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第6章 春、遠からず
責任の所在
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現状、明確になっていることは……と、チュジャンエラが語り始める。状況なんか判っているとワズナリテがボソッと言ったが、リオネンデに睨まれてさりげなくソッポを向いた。
「バイガスラ国において、同国管理下に置かれたジッチモンデ金貨三千六百枚が所在不明になったこと、樹脂塗り器四十枚が焼失したこと、この二点は現地に於いて筆頭魔術師サシーニャさまが確認しており揺るぎない事実です。またバイガスラ国が金貨紛失を、筆頭魔術師の行いだと決めつけ、即刻撤回したものの謝罪がない事も真実です」
ここで言葉を切ったチュジャンエラ、チラリとリオネンデを見るが無反応だ。
「次に、この緊急閣議の目的を確認いたします。現状説明と繰り返しになる部分もありますが、暫く御辛抱のほどお願いいたします――金貨三千枚を受け取る約束で筆頭魔術師はバイガスラ国に出向いたのですが、金貨紛失のため果たせなかったと筆頭の報告書にありました。また、保管倉庫よりの出火は筆頭がバイガスラ滞在中、筆頭と上級魔術師がジョジシアス王の側近とともに火事現場に赴き、消火に助力しております。消火活動の追加情報として、我が国魔術師の助力に対し、バイガスラ国からの謝礼は言葉すらなかったと報告書にありました」
バイガスラ国とは礼儀を知らぬ国なのか? ケーネハスルがぽつりと言った。
「焼失した倉庫の内部を筆頭が検分し、樹脂塗り器の焼失を確認したと報告書に記載があります――金貨紛失および樹脂塗り器焼失は、この報告書により我が国の知るところとなったわけですが、筆頭魔術師は報告とともに進言書を提出しております。この緊急閣議の目的は、筆頭魔術師の進言書をどう見るかに他なりません。つまり、進言書を受け入れるか、それとも却下するかです」
ムッとワズナリテがチュジャンエラを睨みつけた。
「それは、その進言書に書かれた内容以外は受け入れないとの意味か?」
「まずは進言書の内容を検討し、却下の折は、新規に提案なさるのが筋と申し上げました――ワズナリテさまはサシーニャさまの進言をなんの検討もなくして却下してもよいとお思いか?」
「う……」
ワズナリテが唸り、ニャーシスが恥じて俯いた――
バイガスラ王宮――大臣たちに囲まれ苦虫を噛み潰したような顔のジョジシアス、どう責任を取るのかと責められ、答えに窮している。とうとう私財にて補填すると言わされてしまった。
「しかし、全額一度というわけには……」
「なんですと? 王は国庫に借金をするおつもりか!?」
国庫からの借り入れとなればジョジシアスの弱味になる。それをこの場ではっきりと共通の認識としたい。
モフマルドばかりを重用するジョジシアス王に蔑ろにされていると感じていた大臣たちは、ここぞとばかりにジョジシアスを責め立てる。しかもなんの都合か、弁が立つモフマルドが参席していない。ジョジシアス王の首根っこを押さえ、自分たちに都合のいい国王に仕立て上げる好機だ。
「いや、やはりそれはできない」
「では全額、すぐにでも出していただけるのですね?」
モフマルドからジョジシアスは、個人で負担するのは失策と言われている。言われなくても判っている。王と言えどそうそう現金は保有していない。全額用意するのには一部王領を売り飛ばすしかない。下手をすれば貴族たちより狭い領地になる。国王としての威厳は弱まり、民からの信頼は失墜、当然個人の収入減にもつながる。それだって買い取ってくれる者がいての話、いなければそれすらできない。
「いや、それも……」
「ジョジシアス王! さっきからのらりくらりと、同じことの繰り返し。いい加減、腹を括られてはいかがか!?」
モフマルドが議場に入ってきたのはその時だった。
「暫し待たれよ!」
「モフマルド!」
「モフマルドさま……」
ほっとするジョジシアス、心の中で舌打ちするのは大臣どもだ。これでジョジシアスをやり込めるのが難しくなった。だが、この状況をモフマルドとてどうにもできまい。糞生意気なモフマルドめ、ぎゃふんと言わせてやる……
「待てと仰るが、どれほど待てばよろしいか? 我が国が被った損害、補填の目途があるのでしょうな?」
挑戦的な目を向ける大臣の一人を、モフマルドが片頬で笑う。
「補填の目途? まさか此度の責をジョジシアス王やわたしに被せるつもりではあるまいな?」
「保管していたのはジョジシアス王とモフマルドさま、他に誰に責があるというのでしょう?」
「そうだな、例えば……」
ジロリと大臣たちを見渡したモフマルド、ある大臣で目を止める。
「例えば、王都の警備を担う大臣?」
「な、何を言う!?」
名指しされた大臣の一人が抗議するのを鼻で笑い、
「何もあなた一人が悪いとは言いません――遅参は火事現場を今一度、検めに行っていたからです。そして地下に横穴を発見いたしました」
議場にどよめきが起こるがモフマルドはこれも気にせず、
「まずは王宮内ジョジシアスさまの館、金貨を保管していた部屋を調べ、同様の横穴の有無を調べます。あれば倉庫の横穴と併せ、兵を出してどこに通じているかを確認させましょう。これにより誰の企みか判明します――どちらにしろ、責任の所在を追求するのはそのあとです。ジョジシアスさま、すぐにお館に戻りますぞ」
うん、と慌てて立ち上がるジョジシアス、王都の警備を担う大臣が『わたしも行こう』と立ち上がった――
兵士たちが金庫を保管していた部屋の床石を剥がしとる。場所はすぐ判った。歩き回ればそこだけ他と違う音がした。
「有りましたな……」
「うむ……」
警備担当大臣が唸る。兵は二手に分け、一方は倉庫に行かせた。ゴリューナガを倉庫に待機させ、兵が来たら指示するようにと命じてある。
穴に降りていく兵たちを横目に、『どこに通じているかが判り次第、閣議を再開いたしましょう』と大臣を帰し、居室に落ち着いたジョジシアスとモフマルドだ。兵たちには目的地からは地上を通って王宮に戻るよう指示した。
「あの、穴を掘るような音……」
ジョジシアスがポツリという。
「その事は、決して口外してはいけません――大臣たちはジョジシアスさまとわたしに責任を擦り付けたいのです。付け入る隙を与えてはいけません」
「うん……しかし、どこから掘ってきたのだろう?」
「グランデジアの商人が営んでいた宿屋だと、わたしは見ております。ほぼ間違いないでしょう」
「グランデジア?」
驚いたジョジシアスがモフマルドをハッと見る。
茶の用意をしていたモフマルドが椀を二つ、盆にも乗せず持ってきて、ひとつをジョジシアスの前に置いた。それを手に取ったものの飲みもせず、ジョジシアスが宙を見据える。
「リオネンデは俺を恨んでいるか?」
茶に息を吹きかけていたモフマルドがチラリとジョジシアスを見る。
「むしろサシーニャの、わたしへの恨みかと」
「サシーニャがおまえを恨んでいる? おまえがサシーニャを不快に思っているのは知っているが、なぜサシーニャがおまえを?」
「サシーニャの父親が惨殺されたのはご存知でしょう? どうやらそれをわたしが仕組んだと、思い込んでいるようです」
「そんな誤解は早く解け」
「思い込んでいるものを、否定したところで信じては貰えないものです」
「うむ……」
静かに茶を啜るモフマルドの横顔を見詰めてジョジシアスが問う。
「それで、横穴がその宿に通じていたとして、どう対処したらいい?」
「断罪するしかありますまい――首謀者の引き渡しと補償を求めるのが定石かと」
「どうやって首謀者を断定する?」
「首謀者の断定はグランデジアに一任してもよろしかろう――断定できなければ今回の取引の責任者とすればいい」
「今回の取引の責任者は、あのグレリアウスという男だぞ?」
「グレリアウスは二人目の子が生まれたばかり、そんな男をサシーニャは引き渡したりしませんよ」
「うん? モフマルド、おまえ、まさかサシーニャを狙っているのか?」
「えぇ、サシーニャを引き渡さないならば戦も辞さない構えと迫ればいい――ジョジシアス、よく考えなさい。こんなことをサシーニャの指示なくして、グランデジアの誰ができると言うのです? サシーニャでなければリオネンデ王が後ろにいる。が、さすがにリオネンデを引き渡せとは言えない、ならばサシーニャ……わたしへの恨みでこんなことをしたのなら、なおさらのこと」
「しかし……サシーニャは王子だ。そう簡単には――」
「引き渡さないのなら戦となる、むしろ戦になったほうがいい」
「戦?」
ジョジシアスが蒼褪める。
「グランデジアと戦だと?」
「非はグランデジアにありと諸国に周知し、援軍を募りましょう。バチルデアとプリラエダ、それにジッチモンデは我が国に助力してくれます」
「ジッチモンデが我が方に味方するだと? 長年小競り合いを続けているんだぞ?」
「しっかりなさい、ジョジシアス。ジッチモンデ国に納める商品をグランデジアは燃やしたのですよ? 報復したいはずだ」
「バチルデアは、リオネンデと婚約した王女をグランデジアに預けている……」
「すぐさま王女を帰国させるよう働きかけましょう。グランデジアが王女帰国を妨害すれば、尚更バチルデアは我が方に加担します」
「プリラエダは全く無関係じゃないか」
「グランデジアがいつ侵攻してくるかと、ビクビクしているのがプリラエダ――ジョジシアス! 覚悟なさい!」
ゴリューナガには戦など愚かと言ったがよく考えてみれば、それこそ自分が望んだこと、ジョジシアスに近付いたのもそのためだ。ならばこれは、サシーニャが作ってくれた好機と考え直した。これに乗じて、今こそサシーニャもろともグランデジアを亡ぼすしかない。
出来ればサシーニャは生け捕りにして、ゴリューナガに引き渡したい。ゴリューナガに凌辱され、自分に助けを求めるサシーニャをこの目で見たい……それにはまずジョジシアスにその気になって貰わなくては困る。
それなのに、ジョジシアスは怖じ気づいているのか難色を示すばかりだ。
「いいですかジョジシアス、これはあなたとわたしを守ることにもつながります。わたしが来るまで、大臣たちに責められていたのでしょう? その責めから逃れるためにもグランデジアを倒さなければなりません」
ジョジシアスが大臣の言葉を思い出す。国庫に借金をする気なのか?……そうか、グランデジアに責任ありとしなければ自分が負わねばならない。ギュッとジョジシアスが目を閉じた――
「バイガスラ国において、同国管理下に置かれたジッチモンデ金貨三千六百枚が所在不明になったこと、樹脂塗り器四十枚が焼失したこと、この二点は現地に於いて筆頭魔術師サシーニャさまが確認しており揺るぎない事実です。またバイガスラ国が金貨紛失を、筆頭魔術師の行いだと決めつけ、即刻撤回したものの謝罪がない事も真実です」
ここで言葉を切ったチュジャンエラ、チラリとリオネンデを見るが無反応だ。
「次に、この緊急閣議の目的を確認いたします。現状説明と繰り返しになる部分もありますが、暫く御辛抱のほどお願いいたします――金貨三千枚を受け取る約束で筆頭魔術師はバイガスラ国に出向いたのですが、金貨紛失のため果たせなかったと筆頭の報告書にありました。また、保管倉庫よりの出火は筆頭がバイガスラ滞在中、筆頭と上級魔術師がジョジシアス王の側近とともに火事現場に赴き、消火に助力しております。消火活動の追加情報として、我が国魔術師の助力に対し、バイガスラ国からの謝礼は言葉すらなかったと報告書にありました」
バイガスラ国とは礼儀を知らぬ国なのか? ケーネハスルがぽつりと言った。
「焼失した倉庫の内部を筆頭が検分し、樹脂塗り器の焼失を確認したと報告書に記載があります――金貨紛失および樹脂塗り器焼失は、この報告書により我が国の知るところとなったわけですが、筆頭魔術師は報告とともに進言書を提出しております。この緊急閣議の目的は、筆頭魔術師の進言書をどう見るかに他なりません。つまり、進言書を受け入れるか、それとも却下するかです」
ムッとワズナリテがチュジャンエラを睨みつけた。
「それは、その進言書に書かれた内容以外は受け入れないとの意味か?」
「まずは進言書の内容を検討し、却下の折は、新規に提案なさるのが筋と申し上げました――ワズナリテさまはサシーニャさまの進言をなんの検討もなくして却下してもよいとお思いか?」
「う……」
ワズナリテが唸り、ニャーシスが恥じて俯いた――
バイガスラ王宮――大臣たちに囲まれ苦虫を噛み潰したような顔のジョジシアス、どう責任を取るのかと責められ、答えに窮している。とうとう私財にて補填すると言わされてしまった。
「しかし、全額一度というわけには……」
「なんですと? 王は国庫に借金をするおつもりか!?」
国庫からの借り入れとなればジョジシアスの弱味になる。それをこの場ではっきりと共通の認識としたい。
モフマルドばかりを重用するジョジシアス王に蔑ろにされていると感じていた大臣たちは、ここぞとばかりにジョジシアスを責め立てる。しかもなんの都合か、弁が立つモフマルドが参席していない。ジョジシアス王の首根っこを押さえ、自分たちに都合のいい国王に仕立て上げる好機だ。
「いや、やはりそれはできない」
「では全額、すぐにでも出していただけるのですね?」
モフマルドからジョジシアスは、個人で負担するのは失策と言われている。言われなくても判っている。王と言えどそうそう現金は保有していない。全額用意するのには一部王領を売り飛ばすしかない。下手をすれば貴族たちより狭い領地になる。国王としての威厳は弱まり、民からの信頼は失墜、当然個人の収入減にもつながる。それだって買い取ってくれる者がいての話、いなければそれすらできない。
「いや、それも……」
「ジョジシアス王! さっきからのらりくらりと、同じことの繰り返し。いい加減、腹を括られてはいかがか!?」
モフマルドが議場に入ってきたのはその時だった。
「暫し待たれよ!」
「モフマルド!」
「モフマルドさま……」
ほっとするジョジシアス、心の中で舌打ちするのは大臣どもだ。これでジョジシアスをやり込めるのが難しくなった。だが、この状況をモフマルドとてどうにもできまい。糞生意気なモフマルドめ、ぎゃふんと言わせてやる……
「待てと仰るが、どれほど待てばよろしいか? 我が国が被った損害、補填の目途があるのでしょうな?」
挑戦的な目を向ける大臣の一人を、モフマルドが片頬で笑う。
「補填の目途? まさか此度の責をジョジシアス王やわたしに被せるつもりではあるまいな?」
「保管していたのはジョジシアス王とモフマルドさま、他に誰に責があるというのでしょう?」
「そうだな、例えば……」
ジロリと大臣たちを見渡したモフマルド、ある大臣で目を止める。
「例えば、王都の警備を担う大臣?」
「な、何を言う!?」
名指しされた大臣の一人が抗議するのを鼻で笑い、
「何もあなた一人が悪いとは言いません――遅参は火事現場を今一度、検めに行っていたからです。そして地下に横穴を発見いたしました」
議場にどよめきが起こるがモフマルドはこれも気にせず、
「まずは王宮内ジョジシアスさまの館、金貨を保管していた部屋を調べ、同様の横穴の有無を調べます。あれば倉庫の横穴と併せ、兵を出してどこに通じているかを確認させましょう。これにより誰の企みか判明します――どちらにしろ、責任の所在を追求するのはそのあとです。ジョジシアスさま、すぐにお館に戻りますぞ」
うん、と慌てて立ち上がるジョジシアス、王都の警備を担う大臣が『わたしも行こう』と立ち上がった――
兵士たちが金庫を保管していた部屋の床石を剥がしとる。場所はすぐ判った。歩き回ればそこだけ他と違う音がした。
「有りましたな……」
「うむ……」
警備担当大臣が唸る。兵は二手に分け、一方は倉庫に行かせた。ゴリューナガを倉庫に待機させ、兵が来たら指示するようにと命じてある。
穴に降りていく兵たちを横目に、『どこに通じているかが判り次第、閣議を再開いたしましょう』と大臣を帰し、居室に落ち着いたジョジシアスとモフマルドだ。兵たちには目的地からは地上を通って王宮に戻るよう指示した。
「あの、穴を掘るような音……」
ジョジシアスがポツリという。
「その事は、決して口外してはいけません――大臣たちはジョジシアスさまとわたしに責任を擦り付けたいのです。付け入る隙を与えてはいけません」
「うん……しかし、どこから掘ってきたのだろう?」
「グランデジアの商人が営んでいた宿屋だと、わたしは見ております。ほぼ間違いないでしょう」
「グランデジア?」
驚いたジョジシアスがモフマルドをハッと見る。
茶の用意をしていたモフマルドが椀を二つ、盆にも乗せず持ってきて、ひとつをジョジシアスの前に置いた。それを手に取ったものの飲みもせず、ジョジシアスが宙を見据える。
「リオネンデは俺を恨んでいるか?」
茶に息を吹きかけていたモフマルドがチラリとジョジシアスを見る。
「むしろサシーニャの、わたしへの恨みかと」
「サシーニャがおまえを恨んでいる? おまえがサシーニャを不快に思っているのは知っているが、なぜサシーニャがおまえを?」
「サシーニャの父親が惨殺されたのはご存知でしょう? どうやらそれをわたしが仕組んだと、思い込んでいるようです」
「そんな誤解は早く解け」
「思い込んでいるものを、否定したところで信じては貰えないものです」
「うむ……」
静かに茶を啜るモフマルドの横顔を見詰めてジョジシアスが問う。
「それで、横穴がその宿に通じていたとして、どう対処したらいい?」
「断罪するしかありますまい――首謀者の引き渡しと補償を求めるのが定石かと」
「どうやって首謀者を断定する?」
「首謀者の断定はグランデジアに一任してもよろしかろう――断定できなければ今回の取引の責任者とすればいい」
「今回の取引の責任者は、あのグレリアウスという男だぞ?」
「グレリアウスは二人目の子が生まれたばかり、そんな男をサシーニャは引き渡したりしませんよ」
「うん? モフマルド、おまえ、まさかサシーニャを狙っているのか?」
「えぇ、サシーニャを引き渡さないならば戦も辞さない構えと迫ればいい――ジョジシアス、よく考えなさい。こんなことをサシーニャの指示なくして、グランデジアの誰ができると言うのです? サシーニャでなければリオネンデ王が後ろにいる。が、さすがにリオネンデを引き渡せとは言えない、ならばサシーニャ……わたしへの恨みでこんなことをしたのなら、なおさらのこと」
「しかし……サシーニャは王子だ。そう簡単には――」
「引き渡さないのなら戦となる、むしろ戦になったほうがいい」
「戦?」
ジョジシアスが蒼褪める。
「グランデジアと戦だと?」
「非はグランデジアにありと諸国に周知し、援軍を募りましょう。バチルデアとプリラエダ、それにジッチモンデは我が国に助力してくれます」
「ジッチモンデが我が方に味方するだと? 長年小競り合いを続けているんだぞ?」
「しっかりなさい、ジョジシアス。ジッチモンデ国に納める商品をグランデジアは燃やしたのですよ? 報復したいはずだ」
「バチルデアは、リオネンデと婚約した王女をグランデジアに預けている……」
「すぐさま王女を帰国させるよう働きかけましょう。グランデジアが王女帰国を妨害すれば、尚更バチルデアは我が方に加担します」
「プリラエダは全く無関係じゃないか」
「グランデジアがいつ侵攻してくるかと、ビクビクしているのがプリラエダ――ジョジシアス! 覚悟なさい!」
ゴリューナガには戦など愚かと言ったがよく考えてみれば、それこそ自分が望んだこと、ジョジシアスに近付いたのもそのためだ。ならばこれは、サシーニャが作ってくれた好機と考え直した。これに乗じて、今こそサシーニャもろともグランデジアを亡ぼすしかない。
出来ればサシーニャは生け捕りにして、ゴリューナガに引き渡したい。ゴリューナガに凌辱され、自分に助けを求めるサシーニャをこの目で見たい……それにはまずジョジシアスにその気になって貰わなくては困る。
それなのに、ジョジシアスは怖じ気づいているのか難色を示すばかりだ。
「いいですかジョジシアス、これはあなたとわたしを守ることにもつながります。わたしが来るまで、大臣たちに責められていたのでしょう? その責めから逃れるためにもグランデジアを倒さなければなりません」
ジョジシアスが大臣の言葉を思い出す。国庫に借金をする気なのか?……そうか、グランデジアに責任ありとしなければ自分が負わねばならない。ギュッとジョジシアスが目を閉じた――
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