」
マデルがピエッチェのグラスが空いているのに気付いて注ぐ。
「お嬢さんはまったく飲めないようですよね」
自分の皿のケーキをじっと見つめていたクルテがチラッとラクティメシッスを見て、
「飲めないわけじゃない。でも嫌い。飲むと目が回る」
と答えた。それを飲めないって言うのよ、とマデルがコロコロ笑った。
マデルを無視したクルテ、ピエッチェを見上げる。
「ワイン、美味しい?」
おや、今日は傾向がいつもと違うと思いながらピエッチェが答える。
「まぁな――高級ワインだ。エザムジート産のものだよ」
クルテがワインの瓶を見て首をひねった。
「ラベルにはエザムジートなんて書いてない。飲んだだけで判るんだ?」
「いや、ラベルを見ても判る。産地によってデザインが違うからね。だけど、ラベルだけ本物、中身は偽物ってのも出回ってる。これは本物のエザムジート産だ」
「へぇ、それって違法なんじゃないの?」
「あぁ、違法さ。だけどなかなか摘発されない。流通量が出荷量の倍以上なのに、ラベルに騙されるヤツが多い……味の違いが判る人が限られているからね」
「ピエッチェさんは味の違いが判るんですよね?」
訊いたのはカッチーだ。ピエッチェが
「うん、父がワイン好きでね。いろいろ飲まされた。お陰でワインなら、飲めば産地くらい見当がつく」
と答えると、
「ヴィンテージによっても味が違うのでは?」
ラクティメシッスが不思議がる。
「ザジリレンはさ、地方によって収穫できるブドウが違うんだ。山を隔てると、向こうで育つブドウがこっちでは育たない。だからワインの味が大きく違ってくる」
森の女神との契約でそうなったなどと、余計なことは言わない。ラクティメシッスは『なるほどね』と納得したようだ。
ケーキ、ロールキャベツ、ローストチキン、ポテトフライ、ケーキ、フィッシュフライ、ケーキと滅茶苦茶な順番で食べたクルテが
「お腹いっぱい」
と呟いたのは、五本目のワインがそろそろ空になる頃だった――
「妹です」
チュジャバリテが女を見て言った。
「夕食の用意をさせておりました……まだ出来上がっていないようですが」
湯気を立てる鍋からはトマトの匂い、肉の焼ける匂いはオーブンからか?
「いや、食材は用意してきた。けれどせっかくなので夕食はいただくが、明日からは不要だ。気遣い、ありがとう」
「そうですか、それは助かります――食材はたまになら誤魔化しようもあるけれど、何日も通常より多くは買い込めない。しかし、調理のお手伝いなら出来ますよ?」
チュジャバリテの言葉にピエッチェが軽く笑う。
「そうだな、チュジャバリテ。おまえが手伝うと言うならお願いするが、妹にさせるつもりなのだろう? それは断りたい」
「いや、でも、それは――」
「できるだけ負担になりたくないと思っている。妹さんにまで迷惑をかけるのは心苦しいんだ」
けっして迷惑だなどと……見るからに温和しそうな妹が言い募りそうになるのを遮るピエッチェ、
「それにこちらの二人の女は料理が得意でね。自分たちで作る気満々だ。俺たちを顎で使うことも楽しみにしている。そして俺たち男はこの二人にあれこれ指図されたいんだ」
とニコニコ言うと、マデルが援護射撃する。
「料理するのが楽しみね。何を手伝って貰おうか?」
クリンナーテンとクスクス笑えば、チュジャバリテも妹も苦笑いするしかない。
チュジャバリテは出来上がっていないと言ったがそれは勘違い、実はもう完成していると妹が言った。あとは盛り付けるだけらしい。だったらこっちでやるわ、とマデルが引き受けた。鍋の蓋を取って『ロールキャベツだわ。美味しそう』とニッコリしている。
「それじゃ、お願いしていいですか?」
妹がマデルにそっと耳打ちした。
「国王の前だなんて、緊張に堪えられる自信がなかったの」
そんな大層なもんじゃないと思うが、やっぱり何も言わないピエッチェ、向こうから見たらそうなのだろう。
妹がそそくさと部屋を出ていき、ピエッチェが何も言わずキッチンを出た。盛り付けに取り掛かっていたマデルとクリンナーテンを残して、男たちはピエッチェについていく。
「手伝うんじゃなかったんですか?」
苦笑するラクティメシッス、ピエッチェは
「いや……」
と口籠ってダイニングから居間を覗き込む。
「クルテが居ない。アイツ、どこに行ったんだ?」
「そう言われれば……おや? チュジャバリテの奥さんもいませんね」
ラクティメシッスがチュジャバリテを見ると、
「あぁ……あれは階段をゆっくり上っているのでしょう。いや、今、悪阻でしてね」
髭面を赤らめて答えた。
「そりゃあ、大事にしなくちゃ……クルテのヤツ、一緒に居るのかな? ちょっと見てくるよ。アイツ、朝から体調が悪かったんだ」
「わたしも行きます。貧血でも起こして、奥さんに迷惑をかけているかもしれませんね」
ラクティメシッスに頷いたものの、それはないと思った。もしそうならそんな気配に二人の魔法使いは気付くはずだ。と、誰かが居間に入ってきた。クルテとチュジャバリテの妻だ。
「マリアネチェット!」
チュジャバリテが駆け寄った。ダウンしたのはチュジャバリテの妻のほうだった。クルテの肩を借り、やっとのことでここまで来たらしい。しかし、肩を貸しているクルテも真っ青だ。慌ててピエッチェもクルテの傍に行く。
「申し訳ない、申し訳ない」
チュジャバリテがクルテから妻を受け取ると誰に対してか、平謝りしている。すぐに手近なソファーに妻を座らせ、オドオドと顔を覗き込んでいる。
クルテのほうもいっぱいいっぱいだったようで、マリアネチェットが腰かけて夫のの呼びかけに頷いているのを見ると、フラッと倒れ込んだ。すぐそばに来ていたピエッチェが大急ぎで手を伸ばし抱きとめたので転倒しないで済んだが、こちらもフラフラだ。
「もうダメ。わたし、死ぬんだ」
「馬鹿言うな」
「怒られた」
「怒らないからしっかりしろ」
「無理」
そんなこと言うなよ、と言う代わりにそっと抱き寄せ耳元で囁いた。
「そうだよな。無理だよな。でもおまえ、俺より長生きするんだろう?」
クルテがハッとして、ピエッチェの顔を見た。
「そうだった……頑張らなきゃ。ねぇ、あとでお腹、撫でてくれる?」
「あぁ、いくらでも好きなだけ」
嬉しそうにニンマリするクルテを見て思う……おまえが単純なヤツで良かったよ。
ピエッチェとクルテの囁き声は、背後にいるラクティメシッスとジャルジャネには聞こえない。それでも仲睦まじさは見ていれば判る。
ジャルジャネがラクティメシッスの袖を引いて
「あの女性は?」
と小声で訊いた。クルテとピエッチェの仲が気になるらしい。
「あぁ、恋人ですよ」
ニヤリと答えるラクティメシッス、ジャルジャネが難しい顔になる。
「どこのお嬢さまなんでしょうか?」
「詳しいことはわたしも存じません」
「王妃にお迎えになるおつもりで?」
「今はそう考えていると思いますよ。ただ、初恋に逆上せ上がっているようなので、気が変わるかもしれませんが」
「初恋ですか……」
ジャルジャネがピエッチェとクルテを盗み見る。
それからもう一度ラクティメシッスに向き合った。
「わたしらは、あの女性にはどんな態度でいればいいのでしょう?」
「普通で。どうせあのお嬢さんは誰に対してもフランクだから、そのペースに引き込まれますよ」
クスッと笑うラクティメシッス、するとジャルジャネが今度はラクティメシッスをマジマジと見た。
「そう言えばあなたは? どんな身分のかたなのでしょう?」
「わたしですか? わたしは……ローシェッタ国の王室魔法使いです。そのあたりの詳しい事情は落ち着いてからゆっくり話しましょう。この様子だと明日以降と言うことに?」
「えぇ、今日は……あっ、忘れてた」
何を思い出したのか、ダイニングへと急ぐジャルジャネ、ラクティメシッスがついていくとキャビネットから何やら箱を出してテーブルに置いた。そこにキッチンからトレイを持ってマデルとクリンナーテンが出てきた。マデルのトレイにはローストチキン、クリンナーテンのトレイに乗っているのは数種類の揚げ物の盛り合わせだ。
「随分と豪華ですね」
思わずつぶやくラクティメシッス、ジャルジャネが
「一日遅れですが、お誕生日のお祝いをなさってください……我々は引き上げますので皆さんで今夜はごゆっくり」
と箱を開けた。中はいろいろな果物がポイップしたクリームともども飾られた大きなケーキだ。
「今朝はとんでもないものを出してしまって申し訳ありませんでした」
カッチーに謝罪するジャルジャネ、
「いいえ、そんな! 俺なんかにこんなことしていただいて、申し訳ないのはこちらです」
カッチーは恐縮するが、
「お心遣いありがとうございます」
ラクティメシッスもジャルジャネに礼を言ってから、
「カッチー、あなたは王の側近なんだから、遠慮しなくていいのですよ」
と微笑んだ。
「俺が? 王の側近……」
茫然とラクティメシッスを見るカッチー、マデルが
「そうよ、ラスティンの言う通り。慣れといたほうがいいわ」
と笑う。クリンナーテンは少し複雑な表情だ。カッチーの素性を心配しているのだろう。
居間に行くとチュジャバリテの姿がない。
「奥方を連れて本館に戻ると言ってた。あとはジャルジャネに聞いてくれって言われている」
ソファーに座ったままピエッチェが言った。ぐったり凭れかかっているクルテの肩を抱いて支えている。
ジャルジャネは見てはいけないものを見たような顔でそっと視線をずらし、
「ラスティンさまにご説明いたしましたので、わたしはこれで」
と部屋を出て行った。
「お嬢さん、食事はどうしますか?」
ラクティメシッスが立ったまま、心配そうに訊いた。ピエッチェがクルテを覗き込むと、
「ダイニングに行く。カッチーのお祝いだもん……ケーキって言ってるのが聞こえたよ」
ピエッチェの腕を肩から外して立ち上がった――
ちょっと興奮気味のカッチーを中心に、賑やかに食事が進む。キャビネットの下段にはワインも用意してあって、マデルとクリンナーテンは大喜びだ。もちろん、二人はカッチーにもワインを勧める。
「強くなっといたほうがいいわよ」
カッチーに言うマデル、ラクティメシッスが
「わたしへの当てつけですか?」
苦笑いした。一杯のワインをチビチビと舐めているだけのラクティメシッスだ。
「しかし……マデルも強いけど、クリンナーテンも凄いなぁ。二人でキャビネットの酒を飲み切ってしまうんじゃありませんか?」
「心配しなくていいわ。無くなったら補充してくれるってジャルジャネが言ってたでしょ――ピエッチェも飲んで。あんたはわたしより飲めるわよね」
マデルがピエッチェのグラスが空いているのに気付いて注ぐ。
「お嬢さんはまったく飲めないようですよね」
自分の皿のケーキをじっと見つめていたクルテがチラッとラクティメシッスを見て、
「飲めないわけじゃない。でも嫌い。飲むと目が回る」
と答えた。それを飲めないって言うのよ、とマデルがコロコロ笑った。
マデルを無視したクルテ、ピエッチェを見上げる。
「ワイン、美味しい?」
おや、今日は傾向がいつもと違うと思いながらピエッチェが答える。
「まぁな――高級ワインだ。エザムジート産のものだよ」
クルテがワインの瓶を見て首をひねった。
「ラベルにはエザムジートなんて書いてない。飲んだだけで判るんだ?」
「いや、ラベルを見ても判る。産地によってデザインが違うからね。だけど、ラベルだけ本物、中身は偽物ってのも出回ってる。これは本物のエザムジート産だ」
「へぇ、それって違法なんじゃないの?」
「あぁ、違法さ。だけどなかなか摘発されない。流通量が出荷量の倍以上なのに、ラベルに騙されるヤツが多い……味の違いが判る人が限られているからね」
「ピエッチェさんは味の違いが判るんですよね?」
訊いたのはカッチーだ。ピエッチェが
「うん、父がワイン好きでね。いろいろ飲まされた。お陰でワインなら、飲めば産地くらい見当がつく」
と答えると、
「ヴィンテージによっても味が違うのでは?」
ラクティメシッスが不思議がる。
「ザジリレンはさ、地方によって収穫できるブドウが違うんだ。山を隔てると、向こうで育つブドウがこっちでは育たない。だからワインの味が大きく違ってくる」
森の女神との契約でそうなったなどと、余計なことは言わない。ラクティメシッスは『なるほどね』と納得したようだ。
ケーキ、ロールキャベツ、ローストチキン、ポテトフライ、ケーキ、フィッシュフライ、ケーキと滅茶苦茶な順番で食べたクルテが
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