105 / 404
第3章 ニュダンガの道
岩の壁
しおりを挟む
ベルグの街からフェニカリデ・グランデジアを目指すベルグ街道は、ベルグを出た途端、荒涼とした景色が広がる。カルダナ高原から流れるドジッチ川はベルグを通ると北部山地に沿うようにサーベルゴカに向かうため、他に水源のないベルグ街道沿線は乾いた土地が広がっていた。それでも所々に森林があるのは地下に水脈があるからだ。
点在する村落は井戸が頼りだが、それも干上がることがあり、水には苦労させられている。
村々を回って荷馬車に積んだ水の樽を売る行商人もいる。だが、時には高値で買った水が劣悪な水質のこともある。腹痛程度で済めばいいが、命を落とすことがなくもない。しかも犠牲者には幼い子どもが多く、人々の呪詛にも似た怒りが村を包んだ。
人の飲み水にさえ苦労するのだから、当然農作物に与える水も不足する。森林が存在するのは地下水脈が比較的上層に流れる場所と推測すれば、水さえあれば豊かな作物が望める、そう考えたのがリオネンデの父、前王クラウカスナだった。
クラウカスナは即位と同時に盟友シャルレニを一の大臣に据えた。もっともこれはクラウカスナの父、退位した前王の意向だ。息子新王の治世を支える一人として抜擢している。
だがこれは諸刃の剣だった。若いシャルレニの一足飛びの出世を妬む閣僚が多く、受け入れ難しと考えたからだ。
シャルレニが拒まれたのはほかにも理由がある。シャルレニはグランデジア生まれであるものの、未知の大陸から流れついた夫婦から生まれた異民族の子だった。サシーニャの父である。
グランデジア政権は――王のごり押しの感も否めないものの、異民族(サシーニャの祖父母)が齎した知識や技術、文化を積極的に取り入れていた。クラウカスナの代になればそれも一段落を迎えている。やり残したのは一つ、それをクラウカスナは父から託されている。
グランデジアの荒野を潤し、豊かな実りのある土地に――それはダムを造り、その貯水を利用した水路建設を意味していた。だが、大掛かりなこの事業、莫大な資金と重い労役、そして気が遠くなるほど長い時間を要する。シャルレニ以外の閣僚がこぞって反対した。
父王ほど押しを利かせられない若い王はそれでも諦めず、密かに調査を進める。その結果、ダム造成に適するのはカルダナ高原、堰き止めるのはドジッチ川と目星をつけた。が、その矢先に王宮の火事騒ぎにより落命する。
リオネンデ王は幼い頃から父王の夢のような未来を聞かされ育っている。それはサシーニャとて同じだ。ダムを提案したのはシャルレニであり、シャルレニは幼い息子に、やはり夢を語っていた。そしてダムや水路の建設に関わる蔵書を数多く遺している――
岩を積み上げ、それを土砂で補強する。かなりの高さになったが、指図書と比べれば、まだまだ足りない。少しずつ幅を広げていき、そのうえで積み上げたほうがきっと効率がいい……カルダナ高原の木々に隠れた中に、不自然な岩壁が作られていた。それを見上げながらコネツが唸る。慎重に行かなけりゃ、今度こそ死人が出る。コネツが先日の事故を思い出す。
予期せぬ岩壁の崩壊に、下敷きになった男がいた。崩壊が小規模だったから犠牲者は一人で済んだ。全体が崩れるような大規模なものだったら、生き埋めにされた者が大勢出たことだろう。
犠牲者と言っても、幸い命に別状はなかった。だが大怪我には間違いない。コネツが見る限り、片足が潰され、もう立つこともできなさそうだ。
医術の心得のある者に応急手当をさせ、ベルグにいるはずのワダに急ぎ連絡する。駆け付けたワダに伴われていた魔術師は、『適切な応急手当のお陰で足を失うことはない』と怪我人に告げた。
今まで通りとはいかないものの、自分で歩けるようにはなるでしょう――だがそれが何になる? 生きていくためには金が必要だ。不自由な体でどう稼ぐ? 雇ってくれるところなんかあるものか……男には女房と幼い二人の子がいた。
「心配するな」
ワダがそう言って怪我人に渡したのはずっしりと重い金袋だった。
「この金で凌げ。今は怪我を治すことを考えろ――元気になったらおまえにもできる仕事を俺が見つけてやる。俺を信じて頼れ」
怪我人は人目もはばからず号泣した――
コネツはグランデジアの生まれではない。ほんの少し前までゴルドントの漁師町オーウエナリスにいた。港の護岸の補強工事を請け負う職人の一人だった。
祖国を破ったグランデジア、その王リオネンデは虐殺好きのとんでもない男だと聞く。それなのに、占領されてからのほうがオーウエナリスの街は豊かになった。
グランデジア軍は漁に出ることを推奨し、水揚げを保障した。不漁でも毎回同額で買い上げると言う。ただし大漁でも買い上げ金額は変わらない。それでも長い目で見れば、生活が安定したと感じた漁師は多いだろう。
漁師の生活が安定すれば、漁師町なのだ、周囲の生活も安定する。兵たちも統率され、占領下にありがちな無体な行為もない。
さらに、軍も逆らえない魔術師と呼ばれる者たちが来て『氷室』と言うものを作った。そこに貯蔵すれば漁で得た獲物を保存できた。氷室の氷を使えば、今までより遠くに売り捌けた。また、魚を開いて内臓を取り出したものを塩蔵し乾燥させる技術も教えてくれた。オーウエナリスの雇用は拡大し、こののちもっと豊かになることが予測された。
派遣されただけの軍部や魔術師にこんな政策を行う権限があるはずはない、王の指示という事だ――コネツはリオネンデを見てみたいと思いフェニカリデに赴いた。会えるはずはないと判っていた。だが〝花の都〟と言われるフェニカリデに行けば、リオネンデがどんな人物か判るような気がした。
フェニカリデは噂に違わず美しかった。行きかう人々の表情も明るい。程よく施された木々や花々はよく手入れされ、建ち並ぶ建物は磨かれた石と木材を組み合わせたもの、土壁のみのオーウエナリスの街とは比べ物にならない。
どうやって石と木材を貼り合わせるのだろう……そんなことを考えながら歩いているうちにふと気が付くと懐の物がない。掏られたのだ。途方に暮れているときにワダと出会った。
花壇の縁に腰かけ項垂れていたコネツに、声を掛けてきたワダからは酒の匂いがした。『なんで暗い顔をしている? 驕るから一緒に飲もう』とワダは言った。ついて行っていいものか迷ったが、腹も減っていた。腹の虫が『ぐぅ』と、コネツの代わりに答えていた。
巧みに話を引き出すワダに、いつの間にやら身の上話をしてしまったコネツ、金がないなら困るだろうと、その日はワダが泊まっている宿に同宿させてくれた。そして訊かれた。グランデジアを恨んでいるかい?
グランデジアとの戦で、多くの同胞を殺された。正直、恨みのような感情がない訳ではない。だが、それはグランデジアだって同じはずだ。
「なぜ、グランデジア王はゴルドントに戦を仕掛けたんだろう?」
質問に質問で答えたコネツ、ワダは気を悪くすることなくこう答えた。
「すべての人々が食に困ることなく暮らせるため、だって言ってたな」
「えっ?」
「最初は、手を取りあってともにそんな国を目指そうと打診するらしい。が、どこの国の王さまも信用してくれないんだと」
「それはリオネンデ王が言ったという事?」
コネツの問いに答えずワダが続ける。
「自分がその王だとしてもそんな申し出、疑ってかかる。自分の国を富ませるのに必死で、他国の利益になんか構っちゃいられない。そんな申し出、自領が狙われてるとしか思えない。そうリオネンデ王は笑った」
思い出すのか、ワダも苦笑する。
「でも、すべての人が豊かに暮らすためには、自国が他国がとは言っていられない。なぜなら莫大な金と労力が必要だからだ。協力を拒むのならば戦でそれを獲得するしかなくなる。戦で失われる労力が惜しくて仕方ない。でも今は、それしか方法が思い浮かばない」
「ワダ、あんた何者なんだ?」
「俺か?」
うっすらとワダが笑う。そしてその問いに答えず、続けた。
「俺はそんなリオネンデ王に忠誠を誓った。うん、実は子どものころから王子さまたちを知っていた。王子たちは俺ら孤児と一緒に畑仕事をし、苦労と喜びを共にしてくれた。王となった今もそれは変わっていなかった――グランデジア王宮であった火事騒ぎを知っているか?」
急に話を振られて慌てるコネツ、
「あぁ、なんか随分死人が出たとか、噂にゃ聞いた」
大したことは知らないと、それでも頷く。
「あの時、俺たち孤児が働いていたブドウ園も焼けて、俺たちは行き場を失った。だから俺は、食ってくために盗賊になった」
「盗賊?」
「そんな顔するな、おまえの財布を盗ったのは俺の仲間じゃねぇ。俺らはフェニカリデでは真っ当な商売しかしないし、貧乏人からは盗らない」
「貧乏で悪かったね――しかし、盗賊が真っ当な商売って……」
呆れるコネツにワダが少し恥じ入るような顔になる。
「確かにな、突き詰めれば真っ当とは言えないかもな――余所で盗んだ金を使って宿屋や食堂を買い取って、そこで盗賊に向かないヤツや足を洗いたいヤツ、働かざる得ない子ども、そんなのを集めて働かせてる。フェニカリデ以外でもそうしてる」
「そんな場所があるなら盗賊なんてやめたらどうだ?」
「コネツさんよ、世の中、どれほど食いっぱぐれがいると思ってるんだい? 俺はリオネンデ王の話を聞いた時、俺が目指すものはこの王さまと同じだって、しみじみ思った。王のほうがもっと先を見越してるけどね」
「フェニカリデではそんな演説を王がするんだ?」
盗賊と王が知り合いのはずもないと思ったコネツがワダに問う。
「演説? リオネンデ王の演説なんか聞いたことがないなぁ……演説させるなら筆頭魔術師さまのほうがいい」
「筆頭魔術師? そうか、グランデジアは魔術師の国とも言われているな」
「うん、王はいいヤツでさっぱりしてるし思い切りもいい。もちろん頭もいい。が、難しいことを捏ね繰り回すのが苦手と言うか、嫌いだ。筆頭魔術師のサシーニャさまは、穏やかに見えて激しいおかた。が、その激しさは滅多なことじゃ見せない。そして恐ろしいほど賢いし、口も立つ。ま、俺の勝手な見立てだがな」
「ワダ、あんた、まるで王や、そのなんだ、筆頭魔術師? とやらと、まるで知り合いみたいなことを言うんだな」
蒼褪めるコネツにワダがクスッと笑った。
点在する村落は井戸が頼りだが、それも干上がることがあり、水には苦労させられている。
村々を回って荷馬車に積んだ水の樽を売る行商人もいる。だが、時には高値で買った水が劣悪な水質のこともある。腹痛程度で済めばいいが、命を落とすことがなくもない。しかも犠牲者には幼い子どもが多く、人々の呪詛にも似た怒りが村を包んだ。
人の飲み水にさえ苦労するのだから、当然農作物に与える水も不足する。森林が存在するのは地下水脈が比較的上層に流れる場所と推測すれば、水さえあれば豊かな作物が望める、そう考えたのがリオネンデの父、前王クラウカスナだった。
クラウカスナは即位と同時に盟友シャルレニを一の大臣に据えた。もっともこれはクラウカスナの父、退位した前王の意向だ。息子新王の治世を支える一人として抜擢している。
だがこれは諸刃の剣だった。若いシャルレニの一足飛びの出世を妬む閣僚が多く、受け入れ難しと考えたからだ。
シャルレニが拒まれたのはほかにも理由がある。シャルレニはグランデジア生まれであるものの、未知の大陸から流れついた夫婦から生まれた異民族の子だった。サシーニャの父である。
グランデジア政権は――王のごり押しの感も否めないものの、異民族(サシーニャの祖父母)が齎した知識や技術、文化を積極的に取り入れていた。クラウカスナの代になればそれも一段落を迎えている。やり残したのは一つ、それをクラウカスナは父から託されている。
グランデジアの荒野を潤し、豊かな実りのある土地に――それはダムを造り、その貯水を利用した水路建設を意味していた。だが、大掛かりなこの事業、莫大な資金と重い労役、そして気が遠くなるほど長い時間を要する。シャルレニ以外の閣僚がこぞって反対した。
父王ほど押しを利かせられない若い王はそれでも諦めず、密かに調査を進める。その結果、ダム造成に適するのはカルダナ高原、堰き止めるのはドジッチ川と目星をつけた。が、その矢先に王宮の火事騒ぎにより落命する。
リオネンデ王は幼い頃から父王の夢のような未来を聞かされ育っている。それはサシーニャとて同じだ。ダムを提案したのはシャルレニであり、シャルレニは幼い息子に、やはり夢を語っていた。そしてダムや水路の建設に関わる蔵書を数多く遺している――
岩を積み上げ、それを土砂で補強する。かなりの高さになったが、指図書と比べれば、まだまだ足りない。少しずつ幅を広げていき、そのうえで積み上げたほうがきっと効率がいい……カルダナ高原の木々に隠れた中に、不自然な岩壁が作られていた。それを見上げながらコネツが唸る。慎重に行かなけりゃ、今度こそ死人が出る。コネツが先日の事故を思い出す。
予期せぬ岩壁の崩壊に、下敷きになった男がいた。崩壊が小規模だったから犠牲者は一人で済んだ。全体が崩れるような大規模なものだったら、生き埋めにされた者が大勢出たことだろう。
犠牲者と言っても、幸い命に別状はなかった。だが大怪我には間違いない。コネツが見る限り、片足が潰され、もう立つこともできなさそうだ。
医術の心得のある者に応急手当をさせ、ベルグにいるはずのワダに急ぎ連絡する。駆け付けたワダに伴われていた魔術師は、『適切な応急手当のお陰で足を失うことはない』と怪我人に告げた。
今まで通りとはいかないものの、自分で歩けるようにはなるでしょう――だがそれが何になる? 生きていくためには金が必要だ。不自由な体でどう稼ぐ? 雇ってくれるところなんかあるものか……男には女房と幼い二人の子がいた。
「心配するな」
ワダがそう言って怪我人に渡したのはずっしりと重い金袋だった。
「この金で凌げ。今は怪我を治すことを考えろ――元気になったらおまえにもできる仕事を俺が見つけてやる。俺を信じて頼れ」
怪我人は人目もはばからず号泣した――
コネツはグランデジアの生まれではない。ほんの少し前までゴルドントの漁師町オーウエナリスにいた。港の護岸の補強工事を請け負う職人の一人だった。
祖国を破ったグランデジア、その王リオネンデは虐殺好きのとんでもない男だと聞く。それなのに、占領されてからのほうがオーウエナリスの街は豊かになった。
グランデジア軍は漁に出ることを推奨し、水揚げを保障した。不漁でも毎回同額で買い上げると言う。ただし大漁でも買い上げ金額は変わらない。それでも長い目で見れば、生活が安定したと感じた漁師は多いだろう。
漁師の生活が安定すれば、漁師町なのだ、周囲の生活も安定する。兵たちも統率され、占領下にありがちな無体な行為もない。
さらに、軍も逆らえない魔術師と呼ばれる者たちが来て『氷室』と言うものを作った。そこに貯蔵すれば漁で得た獲物を保存できた。氷室の氷を使えば、今までより遠くに売り捌けた。また、魚を開いて内臓を取り出したものを塩蔵し乾燥させる技術も教えてくれた。オーウエナリスの雇用は拡大し、こののちもっと豊かになることが予測された。
派遣されただけの軍部や魔術師にこんな政策を行う権限があるはずはない、王の指示という事だ――コネツはリオネンデを見てみたいと思いフェニカリデに赴いた。会えるはずはないと判っていた。だが〝花の都〟と言われるフェニカリデに行けば、リオネンデがどんな人物か判るような気がした。
フェニカリデは噂に違わず美しかった。行きかう人々の表情も明るい。程よく施された木々や花々はよく手入れされ、建ち並ぶ建物は磨かれた石と木材を組み合わせたもの、土壁のみのオーウエナリスの街とは比べ物にならない。
どうやって石と木材を貼り合わせるのだろう……そんなことを考えながら歩いているうちにふと気が付くと懐の物がない。掏られたのだ。途方に暮れているときにワダと出会った。
花壇の縁に腰かけ項垂れていたコネツに、声を掛けてきたワダからは酒の匂いがした。『なんで暗い顔をしている? 驕るから一緒に飲もう』とワダは言った。ついて行っていいものか迷ったが、腹も減っていた。腹の虫が『ぐぅ』と、コネツの代わりに答えていた。
巧みに話を引き出すワダに、いつの間にやら身の上話をしてしまったコネツ、金がないなら困るだろうと、その日はワダが泊まっている宿に同宿させてくれた。そして訊かれた。グランデジアを恨んでいるかい?
グランデジアとの戦で、多くの同胞を殺された。正直、恨みのような感情がない訳ではない。だが、それはグランデジアだって同じはずだ。
「なぜ、グランデジア王はゴルドントに戦を仕掛けたんだろう?」
質問に質問で答えたコネツ、ワダは気を悪くすることなくこう答えた。
「すべての人々が食に困ることなく暮らせるため、だって言ってたな」
「えっ?」
「最初は、手を取りあってともにそんな国を目指そうと打診するらしい。が、どこの国の王さまも信用してくれないんだと」
「それはリオネンデ王が言ったという事?」
コネツの問いに答えずワダが続ける。
「自分がその王だとしてもそんな申し出、疑ってかかる。自分の国を富ませるのに必死で、他国の利益になんか構っちゃいられない。そんな申し出、自領が狙われてるとしか思えない。そうリオネンデ王は笑った」
思い出すのか、ワダも苦笑する。
「でも、すべての人が豊かに暮らすためには、自国が他国がとは言っていられない。なぜなら莫大な金と労力が必要だからだ。協力を拒むのならば戦でそれを獲得するしかなくなる。戦で失われる労力が惜しくて仕方ない。でも今は、それしか方法が思い浮かばない」
「ワダ、あんた何者なんだ?」
「俺か?」
うっすらとワダが笑う。そしてその問いに答えず、続けた。
「俺はそんなリオネンデ王に忠誠を誓った。うん、実は子どものころから王子さまたちを知っていた。王子たちは俺ら孤児と一緒に畑仕事をし、苦労と喜びを共にしてくれた。王となった今もそれは変わっていなかった――グランデジア王宮であった火事騒ぎを知っているか?」
急に話を振られて慌てるコネツ、
「あぁ、なんか随分死人が出たとか、噂にゃ聞いた」
大したことは知らないと、それでも頷く。
「あの時、俺たち孤児が働いていたブドウ園も焼けて、俺たちは行き場を失った。だから俺は、食ってくために盗賊になった」
「盗賊?」
「そんな顔するな、おまえの財布を盗ったのは俺の仲間じゃねぇ。俺らはフェニカリデでは真っ当な商売しかしないし、貧乏人からは盗らない」
「貧乏で悪かったね――しかし、盗賊が真っ当な商売って……」
呆れるコネツにワダが少し恥じ入るような顔になる。
「確かにな、突き詰めれば真っ当とは言えないかもな――余所で盗んだ金を使って宿屋や食堂を買い取って、そこで盗賊に向かないヤツや足を洗いたいヤツ、働かざる得ない子ども、そんなのを集めて働かせてる。フェニカリデ以外でもそうしてる」
「そんな場所があるなら盗賊なんてやめたらどうだ?」
「コネツさんよ、世の中、どれほど食いっぱぐれがいると思ってるんだい? 俺はリオネンデ王の話を聞いた時、俺が目指すものはこの王さまと同じだって、しみじみ思った。王のほうがもっと先を見越してるけどね」
「フェニカリデではそんな演説を王がするんだ?」
盗賊と王が知り合いのはずもないと思ったコネツがワダに問う。
「演説? リオネンデ王の演説なんか聞いたことがないなぁ……演説させるなら筆頭魔術師さまのほうがいい」
「筆頭魔術師? そうか、グランデジアは魔術師の国とも言われているな」
「うん、王はいいヤツでさっぱりしてるし思い切りもいい。もちろん頭もいい。が、難しいことを捏ね繰り回すのが苦手と言うか、嫌いだ。筆頭魔術師のサシーニャさまは、穏やかに見えて激しいおかた。が、その激しさは滅多なことじゃ見せない。そして恐ろしいほど賢いし、口も立つ。ま、俺の勝手な見立てだがな」
「ワダ、あんた、まるで王や、そのなんだ、筆頭魔術師? とやらと、まるで知り合いみたいなことを言うんだな」
蒼褪めるコネツにワダがクスッと笑った。
11
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる