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第7章 報復の目的
母の思い
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雪礫を投げ合って笑い転げた。だけど双子の弟は動き回って遊ぶより、本当は本を読むのが好きだと、兄は知っていた。
本読みたさに弟が伯父の館に行くと言った時、止めたりしなかった。いつでも一緒の弟と初めて離れ離れの夜を過ごす。不安を感じないわけではなかったが、いずれ別の道を歩き出さなければならない。一人は王となり、もう一人は王を支える臣下となる。これはきっと、その時のための練習だ。たった一晩くらい我慢できる。
ところが翌日も翌々日も弟は帰って来ない。
「なんでリオは帰って来ないの?」
「寂しいのね、リューズ」
縋ればいつも、母親は優しく微笑んでくれた。
「ママもリオが居なくて寂しいわ。それはきっとリオも同じよ」
「それじゃあなんで帰って来ないの? 僕より本のほうがリオは好きなの?」
「それは違うわよ、リューズ。リオはね、リオやママより、今は伯父さまに自分が必要だと感じたんだと思う。あの子はどう自分が必要とされているのかを感じ取れる子なのよ」
だから本を読んでいても、僕が退屈していると何かして遊ぼうって言ってくれるんだね、心の中で兄が納得している。
「ジョジシアス伯父さまは子どものころにお母さまを亡くして、ずっと寂しい思いをしてこられたの。きっと今でもその孤独は消えていないわ。リオはね、そんな伯父さまを、バイガスラにいる間だけでもお慰めしたいんじゃないかしら?」
「このままグランデジアに帰らないってことはないよね? 一緒に帰るよね?」
「当り前よ。リューズとリオは二人とも、わたしの大事な息子。それにグランデジアの大事な王子。置いて帰れるはずないわ――帰国の前日にはこちらに戻るってことだから、それまで我慢しましょうね」
「うん、そうだね。リオとはこの先もずっと一緒。今は伯父さまにリオを貸してあげるよ」
抱きついた母の身体は柔らかく、いい匂いがして心を落ち着かせてくれた。
ジョジシアス――俺の母と弟は、おまえにいったい何をした? そしておまえは二人にいったい何をしたんだ? 二人を凌辱し命を奪い、それでおまえは慰められたのか? リオネンデの瞳が怒りに燃える。
「そろそろ行くぞ」
リヒャンデルが立ち上がり、二人の部下がそれに続く。一息ついてサシーニャ、そしてスイテアも立ち上がり、リオネンデを見た。
「よし、行こう!」
勢い良くリオネンデが立ちあがった――
バイガスラ王宮ジョジシアスの居室でゴリューナガが苦笑する。
「開門できないと騒いでいるぞ」
鳩を使役し、その目を借りているゴリューナガ、行かせた先は国境、グランデジアとの戦況を見ている。
「開門できないとはどういう意味だ?」
ジョジシアスの問いに、
「閉門してる間に、グランデジアの魔法使いどもが封鎖術を使ったんだろうさ」
モフマルドが袖を引くのも気にせずに、ゴリューナガが直答する。
「ふぅん……テスレムの向こうにいるのはバチルデア軍だな。動く気配がない。なにしてるんだろう?」
「早くグランデジア軍に向かえと言ったらどうだ?」
「口を利く鳩なんざ聞いたことがない……いや、幻影術の中にそんなのもあったかもしれん」
「伝令鳥の使用法の一種に、ない事もない」
ボソリと言ったのはモフマルドだ。
「だが、使える魔術師はそれほどいない。かなり高度な魔法だ」
「つまり! おまえたち二人には無理、と言うことだな」
ジョジシアスが嘲笑する。モフマルドは悔しげな顔をしたが、ゴリューナガはジョジシアスとモフマルドを見比べてニヤニヤしている。
「何が可笑しい!?」
見咎めたモフマルドがイライラと怒鳴る。
「いいや、本陣にグレリアウスがいる。以前と変わらず綺麗な顔で済ましてやがる」
「ヤツとも知り合いなのか?」
「俺はサシーニャが筆頭になってから四年近くは塔にいた。そのころ居た魔術師なら全員知っているさ――しかしサシーニャはグレリアウスみたいなのは嫌うと思ったがな」
「ここに来るときはいつも一緒だが、仲が悪くは見えなかったぞ?」
「グレリアウスが巧くサシーニャに取り入ったんだろうさ。 ヤツの得意は陽動や誘導だ。要は人誑し。ゴルドントじゃ、ヤツの術にかかった民人が、自国の兵を罠に誘き寄せて何人も殺した。命令となれば躊躇わずに非情なこともする。それがグレリアウスだ」
そんな非情さがサシーニャとは合わないと思ったんだがなぁ、と呟くゴリューナガを、顔色を変えたジョジシアスが見る。
「おまえ……それはニュダンガのシシリーズの仕業だったのでは?」
「シシリーズがしたのはゴルドント戦が終わってからの民人の虐殺だ。それだってニュダンガに潜り込ませたサシーニャの間者がシシリーズに術を掛けてやらせたことだと俺は思ってる。シシリーズは魔法でやらせれているとも知らずに、臣下に虐殺を命じたんだろうさ」
「それは本当なのか?」
「方法は任せるからシシリーズを陥れろと、サシーニャが部下に命じるのを俺は見たぞ」
「うむ……どうやらサシーニャと言う男は策謀が好きなようだな。やはり今回の金貨消失も倉庫の火事もサシーニャの仕業で正解のようだ」
呻くジョジシアスに『やっと判ったか』とモフマルドが呆れた。
バチルデア王宮ではエネシクル王が己の居室で悩んでいた。国境まで進めた自軍をどうするか、未だに決めかねている。王妃ララミリュースは不調を訴え、寝室から出てこない。
バイガスラの防壁はバチルデアとグランデジアの国境にも続き、バチルデアとプリラエダを隔てる山脈に到達する。そしてバイガスラとバチルデアの国境には、防壁も緩衝地帯もない。人の背よりは少し高い程度の柵が国境を示しているだけだ。その柵を超えてバチルデア軍はバイガスラ軍と合流するつもりだった。
エネシクルとて我が子が可愛い。たとえ王の器でないとしてもアイケンクスを失いたくはない。バイガスラとともにグランデジアと敵対すれば、捕らえられたアイケンクスはどうなるだろう?
無事に取り返したいのなら、味方すると見せかけ国境を越えたらバイガスラ軍を襲撃すればいい。それでバチルデアはグランデジアの味方、アイケンクスは捕虜でなくなる。そのうえ、フェニカリデに残ったルリシアレヤの安全も見込める――だが、もし失敗したら? グランデジアが敗戦、もしくはバイガスラが標的をバチルデアに変更したら?
寝返りが失敗に終わればバチルデアは王子だけでなく、国をも失いかねない。だから決められずにいる。国を取るか我が子を取るか?
扉ひとつ向こうの寝室ではララミリュースが、窓辺に置いた椅子に腰かけ庭を眺めていた。この庭で幼い子どもたちを遊ばせた。蘇る思い出が胸を締め付ける。
(アイケンクス……)
兄だからと、弟妹たちを気遣っていた。兄だからと自分は我慢していた。だけど本当はやせ我慢、それが判っていたから時どきあの子だけ、兄だから、いずれ国王になる子だからと特別扱いしてしまった。それすら分けられる物は弟妹たちにも分け与え、分けられないものの時は済まなそうに小さな声で『ごめんね』と謝っていた。
癇癪を起すのは理想と現実の狭間に生まれる焦燥から。そんなあなたを諫める父親に『父上には判らない』と顔を背けた。あなたにとって父親は理想の男、父上のようになりたいのでしょう? でもね……
あなたの父親はあなたを見捨てる。わたしには判る。あの人は父親ではなく、王として生きる。
あの人がバイガスラに与すると決めたのは国を守るため、民を守るため。あの人だって子どもへの愛情がないわけではない。だけど、それ以上に王としての責任に動かされる。
あなたがグランデジアを責めるのはただひたすら妹を取り返すため。もちろんあなたに国や民への気持ちがないとは思っていない。出陣を前にあなたが姿を晦ましたのは、兵たちを見て『妹のために死なせられない』と思ったからでしょう? だからこっそりフェルシナスに向かったのよね? そしてダズベルに行って、妹を返してくれと交渉するつもりだったのよね?
あなたの行動は確かに軽率だけど、軍を動かさなかったことについては、エネシクルよりあなたを支持したい。今回の件はバイガスラとグランデジアの問題と、バチルデアは動くべきではなかった。
戦は永遠に続きはしない。いずれは終わり、平和な日々が戻る。その日が来ればルリシアレヤにはまた会える。グランデジアが敗戦し、滅びることになったとしても、バチルデア王女であるルリシアレヤをバイガスラとて処分できない。バチルデアに返すしかない。
だけどバチルデアが参戦したらそうはいかない。バイガスラに味方すればグランデジアが勝った時、グランデジアに味方すればバイガスラが勝った時、ルリシアレヤは敵国の王女として、立場と行き場を失ってしまう。だからバチルデアは動いちゃいけなかった。
ねぇ、アイケンクス。グランデジアの捕虜になったと聞いたけど、今頃どうしているの? 捕らえられても殺されずにいる意味が判っている?
(そして、ルリシアレヤ……)
わたしの可愛い末娘、揺れるグランデジアでさぞや不安な思いをしていることでしょう。母はあなたがバチルデアに戻らないことを察していました。あなたは恋をしているのでしょう?
人の出会いとは不思議なものです。なぜあなたの恋の相手がリオネンデさまではないのかと、始めは嘆いたものでした。
リオネンデさまのお心はスイテアさまから離れなさそうです。と言うことは、相手がリオネンデさまではあなたは幸せになれない。あなたを幸せにしてくれるのはリオネンデさまではなかったのだと、今では思うようになりました。
ルリシアレヤ、どうして打ち明けてくれなかったの? あなたの味方をし、あなたの思いを遂げさせてあげたいと、好きな人と添わせてあげたいと、母は心底思っています。でもね、ルリシアレヤ、ごめんね。あなたの父親は、あなたが思いを寄せる人の国と戦うと決めてしまった。母にはもう何もしてあげられない。せめてもと思って書いた暗号、それをあなたは判ってくれた。だからグランデジア兵は苔むす森のダズベル側の出口でバチルデア兵を迎え撃てたのでしょう?
エネシクルはあなたへの手紙に『おまえが望むなら』と書いていた。裏を返せばそれは、望まないなら切り捨てると言うこと。わたしにはエネシクルがバイガスラに味方すると判った。だから帰国を促す手紙と一緒にあの手紙を送ったの。バチルデアがバイガスラに付くと密告すれば、あなたのグランデジア王宮での立場は敵国の王女と言うだけではなくなるわ。意中の人と一緒になれる目も出るかもしれない。あとはあなたと彼、二人で知恵を絞るのよ。
アイケンクスが捕虜になったのは誤算だったけれど、母はこれでいいと思っています。必ずアイケンクスは無事に帰ってくる。そう信じてる――
本読みたさに弟が伯父の館に行くと言った時、止めたりしなかった。いつでも一緒の弟と初めて離れ離れの夜を過ごす。不安を感じないわけではなかったが、いずれ別の道を歩き出さなければならない。一人は王となり、もう一人は王を支える臣下となる。これはきっと、その時のための練習だ。たった一晩くらい我慢できる。
ところが翌日も翌々日も弟は帰って来ない。
「なんでリオは帰って来ないの?」
「寂しいのね、リューズ」
縋ればいつも、母親は優しく微笑んでくれた。
「ママもリオが居なくて寂しいわ。それはきっとリオも同じよ」
「それじゃあなんで帰って来ないの? 僕より本のほうがリオは好きなの?」
「それは違うわよ、リューズ。リオはね、リオやママより、今は伯父さまに自分が必要だと感じたんだと思う。あの子はどう自分が必要とされているのかを感じ取れる子なのよ」
だから本を読んでいても、僕が退屈していると何かして遊ぼうって言ってくれるんだね、心の中で兄が納得している。
「ジョジシアス伯父さまは子どものころにお母さまを亡くして、ずっと寂しい思いをしてこられたの。きっと今でもその孤独は消えていないわ。リオはね、そんな伯父さまを、バイガスラにいる間だけでもお慰めしたいんじゃないかしら?」
「このままグランデジアに帰らないってことはないよね? 一緒に帰るよね?」
「当り前よ。リューズとリオは二人とも、わたしの大事な息子。それにグランデジアの大事な王子。置いて帰れるはずないわ――帰国の前日にはこちらに戻るってことだから、それまで我慢しましょうね」
「うん、そうだね。リオとはこの先もずっと一緒。今は伯父さまにリオを貸してあげるよ」
抱きついた母の身体は柔らかく、いい匂いがして心を落ち着かせてくれた。
ジョジシアス――俺の母と弟は、おまえにいったい何をした? そしておまえは二人にいったい何をしたんだ? 二人を凌辱し命を奪い、それでおまえは慰められたのか? リオネンデの瞳が怒りに燃える。
「そろそろ行くぞ」
リヒャンデルが立ち上がり、二人の部下がそれに続く。一息ついてサシーニャ、そしてスイテアも立ち上がり、リオネンデを見た。
「よし、行こう!」
勢い良くリオネンデが立ちあがった――
バイガスラ王宮ジョジシアスの居室でゴリューナガが苦笑する。
「開門できないと騒いでいるぞ」
鳩を使役し、その目を借りているゴリューナガ、行かせた先は国境、グランデジアとの戦況を見ている。
「開門できないとはどういう意味だ?」
ジョジシアスの問いに、
「閉門してる間に、グランデジアの魔法使いどもが封鎖術を使ったんだろうさ」
モフマルドが袖を引くのも気にせずに、ゴリューナガが直答する。
「ふぅん……テスレムの向こうにいるのはバチルデア軍だな。動く気配がない。なにしてるんだろう?」
「早くグランデジア軍に向かえと言ったらどうだ?」
「口を利く鳩なんざ聞いたことがない……いや、幻影術の中にそんなのもあったかもしれん」
「伝令鳥の使用法の一種に、ない事もない」
ボソリと言ったのはモフマルドだ。
「だが、使える魔術師はそれほどいない。かなり高度な魔法だ」
「つまり! おまえたち二人には無理、と言うことだな」
ジョジシアスが嘲笑する。モフマルドは悔しげな顔をしたが、ゴリューナガはジョジシアスとモフマルドを見比べてニヤニヤしている。
「何が可笑しい!?」
見咎めたモフマルドがイライラと怒鳴る。
「いいや、本陣にグレリアウスがいる。以前と変わらず綺麗な顔で済ましてやがる」
「ヤツとも知り合いなのか?」
「俺はサシーニャが筆頭になってから四年近くは塔にいた。そのころ居た魔術師なら全員知っているさ――しかしサシーニャはグレリアウスみたいなのは嫌うと思ったがな」
「ここに来るときはいつも一緒だが、仲が悪くは見えなかったぞ?」
「グレリアウスが巧くサシーニャに取り入ったんだろうさ。 ヤツの得意は陽動や誘導だ。要は人誑し。ゴルドントじゃ、ヤツの術にかかった民人が、自国の兵を罠に誘き寄せて何人も殺した。命令となれば躊躇わずに非情なこともする。それがグレリアウスだ」
そんな非情さがサシーニャとは合わないと思ったんだがなぁ、と呟くゴリューナガを、顔色を変えたジョジシアスが見る。
「おまえ……それはニュダンガのシシリーズの仕業だったのでは?」
「シシリーズがしたのはゴルドント戦が終わってからの民人の虐殺だ。それだってニュダンガに潜り込ませたサシーニャの間者がシシリーズに術を掛けてやらせたことだと俺は思ってる。シシリーズは魔法でやらせれているとも知らずに、臣下に虐殺を命じたんだろうさ」
「それは本当なのか?」
「方法は任せるからシシリーズを陥れろと、サシーニャが部下に命じるのを俺は見たぞ」
「うむ……どうやらサシーニャと言う男は策謀が好きなようだな。やはり今回の金貨消失も倉庫の火事もサシーニャの仕業で正解のようだ」
呻くジョジシアスに『やっと判ったか』とモフマルドが呆れた。
バチルデア王宮ではエネシクル王が己の居室で悩んでいた。国境まで進めた自軍をどうするか、未だに決めかねている。王妃ララミリュースは不調を訴え、寝室から出てこない。
バイガスラの防壁はバチルデアとグランデジアの国境にも続き、バチルデアとプリラエダを隔てる山脈に到達する。そしてバイガスラとバチルデアの国境には、防壁も緩衝地帯もない。人の背よりは少し高い程度の柵が国境を示しているだけだ。その柵を超えてバチルデア軍はバイガスラ軍と合流するつもりだった。
エネシクルとて我が子が可愛い。たとえ王の器でないとしてもアイケンクスを失いたくはない。バイガスラとともにグランデジアと敵対すれば、捕らえられたアイケンクスはどうなるだろう?
無事に取り返したいのなら、味方すると見せかけ国境を越えたらバイガスラ軍を襲撃すればいい。それでバチルデアはグランデジアの味方、アイケンクスは捕虜でなくなる。そのうえ、フェニカリデに残ったルリシアレヤの安全も見込める――だが、もし失敗したら? グランデジアが敗戦、もしくはバイガスラが標的をバチルデアに変更したら?
寝返りが失敗に終わればバチルデアは王子だけでなく、国をも失いかねない。だから決められずにいる。国を取るか我が子を取るか?
扉ひとつ向こうの寝室ではララミリュースが、窓辺に置いた椅子に腰かけ庭を眺めていた。この庭で幼い子どもたちを遊ばせた。蘇る思い出が胸を締め付ける。
(アイケンクス……)
兄だからと、弟妹たちを気遣っていた。兄だからと自分は我慢していた。だけど本当はやせ我慢、それが判っていたから時どきあの子だけ、兄だから、いずれ国王になる子だからと特別扱いしてしまった。それすら分けられる物は弟妹たちにも分け与え、分けられないものの時は済まなそうに小さな声で『ごめんね』と謝っていた。
癇癪を起すのは理想と現実の狭間に生まれる焦燥から。そんなあなたを諫める父親に『父上には判らない』と顔を背けた。あなたにとって父親は理想の男、父上のようになりたいのでしょう? でもね……
あなたの父親はあなたを見捨てる。わたしには判る。あの人は父親ではなく、王として生きる。
あの人がバイガスラに与すると決めたのは国を守るため、民を守るため。あの人だって子どもへの愛情がないわけではない。だけど、それ以上に王としての責任に動かされる。
あなたがグランデジアを責めるのはただひたすら妹を取り返すため。もちろんあなたに国や民への気持ちがないとは思っていない。出陣を前にあなたが姿を晦ましたのは、兵たちを見て『妹のために死なせられない』と思ったからでしょう? だからこっそりフェルシナスに向かったのよね? そしてダズベルに行って、妹を返してくれと交渉するつもりだったのよね?
あなたの行動は確かに軽率だけど、軍を動かさなかったことについては、エネシクルよりあなたを支持したい。今回の件はバイガスラとグランデジアの問題と、バチルデアは動くべきではなかった。
戦は永遠に続きはしない。いずれは終わり、平和な日々が戻る。その日が来ればルリシアレヤにはまた会える。グランデジアが敗戦し、滅びることになったとしても、バチルデア王女であるルリシアレヤをバイガスラとて処分できない。バチルデアに返すしかない。
だけどバチルデアが参戦したらそうはいかない。バイガスラに味方すればグランデジアが勝った時、グランデジアに味方すればバイガスラが勝った時、ルリシアレヤは敵国の王女として、立場と行き場を失ってしまう。だからバチルデアは動いちゃいけなかった。
ねぇ、アイケンクス。グランデジアの捕虜になったと聞いたけど、今頃どうしているの? 捕らえられても殺されずにいる意味が判っている?
(そして、ルリシアレヤ……)
わたしの可愛い末娘、揺れるグランデジアでさぞや不安な思いをしていることでしょう。母はあなたがバチルデアに戻らないことを察していました。あなたは恋をしているのでしょう?
人の出会いとは不思議なものです。なぜあなたの恋の相手がリオネンデさまではないのかと、始めは嘆いたものでした。
リオネンデさまのお心はスイテアさまから離れなさそうです。と言うことは、相手がリオネンデさまではあなたは幸せになれない。あなたを幸せにしてくれるのはリオネンデさまではなかったのだと、今では思うようになりました。
ルリシアレヤ、どうして打ち明けてくれなかったの? あなたの味方をし、あなたの思いを遂げさせてあげたいと、好きな人と添わせてあげたいと、母は心底思っています。でもね、ルリシアレヤ、ごめんね。あなたの父親は、あなたが思いを寄せる人の国と戦うと決めてしまった。母にはもう何もしてあげられない。せめてもと思って書いた暗号、それをあなたは判ってくれた。だからグランデジア兵は苔むす森のダズベル側の出口でバチルデア兵を迎え撃てたのでしょう?
エネシクルはあなたへの手紙に『おまえが望むなら』と書いていた。裏を返せばそれは、望まないなら切り捨てると言うこと。わたしにはエネシクルがバイガスラに味方すると判った。だから帰国を促す手紙と一緒にあの手紙を送ったの。バチルデアがバイガスラに付くと密告すれば、あなたのグランデジア王宮での立場は敵国の王女と言うだけではなくなるわ。意中の人と一緒になれる目も出るかもしれない。あとはあなたと彼、二人で知恵を絞るのよ。
アイケンクスが捕虜になったのは誤算だったけれど、母はこれでいいと思っています。必ずアイケンクスは無事に帰ってくる。そう信じてる――
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