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16章 継承される流れ
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いくらなんでも遅すぎる。何かあったんじゃないだろうか?……いやな予感がし始める。それはラクティメシッスも同じのようだ。難しい顔で呟いた。
「遅すぎますね」
剣の手入れをしていたカッチーが手を止めてラクティメシッスを見た。手入れの仕方を教えていたピエッチェはラクティメシッスをチラッと見ただけで、自分の作業を続けた。本を読んでいたマデルもやはり書面から目を離し、ラクティメシッスを見て言った。
「本当に来るのかしら?」
読んでいたのはカッチーに借りた本だ。クリンナーテンは『パイナップルって二日酔いにいいわね』とパクパク食べていたが、食べ終わるともう少し休んでるねと寝室に戻っている。
「なんだかわたしたち、体よく閉じ込められたんじゃない?」
「閉じ込められた? わたしたちは監禁されているわけでも幽閉されているわけでもありませんよ。部屋は中からしか施錠できないし、出て行こうと思えば来た時と逆のルートで好きな時に出て行けます」
「でもラスティン、チュジャバリテに黙って出て行けない。こっちから会いに行くこともできないのよ?」
チュジャバリテの住まいは本館にある。だから会いたければ本館を訪ねればいい。だが、その場合、隠し廊下は使えない。いきなり浴室から出てきたら、召使たちに隠し廊下の存在がバレてしまう……マデルが会いに行けないと言っているのは、建屋の中を通ってはと言うことだ。
「八百屋の仕事が忙しいのかな?」
カッチーが呟く。が、マデルは
「八百屋の仕事の方が大事ってこと?」
皮肉った。
「やめなさい。そんなにイライラするもんじゃありませんよ。それに八百屋はチュジャバリテにとって生活です。わたしたちより大事にしても奇怪しくありません」
「でも、ラスティン……」
マデルは不満そうだが、ラクティメシッスに強く言われれば黙るしかない。
「外に行けないの?」
ピエッチェを見上げて訊いたのはクルテだ。
「お花が欲しいのに?」
そうだった、クルテの花はもう枯れてしまう。困った……
「あれ? 昨日、花籠を買い求めたばかりでは?」
「この辺りの花屋、早く枯れる薬を使ってるらしいわよ。クリンナーテンが言ってたわ」
不思議がるラクティメシッスにマデルが誤情報を伝えている。
「そんな薬、あるんですか?」
俺に訊くなよ、ラクティメシッス。
「いや、俺は知らないが……民間にはあるのかもしれないな」
惚けるしかない。
「あのぉ……」
おずおずと言ったのはカッチーだ。
「俺、買い物に行ってきていいですか? 本屋に行きたいんです」
「あら、クルテに貰った本、もう読み終わっちゃったの?」
マデル、そうじゃないだろ? 本が欲しいのは口実、カッチーはクルテのために花を買ってくる気だ。
「はい、それでちょっと調べたいことができちゃって」
「勉強熱心ですね。どんなことが知りたいんですか?」
ラクティメシッスに褒められて、少し頬を染めたカッチー、
「えっと……カテルクルストのこと、詳しく知りたくて」
チラリとクルテを見てからそう言った。
今の視線はなんだろう? クルテもチラッとカッチーを見た。
「それじゃあ、リュネに連れて行って貰え」
ピエッチェの言葉にカッチーの目が輝く。
「リュネを使っていいんですか?」
「歩いて行ってたらかなり時間がかかる。リュネならすぐだ。なるべく早く帰ってこい。チュジャバリテの話、おまえも聞きたいだろう? それと、花屋にも寄ってくれるか?」
手袋を使うチャンスがもう来ましたね……ラクティメシッスが微笑んだ――
カッチーが買ってきた花籠を抱いてクルテがニマニマしている。花に頬ずりしそうだ。カッチーは難しい顔で本を読みながら、時おりそんなクルテを盗み見している。マデルは退屈しきったのか、お菓子を焼くと言ってキッチンに行ってしまった。クリンナーテンは、まだ寝室から出てこない。そして未だにチュジャバリテもジャルジャネも姿を見せていない。
「ピエッチェ、顔が怖いですよ」
ソファーで転寝しているものばかりだと思っていたラクティメシッスが、ボソッと言ってクスリと笑う。ハッとしたピエッチェ、どう取り繕うかと慌てた。
何を調べたいのか訊かれた時、カッチーは確かにクルテをチラッと見た。カテルクルストのことだと答えたが、誤魔化したのだと感じた。そして買ってきたのは『カテルクルストの森』と言う本だった。そして読みながら時どきクルテを見ている。それが気になって、カッチーの様子を注視していたピエッチェだ。
まさかカッチーはクルテを疑っている? クルテさんって女神の娘に似てますね。性格までそっくりですよ……似ているだけじゃないと気が付いた?
「そんなに怖い顔したって、チュジャバリテが早く来るわけじゃありませんよ」
ラクティメシッスが軽く欠伸する。そうか、俺がカッチーを気にしているのに気付いたわけじゃないのか。言い訳を考える必要がなくなって、ピエッチェがホッとする。
「八百屋を閉めてから来るのかな?」
慌ただしく近寄る気配を感じながらピエッチェが言えば、
「いいえ、来たみたいですね」
ラクティメシッスの顔が引き締まる。
本館の浴室からの隠し廊下は向かいの部屋に繋がっている。その部屋のドアが乱暴に開けられて、すぐにこちらのドアが激しくノックされた。そして応えを待つ間もなく開けられる。
「大変です! 事態が急変しました!」
真っ青な顔を見せたのジャルジャネだった――
一報があったのは早朝だったらしい。事の真偽を確認するのに時間がかかり、こちらに来るのが夕刻になってしまったとチュジャバリテが深刻な顔で言った。チュジャバリテはジャルジャネより少し遅れて部屋に来た。
「取り敢えず、トロンペセスには書簡を送りました。もちろん暗号なので誰に読まれても問題はないものです」
チュジャバリテが遅れたのは、その手紙をトロンバに送る手配をしていたからだ。
腕を組んで考え込んでしまったピエッチェをその場にいる誰もが見つめている。どんな判断を示すのか、どんな命令を下すのか?
ここにマデルはいない。ジャルジャネの一声を聞いてすぐ、クリンナーテンを寝室から出ないようにしてくれとピエッチェに言われて彼女の部屋に行ったからだ。きっとマデルはクリンナーテンの話し相手をしながら、居間で何が話し合われているのか気にしていることだろう。
マデルが知っているのはジジョネテスキに王都への帰還命令が出たことだけだ。それはジャルジャネが来て最初に言ったこと、その様子からいい話ではないと判断し、クリンナーテンを遠ざけた。ジジョネテスキが王都に呼び戻された理由をジャルジャネが話しているところにチュジャバリテが来た。
ジャルジャネが話し終えるのを待ってチュジャバリテが言った。
「ケンブルもすでに慌ただしいことになっています。スマホレンジにもセーレム警備隊から先ほど打診があったようです」
屋敷に店から使いの者が来たらしい。
「すぐに来いとのことでしたが、妻の容態が思わしくないから明日にして欲しいと伝えるよう使いの者には言いました」
今日は悪阻もそこまで酷くなくて元気なんですけどね、と軽く笑う。
「ジジョネテスキさまのところにも、明日、納品することになっています――どうしますか?」
難しい顔でチュジャバリテを見たピエッチェが尋ねた。
「ジジョネテスキがどう考えているかは判るか?」
「ここは命令に従ったほうが得策とお思いのようです」
「ふむ……」
それきり考え込んだピエッチェだ。
ジジョネテスキに王都に帰還するよう命じたのは国王代理クリオテナと言うことになっている。セーレム州統括責任者に任じたのも表向きはクリオテナだ。それがザジリレンの法、権限を持つのは王だからと言うだけのこと……では、そうするよう仕向けたのは誰だ?
そして問題なのは帰還命令の理由だ。王都警備隊の指揮官を任じる。王都警備隊を率い、ローシェッタ国に侵攻せよ――
ジジョネテスキがまず最初にしたことは兵糧を確保するとしてチュジャバリテを呼び出したことだ。むろん他の商人も呼んだがそれは隠れ蓑、本当に用事があるのはチュジャバリテだけだ。
『王都への帰還命令が出た。セーレムの警備隊を率い王都に向かい、王都警備隊と合流する。そしてローシェッタ国に攻め入る。王都までの兵糧が欲しい――で、キャベツを用意できるか?』
キャベツを用意する――それは裏を取れと言う意味の符丁、あらかじめ打ち合わせていた隠語だ。そこで他の地方の様子を調べさせた。結果、どこにも同じような命令が下されていることが判った。各地の警備兵が王都に集結させられている。
同時にチュジャバリテはトロンバのトロンペセスにも意見を聞いている。こちらは暗号による書簡だ。内容はかねてからの計画をどうするかと言うものだった。
かねてからの計画――それは志を同じくする各地の警備隊を決起させ、王都陥落を狙うと言うものだった。その目的はカテロヘブ王の復権、だが肝心のカテロヘブ王の所在が判らず実行時期を先延ばしにしていた。トロンペセスとチュジャバリテたちはカテロヘブ王は王宮内に幽閉されていると考えていた。だから一気に王都を掌握すればいいと言ったが、ジジョネテスキが賛成しなかった。カテロヘブは王宮内にはいない。敵も探しているんだぞ?
そこにピエッチェ――カテロヘブが現れ、決起の機が訪れる。トロンペセスは密かに出陣準備を始めているはずだ。チュジャバリテから話を聞いたカテロヘブの判断待ちの状態だった。
チュジャバリテはピエッチェに言った。
「ザジリレンの軍備がローシェッタ国に向かえば王都は手薄になる。決起のチャンスとも言えます」
だがジャルジャネは
「各地の警備隊に出征命令が出ている。出征命令を無視するならともかく、我らの同志も削られる。もし無視するとしても、あちらの軍備も増強されている。もともとこちらの兵力のほうが下なのに、ますます不利になったと考えたほうがいい」
と言った。
考え込むピエッチェ、決起するかしないかを迷っているのか? しかし今決起しなければ、ローシェッタ国とは開戦することになる。
と、クルテが溜息を吐いた。
「お腹が空いた」
チュジャバリテとジャルジャネが
「それどころじゃ……」
と言いかけたのをピエッチェが遮った。
「ジジョネテスキのところに納品に行くのは明日なんだな?」
「え、あ、はい。明日の昼過ぎには軍備を整え出立したいとのお考えです」
「では、明日の早朝、また来い」
「へっ?」
「それまでにどうするか考えておく」
「いや、カテロヘブさま、すぐにで――」
「控えろ!」
怒鳴りつけたのはラクティメシッスだ。
「王は退出を命じられた。明日の朝だ、チュジャバリテ。夜明けでいい」
「遅すぎますね」
剣の手入れをしていたカッチーが手を止めてラクティメシッスを見た。手入れの仕方を教えていたピエッチェはラクティメシッスをチラッと見ただけで、自分の作業を続けた。本を読んでいたマデルもやはり書面から目を離し、ラクティメシッスを見て言った。
「本当に来るのかしら?」
読んでいたのはカッチーに借りた本だ。クリンナーテンは『パイナップルって二日酔いにいいわね』とパクパク食べていたが、食べ終わるともう少し休んでるねと寝室に戻っている。
「なんだかわたしたち、体よく閉じ込められたんじゃない?」
「閉じ込められた? わたしたちは監禁されているわけでも幽閉されているわけでもありませんよ。部屋は中からしか施錠できないし、出て行こうと思えば来た時と逆のルートで好きな時に出て行けます」
「でもラスティン、チュジャバリテに黙って出て行けない。こっちから会いに行くこともできないのよ?」
チュジャバリテの住まいは本館にある。だから会いたければ本館を訪ねればいい。だが、その場合、隠し廊下は使えない。いきなり浴室から出てきたら、召使たちに隠し廊下の存在がバレてしまう……マデルが会いに行けないと言っているのは、建屋の中を通ってはと言うことだ。
「八百屋の仕事が忙しいのかな?」
カッチーが呟く。が、マデルは
「八百屋の仕事の方が大事ってこと?」
皮肉った。
「やめなさい。そんなにイライラするもんじゃありませんよ。それに八百屋はチュジャバリテにとって生活です。わたしたちより大事にしても奇怪しくありません」
「でも、ラスティン……」
マデルは不満そうだが、ラクティメシッスに強く言われれば黙るしかない。
「外に行けないの?」
ピエッチェを見上げて訊いたのはクルテだ。
「お花が欲しいのに?」
そうだった、クルテの花はもう枯れてしまう。困った……
「あれ? 昨日、花籠を買い求めたばかりでは?」
「この辺りの花屋、早く枯れる薬を使ってるらしいわよ。クリンナーテンが言ってたわ」
不思議がるラクティメシッスにマデルが誤情報を伝えている。
「そんな薬、あるんですか?」
俺に訊くなよ、ラクティメシッス。
「いや、俺は知らないが……民間にはあるのかもしれないな」
惚けるしかない。
「あのぉ……」
おずおずと言ったのはカッチーだ。
「俺、買い物に行ってきていいですか? 本屋に行きたいんです」
「あら、クルテに貰った本、もう読み終わっちゃったの?」
マデル、そうじゃないだろ? 本が欲しいのは口実、カッチーはクルテのために花を買ってくる気だ。
「はい、それでちょっと調べたいことができちゃって」
「勉強熱心ですね。どんなことが知りたいんですか?」
ラクティメシッスに褒められて、少し頬を染めたカッチー、
「えっと……カテルクルストのこと、詳しく知りたくて」
チラリとクルテを見てからそう言った。
今の視線はなんだろう? クルテもチラッとカッチーを見た。
「それじゃあ、リュネに連れて行って貰え」
ピエッチェの言葉にカッチーの目が輝く。
「リュネを使っていいんですか?」
「歩いて行ってたらかなり時間がかかる。リュネならすぐだ。なるべく早く帰ってこい。チュジャバリテの話、おまえも聞きたいだろう? それと、花屋にも寄ってくれるか?」
手袋を使うチャンスがもう来ましたね……ラクティメシッスが微笑んだ――
カッチーが買ってきた花籠を抱いてクルテがニマニマしている。花に頬ずりしそうだ。カッチーは難しい顔で本を読みながら、時おりそんなクルテを盗み見している。マデルは退屈しきったのか、お菓子を焼くと言ってキッチンに行ってしまった。クリンナーテンは、まだ寝室から出てこない。そして未だにチュジャバリテもジャルジャネも姿を見せていない。
「ピエッチェ、顔が怖いですよ」
ソファーで転寝しているものばかりだと思っていたラクティメシッスが、ボソッと言ってクスリと笑う。ハッとしたピエッチェ、どう取り繕うかと慌てた。
何を調べたいのか訊かれた時、カッチーは確かにクルテをチラッと見た。カテルクルストのことだと答えたが、誤魔化したのだと感じた。そして買ってきたのは『カテルクルストの森』と言う本だった。そして読みながら時どきクルテを見ている。それが気になって、カッチーの様子を注視していたピエッチェだ。
まさかカッチーはクルテを疑っている? クルテさんって女神の娘に似てますね。性格までそっくりですよ……似ているだけじゃないと気が付いた?
「そんなに怖い顔したって、チュジャバリテが早く来るわけじゃありませんよ」
ラクティメシッスが軽く欠伸する。そうか、俺がカッチーを気にしているのに気付いたわけじゃないのか。言い訳を考える必要がなくなって、ピエッチェがホッとする。
「八百屋を閉めてから来るのかな?」
慌ただしく近寄る気配を感じながらピエッチェが言えば、
「いいえ、来たみたいですね」
ラクティメシッスの顔が引き締まる。
本館の浴室からの隠し廊下は向かいの部屋に繋がっている。その部屋のドアが乱暴に開けられて、すぐにこちらのドアが激しくノックされた。そして応えを待つ間もなく開けられる。
「大変です! 事態が急変しました!」
真っ青な顔を見せたのジャルジャネだった――
一報があったのは早朝だったらしい。事の真偽を確認するのに時間がかかり、こちらに来るのが夕刻になってしまったとチュジャバリテが深刻な顔で言った。チュジャバリテはジャルジャネより少し遅れて部屋に来た。
「取り敢えず、トロンペセスには書簡を送りました。もちろん暗号なので誰に読まれても問題はないものです」
チュジャバリテが遅れたのは、その手紙をトロンバに送る手配をしていたからだ。
腕を組んで考え込んでしまったピエッチェをその場にいる誰もが見つめている。どんな判断を示すのか、どんな命令を下すのか?
ここにマデルはいない。ジャルジャネの一声を聞いてすぐ、クリンナーテンを寝室から出ないようにしてくれとピエッチェに言われて彼女の部屋に行ったからだ。きっとマデルはクリンナーテンの話し相手をしながら、居間で何が話し合われているのか気にしていることだろう。
マデルが知っているのはジジョネテスキに王都への帰還命令が出たことだけだ。それはジャルジャネが来て最初に言ったこと、その様子からいい話ではないと判断し、クリンナーテンを遠ざけた。ジジョネテスキが王都に呼び戻された理由をジャルジャネが話しているところにチュジャバリテが来た。
ジャルジャネが話し終えるのを待ってチュジャバリテが言った。
「ケンブルもすでに慌ただしいことになっています。スマホレンジにもセーレム警備隊から先ほど打診があったようです」
屋敷に店から使いの者が来たらしい。
「すぐに来いとのことでしたが、妻の容態が思わしくないから明日にして欲しいと伝えるよう使いの者には言いました」
今日は悪阻もそこまで酷くなくて元気なんですけどね、と軽く笑う。
「ジジョネテスキさまのところにも、明日、納品することになっています――どうしますか?」
難しい顔でチュジャバリテを見たピエッチェが尋ねた。
「ジジョネテスキがどう考えているかは判るか?」
「ここは命令に従ったほうが得策とお思いのようです」
「ふむ……」
それきり考え込んだピエッチェだ。
ジジョネテスキに王都に帰還するよう命じたのは国王代理クリオテナと言うことになっている。セーレム州統括責任者に任じたのも表向きはクリオテナだ。それがザジリレンの法、権限を持つのは王だからと言うだけのこと……では、そうするよう仕向けたのは誰だ?
そして問題なのは帰還命令の理由だ。王都警備隊の指揮官を任じる。王都警備隊を率い、ローシェッタ国に侵攻せよ――
ジジョネテスキがまず最初にしたことは兵糧を確保するとしてチュジャバリテを呼び出したことだ。むろん他の商人も呼んだがそれは隠れ蓑、本当に用事があるのはチュジャバリテだけだ。
『王都への帰還命令が出た。セーレムの警備隊を率い王都に向かい、王都警備隊と合流する。そしてローシェッタ国に攻め入る。王都までの兵糧が欲しい――で、キャベツを用意できるか?』
キャベツを用意する――それは裏を取れと言う意味の符丁、あらかじめ打ち合わせていた隠語だ。そこで他の地方の様子を調べさせた。結果、どこにも同じような命令が下されていることが判った。各地の警備兵が王都に集結させられている。
同時にチュジャバリテはトロンバのトロンペセスにも意見を聞いている。こちらは暗号による書簡だ。内容はかねてからの計画をどうするかと言うものだった。
かねてからの計画――それは志を同じくする各地の警備隊を決起させ、王都陥落を狙うと言うものだった。その目的はカテロヘブ王の復権、だが肝心のカテロヘブ王の所在が判らず実行時期を先延ばしにしていた。トロンペセスとチュジャバリテたちはカテロヘブ王は王宮内に幽閉されていると考えていた。だから一気に王都を掌握すればいいと言ったが、ジジョネテスキが賛成しなかった。カテロヘブは王宮内にはいない。敵も探しているんだぞ?
そこにピエッチェ――カテロヘブが現れ、決起の機が訪れる。トロンペセスは密かに出陣準備を始めているはずだ。チュジャバリテから話を聞いたカテロヘブの判断待ちの状態だった。
チュジャバリテはピエッチェに言った。
「ザジリレンの軍備がローシェッタ国に向かえば王都は手薄になる。決起のチャンスとも言えます」
だがジャルジャネは
「各地の警備隊に出征命令が出ている。出征命令を無視するならともかく、我らの同志も削られる。もし無視するとしても、あちらの軍備も増強されている。もともとこちらの兵力のほうが下なのに、ますます不利になったと考えたほうがいい」
と言った。
考え込むピエッチェ、決起するかしないかを迷っているのか? しかし今決起しなければ、ローシェッタ国とは開戦することになる。
と、クルテが溜息を吐いた。
「お腹が空いた」
チュジャバリテとジャルジャネが
「それどころじゃ……」
と言いかけたのをピエッチェが遮った。
「ジジョネテスキのところに納品に行くのは明日なんだな?」
「え、あ、はい。明日の昼過ぎには軍備を整え出立したいとのお考えです」
「では、明日の早朝、また来い」
「へっ?」
「それまでにどうするか考えておく」
「いや、カテロヘブさま、すぐにで――」
「控えろ!」
怒鳴りつけたのはラクティメシッスだ。
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