残虐王は 死神さえも 凌辱す

寄賀あける

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第7章 報復の目的

本音と 言い訳

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 一口茶をすすってから、マジェルダーナがつぶやいた。
「しかし不思議な事ですな……」
グランデジア王宮、閣議の場王の執務室だ。リューデントの指示で休憩に入っている。
「なぜ鳳凰ほうおうはリオネンデさまをお連れになり、八年も前に亡くなられたリューデントさまをお戻しになったのでしょう?」

 聞き流すサシーニャ、ジャルスジャズナが、
「鳳凰の御業みわざに異を唱えますか?」
聞きとがめる。双子の王子の入れ替わりをジャルスジャズナは知らない。本心からの言葉だ。

「まさか! そんなつもりは毛頭ございません。ただ、不思議に思ったことをそう申しただけ」
マジェルダーナが苦笑する。
「しかもこの八年、リューデントさまはリオネンデさまと意識を共有なさっておいでだとか。これを不思議と言わずして、なんと言えばいいものか?」
「ですがマジェルダーナさま……」
ジャルスジャズナをかばうようにサシーニャが口を挟む。

「そのおかげで、リューデントさまはリオネンデ王の政策を寸分たがわず継承出来ます。これはグランデジアにとって意味のあることだと思いますよ」
「ふむ。サシーニャさまのおっしゃる通り、代替だいがわわりしても実質なにも変わらない。王の呼び名が変わっただけと言ってもいい」
含みのあるマジェルダーナの言葉にサシーニャが考える。何か勘付かれるようなことを言ったか? それともマジェルダーナは受けた印象を口にしているだけなのか?

 サシーニャが返答する前にマジェルダーナが苦笑いを見せた。
「リューデントさまを否定しようなどとは思っておりません――ただ、暫くはリューデントさまをリオネンデ王と混同しそうではありますな」
「それは仕方あるまい?」
ニヤリとリューデントが笑う。
「昔から俺とリオネンデを見分けられたのは母上とサシーニャだけだ。しかも母上は間違えることも多かった」
「そうでしたなぁ……」
と、マジェルダーナも懐かし気な眼差しになる。

 その様子に、マジェルダーナは何かを疑っているわけではないのだと判断し、ホッとしたサシーニャだ。が、すぐに注意を王館の出入り口に向けた。塔から駆けてくる魔術師の気配にはとっくに気が付いていた。バチルデアの返答が来たか? チュジャンエラも気配を感知したのだろう。閣議場の出入り口に目をやると、走り寄る魔術師を迎えるべく、ゆっくりと立ち上がった――

 魔術師の塔では、軟禁されているバチルデア国王太子アイケンクスが物思いにふけっていた。先ほど面会したサシーニャとの話を反芻はんすうし、課せられた使命に震撼する。果たして自分に成せるだろうか?

 サシーニャと名乗った男は噂通りの黄金の髪、色の薄い肌、青くきらめく瞳、その姿に驚きはしたものの、アイケンクスが身構えたのは何を言われるのだろうと緊張したからだ。そんなアイケンクスの様子にサシーニャはふと目を伏せ、寂しげに小さく溜息を吐いた。

 思わずアイケンクスが言い訳をする。きっとこの男は初見の誰もが同じ反応をし、自分が他とは違う姿だといつも思い知らされている。今の溜息はだから出たものだ。自分ではどうすることもできない生まれつきへの諦めだ。だが、容姿を悲観させるのは気の毒だし、自分がそんな事で蔑視する人物だとは思われたくない。

「あなたの姿に驚いたことを否定はしません。が、身構えたのは、何を言われるのだろうと、その……恐怖を感じたからです」
サシーニャが小首をかしげ、アイケンクスを見る。

「わたしがあなたを怖がらせるようなことを言いに来たと?」
「わたしは貴国領ダズベルに無許可で侵入した。しかも武力行使している。断罪されるのでしょう?」
サシーニャが笑みを漏らす。が、あざけりは感じられない。むしろ温かく包み込むような眼差しだ。
「ご安心ください。そんなことにはなりません。無事、バチルデアにお返しいたします――少しお話が聞きたいと思ってまいりました」

 連れの若い男に茶の支度を頼んで長椅子に腰を降ろし、対面に座るようアイケンクスに促す。若い男はすぐに水屋へ向かった。

「アイケンクスさま、あなたはバイガスラに向かう援軍の総司令を任じられていたと聞いております」
アイケンクスが腰を降ろすと、サシーニャがすぐに切り出した。

 アイケンクス? 捕虜の自分に『さま』をつけて呼ぶこの男は筆頭魔術師、確か筆頭魔術師は王に次ぐ身分のはずだ。捕虜の自分をなぜくださない? 無事に返すと聞いても半信半疑だった。しかしこの扱い、信じてもよいのか? いいや、むしろ信用できない? アイケンクスの心が揺れる。

「なぜバイガスラではなく、フェルシナスに行かれたのです?」
サシーニャの声にとげはなく、咎め立てているわけではないのがよく判る。『朝食には何を食べましたか?』と訊かれている気分だ。づいたのだと、情けないことを言っても許されそうな気がした。そんな時もありますよねと、なら判ってくれるんじゃないか?

 それでもやはり照れはある。自嘲気味に
「怖じ気づいたんです――怖くなった。たかが一万の兵を目にして」
と答えれば、
「たかが一万……」
サシーニャが呟く。

「あ、いや……、です。一万ものいのちを預かる重責に怖じ気づきました。兵たちの後ろにはそれぞれの家族がいて、この者たちに何かあれば嘆き悲しみ、明日からの生活に困る者も多かろう。それなのに自分は安全な後方から出ないはず。そう思ったら戦場いくさばに連れていけなくなった。治世者とはなんて勝手なんだ――それが恐ろしくて動けなくなってしまった」

 慌てて言い変え、説明するアイケンクスを、サシーニャはやはり穏やかな眼差しで見ている。そして、
「治世者とは勝手……耳の痛い言葉ですね」
と苦笑する。

「それで? バイガスラに赴かなかった理由は判りました。で、なぜフェルシナスに向かったのですか?」
「それは……妹の身が案じられて。わたしがいないと判れば誰か別の者が軍を率いてバイガスラに行くだろう。だからその前に、妹を取り返そうと思った」
「なるほど。でもすでに苔むす森から侵攻は始まっていた。そんなところですか?」
「そ、そうなんだ。わたしの決断は遅すぎた。いや、その前に、苔むす森から攻め込むなんて間違っていると気づけなかった。妹を取り戻したい、それだけで貴国との戦に賛成した。愚かだったと後悔している。軍ではなく使者を、本人がなんと言おうが返して欲しいと使者を向かわせるべきだった」

 吐き出すようにそう言うといきなり動いたアイケンクス、椅子から降りてサシーニャの前に這いつくばる。
「お願いだ。わたしはどんな罰を受けようと構わない――妹を、ルリシアレヤを返してくれ。いや、返してください」

 茶を運んできた若い男が手にした盆を慌ててテーブルに置き、アイケンクスを起こそうとする。
「そのようなことをされてはいけません。あなたは一国の王太子なのですよ――筆頭も困っています」
抱き起されるように座らされ、見るともなしにサシーニャを見ると茶差しポットを手にして椀に注いでいた。
「サシーニャさま! 僕がやりますから!」
若い男がまたも慌てる。

「これくらいわたしにだってできますよ?」
「こないだ火傷したじゃないですか! 変なところで不器用なんだから、余計なことはしないでください」
「火傷したってすぐに治せるし……チュジャンは心配し過ぎです」
苦笑するサシーニャが茶差しポットを盆に戻せば、若い男が茶を注ぎ、椀をそれぞれの前に置く。そして当たり前のようにサシーニャの隣に腰を降ろした。

 戸惑うのはアイケンクスだ。
「あの……サシーニャさまは確か筆頭魔術師で、王子のご身分もお持ち、つまりグランデジアでは王に次ぐおかたと聞いているのですが?」
「あぁ、そうですね、肩書はそうなっています」
「それが、その……お茶を淹れてくださったのは? 随分と気安い口を、いや、親しげにお話しなさっていらっしゃいますが?」
本音では、チュジャンと呼ばれた男を無礼だと感じていた。

 チラリとチュジャンエラを見てから椀に手を伸ばし、アイケンクスにも勧めながらサシーニャが言う。
「こちらは次席魔術師のチュジャンエラです。すでにお目にかかっていると聞いていたのでご紹介が遅れました」
「リオネンデ王かサシーニャさまに会いたいと仰るので、今は無理だとご説明差し上げました」
と横でチュジャンエラが補足する。

「次席? 随分お若いのでは?」
「よく言われます。まだ成人もしていないのでは、ってね」
自分も椀に手を伸ばし、チュジャンエラがむくれる。
「これでも二十一です」

 ほう、と隣でサシーニャが少し驚く。
「おまえとの付き合いも、もう十年経つのだね。どうりて図々しくもなる」
クスリと笑うサシーニャに、さらに戸惑うアイケンクス、
「あの、お二人はどういう?」
仲の良さから愛人関係を疑ったアイケンクスだ。

「関係を訊かれれば、チュジャンエラはわたしの部下で弟子となります――通常、弟子が師匠の身の回りの世話をする義務はないのですが、人一倍世話を焼くのが好きなようで、わたしの生活の管理をしてくれています」
「別に世話好きってわけじゃありません。サシーニャさまは自分のことをすぐ後回しにするし、ほっとけば食事もしないし寝もしない。放っておけませんよ」
「私生活の世話?」
「えぇ……でも、もうすぐ結婚するのでわたしのことに構っていられなくなるんじゃないのかな?」
「結婚って、サシーニャさまが?」
「いえ、チュジャンエラです――ですよね、チュジャン?」
「そのつもりですが……彼女の身の振り方も決まっていないし、父は相変わらず頑固だし――いざとなったらサシーニャさま、味方してくれますよね?」
もちろんです、ニッコリとチュジャンエラに向かうサシーニャ、アイケンクスが愛人と思ったのは勘違いだと納得する。
「サシーニャさまはお一人だと聞いております。妻帯する気はないのだとか?」
「まぁ……世間話はこれくらいで本題に移りたいのですが、よろしいでしょうか?」

 はぐらかしたサシーニャに、訊いてはいけないことを訊いたのだとアイケンクスが思う。周囲とは明らかに違う体色に、妻のなり手がいないのだと推測していた。

 そして聞かされたバチルデア国との講和の条件……
「アイケンクスさまには即位していただきたいと思っております――兵たちを見てその生活を思える王なら、グランデジア国も安心して手を携えられます。いくさのない世を共に目指しましょう」

 自分に王が勤まるのか? 軍を率いることさえできなかった自分に?……アイケンクスは不安に震えていた。
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