残虐王は 死神さえも 凌辱す

寄賀あける

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第7章 報復の目的

心優しい愚か者

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 ジャルスジャズナが何か言いかけたが、サシーニャがそれを止めている。チュジャンエラが尋問を続けた。

「オジさん、領主さまが斬首されるところを見ちゃったんだ?」
「ご領主さまは俺が魔術師の塔にはいるって聞いてすごく喜んで、立派な魔術師になって帰って来いって言ってくれたんだ。そんなご領主さまが殺されるところに居られるもんか」

「そっか、そりゃそうだよね……でもさ、反乱を起こしたむくいを受けさせるのは、どこの国王もそうなんじゃないの?」
「……まだ子どもの王子に立ち会わせたんだぞ? それをリオネンデは平然と見てたって言うじゃないか。リューデントさまは戦場いくさばの残酷さにご気分を害されて、天幕に引っ込んでしまったらしい。リューデントさまが国王になればグランデジアは救われると思った」

「ふぅん……それで黙って戦場いくさばから逃げ――戦場いくさばを離れたんだね?」
「それだけじゃないんだ……クラウカスナは領主さまのご家族にさえ容赦なかった。そうだ、筆頭魔術師やワズナリテもそうだった。全員殺すか下級兵士に下げ渡せって言った。殺されなくても下げ渡されれば散々弄ばれたうえ、最後には殺されるのが落ちだ。クラウカスナは下げ渡しを選んだ。せめて家族は、幼い子は助けてくれって泣き叫ぶご領主の声が今も耳を離れない」

 この時はスイテアが思わずノリガゼッツに近寄ろうとして、やはりサシーニャに止められている。もの言いたげなスイテアに、サシーニャは首を振った。

「オジさんは、領主の家族が下げ渡されるのを見たんだ?」
「いいや、だが、めいじるクラウカスナの声を聞いた――キミも早く王宮から離れたほうがいい。成人してもここで職を持とうなんて考えるな。親元に帰れないわけじゃないだろう?」

 今度もノリガゼッツの質問は無視される。
「でさ、魔術師の塔から離脱して、そのあとはどうしてた?」
「ゴルドントに逃れた。ピカンテア出身の俺が戦場からいなくなれば、内通を疑われると思ったんだ。だけど……」
「だけど?」

「なぁ、おまえ。戦場いくさばになんか行くんじゃない。毎晩イヤな夢を見る。戦場いくさばの夢だ。それに加えて俺は……クラウカスナに捕らえられ双子の王子の目の前で首を落とされる夢を見るようになったんだ」
「うーーん……」

「夢でなくても! 見つかれば処刑される。このままではダメだと思った。だから、だから俺は……」
「何かしたんだ?」
「クラウカスナを殺そうと思った」

 サシーニャとジャルスジャズナの緊張が伝わってきて、却ってチュジャンエラを冷静にさせる。
「それでどうしたの?」
「俺は……庭の抜け道を通ってグランデジアの王宮に忍び込み、まずは魔術師の塔へ行った。魔法を使えば気付かれる。だから催眠術で扉番を騙し、始祖の王の部屋に火薬を仕掛けた」

「……それから?」
「火薬への着火は扉番にさせることにしていた。催眠術のせいだと知らず、なんのめらいもなく火を放つだろう……それから塔を出て王館に行った。給仕係にも催眠術を掛け、クラウカスナの食事に毒を入れさせた」

「それは成功したんだ?」
「なにがあったかは知らないが、クラウカスナが部屋に一人きりになった。中を見たらクラウカスナは口から血を吹いていた。毒を食らったのは間違いない。俺が見た時は目前に死が迫っていた。これであとは魔術師の塔の爆発を待って、そのどさくさで王宮から出ればいいと思った」

「つまり、クラウカスナさまを殺したのはオジさんだってことだね?」
「うん、間違いない。でも、魔術師の塔があんなことになるなんて。火薬の量を間違えたんだ」
「火薬の量ね……で、それから?」
ジャルスジャズナの様子が知りたい、そんな衝動を抑えたチュジャンエラだ。

「これで悪夢から解放され、リューデントさまが国王になる、そう信じたのに違っていた。リューデントさまではなくリオネンデが王位を継いだ。リオネンデは両親と王太子であるリューデントさまを殺して王位を手に入れたって噂を耳にした。国王の死を知って、母親と兄を殺したのだと思った。恐ろしいことになった、もう二度とグランデジアには関わるまい――俺はゴルドントではなくコッギエサに渡った。ゴルドントはグランデジアと小競り合いが続いている。いつか見つかるかもしれない。コッギエサでは運良く王宮に職を得た。下っ端の文官だったがそれでいいと思った。もう魔法を使う気もなかった。静かに暮らしたかっただけなんだ……それなのに! リオネンデは俺を見逃してくれなかった」

「コッギエサで何があったんだい?」
「ジッダセサンが何度も来た。リオネンデに命じられて俺を探しに来たんだ。表向きは講和条約の締結、あぁ、それもあったかもしれない。でも、講和が成れば同時に俺の引き渡しを要求してくると思った。だから……だからジッダセサンには虫を飲んで貰った」

「虫?」
「グランデジアの魔術師の塔を出るとき持って出たものだ。俺が持っていた最後の虫だった。体内に入れば徐々に体を蝕んで、最後には頭に入り込みいのちを奪う、そんな虫だ――小さな虫だ。いくら催眠術を掛けたとしても給仕係にやらせて間違いがあっちゃいけない。この時、給仕係に掛けた催眠術は俺を給仕係の一人と誤認させるものだった。給仕係に化けた俺がこっそりジッダセサンの皿に放り込んだ虫を、ジッダセサンは何も知らずに口に入れた。これで一年も待てばジッダセサンはこの世を去る。でも、それより早く捕えられれば終りだ。だからコッギエサを出た」

「今度はどこに?」
「プリラエダだ。でもプリラエダではダメだった。ニュダンガが制圧され、追手が迫っていると知った俺は逃げているだけではいずれ捕まると悟った」
「それで?」

「バチルデアの王宮を動かしてグランデジアを亡ぼして貰おうと思った。追ってくる者がいなくなれば、今度こそ安息が訪れる……名をノンザッテスと変え、魔法が使えると言って王太子に取り入った。バチルデアからグランデジアに攻め込むには苔むす森を使うのが一番だ。森の向こう、ダズベルの警護の手薄さを俺は知っていた――アイケンクスを言いくるめてフェルシナスに砦を作らせ、これからどうしようかと思っていたところでバイガスラがグランデジアといくさを始めると聞いた。これでグランデジアは滅びる。そう思った」
「なるほど、それでダズベルにアイケンクスと一緒に来て捕まっちゃったんだね」
溜息交じりのチュジャンエラだ。ノリガゼッツの話にうんざりしている。

 ノリガゼッツはそんなチュジャンエラが自分に同情してくれているとでも思ったのだろうか、
「お願いだ、なんとかいのちだけは……キミからリオネンデとサシーニャに頼んでくれないか?」
と、チュジャンエラにすがりつく。

 その手を払いのけて立ち上がったチュジャンエラ、
「リオネンデ王は身罷みまかられた」
と告げるとノリガゼッツから離れてサシーニャに向かう。
「えっ……?」
茫然とするノリガゼッツ、ダズベルで捕虜になってからは何の情報も与えられていない。あれほど恐れたリオネンデの落命をどう受け止めているのだろう?

 チュジャンエラがサシーニャに囁くように言った。
「どうします? どうせなら一思ひとおもいに?」
思い込みだけで人を殺めたノリガゼッツに呆れ果て、怒りを感じているチュジャンエラだ。

 そんなチュジャンエラをチラリと見ただけのサシーニャ、ジャルスジャズナに向き直る。
「ジャジャはどうしたい?」
「サシーニャ……」

 自分を見詰めるサシーニャとチュジャンエラの視線に、うつむいたジャルスジャズナが声を絞り出す。
「殺してやりたい。でも殺すわけにはいかない……それを決めるのはわたしじゃない」
「それでいいのですね? ノリガゼッツの処分には関わらないというのですね?」
「あぁ、そうだよ。それでいい」
ジャルスジャズナの頬を流れる一筋の涙、それを見なかったことにしてサシーニャが告げる。

「では、今ここでノリガゼッツから聞いた話はお忘れください」
「忘れる?」
驚きを隠せないジャルスジャズナをサシーニャが静かにさとす。

「ジャジャは自ら復讐の機会を放棄しました。それがジャジャの出した答えなのでしょう――後悔に苦しんで欲しくありません。そのためには忘れるのが一番です」
「サシーニャ……」

 サシーニャを見詰めてジャルスジャズナが泣きながら微笑む。
「そうか、サシーニャ。サシーニャも答えを見つけたんだね?」
それにサシーニャが答えることはなかった。

 どちらにしても、とサシーニャが今度はチュジャンエラに向かう。
「リューデント王にご判断いただくしかありません」
「ニャーシスにこの話は?」
「しません――彼は父親の死は肺の病によるものと信じています。わざわざ心を乱す必要を感じません。苦しみが増すだけです」

 ノリガゼッツをチラリと見てからサシーニャが
「引き揚げますよ」
と部屋を出ようとする。そのサシーニャを引き留めたのはスイテアだ。

「あの……少しノリガゼッツと話をしても?」
「構いませんが、何をお話になるのです?」
「差し出がましいのは判っています。でも、思い違いしているとノリガゼッツに教えてあげたいのです。わたしが話せるのはピカンテアでの出来事だけですけど」

 するとジャルスジャズナが憎々しげに、
「ノリガゼッツはね、昔から思い込みが激しいというか、妄想癖があったんだ……すぐ早とちりするし、話しの上辺うわべだけ聞いて、悪く解釈する。それでうちの親父おやじが上級にするか一等にしておくか迷ったくらいだ」
と言った。

「ピカンテアにだって本当は行かせたくなかったんだよ。なのにアイツ、どうしても行きたいって。大事な故郷だから早く騒ぎを鎮静化したいって……親父ったら情にほだされちゃって、臨戦を許したんだよね」
「わたしたちには自分で作った物語を聞かせてくれてたりしたわ。明るくて楽しいお話ばかりだったのに……」
「そりゃあ、小さな子に暗い話は聞かせないだろうさ」

 ジャルスジャズナはスイテアから顔を背ける。ノリガゼッツが優しいとは認めたくない。でも、すぐハッとしたようにサシーニャを見た。
「いや、サシーニャ。さっきの、忘れるってのを忘れたわけじゃないからね!」
「判ってますよ」

 ジャルスジャズナに静かに微笑んだ後、サシーニャは視線をチュジャンエラに移し、頷いた。頷き返したチュジャンエラが、ノリガゼッツの前にスイテアを先導する。

久方ひさかたぶりです、ノリガゼッツ」
ゆったりとした口調で話しかけるスイテア、ぽかんとスイテアを見上げるノリガゼッツ、そして
「スイテア?」
と探るように訊いた。

「生きていたのか?」
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