俺たちに明日はある。〜ゾンビ化彼氏を愛するための間違えられない選択肢〜

かの

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第1章 キスする? キスしない?

1-2 チャーハン

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 ベッドの上に並んで腰掛けお互いの事を色々話した。ゾンビに噛まれた事を少しの間でも忘れさせたかったし忘れたかった。それに今日で三回目のデートだったとは言ってもお互いが知り得た情報はアプリ上のものだけ。まだカナタの苗字すら知らなかった。

「……俺は印西いんざい奏汰かなた。二十一歳で国分寺住みの大学生三年。実家は瀬戸内海の島なんだ。島には両親と妹がいる」

 家族構成まで教えてくれたカナタ。こんな話をしている間は変色したカナタの脹ら脛も気にはならない。

「……腹減ってないか?」

 時計を見ると夜の八時を回っていた。

「本当だ。もうこんな時間だったんだね」
「チャーハンくらいしか作れないけど。何か作るよ」

 そう言いながら冷蔵庫の中を思い浮かべていた。ラーメンに使ったチャーシューの残りはある。卵もある。ご飯は冷凍しておいた物がある。1DKの狭いキッチンに立って冷蔵庫を開ける。ワカメがあるからこれでスープを作ろう。

「……リュウキ君。何か手伝おうか?」
「大丈夫。簡単に作るから。カナタは座って待っていて」

 初めての事に喜びが前に出てきた。友達と家族以外でこの部屋に来たのはカナタが初めてだ。それに誰かのために料理するなんて——例えそれが簡単なチャーハンであったとしてめ初めての経験に何だか嬉しくなる。

「……お待たせ。出来たよ」

 チャーハンとワカメスープを小さなテーブルに並べる。カナタがベッドから床に尻を落としてテーブルに着く。

「まさかリュウキ君の手料理が食べられるなんて思ってもみなかった」
「手料理って言ってもチャーハンだけどな」
「チャーハンでも手料理に変わりないよ。……ねぇ、食べていい?」
「もちろん」
「いただきます」

 カナタがチャーハンをすくったスプーンを口に運ぶ。「美味しい」と、顔を綻ばせる。ただただ幸せな時間だ。カナタの脹ら脛もゾンビの事も忘れていられる時間。……だったのにカナタの目から静かに涙が落ちた。

「おい。大丈夫か?」
「……ごめん。ゾンビに噛まれたけどチャーハンは美味しいって。俺まだ人間なんだよね。って、人間でいていいんだよねって考えたら、何か涙が流れてきた」

 向かい合うカナタの頬を親指の腹で拭う。

「何言ってんだよ。カナタは人間だし。この先ずっと人間のままだから」

 口を突いた言葉に自信は持てない。だけどそれは望むだけじゃなく現実にしたいと願う気持ちの表れだ。

「うん。ありがとう」

 再びチャーハンを口に運び始めたカナタを眺める。……だけどそんな時間を破るようにスマホが緊急速報の警告音を鳴らし始めた。それはカナタのスマホも同じで警告音を二つのスマホが鳴らし続けている。
 カナタと同時。スマホをタップすると。【新種のウィルス都内での感染者百万人超え】の見出しが目に飛び込んできた。

「……百万人って。今朝は十万人だったのに」

 カナタも同じ速報を見ているようだった。

「テレビ付けるよ」

 リモコンを手にしてテレビを付ける。画面に映される光景。チャンネルを回しても変わらない光景に思わず声が漏れる。

「……嘘だろ」

 ゾンビらしき顔の青い人間が画面いっぱいにうごめいている。ドローンでの撮影なのかゆっくり画面が引いていく。見覚えのあるその場所は渋谷のスクランブル交差点だ。ゾンビと逃げ惑う人達。画面が変わる。変わっても映されるものは蠢くゾンビと逃げ惑う人間の姿であって変わりない。ただ見覚えのある赤レンガが東京駅である事を教える。
 続けて画面が上野、池袋、新宿へと変わる。だけど映されるものは青い顔のゾンビと逃げ惑う人達の姿だ。

「こんなになっていたんだ」

 あまりにも異様な光景だからかカナタの指先からスプーンが滑り落ちた。固まるカナタはスプーンが落ちた事にも気付いていない。
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