415 / 434
22章 王都カッテンクリュードへ
7
しおりを挟む
カッテンクリュード大門前広場にざわめきが広がっていく――
大きく開かれた大門の向こうに見えるのは騎乗した数人だ。先頭のジジョネテスキがゆっくりと馬を歩かせて門をくぐる。続くはザジリレン国軍紋章旗を掲げた将校、その後ろは騎乗した四人の将校、そして……
広場のざわめきがさらに大きくなった。
「王家紋章旗だ!」
「国王の紋章もある!」
紋章旗を掲げた二騎が通り過ぎ、兵たちの心が騒ぐ。次に通るのは誰が通るのか? 大門から王宮正門に向かう一行を守れとジジョネテスキは命じた。確かそれはローシェッタ王太子だったはずだ。でもあの紋章旗は?
次の二騎も紋章旗、だが見覚えがない。誰かがポツリと呟いた。
「ローシェッタ王家紋章旗と王太子紋章旗だ」
ではやはり、この隊列はジジョネテスキが予告したとおり、ローシェッタの? 肩透かしを食わされたような虚無感、興奮が波紋のように醒めていく。
が、それも束の間、大門に近い場所から歓声が沸き起こる。入り口近くに居たのは左右に別れた総勢五十一騎の有能な騎士、多少のことで動揺しないはずが、この時は狼狽えている。だが、それも寸時、すぐに居住まいを正し、自分の出番を誇らしげに待った。
その五十一騎の前を通り過ぎて行ったのは、ミルクティー色の髪の威風堂々とした若い男、
「カテロヘブ王だ!」
誰かが叫ぶ。が、その叫びはあっという間にうねりのような歓声にかき消された。
カテロヘブと馬を並べるのは黄金の髪の男、その男とカテロヘブ王を挟んでいるのはかなり若い男、この二人に見覚えのある兵はいない。が、噂は聞いている。あの金色の髪の男はローシェッタ王太子だ。見惚れるほどの美形と言う噂は真実だったらしい。
だが、もう一人は誰だ? 随分と若い。成人前と言われたら『そうか』と思うような若さだ。身体も出来上がっていなさそうな? おぉ、衣装に使われている紋章はサンザメスク卿のもの、だが馬の胴飾りにあるのは国王の紋章……ではサンザメスク卿の縁者、そしてカテロヘブ王の側近だ。
続く二騎は女性、一人は栗色の髪、優美な衣装に刺繍されているのは見たことのない紋章、だが馬の胴飾りにはローシェッタ王家の紋章、では王太子の……侍女? いいや、あの雰囲気はそんなんじゃない。王太子の寵愛を得ていると思っていい。婚約者が妥当だが、ローシェッタ王太子が婚約したとは聞いていない。どちらにしろローシェッタ王太子に近しい。
もう一人は黒髪、こちらもどこぞの姫ぎみか? 栗色の髪の女性より、僅かに劣る衣装だが……衣装には栗色の髪の女性と同じ紋章が使われている。だが、馬の胴飾りの紋章はローシェッタ王家ではなく衣装のものと同じ。ならば栗色の髪の女性の侍女なのだろう。
女性二人の後ろは、ザジリレンの衣装ではない三十騎弱、そうか、この風変わりな衣装はローシェッタの魔法使いたちだ。全員が、首から同じペンダントを下げているがローシェッタ王家の紋章入りだ。音に聞くローシェッタ王室魔法使いたちに違いあるまい――ローシェッタ王太子自身が王室魔法使いだと聞いている。その部下たちを護衛として随行させたのだろう。
その後ろにザジリレン国騎士が二騎、大門から入ってきたのはこれが最後部、門の内部に控えていた左右二十五騎が二騎の後ろに付き従い、その後ろに大門広場に残された兵たちに指示を与えていた将校が加わった――
ジジョネテスキが馬を止めたのは噴水広場のあたり、左右に別れた兵たちの中から躍り出る者がいた。ドロキャスだ。松葉杖をついている。紋章旗の後ろにいた四騎の将校がジジョネテスキの前に出てくる。それを制するジジョネテスキをドロキャスが睨み付けた。
「なに勝手なことをしているんだ!」
馬上から見下ろすジジョネテスキ、フッと笑いを漏らす。
「勝手と言われても……判断し、指示を出すのがわたしの仕事。それを果たそうとしているだけだ」
「わたしに許可なくそんなことは許さない! デネパリエルに行って逆族を討伐するんじゃなかったのか? 行き先が逆じゃないか。どこに行く気だ!?」
「うん、ザーザング行きは中止だ。もっと重要な任務が発生した」
「重要な任務だと?」
ドロキャスが舌なめずりするような目をジジョネテスキに向けた。駆け付けた将校がジジョネテスキに耳打ちしている時だった。耳打ちしたのは大門内に残った兵たちにジジョネテスキの指示を伝えた将校、停止した隊列を不審に思い、最後部から急いで確認しに来たのだ。
将校に頷いてからジジョネテスキがドロキャスに答える。
「あぁ、それはそれは重要な任務だ」
ニマニマと笑みを浮かべているのは、ドロキャスを挑発しているように見える。
「王宮からの命令以上に重要な任務などあるものか! あるなら言ってみろ」
ドロキャスもジジョネテスキを挑発する。ふんぞり返って『どうだ、言えやしないだろう』とニヤついている。が、これは芝居だとジジョネテスキが心の中で笑う。ジジョネテスキが何をしようとしているかドロキャスが知っている事は将校の耳打ちで聞いているジジョネテスキだ……デネパリエルでローシェッタ王太子と遭遇し、王宮まで護衛することになった、ドロキャスが知っているのはそこまでだ。
「デネパリエルで意外なかたと出くわし、王宮まで護衛するようご下命があった――ドロキャス、邪魔だ。道を塞ぐな」
「何を言うか! 意外なかたとは誰だ!? それにご下命? きさま、ザジリレン王宮以外の命令に従うつもりか!?」
「軍人たるもの、王宮の命令に背くことなどありようもない――王宮まで護衛するのはローシェッタ国王太子ラクティメシッスさま、そしてラクティメシッスさまと婚約が内定しているクラデミステ卿ご令嬢マデリエンテ姫のおふたかた。ドロキャス、無礼は許さんぞ」
「ぶっ! ぶはははは!」
高笑いを始めたドロキャス、ジジョネテスキは腹の中で笑う。やっぱりコイツ、ローシェッタ王太子の護衛とわたしに言わせたかったか。言質を取ったつもりかもしれないが、おまえの思惑通りになんか行かないぞ。おまえ、わたしの発言をきちんと聞いていないだろう?
「語るに落ちたなジジョネテスキ! ザジリレン王宮の命に背くものではないと言いながら、敵国ローシェッタの王太子に従うとは!」
大興奮のドロキャス、憤りの表情を作りたいのだろうが、どうにも歓喜を隠せずにいる。ジジョネテスキに罵声を浴びせているくせに、口元がニタついている。
対するジジョネテスキ、こちらは落ち着いたものだ。落ち着いているというより呆れているのか?
「おいおい、誰がローシェッタ王太子に従っているって? 護衛していると言ったんだぞ?」
「煩い! えぇい、面倒だ! ジジョネテスキを捕縛しろ!」
周囲には成り行きを見守るたくさんの兵たち、だけど誰も動こうとしない。
「おーーい、おまえたち! わたしの命令が聞けないのか? ジジョネテスキは失脚した。これでわたしがザジリレン国軍のトップだ、判っているのか!?」
ドロキャスががなり立てるが誰も動かない。兵たちのどこかで『わが軍のトップはモバナコット卿だよなぁ』と声がする。
「モバナコット卿も更迭に決まってる! 長子ジジョネテスキが反逆を企てた、責任を取って貰う!――いいから、さっさとアイツを捕らえろ!」
苛立ったドロキャスが、松葉杖を振り上げてジジョネテスキを指し示す。
「アイツ、負傷してたんじゃないんだ?」
ジジョネテスキがとうとう吹き出した――
ジジョネテスキの後方では、前に出たザジリレン将校四騎の穴を埋めるべく、ローシェッタ王室魔法使いがカテロヘブたち五人を取り囲んでいた。
「ドロキャスあたりでしょうかね?」
前を見透かすようにラクティメシッスが呟いた。左右に広がって通り道を作っているザジリレン兵たちの歓声は未だ止まず、ジジョネテスキたちの声は届いていない。
カテロヘブが小さな溜息をつく――ジジョネテスキから聞く限り、副官ドロキャスはお世辞にも有能とは言えない。そんな男が総司令の副官だなど、兵たちが納得するはずもない。上官に反発し、軍の統率が乱れるだろう。が、ジジョネテスキは巧くやっているようだ。ドロキャス以外はジジョネテスキに従っていそうだ。ドロキャスが糞野郎だから、却ってジジョネテスキ支持が強くなったとも考えられる。
ゴランデ卿はなんでドロキャスなんかを軍に行かせたのだろう? ほかにもっとマシなのはいなかったのか?
カテロヘブが今度は大きなため息を吐く。
「いつまでも足止めされたままでもいられないな――」
グイっと手綱を引いて魔法使いの狭間を前方に抜けていく。急なこと、予測していなかったことに魔法使いは戸惑い、反射的に道を開けてしまった。なにしろ相手は他国とは言え国王だ。不敬があってはならない。
「ピッ……カテロヘブ王!」
ラクティメシッスが慌てて後を追う。ついピエッチェと呼びかけそうになってしまった。
「すぐ戻る、ここでカッスゥダヘルさまとマデリエンテ姫を守れ」
ラクティメシッスも通し、魔法使いたちは改めて護りを固めた。
兵たちが自分を捕らえることはない――そんなこと、ジジョネテスキには判っていた。自分に忠実な者だけを選りすぐり王都に連れて来た。ドロキャスに従うものか。まぁ、末端までは判らないにしろ、司令官は気心知れた者ばかりだ。
ドロキャスが誰かれ構わず噛みつくが、
「総司令は解任されておりません」
と無視を決め込んでいる。それをのんびり構えて眺めるジジョネテスキが、ますますドロキャスをイライラさせる。しかし、焦っているのはジジョネテスキも同じだ。
すべての兵がドロキャスをジジョネテスキの副官だと認識はしている。事実はどうであろうと、ジジョネテスキが任命した副官だと思っている。ザジリレン国軍では、副官を決めるのは本人だ。
だからこの場で罪人にはできない。罪人にするほどの罪状がない。上官を諫めただけと言われれば否定しきれない。ドロキャスはジジョネテスキに意見する権利と義務がある。そう考えれば、ジジョネテスキの副官の位置を認めてしまったのは失策だった。しかし、ドロキャスを連れてきたのはネネシリスだ。国王代理の許可は下りていると言われれば、ジジョネテスキには拒否できない。
そうは言っても、いつまでもここで足止めされるわけにもいかない。うかうかしていれば王宮がこちらの動きに気が付いて、何か手を打ってくるかもしれない。遅くなればなるほど、王宮正門の門衛が開門する確率は低くなる。さて、どうする?
思案を巡らせるジジョネテスキの耳に、近づく馬の蹄音が聞こえた。振り向くジジョネテスキ、すぐそこで馬が歩みを止める。
「なぜ隊列を止めた?」
ミルクティー色の髪の男が穏やかに尋ねた――
大きく開かれた大門の向こうに見えるのは騎乗した数人だ。先頭のジジョネテスキがゆっくりと馬を歩かせて門をくぐる。続くはザジリレン国軍紋章旗を掲げた将校、その後ろは騎乗した四人の将校、そして……
広場のざわめきがさらに大きくなった。
「王家紋章旗だ!」
「国王の紋章もある!」
紋章旗を掲げた二騎が通り過ぎ、兵たちの心が騒ぐ。次に通るのは誰が通るのか? 大門から王宮正門に向かう一行を守れとジジョネテスキは命じた。確かそれはローシェッタ王太子だったはずだ。でもあの紋章旗は?
次の二騎も紋章旗、だが見覚えがない。誰かがポツリと呟いた。
「ローシェッタ王家紋章旗と王太子紋章旗だ」
ではやはり、この隊列はジジョネテスキが予告したとおり、ローシェッタの? 肩透かしを食わされたような虚無感、興奮が波紋のように醒めていく。
が、それも束の間、大門に近い場所から歓声が沸き起こる。入り口近くに居たのは左右に別れた総勢五十一騎の有能な騎士、多少のことで動揺しないはずが、この時は狼狽えている。だが、それも寸時、すぐに居住まいを正し、自分の出番を誇らしげに待った。
その五十一騎の前を通り過ぎて行ったのは、ミルクティー色の髪の威風堂々とした若い男、
「カテロヘブ王だ!」
誰かが叫ぶ。が、その叫びはあっという間にうねりのような歓声にかき消された。
カテロヘブと馬を並べるのは黄金の髪の男、その男とカテロヘブ王を挟んでいるのはかなり若い男、この二人に見覚えのある兵はいない。が、噂は聞いている。あの金色の髪の男はローシェッタ王太子だ。見惚れるほどの美形と言う噂は真実だったらしい。
だが、もう一人は誰だ? 随分と若い。成人前と言われたら『そうか』と思うような若さだ。身体も出来上がっていなさそうな? おぉ、衣装に使われている紋章はサンザメスク卿のもの、だが馬の胴飾りにあるのは国王の紋章……ではサンザメスク卿の縁者、そしてカテロヘブ王の側近だ。
続く二騎は女性、一人は栗色の髪、優美な衣装に刺繍されているのは見たことのない紋章、だが馬の胴飾りにはローシェッタ王家の紋章、では王太子の……侍女? いいや、あの雰囲気はそんなんじゃない。王太子の寵愛を得ていると思っていい。婚約者が妥当だが、ローシェッタ王太子が婚約したとは聞いていない。どちらにしろローシェッタ王太子に近しい。
もう一人は黒髪、こちらもどこぞの姫ぎみか? 栗色の髪の女性より、僅かに劣る衣装だが……衣装には栗色の髪の女性と同じ紋章が使われている。だが、馬の胴飾りの紋章はローシェッタ王家ではなく衣装のものと同じ。ならば栗色の髪の女性の侍女なのだろう。
女性二人の後ろは、ザジリレンの衣装ではない三十騎弱、そうか、この風変わりな衣装はローシェッタの魔法使いたちだ。全員が、首から同じペンダントを下げているがローシェッタ王家の紋章入りだ。音に聞くローシェッタ王室魔法使いたちに違いあるまい――ローシェッタ王太子自身が王室魔法使いだと聞いている。その部下たちを護衛として随行させたのだろう。
その後ろにザジリレン国騎士が二騎、大門から入ってきたのはこれが最後部、門の内部に控えていた左右二十五騎が二騎の後ろに付き従い、その後ろに大門広場に残された兵たちに指示を与えていた将校が加わった――
ジジョネテスキが馬を止めたのは噴水広場のあたり、左右に別れた兵たちの中から躍り出る者がいた。ドロキャスだ。松葉杖をついている。紋章旗の後ろにいた四騎の将校がジジョネテスキの前に出てくる。それを制するジジョネテスキをドロキャスが睨み付けた。
「なに勝手なことをしているんだ!」
馬上から見下ろすジジョネテスキ、フッと笑いを漏らす。
「勝手と言われても……判断し、指示を出すのがわたしの仕事。それを果たそうとしているだけだ」
「わたしに許可なくそんなことは許さない! デネパリエルに行って逆族を討伐するんじゃなかったのか? 行き先が逆じゃないか。どこに行く気だ!?」
「うん、ザーザング行きは中止だ。もっと重要な任務が発生した」
「重要な任務だと?」
ドロキャスが舌なめずりするような目をジジョネテスキに向けた。駆け付けた将校がジジョネテスキに耳打ちしている時だった。耳打ちしたのは大門内に残った兵たちにジジョネテスキの指示を伝えた将校、停止した隊列を不審に思い、最後部から急いで確認しに来たのだ。
将校に頷いてからジジョネテスキがドロキャスに答える。
「あぁ、それはそれは重要な任務だ」
ニマニマと笑みを浮かべているのは、ドロキャスを挑発しているように見える。
「王宮からの命令以上に重要な任務などあるものか! あるなら言ってみろ」
ドロキャスもジジョネテスキを挑発する。ふんぞり返って『どうだ、言えやしないだろう』とニヤついている。が、これは芝居だとジジョネテスキが心の中で笑う。ジジョネテスキが何をしようとしているかドロキャスが知っている事は将校の耳打ちで聞いているジジョネテスキだ……デネパリエルでローシェッタ王太子と遭遇し、王宮まで護衛することになった、ドロキャスが知っているのはそこまでだ。
「デネパリエルで意外なかたと出くわし、王宮まで護衛するようご下命があった――ドロキャス、邪魔だ。道を塞ぐな」
「何を言うか! 意外なかたとは誰だ!? それにご下命? きさま、ザジリレン王宮以外の命令に従うつもりか!?」
「軍人たるもの、王宮の命令に背くことなどありようもない――王宮まで護衛するのはローシェッタ国王太子ラクティメシッスさま、そしてラクティメシッスさまと婚約が内定しているクラデミステ卿ご令嬢マデリエンテ姫のおふたかた。ドロキャス、無礼は許さんぞ」
「ぶっ! ぶはははは!」
高笑いを始めたドロキャス、ジジョネテスキは腹の中で笑う。やっぱりコイツ、ローシェッタ王太子の護衛とわたしに言わせたかったか。言質を取ったつもりかもしれないが、おまえの思惑通りになんか行かないぞ。おまえ、わたしの発言をきちんと聞いていないだろう?
「語るに落ちたなジジョネテスキ! ザジリレン王宮の命に背くものではないと言いながら、敵国ローシェッタの王太子に従うとは!」
大興奮のドロキャス、憤りの表情を作りたいのだろうが、どうにも歓喜を隠せずにいる。ジジョネテスキに罵声を浴びせているくせに、口元がニタついている。
対するジジョネテスキ、こちらは落ち着いたものだ。落ち着いているというより呆れているのか?
「おいおい、誰がローシェッタ王太子に従っているって? 護衛していると言ったんだぞ?」
「煩い! えぇい、面倒だ! ジジョネテスキを捕縛しろ!」
周囲には成り行きを見守るたくさんの兵たち、だけど誰も動こうとしない。
「おーーい、おまえたち! わたしの命令が聞けないのか? ジジョネテスキは失脚した。これでわたしがザジリレン国軍のトップだ、判っているのか!?」
ドロキャスががなり立てるが誰も動かない。兵たちのどこかで『わが軍のトップはモバナコット卿だよなぁ』と声がする。
「モバナコット卿も更迭に決まってる! 長子ジジョネテスキが反逆を企てた、責任を取って貰う!――いいから、さっさとアイツを捕らえろ!」
苛立ったドロキャスが、松葉杖を振り上げてジジョネテスキを指し示す。
「アイツ、負傷してたんじゃないんだ?」
ジジョネテスキがとうとう吹き出した――
ジジョネテスキの後方では、前に出たザジリレン将校四騎の穴を埋めるべく、ローシェッタ王室魔法使いがカテロヘブたち五人を取り囲んでいた。
「ドロキャスあたりでしょうかね?」
前を見透かすようにラクティメシッスが呟いた。左右に広がって通り道を作っているザジリレン兵たちの歓声は未だ止まず、ジジョネテスキたちの声は届いていない。
カテロヘブが小さな溜息をつく――ジジョネテスキから聞く限り、副官ドロキャスはお世辞にも有能とは言えない。そんな男が総司令の副官だなど、兵たちが納得するはずもない。上官に反発し、軍の統率が乱れるだろう。が、ジジョネテスキは巧くやっているようだ。ドロキャス以外はジジョネテスキに従っていそうだ。ドロキャスが糞野郎だから、却ってジジョネテスキ支持が強くなったとも考えられる。
ゴランデ卿はなんでドロキャスなんかを軍に行かせたのだろう? ほかにもっとマシなのはいなかったのか?
カテロヘブが今度は大きなため息を吐く。
「いつまでも足止めされたままでもいられないな――」
グイっと手綱を引いて魔法使いの狭間を前方に抜けていく。急なこと、予測していなかったことに魔法使いは戸惑い、反射的に道を開けてしまった。なにしろ相手は他国とは言え国王だ。不敬があってはならない。
「ピッ……カテロヘブ王!」
ラクティメシッスが慌てて後を追う。ついピエッチェと呼びかけそうになってしまった。
「すぐ戻る、ここでカッスゥダヘルさまとマデリエンテ姫を守れ」
ラクティメシッスも通し、魔法使いたちは改めて護りを固めた。
兵たちが自分を捕らえることはない――そんなこと、ジジョネテスキには判っていた。自分に忠実な者だけを選りすぐり王都に連れて来た。ドロキャスに従うものか。まぁ、末端までは判らないにしろ、司令官は気心知れた者ばかりだ。
ドロキャスが誰かれ構わず噛みつくが、
「総司令は解任されておりません」
と無視を決め込んでいる。それをのんびり構えて眺めるジジョネテスキが、ますますドロキャスをイライラさせる。しかし、焦っているのはジジョネテスキも同じだ。
すべての兵がドロキャスをジジョネテスキの副官だと認識はしている。事実はどうであろうと、ジジョネテスキが任命した副官だと思っている。ザジリレン国軍では、副官を決めるのは本人だ。
だからこの場で罪人にはできない。罪人にするほどの罪状がない。上官を諫めただけと言われれば否定しきれない。ドロキャスはジジョネテスキに意見する権利と義務がある。そう考えれば、ジジョネテスキの副官の位置を認めてしまったのは失策だった。しかし、ドロキャスを連れてきたのはネネシリスだ。国王代理の許可は下りていると言われれば、ジジョネテスキには拒否できない。
そうは言っても、いつまでもここで足止めされるわけにもいかない。うかうかしていれば王宮がこちらの動きに気が付いて、何か手を打ってくるかもしれない。遅くなればなるほど、王宮正門の門衛が開門する確率は低くなる。さて、どうする?
思案を巡らせるジジョネテスキの耳に、近づく馬の蹄音が聞こえた。振り向くジジョネテスキ、すぐそこで馬が歩みを止める。
「なぜ隊列を止めた?」
ミルクティー色の髪の男が穏やかに尋ねた――
10
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる