21 / 31
21 平成十三年 小林先生
しおりを挟む
今年の海の日は金曜日に当るからと、終業式が行われたのは木曜日だった。午前中だけの登校で一学期が終わり、夏休みに向け、両腕を上げると、小林先生に肩をぽんと叩かれた。
「この後、職員室に来なさい」
一瞬ピクっと体が反応したけど、小林先生は同じようにヨッシーとタカちゃんの肩を叩いていた。
「何の用かな? 俺何も悪い事していないし」
「俺も何もしていないよ。通知表だってそんな悪くなかったし」
ハルの言葉を受けて、ヨッシーが答えていた。
「ハルとヨッシーとナッチも呼ばれたんだ」
タカちゃんの顔は何故か少し歪んでいた。面倒臭そうな顔とも少し違う表情。
教室を最初に出たのはハルだった。そのハルにヨッシーとタカちゃんが続く。ナッチは三人に続いて一番最後に教室を出た。
職員室の扉を誰が開けるかで揉めていると、小林先生が廊下へ出てきてくれた。四人にとって職員室の窓は高く、中を見る事は出来ない。だけど小林先生にとっての窓は低いようで、四つ並んだ頭が見えたようだ。
「晴人と夏樹の母さん忙しいのか? 何回か連絡したんだけど、一学期の面談にまだ来てくれていないんだよ。もし忙しいなら、それはそれで仕方ないから、代わりにお前たち二人とちゃんと話をしないとな」
「すみません」
ハルとナッチが同時に口を開いた。
「謝らなくていいよ。ただ保護者面談で皆と色々話をしているから、二人からも話を聞かないといけないだろ。次の日曜日に先生の所に来れるか? もし用事がなければ、次の日曜に先生の家で話を聞くよ」
「用事はないです」
ハルとナッチがまた同時に口を開いた。その隣でヨッシーが退屈そうにしている。まだ自分が呼ばれた理由が分からないヨッシーにとっては当然の事だ。そのヨッシーの隣でタカちゃんは何故か顔を歪めている。
「それと……新しいデジタルビデオカメラ買ったんだ。お前たち前に質問していただろ? 普通のビデオカメラとデジタルビデオカメラがどう違うのかって。貴久と由之も日曜日に先生の家に来るか?」
「えっ? デジタルビデオカメラ? えっ? はい、行きます!」
さっきまで退屈そうにしていたはずのヨッシーが威勢のいい返事する。タカちゃんは相変わらず顔を歪めたまま何も言わない。
「じゃあ、十一時でいいか? 昼飯は食わせてやるから。これ地図と住所だ」
差し出されたメモを受け取ったのはハルだった。夏休みと言っても特に予定のないナッチにとって、先生との約束は楽しみの一つになった。
「……ねえ、ハルの母さんは何で面談に来れないの?」
ナッチの質問は自分の家庭環境と比べてのものだった。母子家庭で育った自分とは違う家庭環境。
「今、病気で入院しているんだ。一か月くらいかな。父さんは仕事忙しいから面談なんて来られないし」
「ええ、じゃあ誰がご飯作っているの?」
「田舎からばあちゃんが来て、ご飯作ってくれているよ。母さんが作るご飯より美味しいし。ナッチの母さんは夜働いているんだよな?」
「うん」
ナッチは小さな声で答えた。母子家庭を恥ずかしいと思った事はないけど、大きな声で自慢できない事は知っている。
「それより、日曜日どうする? 先生のメモ見せてよ」
ヨッシーがハルの手からメモを奪い取る。
「駅の反対側だな。北口って書いてある。そうしたら日曜日、阿佐ヶ谷の駅に十一時集合でいい?」
目的がはっきりしたヨッシーが場を仕切る。デジタルビデオカメラがどんな物か想像できなかったが、ヨッシーの態度を簡単に変えるほど、凄い物なんだとナッチは感心していた。
いつもならこんな時に仕切るのは間違いなくハルだ。そんなハルの手からメモを奪い取って、仕切り出したヨッシー。だけどメモを奪い取られたハルは何も気にしていない様子だった。
日曜日の朝、ナッチは食パンを焼いて一人で食べていた。仕事が終わって寝ている母さんを起こさないように、音を立てないよう注意を払う。
八時になる少し前。食パンにマーガリンを塗って、コップに牛乳を注いでテレビの前に座った。アギトが始まる前にイヤフォンをしないといけない。アギトが特別好きな訳じゃないけど、月曜日の学校で、友達と話を合わせるためには、毎週欠かさず観る必要があった。それに日曜日だからと言って、どこかへ連れ出してくれる人もいなかった。仕事で疲れて夕方まで寝ている母さんに、何かを強請るなんて考えはナッチの頭の中にはない。
アギトが終わって、カーテンをそっと開けると、雨が降っていた。出掛ける予定があるのに何か嫌だな。窓の外の雨を眺めて、十一時が近くなるのを待っていたけど、音を立てずにじっとしている事が退屈になってきた。
家から駅までは歩いて十分も掛からない。本当は約束の十分前に家を出れば充分だけど、じっとしている事が、退屈を通り越して苦痛になってきていた。まだ早過ぎる事は分かっていた。だけど時計の針が十時を差したのと同時。ナッチは家を出た。
腕時計なんて持っていないから、今の時間は分からない。北口の屋根の下、滴を払って、丁寧に傘を畳む。駅に着いて何分か経ってはいたけど、三人がくる様子はない。家にいても、駅にいても、退屈は変わらない。ナッチは屋根の下、濡れていない地面を探して、しゃがみ込んだ。
「もう来てたんだ、早いな」
しゃがんだまま声を見上げると、ハルが立っていた。
「あ、ハル。おはよう、今日のアギト見た?」
「えっ? 見てないけど何で?」
「ううん、別に何でもない」
ゆっくりと立ちながら答えたナッチの横で、ハルは傘をバタバタと振り始めた。その傘からの雫が勢いよくナッチのお腹と足に降りかかる。
「ハル! 冷たいよ」
「ああ、ごめんごめん」
ナッチはハルが苦手だった。いつもクラスの中心にいるハルとじゃ話が合わない事は分かっていた。さっきもそうだ。アギトの話を切り出したのに、見てないの一言で終わらせる。
「ヨッシーとタカちゃんまだかな?」
「まだ十五分あるからな」
「ハルは何でこんなに早く来たの?」
「母さんの病院にお見舞いに行ってたんだ。ばあちゃんと兄貴と一緒に。でも、ばあちゃんと兄貴は買い物に行くって。俺も先生の所じゃなく買い物に行きたかったな」
「あっ、ヨッシーとタカちゃんだ」
自分から聞いておきながら、水色の小さな傘に並んだヨッシーとタカちゃんに、ナッチは興味を奪われた。タカちゃんは紺色の傘を手に持っている。それなのに何で二人で一つの傘なんだろう?
「揃ったから早く行こうぜ」
ナッチの疑問なんて、ハルにはどうでもいい事だった。さっき畳んだばかりの傘を開き始めるハル。
足を止めたヨッシーとタカちゃんはびしょ濡れになっている。ヨッシーは右肩を、タカちゃんは左肩を少し濡らしていないだけで、それ以外の所は服の色が変わるくらいびしょ濡れになっていた。
大丈夫? 声を掛けようとした時。隣にいたハルがヨッシーとタカちゃんに並んで歩き始めた。ナッチは慌てて傘を開いて、三人の後ろに続いた。
「この後、職員室に来なさい」
一瞬ピクっと体が反応したけど、小林先生は同じようにヨッシーとタカちゃんの肩を叩いていた。
「何の用かな? 俺何も悪い事していないし」
「俺も何もしていないよ。通知表だってそんな悪くなかったし」
ハルの言葉を受けて、ヨッシーが答えていた。
「ハルとヨッシーとナッチも呼ばれたんだ」
タカちゃんの顔は何故か少し歪んでいた。面倒臭そうな顔とも少し違う表情。
教室を最初に出たのはハルだった。そのハルにヨッシーとタカちゃんが続く。ナッチは三人に続いて一番最後に教室を出た。
職員室の扉を誰が開けるかで揉めていると、小林先生が廊下へ出てきてくれた。四人にとって職員室の窓は高く、中を見る事は出来ない。だけど小林先生にとっての窓は低いようで、四つ並んだ頭が見えたようだ。
「晴人と夏樹の母さん忙しいのか? 何回か連絡したんだけど、一学期の面談にまだ来てくれていないんだよ。もし忙しいなら、それはそれで仕方ないから、代わりにお前たち二人とちゃんと話をしないとな」
「すみません」
ハルとナッチが同時に口を開いた。
「謝らなくていいよ。ただ保護者面談で皆と色々話をしているから、二人からも話を聞かないといけないだろ。次の日曜日に先生の所に来れるか? もし用事がなければ、次の日曜に先生の家で話を聞くよ」
「用事はないです」
ハルとナッチがまた同時に口を開いた。その隣でヨッシーが退屈そうにしている。まだ自分が呼ばれた理由が分からないヨッシーにとっては当然の事だ。そのヨッシーの隣でタカちゃんは何故か顔を歪めている。
「それと……新しいデジタルビデオカメラ買ったんだ。お前たち前に質問していただろ? 普通のビデオカメラとデジタルビデオカメラがどう違うのかって。貴久と由之も日曜日に先生の家に来るか?」
「えっ? デジタルビデオカメラ? えっ? はい、行きます!」
さっきまで退屈そうにしていたはずのヨッシーが威勢のいい返事する。タカちゃんは相変わらず顔を歪めたまま何も言わない。
「じゃあ、十一時でいいか? 昼飯は食わせてやるから。これ地図と住所だ」
差し出されたメモを受け取ったのはハルだった。夏休みと言っても特に予定のないナッチにとって、先生との約束は楽しみの一つになった。
「……ねえ、ハルの母さんは何で面談に来れないの?」
ナッチの質問は自分の家庭環境と比べてのものだった。母子家庭で育った自分とは違う家庭環境。
「今、病気で入院しているんだ。一か月くらいかな。父さんは仕事忙しいから面談なんて来られないし」
「ええ、じゃあ誰がご飯作っているの?」
「田舎からばあちゃんが来て、ご飯作ってくれているよ。母さんが作るご飯より美味しいし。ナッチの母さんは夜働いているんだよな?」
「うん」
ナッチは小さな声で答えた。母子家庭を恥ずかしいと思った事はないけど、大きな声で自慢できない事は知っている。
「それより、日曜日どうする? 先生のメモ見せてよ」
ヨッシーがハルの手からメモを奪い取る。
「駅の反対側だな。北口って書いてある。そうしたら日曜日、阿佐ヶ谷の駅に十一時集合でいい?」
目的がはっきりしたヨッシーが場を仕切る。デジタルビデオカメラがどんな物か想像できなかったが、ヨッシーの態度を簡単に変えるほど、凄い物なんだとナッチは感心していた。
いつもならこんな時に仕切るのは間違いなくハルだ。そんなハルの手からメモを奪い取って、仕切り出したヨッシー。だけどメモを奪い取られたハルは何も気にしていない様子だった。
日曜日の朝、ナッチは食パンを焼いて一人で食べていた。仕事が終わって寝ている母さんを起こさないように、音を立てないよう注意を払う。
八時になる少し前。食パンにマーガリンを塗って、コップに牛乳を注いでテレビの前に座った。アギトが始まる前にイヤフォンをしないといけない。アギトが特別好きな訳じゃないけど、月曜日の学校で、友達と話を合わせるためには、毎週欠かさず観る必要があった。それに日曜日だからと言って、どこかへ連れ出してくれる人もいなかった。仕事で疲れて夕方まで寝ている母さんに、何かを強請るなんて考えはナッチの頭の中にはない。
アギトが終わって、カーテンをそっと開けると、雨が降っていた。出掛ける予定があるのに何か嫌だな。窓の外の雨を眺めて、十一時が近くなるのを待っていたけど、音を立てずにじっとしている事が退屈になってきた。
家から駅までは歩いて十分も掛からない。本当は約束の十分前に家を出れば充分だけど、じっとしている事が、退屈を通り越して苦痛になってきていた。まだ早過ぎる事は分かっていた。だけど時計の針が十時を差したのと同時。ナッチは家を出た。
腕時計なんて持っていないから、今の時間は分からない。北口の屋根の下、滴を払って、丁寧に傘を畳む。駅に着いて何分か経ってはいたけど、三人がくる様子はない。家にいても、駅にいても、退屈は変わらない。ナッチは屋根の下、濡れていない地面を探して、しゃがみ込んだ。
「もう来てたんだ、早いな」
しゃがんだまま声を見上げると、ハルが立っていた。
「あ、ハル。おはよう、今日のアギト見た?」
「えっ? 見てないけど何で?」
「ううん、別に何でもない」
ゆっくりと立ちながら答えたナッチの横で、ハルは傘をバタバタと振り始めた。その傘からの雫が勢いよくナッチのお腹と足に降りかかる。
「ハル! 冷たいよ」
「ああ、ごめんごめん」
ナッチはハルが苦手だった。いつもクラスの中心にいるハルとじゃ話が合わない事は分かっていた。さっきもそうだ。アギトの話を切り出したのに、見てないの一言で終わらせる。
「ヨッシーとタカちゃんまだかな?」
「まだ十五分あるからな」
「ハルは何でこんなに早く来たの?」
「母さんの病院にお見舞いに行ってたんだ。ばあちゃんと兄貴と一緒に。でも、ばあちゃんと兄貴は買い物に行くって。俺も先生の所じゃなく買い物に行きたかったな」
「あっ、ヨッシーとタカちゃんだ」
自分から聞いておきながら、水色の小さな傘に並んだヨッシーとタカちゃんに、ナッチは興味を奪われた。タカちゃんは紺色の傘を手に持っている。それなのに何で二人で一つの傘なんだろう?
「揃ったから早く行こうぜ」
ナッチの疑問なんて、ハルにはどうでもいい事だった。さっき畳んだばかりの傘を開き始めるハル。
足を止めたヨッシーとタカちゃんはびしょ濡れになっている。ヨッシーは右肩を、タカちゃんは左肩を少し濡らしていないだけで、それ以外の所は服の色が変わるくらいびしょ濡れになっていた。
大丈夫? 声を掛けようとした時。隣にいたハルがヨッシーとタカちゃんに並んで歩き始めた。ナッチは慌てて傘を開いて、三人の後ろに続いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる