残虐王は 死神さえも 凌辱す

寄賀あける

文字の大きさ
314 / 404
第6章 春、遠からず

眠れぬ夜

しおりを挟む
 バイガスラ王宮ジョジシアスの居室では、グリッジからの早馬がもたらしたしらせにモフマルドが激怒していた。
「日没前に戦闘を終えただと!? 何を考えているんだ!?」

 それを見てジョジシアスが『怒りどころはそこではないぞ』と思う。我がバイガスラ軍は、グランデジア軍にに振り回され、兵の疲弊はなはだしく、最後には防壁の中に逃げ込まされたと言うではないか。怒るなら、そのあたりなのではないか?

 溜息をいてジョジシアスが問う。
「それで、明日はどうするつもりだ? 早く決めて伝令を出さないと、朝に間に合わないぞ?」

「明日は……うん、こちらも全軍でグランデジア本陣を襲撃させよう。同じ手を使ってやる。我が軍と違ってグランデジア軍は逃げこむ場所がない。ダンガシクに逃げるなら、そのままの勢いでベルグまで追い込んでやる」
「そう巧く行くかな? 我が軍の兵は疲労困憊こんぱいしていると報せにあったぞ」
「今日、早くから休んでるんだ! それに疲れているのは向こうも同じだ――幸い負傷兵はいるものの、みな軽傷だという。つまり我が軍は無傷。グランデジア軍の腰抜けどもは、我が軍を疲れさせることしか出来なかったということだ」

「グランデジア兵にも死者や重傷者はいないそうじゃないか」
「明日はそうはいかないぞ。軍に『グランデジア兵の死体の山を見せろ』と命じてやる……そうだ、倒した敵兵の数に応じて褒美を取らせることにしよう」
自分の思い付きに気を良くしたモフマルドがジョジシアスの意見を聞くことなく戦場いくさばへの指令を出す。その横でジョジシアスは『負けいくさでも構わない』と、心の中で呟いていた。

 バチルデア王宮ではエネシクル王が項垂うなだれている。

 バチルデア本隊はアイケンクスの副官に付けた将校を指揮官としてバイガスラに向かわせた。国境に到着したので今夜は進軍を終え、明日早朝バイガスラ軍と合流すると報告があった。出立したのは日没間近まぢか、国境までがせいぜいだと承知していた。

 バチルデア国は長くいくさを経験していない。実質的隣国はバイガスラだけだ。バイガスラとは、昔はドリャスコ川を巡って争った。何代も前の王の時、有事の際には必ず援軍を出すという条件のもと、バイガスラが水源を保証すると約束して以来、争うこともなくなった。そのバイガスラも、ラメリアス港を巡ってジッチモンデ国と時おり小競り合いがあるものの、大きないくさになったことはない。

(考えてみるといくさはいつもグランデジアが絡んでいる……)

 絡んでいると言うよりも、グランデジアの中で起きていると言ったほうが当たっている。現在に至るまで、いくつもの国がグランデジアから独立しては再びグランデジアに吸収された。ゴルドントもニュダンガも元はグランデジア、コッギエサにしてもプリラエダにしても同じだ。

『始祖の王は名もなき山に神官を置き、神官の守り人に二人の友を選ぶ。神官の名はジッチモンデ、友の名はバイガスラにバチルデア――〝未来永劫、手を携えよ〟始祖の王の声が空に響いた』

 伝説では、ジッチモンデ・バイガスラ・バチルデアもグランデジアの一部に過ぎない。だが、始祖の王が独立を認めた国だ。グランデジアに並ぶ国なのだ。

 バイガスラの宣戦布告を知った時、『何を馬鹿な』と最初は思った。始祖の王が造りし国グランデジアと並び立てるのはジッチモンデ・バイガスラ・バチルデアの三国のみ、他の国とは格が違う。グランデジアに攻め込めば、その誇りに泥を塗る。しかし……

 始祖の王はバチルデアに、ジッチモンデ・バイガスラと手を携えろと言っているものの、グランデジアに従えとは言っていない。

 そしてバイガスラ有事に、援軍を送る約束は今も生きている。破ればそれもまた、卑怯者のそしりを受けるだろう。

 バイガスラとグランデジア、どちらの言い分が真実なのかなど他国には知りようもない。どちらに付きたいかで決めるしかない。ならば……バイガスラに付きたいと思った。グランデジア国内で反乱・分裂・吸収が幾度も繰り返されるのは、グランデジア王宮に問題があるからだ。だからバイガスラに援軍を送ると決め、苔むす森からのグランデジア侵攻をめいじた――それを後悔し始めている。

 バチルデア軍がバイガスラとの国境に到着したというしらせの直後、フェルシナスからも報せが届いた。

『王太子アイケンクスがグランデジアの捕虜となった』
エネシクルが頭を抱える。バチルデア軍を率いるはずの王太子が姿をくらませただけでも大問題だ。それがあろうことか、別の戦場いくさばで敵の捕虜になった。いったいどんなカラクリだ?

(アイケンクスは王の器ではなかった……)
さすがに王太子を見捨てるわけには行かない。廃太子するにしても、グランデジアから取り戻してからだ。いや、いっそ、見捨ててしまうか? 王子はもう一人いる……

 国軍は、国境で明日の朝を待っている――バイガスラ国にこのまま送り込むか、それとも戻るよう命じるか? 早く決断しなくては……焦るものの心を決められないエネシクルだ。

 グランデジア魔術師の塔、食事を終えた後もジャルスジャズナはルリシアレヤの居室にいた。

「ヌバタムなら心配ないよ」
黒猫が帰って来ないと心配するルリシアレヤにジャルスジャズナが言った。

「だってジャジャ、ここに移ったとヌバタムは知らないはずよ?」
「ヌバタムが案内あない猫だって忘れたのかい? どこに居たってチャンと見つけ出す、それがヌバタムだよ」
「あ……そうだった、忘れてたわ」
自分のにか、安心したからか、ルリシアレヤがクスッと笑った。

 父親似の子が欲しい……その〝父親〟は誰のことを言っているんだい? ジャルスジャズナが心の中でルリシアレヤに問いかける。リオネンデではないんだろう? だとしたら、サシーニャかチュジャンしかいないじゃないか。他の誰かと知り合ったとは思えない。

(ルリシアレヤ、今夜はあんたの傍にいるよ)
ルリシアレヤは眠れぬ夜を過ごすだろう。恋しいひとに寄せる思い、それがに気付かせた。ジャルスジャズナは穏やかな笑みをルリシアレヤに向けていた。

 ビピリエンツ郊外コネツの館にリオネンデたちが到着したのは日が暮れてすっかり暗くなった頃だ。
「あなたがコネツですね? ダム工事では大変にお世話になりました。あなたなしでは完工しなかったでしょう」

 コネツには何度も手紙で指示を出した。試行錯誤しながらも、サシーニャの考え通りに工事を進めてくれた。カルダナ高原に派遣したチュジャンエラからも話を聞いていて、すっかり懇意になったのサシーニャだった。それなのに、サシーニャに答えるコネツの声は聞こえない。

 うつむいて小刻みに身体を震わせているだけのコネツをサシーニャは、初めて見る体色に驚き、怖がっていると受け止めた。今まで何度も経験したことだ。

「こんなふうに生まれついてしまっただけで、怖がらせるつもりはないのです。申し訳ないが少し我慢してください。明日には出ていきます」
そう言って建屋に入ろうとするサシーニャを、絞り出すようなコネツの声が引き留めた。
「そうじゃないんだ……」

 見るとコネツはポロポロと涙を流している。
「ずっとお会いしたかった。取るに足らないわたしに、いつも優しく丁寧ていねいなお言葉で気遣いの籠ったお手紙をくださった。グランデジアのお偉いかたなのに……そしてまた、こうしてお声を掛けてくださるなんて」

 戸惑うサシーニが
「わたしは偉くなどありません。ひとりでは、何も成し遂げられません」
と言えば、様子を見ていたリヒャンデルが苦笑する。
「コネツさんだったっけ? そう硬くならなくていいよ。今夜はお世話になるね。早く中に入って酒でも飲ませてくれよ」
と笑った。

 ジッチモンデ王宮ジロチーノモの寝室――微睡まどろみの中、ジロチーノモが身動みじろぎする。

「どうかしましたか?」
テスクンカがはっきりしない意識のまま問い掛けた。

「今、揺れなかったか?」
「うーーん、どうでしょう? 眠ってましたからね。小さな地震では気が付きませんよ」
「いや、地震とは違うような? なんか、横滑りしたように感じたんだ」
「なるほど……でも、もう止まったのでしょう? 眠りましょう。夜明けはまだまだです」
言い終わると同時に寝息を立てるテスクンカの胸に身を寄せて、不安に包まれたままジロチーノモも目を閉じた。

 夜が過ぎ、うっすらと東の空が白み始める。ビピリエンツ郊外コネツの館の庭に佇むサシーニャに近付くのはリオネンデ――

「眠れないのですか?」
「眠れないのはおまえだろう?」
「ひと眠りしましたよ」
「相変わらず眠りが浅いか? 最近悪夢は?」
「今日が終わればぐっすり眠れるようになると思います」
「そうか」

 サシーニャは、悪夢について答えていない。答えたくないのだ。つまり今も続いている……答えを催促する必要はない。サシーニャに気付かれないようリオネンデが、そっと小さな溜息をいた。

 バイガスラに来たのはこれで二度目だ。一度目は十九年前、一面の雪景色は怖いくらいに静かだった。そしてその滞在中、双子の弟は人生を狂わされた。復讐のたねはその時、すでにかれていた。

 あの時同行した母も、弟を苦しめたと同じ男に殺された。その男は母の異母兄、優しかった母はあの男の事を気にかけていた。それなのにあの男は……

 幼い時に消えない傷を負わせた我が弟を、成長してからはその手にかけて命を奪った。己の妹である我が母を、凌辱して自害に追い込んだ。明るみになっていないのをいい事にと生きている。俺が知っているとも知らず親し気に接してくる。自分が何をしたのか判っていないのか?

 己の罪を認めさせ、必ず報いを受けさせる――復讐が、ただ一人生き残ったリオネンデの肩に重くし掛かる。

 そうかと言ったきり、口を閉ざしたリオネンデ、何を考えているのか? だが、今のサシーニャには、あれこれ考えを巡らせる余裕はなかった。庭に出てきた原因が、どっぷりサシーニャを捕らえていた。

 サシーニャ、他人ひとを恨んではいけないよ……このところ、また頻繁に見るようになったあの夢に、浅い眠りは途切れてしまった。夢の中の父親は、いつでも穏やかに温かく、そして優しく微笑んでいる。襲ってくる苦悩に居た堪れなくなって、庭に出てきた。

(母上の死にあの男が関与していると知っても、父上は同じことを言えますか?)

 訊いたところで答えてくれる人のいない問い掛けを、幾度サシーニャは繰り返しただろう?
(父上……わたしは父上のような大人物だいじんぶつには成れないようです)

 あの男への怨嗟えんさが心の中から消えてくれない。親を失った悲しさや苦しさが忘れられず、続く喪失感が復讐心を育てていく。あの男への憎しみが、親を奪われた憤りからなのか、味わったつらさによる恨みなのか、自分でも判らなくなっている。

「日の出だな……」
見ると東の空では太陽が光の矢を放っている。

 今日、復讐に決着をつける。ヤツらは気持ちと兵を国境に向けている。その隙をついて奇襲をかける。失敗すれば二度目はない。

「快晴ですね」

 明日の朝、また夜明けを迎えられるだろうか? 迎えられたとしたら、今日よりずっと美しい朝になるだろう。

 そろそろ建屋に戻り準備を始める。

 リオネンデが動き、サシーニャがそれに従った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...