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第4章 町の名はワィーン。ウィーンじゃないです。
4-9 演奏会当日です。
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(店長、今日は演奏会当日。本番ですよ。逃げ出しちゃダメですからね)
朝一番、開いたハル君のLINEは、逃げ出さないようにと、念押しだった。……念を押すって事は、やっぱりムーツァルトは魔物なんですか? 逃げ出したい。でも、3日かけてせっかく準備したんだから、退治もしたい。……その時、部屋のドアを誰かがノックした。
「……おお、イスケ。今日は面白い物が見れるんだろ?」
ドアを開けたのはリナンだった。その後ろにはサネイルだ。
「イスケ。もう一度、コーヒーの作り方を見せてくれないか?」
サネイルがそう言ってきたけど、作り方も何も、コーヒーフィルター"ビッグ3000"で、ただ濾すだけだ。
「この3日は自分で作っていたんだろ?」
「まあ、そうなんだけど、緊張して」
サネイルが顔を歪める。緊張する必要なんて何一つないのに。
「サネイルが淹れたコーヒーが、もし不味かったら俺が淹れ直すから、緊張せずにいつも通りやれよ」
淹れ直すつもりなんてないけど、そんな言葉でサネイルの緊張が解けるなら、よしとしよう。
「ああ、それより、演奏会が見ものだな。イスケがあのムーツァルトをやっつけてくれるらしい。あんな悪の化身野放しには出来ないからな」
リナンの興味はコーヒーではなく、ムーツァルト退治だけのようだ。
「……ああ、サネイル、リナン。ここに居たか。演奏会は15時からなんだが、もうゲストの貴族の方がお見えになって。とりあえずコーヒーでもてなしてくれないか」
「あ、はい。分かりました」
返事をしたサネイルにリナンも続く。
「……それで貴族の方は何人いらっしゃるんですか?」
ソリエリに聞いてみる。
「40人の予定だが、どうして?」
40人。ちょうどいい人数じゃないか。悪魔のビリビリ蝿たたきは、全部で48本。俺とルストは2本ずつ。貴族達に1本ずつ持たせて、後はソリエリ、バートーヴァン、サネイルにリナンで決まりだ。
「あと演奏の順番は? お願いした通り?」
「ええ。イスケさんがおっしゃったように、最初がムーツァルトです。その後にバートーヴァン、ルスト、私と続きます」
「完璧です。まずはムーツァルトを退治してから、ソリエリさん達にはゆっくり演奏していただきますから、安心してください」
「ええ、分かりました」
ソリエリの顔に安心の色が見えた。ムーツァルトに演奏会をめちゃくちゃにされないで済むと言う、安心感だろう。……ん? あれ? もしかして、ムーツァルトにはめちゃくちゃにされないけど、俺がめちゃくちゃにするのか? ん? でも、まあいいや。……もう今更だし。
(ハル君。もしムーツァルトが魔物でも、俺は逃げ出さないから、安心してくれ。今はムーツァルト退治を実行する事に、すごく興奮しているから)
朝のLINEに返事をしてから、サロンへと向かった。
ゲストは40人だって言っていたけど、サロンにはもう20人以上の貴族達が集まっていた。まだ演奏会が始まる15時まで、4時間以上もあるのに。
「……あ、あなたがイスケさんですか? このコーヒー本当に美味しいですよ。それに今日は、私達を楽しませてくれると伺っています」
やたらと恰幅のいい貴族の一人が、声を掛けてきた。……コーヒーはよしとして、誰が貴族達にまでムーツァルト退治の話をしたんだ? ソリエリ? サネイル? リナン? まあ、いいや。話が早い。
「あのぅ、お越しの皆様に、こちらを1本ずつお配りさせていただきます。……注意事項がありますので、くれぐれもこの網の部分には触れないようにお願いします」
「ん? 何だ? 何だ?」
貴族達が少し騒ぎ出していたけど、気にせず悪魔のビリビリ蝿たたきを配っていく。……その時。
「わっ! 痛い! 何だ?」
貴族の一人が叫んだ。だから言わんこっちゃない。注意事項を聞く前に網を触った馬鹿がいた。
「網には触れないでください!」
一人が叫んだからか、他の貴族達は網に触れないように、慎重に悪魔のビリビリ蝿たたきを持っている。
「……皆様、よろしいでしょうか? 今、お渡しした物で、ムーツァルトを歓迎していただきます。先程言ったように、この網には絶対に触れないでください。……痛かったですよね?」
さっき網に触った馬鹿へと向かう。
「ああ、痛いなんて言うものじゃなかった。なんかビリビリって、手から腕、それで体がすごく痺れて、死ぬかと思ったよ」
馬鹿が全部説明してくれた。
「そうなんです。この網に触れると、ビリビリが来て、死にそうに痛いんです。だから絶対触れないでください」
「ああ、それは分かったけど。これでどうやってムーツァルトを歓迎するんだ?」
「それは……。皆様、誰かが苦痛を味わうのはお好きですよね? 本日の最初の演奏者はムーツァルトです。ムーツァルトがこのサロンに現れたら、ペシペシとその蝿たたきで、叩いてください。もちろん網がムーツァルトに触れるように」
きっと今の俺は悪魔のような顔をしているだろう。でもそれは、悪魔のビリビリ蝿たたきを手にした貴族達とも同じ顔だ。……思った通り、誰かが苦痛を味わうのを、貴族達は楽しみにしている。
朝一番、開いたハル君のLINEは、逃げ出さないようにと、念押しだった。……念を押すって事は、やっぱりムーツァルトは魔物なんですか? 逃げ出したい。でも、3日かけてせっかく準備したんだから、退治もしたい。……その時、部屋のドアを誰かがノックした。
「……おお、イスケ。今日は面白い物が見れるんだろ?」
ドアを開けたのはリナンだった。その後ろにはサネイルだ。
「イスケ。もう一度、コーヒーの作り方を見せてくれないか?」
サネイルがそう言ってきたけど、作り方も何も、コーヒーフィルター"ビッグ3000"で、ただ濾すだけだ。
「この3日は自分で作っていたんだろ?」
「まあ、そうなんだけど、緊張して」
サネイルが顔を歪める。緊張する必要なんて何一つないのに。
「サネイルが淹れたコーヒーが、もし不味かったら俺が淹れ直すから、緊張せずにいつも通りやれよ」
淹れ直すつもりなんてないけど、そんな言葉でサネイルの緊張が解けるなら、よしとしよう。
「ああ、それより、演奏会が見ものだな。イスケがあのムーツァルトをやっつけてくれるらしい。あんな悪の化身野放しには出来ないからな」
リナンの興味はコーヒーではなく、ムーツァルト退治だけのようだ。
「……ああ、サネイル、リナン。ここに居たか。演奏会は15時からなんだが、もうゲストの貴族の方がお見えになって。とりあえずコーヒーでもてなしてくれないか」
「あ、はい。分かりました」
返事をしたサネイルにリナンも続く。
「……それで貴族の方は何人いらっしゃるんですか?」
ソリエリに聞いてみる。
「40人の予定だが、どうして?」
40人。ちょうどいい人数じゃないか。悪魔のビリビリ蝿たたきは、全部で48本。俺とルストは2本ずつ。貴族達に1本ずつ持たせて、後はソリエリ、バートーヴァン、サネイルにリナンで決まりだ。
「あと演奏の順番は? お願いした通り?」
「ええ。イスケさんがおっしゃったように、最初がムーツァルトです。その後にバートーヴァン、ルスト、私と続きます」
「完璧です。まずはムーツァルトを退治してから、ソリエリさん達にはゆっくり演奏していただきますから、安心してください」
「ええ、分かりました」
ソリエリの顔に安心の色が見えた。ムーツァルトに演奏会をめちゃくちゃにされないで済むと言う、安心感だろう。……ん? あれ? もしかして、ムーツァルトにはめちゃくちゃにされないけど、俺がめちゃくちゃにするのか? ん? でも、まあいいや。……もう今更だし。
(ハル君。もしムーツァルトが魔物でも、俺は逃げ出さないから、安心してくれ。今はムーツァルト退治を実行する事に、すごく興奮しているから)
朝のLINEに返事をしてから、サロンへと向かった。
ゲストは40人だって言っていたけど、サロンにはもう20人以上の貴族達が集まっていた。まだ演奏会が始まる15時まで、4時間以上もあるのに。
「……あ、あなたがイスケさんですか? このコーヒー本当に美味しいですよ。それに今日は、私達を楽しませてくれると伺っています」
やたらと恰幅のいい貴族の一人が、声を掛けてきた。……コーヒーはよしとして、誰が貴族達にまでムーツァルト退治の話をしたんだ? ソリエリ? サネイル? リナン? まあ、いいや。話が早い。
「あのぅ、お越しの皆様に、こちらを1本ずつお配りさせていただきます。……注意事項がありますので、くれぐれもこの網の部分には触れないようにお願いします」
「ん? 何だ? 何だ?」
貴族達が少し騒ぎ出していたけど、気にせず悪魔のビリビリ蝿たたきを配っていく。……その時。
「わっ! 痛い! 何だ?」
貴族の一人が叫んだ。だから言わんこっちゃない。注意事項を聞く前に網を触った馬鹿がいた。
「網には触れないでください!」
一人が叫んだからか、他の貴族達は網に触れないように、慎重に悪魔のビリビリ蝿たたきを持っている。
「……皆様、よろしいでしょうか? 今、お渡しした物で、ムーツァルトを歓迎していただきます。先程言ったように、この網には絶対に触れないでください。……痛かったですよね?」
さっき網に触った馬鹿へと向かう。
「ああ、痛いなんて言うものじゃなかった。なんかビリビリって、手から腕、それで体がすごく痺れて、死ぬかと思ったよ」
馬鹿が全部説明してくれた。
「そうなんです。この網に触れると、ビリビリが来て、死にそうに痛いんです。だから絶対触れないでください」
「ああ、それは分かったけど。これでどうやってムーツァルトを歓迎するんだ?」
「それは……。皆様、誰かが苦痛を味わうのはお好きですよね? 本日の最初の演奏者はムーツァルトです。ムーツァルトがこのサロンに現れたら、ペシペシとその蝿たたきで、叩いてください。もちろん網がムーツァルトに触れるように」
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