秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

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22章 王都カッテンクリュードへ

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 取り囲んだ騎士と弓兵を穏やかに眺めているだけのカテロヘブ、偽物はおとしくなりそうもない。どうやら置かれた立場が判ってない。
「おまえたち、やいばを向ける相手が違う!」
自分の失言に、まったく気付いてないらしい。
「国王に逆らうのか! さっさと動け、馬に蹴り殺させるぞ!」

「誰が国王だと?」
男が連れてきた騎士の一人がウンザリと、諭すように言った。
「おまえがカテロヘブさまでないことは、もう判ってる――さっさと馬から降りろ」

「ふざけるな! 俺は『おまえが王だ』と言われてここに来たんだ!」
「そうか、いったい誰にそんなことを言われたのか……ゆっくりと聞かせて貰おうじゃないか」
「無礼者! 近寄るなっ!」
とうとう男が剣を振り回し始める。弓兵が弓を絞るのを見て、
「投げ縄を使え」
と言ったのは本物のカテロヘブだった。縄を投げて、まずは身動きできないようにし、そのまま馬から引きずりおろせ……

 カテロヘブを捕らえようとしていた騎士が
「おまえもさっさと馬を降りろ。それとも縄を投げて欲しいか?」
剣を向けて威嚇する。が、カテロヘブは顔色一つ変えず、偽者を注視している――偽者がこのまますんなりと、捕らえられてしまうとは思えなかった。

 大門前広場の片隅、植栽に隠れて様子を窺っていたダーロミダレムとネネシリスが慌てる。クリオテナがとうとう、広場に躍り出てしまった。

 衆目の前でカテロヘブが女と抱きあうはずがないと、いったんは偽者だと言った。それを男が我が身を顧みず矢面に立つのを見て、カテロヘブに間違いないと手のひらを返しだけでなく、カテロヘブの姿を追って植栽から出てしまった。正門に向かったカテロヘブを見続けるには繁みの中に居たままでは無理だ。

「クリオテナ!」
ネネシリスが引き留めようとしたが、予想していなかったクリオテナの動きに間に合わない。クリオテナを追ってネネシリスも繁みから出て行った。

 迷うのはダーロミダレムだ。トロンペセスから預かった連絡具を使ってカテロヘブが出した指示は、合図したら姿を見せろと言うものだった。その合図はまだ来ない。それに、姿を出すのは王宮内だと言われていた。でも……

 どうにか追いついたネネシリスがクリオテナを抱き込んで、足を止める。けれど遮蔽物が何もない広場、キャビンを守っていた騎士が気付いて馬を走らせている。金髪の男やジジョネテスキもクリオテナに気付いている。ジジョネテスキが部下に何か言ってから馬を動かした――ダメだ、やはりカテロヘブの指示がない状況では隠れていたほうがいい。濡れ衣はまだ晴らせていない。

「落ち着きなさい、クリオテナ!」
なんとか妻を捕まえたネネシリス、ジジョネテスキやキャビンを守っていた騎士がこちらに向かっているのに気付いている。もう隠れるのは無理だ。

「落ち着くなんて無理。カテロヘブが、あの子が生きて帰ってきたのよ?」
「軽々しくそんな重大なことを口にしてはいけない――さっきは別人だって言ったじゃないか。もし本物ではなかったらどうする? 責任を問われるぞ」
「間違いないわ、あれはわたしのカテロヘブよっ!」

 わたしのカテロヘブ? ネネシリスの胸が焦げる。わたしのと言いたいのは判っている。だけどこの気持ちはどうしようもない。

 クリオテナはクリオテナで、説明できないに焦燥を募らせている。何も直感を頼りにカテロヘブと断じたわけじゃない。馬を走らせたカテロヘブに抱かれた女……矢を叩き落とした女が視線を感じてクリオテを見た。その瞬間、女の声が頭の中で聞こえた。
『クリオテナ、わたしを知っているか?』

 知っている、あの女は……と言うことは、あの男はカテロヘブで間違いない。だけど、女の素性はザジリレン王家の秘密につながる。ネネシリスにも言えない。自らを盾にしたからカテロヘブで間違いないと、無理な理由を付けるしかなかった。

 クリオテナとネネシリスが広場に姿を現したと気づいたのはラクティメシッスやジジョネテスキ、キャビンでドロキャスを監視していた騎士だけなんてことはない。

 聞こえてきた二つの蹄音にカテロヘブが、偽者から蹄音の向かう先に視線を移動させた。
「姉上……」
思わず馬を走らせようとするが、
「動くな!」
剣を向けた騎士が大声で怒鳴る。騎士もクリオテナに気が付いている。
「王姉さまのところに行かせはしない!」
騎士の声に弓兵たちもカテロヘブの行く手を阻む。カテロヘブの馬が右往左往する。うっかりすると蹴り飛ばしてしまいそうだ。

 広場の隅の植栽から駆け出してきたクリオテナ、それを追うネネシリス……
「ついてくるな!」
叫ぶように指示を出し、すぐさま馬を走らせたジジョネテスキ、どうしてあんなところにクリオテナがいる? それにあれは……ネネシリスから逃げている!?

 ジジョネテスキの背中が冷える。王女さまをお助けしなければ……十五の時から王家警備隊の騎士として幼い王女と王子を守ってきた。すでに時期は過ぎ、王子は国王に、王女は王姉になった。それでもジジョネテスキにとっては大切な王女と王子だ。たとえ相手が配偶者だろうが王姉を害すると言うのなら容赦はしない――

 誰よりも早く気付いたのはラクティメシッス、彼らが植栽に隠れて広場を見渡した時から気付いていた。隠れているのは三人、ジジョネテスキよりも劣る魔力は標準的なものだ……どういうわけか、立ったまま飲み食いを始めた気配がある。まさか、広場でのいざこざを見物でもする気なのか? それはないだろうと思いつつ、たいした魔力ではないのだし、敵意も感じない。だから気に掛けもせず放置していた。それなのに……

 女が繁みから飛び出し、ジジョネテスキが馬を走らせ、カテロヘブが女を認めて顔色を変えた。動こうとするが足止めされたカテロヘブ、その動きに偽カテロヘブも女を見た――そこからだ、新たな何かがこの広場に現れた。でもそれはなんだ? しかも、どこから感じるのかが判らない。

 ラクティメシッスが広場を見渡す。どこだ? どこにいる? これほど強い……敵意か、それとも殺意か?

「動くな!」
カテロヘブに剣を向ける騎士が大声を上げる。カテロヘブが顔を上げ噴水の横、ドロキャスが閉じ込められたキャビンに目を向けた。女を見た時よりも蒼白だ。そうか、源はキャビンだ。カテロヘブもこの異様な思念を感じている。

 制止を無視し馬の腹を蹴るカテロヘブ、ラクティメシッスも馬の腹を蹴る。今度はピエルグリフトの確かな手ごたえ、手綱を引いてキャビンに向かう。だが、間に合うか? あのキャビンで何かが起きる。ドロキャスが黒幕か? それも違う、ドロキャスの気配に変化はない。

 ジジョネテスキは気付いていない。彼が向かっているのは繁みから飛び出した女のところだ。カテロヘブは……自陣に戻ろうとしている。自分を取り囲む兵たちを避けるためだ。それにしてもあの女は誰だ? あぁ、そうか、女はカテロヘブによく似ている。あれは王姉クリオテナだ。

 自陣に戻ろうとするカテロヘブを正門前に居た騎士数名が追っている。退くとは思っていなかったのだろう、おくれを取っている。それを見透かしていたのか、カテロヘブが急激に馬の進路を変えた。目指すのはキャビンに間違いない。わたしの見立ては間違っていない……ラクティメシッスが馬の足を早めようとした。

「ダメだ、ラスティン、止まれ!」
カテロヘブの叫び、
「えっ?」
一瞬、どのカテロヘブの声かと迷う。が、本物だ。今の声はラスティンと言った。慌てて手綱を引くラクティメシッス、そうか、これか!

「クリオテナさま!」
駆け寄ったジジョネテスキにクリオテナがすがる。
「お願い、カテロヘブのところに行かせて!」

「馬鹿を言うな!」
ネネシリスがクリオテナを叱りつけた。
「誰だか判らない男のところに、あなたを行かせられるものか!」

 それを聞いてジジョネテスキが少しばかりホッとする。クリオテナはネネシリスから逃げているんじゃない、カテロヘブのところに行きたいだけだ。そしてネネシリスはクリオテナを捕らえようとしているわけじゃない。危険から遠ざけようとしているだけだ。

 問題ない、あれは間違いなくカテロヘブだとネネシリスには言おう。ジジョネテスキが馬を降りる。自分が騎乗して、王女を歩かせるわけにはいかない。クリオテナを馬に乗せればいい。
「グリアジート卿、ご心配には及びません。間違いなくカテロヘブ王です……クリオテナさま、馬にお乗りください。お連れいたします」
クリオテナが得意げにネネシリスを見てからジジョネテスキに頷いた。

 が、ホッとしたのも束の間、
「ダメだ、ラスティン、止まれ!」
カテロヘブの叫び、声は自陣方向から聞こえた。ならば本物のカテロヘブの声、正門前から後退するのを目の端に見た。制止されたのはおそらくラクティメシッス、馬を走らせキャビンに向かっていた――なぜキャビンに向かった? キャビンに何かあったのか?

 ドロキャスが逃れようとしたのか? でもそれならそう慌てることもない。どうせヤツは小者だ。ではなぜだ?……ジジョネテスキがキャビンに目を向けた。

「危ない!」
ジジョネテスキの叫び、広場に轟く爆音、ラクティメシッスの馬が怯んで後退し、ジジョネテスキがネネシリスを突き飛ばしながらクリオテナに覆いかぶさる。

 粉々に砕け散ったキャビン、監視の兵は倒れ、破片がバラバラと落下する、正門前の騎士と弓兵が思わず身動みじろぎし、大門広場を取り巻いていたジジョネテスキ軍の兵たちが一斉に立ち上がった。

 ラクティメシッスの隣までカテロヘブが馬を進めた。追っていた騎士も弓兵も呆気に取られて動きを止めている。

「怪我はないか?」
「わたしを誰だと思っているのです?」
いつも通りのラクティメシッスの皮肉、魔法で爆発の衝撃を回避したと言いたいらしい。

「キャビンを監視していた兵も?」
「もちろんです。結界で包み込んだんだけど、さすがに近すぎて失神してしまいましたが」
「失神くらいどうと言うこともない……わたしの民の命を救ってくれた。感謝している」

「――よく爆発に気が付きましたね」
「俺が気付くもんか。クルテだよ」
嘘だ。魔物封じの能力がカテロヘブに危険を察知させていた。キャビンから感じた強い魔力、あれは魔物のものだ。が、ラクティメシッスに言えはしない。

「キャビンが怪しいってコイツが言い出した。で、行こうとしたら途中で、近寄っちゃ危ないって言われた」
「そうだったんですね……ドロキャスは中に居るのかな?」
だとしたら悲鳴が聞こえそうだ。それとも意識を失ったか、既に落命しているか?

「消えた!」
クルテが小さな叫びをあげ、ラクティメシッスが首をかしげてクルテを見た。
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