魔王城近くのNPCは勇者に『お引き取り願います』〜勇者が10年間も魔王討伐に来ないので、俺が魔王を倒しておきます〜

R.l

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第一章

第五話 少年人を欺く。

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「改めて、お二人とも本当に申し訳ないです」

 俺はある程度体調が良くなったお二人にそう言って頭を下げる。

「大丈夫、大丈夫。何度か経験した事あるから慣れてるよ」
わたくしも大丈夫です~元はと言えば私が招いたことなので~」

 二人が気を失って数分、俺はムーさんとディアーナさんにお話を聞いた。

 ■■■

「大丈夫……二人ともただの魔力酔い……」

 ムーさんはそう言って、キオナさんの鼻を何処からか拾ってきたであろう木の枝でつついている。なぜ鼻を……
 キオナさんからは『フガァッ』というあまり馴染みのない音が返ってきていた。

「……魔力酔い?」

 俺がそう問いかけると頭上より声が聞こえる。

「魔力酔いってのは基礎魔力値の高い者が起こしやすいとされる。過剰感性の病的反応のことだ」

 俺の小さな身体を覆う様に抱き抱えベンチに座るディアーナさんが軽い説明をする。
 それに続きムーさんが説明を始めた。

「主に自身の持てる魔力量より……大気の魔力量が濃くなると脳神経が混乱して起こるとされてる……浸透圧とか気圧の関係と似ている……」

 少々小難しいが何となくは理解できた。
 という事は。

「僕が大きな声を上げた事によって、大気中の魔力量が突然濃くなったという事でしょうか……?」

 そう問いかけるとムーさんは少し不満げな顔で返答する。

「……自分の力量を知らぬは……罪だよルディくん」

 そう言ったムーさんに同意する様にディアーナさんは発言する。

「まったく、同意だな。距離があって、尚且つ魔力値がほとんどねぇ、オレでも感知できるほどだ。おかげで、危機察知がうるせぇほど頭に響いたぞ?」

 だから、瞬時にすっ飛んできたのか……

「その節は申し訳ないです——」
「——でも……ディアーナ……負けた」

 ムーさんはいじわるな笑みをこぼしながら挑発する様に口を挟む。

「っ!?」

 熱い…俺を包み込む空間の温度が上昇している。
 背中にドクドクと叩くなにが聞こえてくるような……

 顔を朱に染めたディアーナ。
 それを見たムーはポツリと呟く。

「…やはり……さっきのルディは…直視してはいけない……」

 何だ?
 人をメデューサ扱いか?

「そ、その……」

 か細い声が頭の上で聞こえる。

「そのだな……さっきはすまなかった」

 ディアーナさんが唐突に謝罪する。
 ん?何の話だ?
 さっきの突っ込んできた話か?

「大丈夫ですよ。別に攻撃が当たったわけでもないですし——」
「——ち、違う……」

 ディアーナさんは口籠もる様に否定する。
 ルディは疑問を浮かべる様な表情で見つめる。

 すると、ルディを膝の上からベンチに移動させ。
 ディアーナは対面となる様に立ち上がる。

「『ガキ』だ『テメェ』だなんて、失礼な言葉を吐いたことを謝る。その。本当にすまなかった……」

 そう言ったディアーナさんは深々と頭を下げる。

「別に気にしてないですよ……僕も初対面のくせに失礼でしたし。こちらこそごめんなさい」
「ほ、本当か良かった……で、その、相談なんだが——」

 身体をモジモジとさせるディアーナ。
 それはまるで。
 何かを言い出せずに初々しく恥じらう乙女の様に。

「お、オレもお前のこと……『ルディ』って呼んでいいか?」

 純粋な瞳でこちらを見つめる紅く染められた顔……

「………」

 ……俺はディアーナさんの規格外の差異ギャップに驚きを隠せない。
 何だこの可愛い人は……お、男だよなこの人。

「なぁ…呼んでいいのか……?」
「ぜ、是非お願いします」

「……一勝一敗…ふふ」

 そんな声がディアーナさんに隠れた場所から聞こえた気がした。

 ■■■

 という一幕もありまして、その後。

 ——ルディ・ド・オル——

 Lv. ----
 種族 人間
 クラス 管理者
 ——
 HP ----/----
 MP ----/----
 ——
 筋力 2123 精神 ----- 魅力 5520
 敏捷 ----- 要領 2535 幸運 -----
 ——
 スキルポイント ----
 ユニークスキル 管理する者 創る者 操る者 ----
 スキル 剣術Lv.-- 武術Lv.-- 体術LV.-- ----
 ——
 称号 勇者の案内人 魔王を屠し者 理から外れた者 ---- 

 改めて俺のステータスを確認する事になった。

 何だ、この線は……

「どう……何か面白いモノある?」
「あ、え?」

 この半透明の版は俺にしか見えてないのか?

 その疑問に答えるかの様にキオナさんが言葉を発する。

「基本的にステータスは他人には見えないから、安心して——でも、こんなふうに」

 そう切り出したキオナさんの目の前には、半透明の版が浮かび上がる。

「『ステータス提示』とかって念じると他人に見せたりすることもできる」

 ——キオナ・フジワラ——

 Lv. 78
 種族 人間
 クラス 勇者
 ——
 HP ----/25776
 MP ----/6638
 ——
 筋力 1852 精神 476     魅力 1183
 敏捷 1290 要領 1646   幸運 766
 ——
 ユニークスキル ---- ----
 スキル 剣術Lv.7 武術Lv.5 思考加速Lv.3 ----
 ——
 称号 選ばれし者 龍の天敵 天童 ----

 ルディは彼女のステータス版を覗き込みじっくりと見る。
 ……キオナさんにも線の部分があるのか。

「この線が引かれてるのは自分が相手に提示していない部分。現在のHP生命力MP魔力量あと基礎能力値とかユニークスキルは、基本的に他人に見せないのがマナー。スキルや称号は私の場合は多すぎだから初めの三つしか表示していないわ」

「な、なるほど……」

 見えていない部分は自身が提示しない様に意図的にやっているのか。
 ……ならば、なぜ俺は俺自身に見えない様になっているんだ?

「どうっ!?"人類最強"クラスの勇者のステータスは!!」

『どう』と言われましても……
 俺自身のステータスで見えている部分が少なすぎて、反応しずらい……
 それに見えている部分は俺の方が能力値が高い……

 というか、マナーという割には大っぴらに開示している様な……

「キオナさん?ルディさんとはいえ初対面の方に能力値まで開示してはいけませんよ」

 俺が思うことを代弁する様に諭すキリアさん。

「んー?あ、ほんとだごめんね無意識だった」
「キオナ……神経質な癖に…たまに抜けてる……それとも自分と似てるから…気を許した?」

 自分と似てる?俺とキオナさんが?

「確かに言われてみれば…る、ルディとお前似てるよな?髪の色も黒だし」
「耳が小さいです。でも、ルディさんの瞳の色は灰色ですね」
「……顔が幼い」

 口々に三人が二人の共通点を挙げていく。
 客観的に言われると似ているのだろうか?

「確かにねー、ルディくんと遠縁だったりして?」

 血縁か……確か母親は俺と同じくオル村生まれ。
 そういえば父親は旅人で出身は——

「——まぁそんなわけないか!あはは」

 まぁそうだよな。

「…という事で……ルディはステータス見せる」

 そんな脱線した話をしていたが、ムーさんがすり替える様に話を切り出した。

「『という事で』という言葉はおかしいですけど——」

 ——俺は内心焦っていた。
 よく考えたら俺のステータスって変では?
 キオナさん、自分のステータスは『人類最強クラス』とか言ってたよな?
 それの数値を超えているとなると、いよいよ『何者』だと言われかねない……

 何て説明すればいいんだ?

 そうやって思考を巡らせていると。
 ——とある事を思い出す。

 そう言えばユニークスキルの【操る者】ってやつ。
 提示する数字を操作できたりして——?

 ——ルディ・ド・オル——

 Lv. 78
 種族 人間
 クラス 勇者
 ——
 HP ----/25776
 MP ----/6638
 ——
 筋力 1852 精神 476     魅力 1183
 敏捷 1290 要領 1646   幸運 766
 ——
 ユニークスキル ---- ----
 スキル 剣術Lv.7 武術Lv.5 思考加速Lv.3 ----
 ——
 称号 選ばれ者 龍の天敵 天童 ----


 ……マジか。
 やればできるじゃん。


「…やはり……見せられない……?」

 ルディが試行錯誤している最中、痺れを切らしたのかムー・ペオルが顔を覗かせルディに問いかける。

「こらっ。ムーちゃん、強要しちゃダメだよ」

 そう言ってムーさんの頭に軽い手刀を打つキオナさん。

「ルディくん、別に無理しなくていいからね。私はこういうこともできるよって教えたかっただけだからさ」

 そう諭し、ルディの頭を優しく撫でるキオナ。
 ……心地良い。
 俺は何故だかそんな感情を抱いたのを覚えている。

「全然、大丈夫ですよ。少し『提示させる』ってイメージがつかなくて……あ、出た」

 ——ルディ・ド・オル——

 Lv. 18
 種族 人間
 クラス 魔術士
 ——
 HP ----/846
 MP ----/12030
 ——
 筋力 420     精神 442   魅力 1560
 敏捷 647     要領 365      幸運 154
 ——
 ユニークスキル ----
 スキル 剣術Lv.3 体術Lv.2 身体魔術LV.6
 ——
 称号 勇者の案内人 孤独なる者

 何とかなるもんだな……

「…予想は……してたけど…想像以上………」
「やっぱりMP魔力量高いんですね~」
「ルディ…お前えげつねーな」

 三人は俺のステータスを覗き各々感想を言う…… 

「……」

 そんな中、キオナさんだけは一言も漏らさず真剣に版を見つめている。
 ……操作したのがバレたか?

「っと言うより!!ルディ!!」

 ルディは肩をビクりと跳ねさせゆっくりと背後に首を回す。

「……は、はい?」

 やはり、バレたか……?

「『はい?』じゃねぇ。さっき、キリアが注意したところだろ?しらねぇ奴らに能力値を見せるなって」

 ……あ。
 そちらの件で。

 ルディが胸を撫で下ろすと同時にディアーナの言葉に触発されたか、他の三人も口を開く。

「そうですよ~ルディさん。~貴方は耳が付いてないんですか~?それとも脳が未発達なのですか~?」

「私は見れて…嬉しい……」

「そ、そうだよ?ルディくん。見せた相手が私達だからトラブルにならないけど。それが原因で死んじゃったりする人もいるんだからね?」

 怒涛のお叱り(?)である。

「ごめんなさい……」

「「「「…………」」」」

 口を尖らせたルディがそう謝罪すると。

 一間ひとま、黙った彼女らの口が足早に言葉を吐いていく——

「ま…まぁ、オレたち以外に見せんじゃねぇぞ……」
「末恐ろしい子ですね~」
「……黄金の楯を…探さねば」
「な、なんて破壊力だ……」

 どうやら彼女達は見事なカウンターを喰らった様だった。

 勇者一行様……チョロす。

 ■■■

『本題に入ろう』

 誰かがそう言い出して。
 そうして現在。
 俺はみんなを連れて魔王城に足を進めている。

 魔王城までは馬で二日、歩いて四日程だろうか?
 と思っていたら……

「やっぱり、勇者様は違いますね~」
「ふふん。カッコいいでしょ?」

 キリアさんの言葉に対して、得意げに胸を張っているキオナさん。
 目の前に鎮座する、自身よりも数倍ものデカさを誇る、龍を愛でる様に撫でる。

 あなた称号『龍の天敵』じゃなかったですっけ?
 アレって飼い慣らしたって意味なの?

 そんな風に思っている内にディアーナさんに抱き上げられ背中に乗龍?する。

 …前に見た龍はもう少し小さかったかなぁ。
 そもそも、種類が違うって感じかな。

 そんなことを考えているうちに全員が龍に乗龍。
 キオナさんはなにやら龍に話しかけている。

「おっ」

 すると、それを理解したのか動き出した竜。
 人語を理解するのか?
 それとも通じ合っている仲だからとかそういうのですか?

 羽根を羽ばたかせ莫大な揚力と推進力を生み出し、五人を乗せた体が軽く離陸する。

「おっとと」
「だ、大丈夫か?」
「ありがとうございます……」

 立ったままだった俺の身体は少しよろめいてしまう。
 するとディアーナさんが俺の手を取り、引き寄せ、そのまま股の間に座らせる……また包まれるのか?
 たかだか一時間程前に会った子どもをここまで気に掛けてくれるなんて。
 言葉遣いは荒いけど、根は凄く優しい人なんだろうな。

「ディアーナさんは、やさし——」

「——てめぇ、ゴラァットカゲ。ルディのこと落としたらどうなるか分かってんだろうなぁ?ぁあっ!?」

 そう言ってディアーナさんは足で龍を叩く。
 龍は『ギュッギュッ』という猛々しい見た目からは想像のつかない泣き声をあげていた。

「ん?ルディ今なんか言ったか?」
「……い、いえ。何も……」

 俺は言いかけた言葉をつぐみ大人しくする事にした……

「さぁ、いざ、魔王城へ!!」

 キオナさん、ノリノリだな…

「しゅっぱーつッ!!」
「「おー!!」」
「「……おー」」

 え、なに?もしかして恒例のやつ?
 その割にはペアで温度差分かれてるけど。

「さぁルディくんも!!」
「ぉ、おー!?ゔぁおああっ!!」

 俺が掛け声を催促された瞬間。
 飛龍が加速し身体に加重がかかる。

「こ、この速度なら二時間もあれば到着しそう……風すごっ口乾くっ」

「ふぅうっ!!いぇいっ!!」

 キオナさん、ノリノリだな……

「やっぱ、世界は広いな……」

 ルディは初めて見る光景にそう言葉を溢すのだった。
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