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19章 失われた王女
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考え込んだピエッチェ、ラクティメシッスは面白そうにクルテを見ると
「ヒントですか……答えなかった理由を考えろってことですね」
と微笑んだ。いつも通り、クルテはピエッチェを見上げているだけで、ラクティメシッスに答えない。それでも楽しそうなラクティメシッス、もう慣れたと言うことか?
ピエッチェを見上げるクルテ、だがそれは見詰めているのとは違う。だったら、ただ見ているのか? が、それも違う。もちろん睨みつけているわけでもない。そしてまた、ピエッチェもそんなクルテを見ていた。
クルテは何を俺にさせたいんだろう? コーンレゼッチェ山を行けと言うからここに来たのに、今からベスク村に行かせるつもりか? いや、もしそうなら、ベスク村に行こうと言いそうだ。
クルテは『ベスクの女神が答えなかったのがヒント』と言った。ならばこれ以上、ベスクの女神からは聞き出せない。だからベスク村に行けと言われているわけじゃない……女神から聞いた話をもっと吟味しろってことか。
女神はなんと言っていた?
コテージに住んでいた母子、そして子の父親を知っているかと訊いた答えはこうだった……三十五年前にこの村に住むようになった。母親はザジリレン国王女、住み始めて程なく子が生まれた。王女はすでに他界している。父親がこの地に足を踏み入れた最後は子が三歳の時、それ以降、どこで何をしているのか判らない。生死についても知らない。
コテージの主人については、祝福したことを認めたうえで『デッセムがどうかしたのか?』と言った。デッセムとクルテは言っていない。コテージの主人を知っているかと訊いただけだ。なのに女神はデッセムと言い、祝福したことを認め、デッセムを案じた――女神にはデッセムに何か思い入れがあるのだろうか?
デッセムの祖父が誰かを知りたいと言うと『デッセムの祖父が出てくるということは、デッセムとコテージの少年は同じ血が流れていると勘付いているのだな』と言って女神は溜息を吐いた。デッセムの祖父の行いに嫌気がさしての溜息だと感じた。
『あの男はわたしの目の前で、子を産ませた女の世話をさせていた女を犯しました』
自分にもっと力があれば阻止できたのに残念とも言った。思い入れはこれか? 助けられなかった後悔が、ノホメの家族を気にかける理由ってのはありそうだ。
しかし……ここで女神の話には矛盾が生まれている。強姦された結果、ノホメがデッセムの父親を産んだのなら、辻褄が合わなくなってくる――デッセムの父親がジランチェニシスより若いというのはあり得ない。
「あ……」
ピエッチェの口から声が漏れる。
「そうか。そう言うことか」
クルテを見たまま呟くピエッチェ、ニマッとするクルテ、ラクティメシッスたちが身動ぎする。
「何か判りましたか?」
ラクティメシッスが訊くが、ピエッチェはクルテを見続けたままだ。
「クルテ、一つ確認したい――何もなければ王族って、住処を管轄する女神から祝福されるんだよな?」
ピエッチェの問いに、クルテが嬉しそうに頷く。さらにピエッチェが問う。
「だけど、ザジリレンの森の女神はローシェッタの王族には無関心? たとえ王族の血を引いていても、自国以外の王族を女神は祝福しない?」
クルテが答えた。おまえは祝福されたじゃないか、とは言わなかった。
「住処を管轄する女神が祝福することもある」
「女神が『王族だけど魔物に祝福されてたから一つも女神の祝福を獲得してない』と言ってた――魔物の祝福ってどんな効果がある?」
「それは魔物に依るから一概には言えない」
「祝福と言うより呪いなんじゃないのか?」
「人間や女神から見れば呪いとも言える」
「女神のものにしろ魔物のものにしろ、祝福を無効にすることは?」
「より強い魔力を持つ者になら可能……だけど、女神は自分から動くことはめったにない。見返りを求めることが多い」
ふむ、とピエッチェが唸る。
「祝福がどんな形で血に現れるのか判らないから、息子たちを祝福できなかったと女神が言っていた――祝福は血脈に受け継がれるってことか?」
するとクルテ、じっとピエッチェを見てすぐには答えなかった。
「祝福は魔法の一種だ。さっきも言ったがその者の魔力の強さに影響される。強い魔力を持つ者が掛けたなら子孫に影響を及ぼす」
だから建国の王に女神が与えた祝福をおまえは受け継いでいるんだと、クルテの目が言っている――いや、それはないか?
カテルクルストは多くの女神に祝福された。それが血脈に受け継がれるのなら、わざわざ森を巡って祝福を願う必要はないはずだ。でも、きっと、まだ明かされていない何かがあって、自分でも知らないうちにカテルクルストを継承していると思えてならない。
互いの顔を見ているだけで黙り込んでしまったピエッチェとクルテ、苛立ちを募らせたラクティメシッスが
「わたしたちにも説明してくれませんか?」
と苦情を言った――
ピエッチェの仮説にラクティメシッスが溜息を吐いた。
「つまり、ノホメは二人いると?」
「うん、デッセムの祖母ノホメ、ジランチェニシスの母親に仕えたノホメ……それならデッセムの祖父がジランチェニシスよりずっと年長でも無理ない話になる」
「でもピエッチェ、デッセムの祖母だってザジリレン出身なんです。そのあたりはどう説明するんですか?」
「うーーん……それを訊かれると答えに窮する。偶然ってことではダメだろうか?」
「ノホメって名前、ザジリレンではありふれているとか?」
「いや、あまり聞かない」
ピエッチェの仮説は『ノホメに乱暴を働いたのはジランチェニシスの父親ではなくその父、つまりローシェッタの前王弟』と言うものだった。そして『前王弟の子がジランチェニシスの父親』とした。
前王弟が誰に子を産ませたかは判っていない。ベスク村のコテージに隠していたと考えれば、ゴランデ卿が養子に迎え入れたのが前王弟の死後なのも納得がいく。そしてその息子が、自分が育ったコテージにジランチェニシスの母親を隠したのも自然な流れと言える。
ジランチェニシスの父親も『コテージの少年』だった。だが、ゴランデ卿の養子になってコテージを出た。そして数年後、再び『コテージの少年』が住むことになる。時を置いたことでコテージの少年は上書きされた。
だが、デッセムの祖母がノホメを名乗り、ジランチェニシスの母親・ザジリレンの失われた王女がコテージに連れてきた召使をノホメと呼んでいたことを考えるとやはりどこか奇怪しい。
そう言えば、なし崩し的にジランチェニシスの母親がザジリレン前々王妹・失われた王女だと認定されている。まぁ、女神もジランチェニシスの母親はザジリレン王女だと明言していたのだから間違いない。今さら否定することもないし、カッチーの母親に話が及ばなければ気にする必要もない。
何か言いたげにもじもじしていたカッチーに、ピエッチェが目を止める。
「言いたいことがあるなら遠慮するな」
「えぇ……大したことじゃないんです。もし、ジランチェニシスの母親の世話をしていた女の名が『ノホメ』なら、デッセムのところのノホメが覚えてないのはヘンじゃないですか?」
「あ……」
ピエッチェとラクティメシッスが見交わした。
「いや、しかし……」
顔を曇らせたのはラクティメシッスだ。
「部下が偽情報を掴まされるなんて考えられません。でも、カッチーが言うのももっともです」
「だったらラスティンさん。ノホメが偽名だってことですか?」
「うーーん……それもなさそうですよ?」
すかさずラクティメシッスが答えた。
「デッセムの祖母なんですからね、五十年近くベスクかクサッティヤで暮らしてるってことです。ジランチェニシスの母親の召使の名を借りた偽名なら、どこかで改名しなくちゃならないことになります。宿屋の女房が改名なんて家族も周囲も受け入れそうにありません」
「それもそうですね。だとしたらピエッチェさんが言うとおり偶然同じ名前で、俺たちと話した時には意図的に召使のことは何も言わなかったってことでしょうか?」
「そうだな、あの時ノホメはジランチェニシスの名前すら言わなかった。母親の世話をする誰かが居るってことには触れもしなかった」
ピエッチェがそう言うとカッチーが『ラジジャメニョレとかなんとかって言ってましたよね』とクスリとする。よく覚えてたなと感心するピエッチェだが、カッチーが言ったのも適当なのかもしれないと思い直す。
「とにかく、同名が絶対ないとは言い切れないんだから、名前に拘らなくていいと思う。確かなのはデッセムの祖母と召使のノホメは別人だってことだ」
これにはラクティメシッスも、
「時間を弄くるのは無理なのだから、そう結論するしかありませんよね」
納得いかない顔で同意する。
ところが、マデルが話をひっくり返した。
「ねぇ、ラスティン。失われた王女の召使の名前なんて、どうやって調べたの? 王女の侍女ならともかく、召使の名前なんか記録に残っているものかしら?」
「あぁ、それはわたしも不思議に思って確認しました――出どころはローシェッタ王家の記録だってことですね」
「ローシェッタの?」
「前王弟の記録にあったそうです――って、そんな馬鹿な?」
ラクティメシッスが見る見る蒼褪めた。
ピエッチェが気の毒そうにラクティメシッスを見て言った。
「その顔は『やられた!』って顔だ……一杯食わせたのは部下か?」
ラクティメシッスがゆっくりとピエッチェに視線を向ける。
「判りません。部下なのか、部下にその記録を見せた誰かなのか? 部下を信用するあまり、報告に疑問を持たなかったわたしが迂闊でした……前王弟がゴランデ卿の養子になってからの記憶が我が国にあるはずがないんです。多分、部下にその記録を見せた誰かです」
「そんなことができるのは?」
「判っている癖に訊きますか? ローシェッタ国の上流貴族の誰か……我が国王家とザジリレン国王家を打倒しようと画策している誰か、で間違いありません」
そうだろうな……とピエッチェが考え込む。ラクティメシッスは気が付いているだろうか? 一番に注目するべきは記録の改ざんではなく、その改ざんにどんな意図があるのかだ。まぁ、ラクティメシッスならそう思うはずだ。
それに、改ざんしたヤツは前王弟の息子がどんな経緯でかザジリレン王女を連れ出し、ローシェッタ国ベスク村にて子を産ませた事実を知っているってことになる。いや、それさえも偽りなのか?
真偽のほどはともかく、改ざんしたヤツはこれを事実と認めさせたいはずだ。事実と認定されればジランチェニシスは、ローシェッタ・ザジリレン両国で王位継承権を持つことになる――これが狙いだ。
「ヒントですか……答えなかった理由を考えろってことですね」
と微笑んだ。いつも通り、クルテはピエッチェを見上げているだけで、ラクティメシッスに答えない。それでも楽しそうなラクティメシッス、もう慣れたと言うことか?
ピエッチェを見上げるクルテ、だがそれは見詰めているのとは違う。だったら、ただ見ているのか? が、それも違う。もちろん睨みつけているわけでもない。そしてまた、ピエッチェもそんなクルテを見ていた。
クルテは何を俺にさせたいんだろう? コーンレゼッチェ山を行けと言うからここに来たのに、今からベスク村に行かせるつもりか? いや、もしそうなら、ベスク村に行こうと言いそうだ。
クルテは『ベスクの女神が答えなかったのがヒント』と言った。ならばこれ以上、ベスクの女神からは聞き出せない。だからベスク村に行けと言われているわけじゃない……女神から聞いた話をもっと吟味しろってことか。
女神はなんと言っていた?
コテージに住んでいた母子、そして子の父親を知っているかと訊いた答えはこうだった……三十五年前にこの村に住むようになった。母親はザジリレン国王女、住み始めて程なく子が生まれた。王女はすでに他界している。父親がこの地に足を踏み入れた最後は子が三歳の時、それ以降、どこで何をしているのか判らない。生死についても知らない。
コテージの主人については、祝福したことを認めたうえで『デッセムがどうかしたのか?』と言った。デッセムとクルテは言っていない。コテージの主人を知っているかと訊いただけだ。なのに女神はデッセムと言い、祝福したことを認め、デッセムを案じた――女神にはデッセムに何か思い入れがあるのだろうか?
デッセムの祖父が誰かを知りたいと言うと『デッセムの祖父が出てくるということは、デッセムとコテージの少年は同じ血が流れていると勘付いているのだな』と言って女神は溜息を吐いた。デッセムの祖父の行いに嫌気がさしての溜息だと感じた。
『あの男はわたしの目の前で、子を産ませた女の世話をさせていた女を犯しました』
自分にもっと力があれば阻止できたのに残念とも言った。思い入れはこれか? 助けられなかった後悔が、ノホメの家族を気にかける理由ってのはありそうだ。
しかし……ここで女神の話には矛盾が生まれている。強姦された結果、ノホメがデッセムの父親を産んだのなら、辻褄が合わなくなってくる――デッセムの父親がジランチェニシスより若いというのはあり得ない。
「あ……」
ピエッチェの口から声が漏れる。
「そうか。そう言うことか」
クルテを見たまま呟くピエッチェ、ニマッとするクルテ、ラクティメシッスたちが身動ぎする。
「何か判りましたか?」
ラクティメシッスが訊くが、ピエッチェはクルテを見続けたままだ。
「クルテ、一つ確認したい――何もなければ王族って、住処を管轄する女神から祝福されるんだよな?」
ピエッチェの問いに、クルテが嬉しそうに頷く。さらにピエッチェが問う。
「だけど、ザジリレンの森の女神はローシェッタの王族には無関心? たとえ王族の血を引いていても、自国以外の王族を女神は祝福しない?」
クルテが答えた。おまえは祝福されたじゃないか、とは言わなかった。
「住処を管轄する女神が祝福することもある」
「女神が『王族だけど魔物に祝福されてたから一つも女神の祝福を獲得してない』と言ってた――魔物の祝福ってどんな効果がある?」
「それは魔物に依るから一概には言えない」
「祝福と言うより呪いなんじゃないのか?」
「人間や女神から見れば呪いとも言える」
「女神のものにしろ魔物のものにしろ、祝福を無効にすることは?」
「より強い魔力を持つ者になら可能……だけど、女神は自分から動くことはめったにない。見返りを求めることが多い」
ふむ、とピエッチェが唸る。
「祝福がどんな形で血に現れるのか判らないから、息子たちを祝福できなかったと女神が言っていた――祝福は血脈に受け継がれるってことか?」
するとクルテ、じっとピエッチェを見てすぐには答えなかった。
「祝福は魔法の一種だ。さっきも言ったがその者の魔力の強さに影響される。強い魔力を持つ者が掛けたなら子孫に影響を及ぼす」
だから建国の王に女神が与えた祝福をおまえは受け継いでいるんだと、クルテの目が言っている――いや、それはないか?
カテルクルストは多くの女神に祝福された。それが血脈に受け継がれるのなら、わざわざ森を巡って祝福を願う必要はないはずだ。でも、きっと、まだ明かされていない何かがあって、自分でも知らないうちにカテルクルストを継承していると思えてならない。
互いの顔を見ているだけで黙り込んでしまったピエッチェとクルテ、苛立ちを募らせたラクティメシッスが
「わたしたちにも説明してくれませんか?」
と苦情を言った――
ピエッチェの仮説にラクティメシッスが溜息を吐いた。
「つまり、ノホメは二人いると?」
「うん、デッセムの祖母ノホメ、ジランチェニシスの母親に仕えたノホメ……それならデッセムの祖父がジランチェニシスよりずっと年長でも無理ない話になる」
「でもピエッチェ、デッセムの祖母だってザジリレン出身なんです。そのあたりはどう説明するんですか?」
「うーーん……それを訊かれると答えに窮する。偶然ってことではダメだろうか?」
「ノホメって名前、ザジリレンではありふれているとか?」
「いや、あまり聞かない」
ピエッチェの仮説は『ノホメに乱暴を働いたのはジランチェニシスの父親ではなくその父、つまりローシェッタの前王弟』と言うものだった。そして『前王弟の子がジランチェニシスの父親』とした。
前王弟が誰に子を産ませたかは判っていない。ベスク村のコテージに隠していたと考えれば、ゴランデ卿が養子に迎え入れたのが前王弟の死後なのも納得がいく。そしてその息子が、自分が育ったコテージにジランチェニシスの母親を隠したのも自然な流れと言える。
ジランチェニシスの父親も『コテージの少年』だった。だが、ゴランデ卿の養子になってコテージを出た。そして数年後、再び『コテージの少年』が住むことになる。時を置いたことでコテージの少年は上書きされた。
だが、デッセムの祖母がノホメを名乗り、ジランチェニシスの母親・ザジリレンの失われた王女がコテージに連れてきた召使をノホメと呼んでいたことを考えるとやはりどこか奇怪しい。
そう言えば、なし崩し的にジランチェニシスの母親がザジリレン前々王妹・失われた王女だと認定されている。まぁ、女神もジランチェニシスの母親はザジリレン王女だと明言していたのだから間違いない。今さら否定することもないし、カッチーの母親に話が及ばなければ気にする必要もない。
何か言いたげにもじもじしていたカッチーに、ピエッチェが目を止める。
「言いたいことがあるなら遠慮するな」
「えぇ……大したことじゃないんです。もし、ジランチェニシスの母親の世話をしていた女の名が『ノホメ』なら、デッセムのところのノホメが覚えてないのはヘンじゃないですか?」
「あ……」
ピエッチェとラクティメシッスが見交わした。
「いや、しかし……」
顔を曇らせたのはラクティメシッスだ。
「部下が偽情報を掴まされるなんて考えられません。でも、カッチーが言うのももっともです」
「だったらラスティンさん。ノホメが偽名だってことですか?」
「うーーん……それもなさそうですよ?」
すかさずラクティメシッスが答えた。
「デッセムの祖母なんですからね、五十年近くベスクかクサッティヤで暮らしてるってことです。ジランチェニシスの母親の召使の名を借りた偽名なら、どこかで改名しなくちゃならないことになります。宿屋の女房が改名なんて家族も周囲も受け入れそうにありません」
「それもそうですね。だとしたらピエッチェさんが言うとおり偶然同じ名前で、俺たちと話した時には意図的に召使のことは何も言わなかったってことでしょうか?」
「そうだな、あの時ノホメはジランチェニシスの名前すら言わなかった。母親の世話をする誰かが居るってことには触れもしなかった」
ピエッチェがそう言うとカッチーが『ラジジャメニョレとかなんとかって言ってましたよね』とクスリとする。よく覚えてたなと感心するピエッチェだが、カッチーが言ったのも適当なのかもしれないと思い直す。
「とにかく、同名が絶対ないとは言い切れないんだから、名前に拘らなくていいと思う。確かなのはデッセムの祖母と召使のノホメは別人だってことだ」
これにはラクティメシッスも、
「時間を弄くるのは無理なのだから、そう結論するしかありませんよね」
納得いかない顔で同意する。
ところが、マデルが話をひっくり返した。
「ねぇ、ラスティン。失われた王女の召使の名前なんて、どうやって調べたの? 王女の侍女ならともかく、召使の名前なんか記録に残っているものかしら?」
「あぁ、それはわたしも不思議に思って確認しました――出どころはローシェッタ王家の記録だってことですね」
「ローシェッタの?」
「前王弟の記録にあったそうです――って、そんな馬鹿な?」
ラクティメシッスが見る見る蒼褪めた。
ピエッチェが気の毒そうにラクティメシッスを見て言った。
「その顔は『やられた!』って顔だ……一杯食わせたのは部下か?」
ラクティメシッスがゆっくりとピエッチェに視線を向ける。
「判りません。部下なのか、部下にその記録を見せた誰かなのか? 部下を信用するあまり、報告に疑問を持たなかったわたしが迂闊でした……前王弟がゴランデ卿の養子になってからの記憶が我が国にあるはずがないんです。多分、部下にその記録を見せた誰かです」
「そんなことができるのは?」
「判っている癖に訊きますか? ローシェッタ国の上流貴族の誰か……我が国王家とザジリレン国王家を打倒しようと画策している誰か、で間違いありません」
そうだろうな……とピエッチェが考え込む。ラクティメシッスは気が付いているだろうか? 一番に注目するべきは記録の改ざんではなく、その改ざんにどんな意図があるのかだ。まぁ、ラクティメシッスならそう思うはずだ。
それに、改ざんしたヤツは前王弟の息子がどんな経緯でかザジリレン王女を連れ出し、ローシェッタ国ベスク村にて子を産ませた事実を知っているってことになる。いや、それさえも偽りなのか?
真偽のほどはともかく、改ざんしたヤツはこれを事実と認めさせたいはずだ。事実と認定されればジランチェニシスは、ローシェッタ・ザジリレン両国で王位継承権を持つことになる――これが狙いだ。
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