オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第2章:仲間集め―前半

第7話「励ましと火花」

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朝霧が谷間を包む中、宅男は一人で山道を歩いていた。

昨日とは違う。今日は森下を村の民宿に待機させ、村人への影響を最小限にするための計画を立ててきた。時間は午前六時から六時三十分まで。人通りの少ない時間帯を選び、音を立てない約束で、斎藤勇との再会を求める。

段々畑の外れ、竹林に囲まれた古い作業小屋の前で、宅男は立ち止まった。

「斎藤さん、いらっしゃいますか」

声をかけると、小屋の奥から足音が聞こえた。扉が開き、勇が現れる。昨日よりも少し身なりを整えているようだが、その表情は相変わらず険しい。

「また来たのか」

「はい」宅男は頭を下げた。「昨日はお時間をいただき、ありがとうございました」

勇は黙って宅男を見詰めていた。

「今日は違う話をしたいんです」宅男は続けた。「勇者として頼むんじゃありません。検証をお願いしたいんです」

「検証?」

「あなたの能力の詳細を知りたいんです」宅男は手帳を取り出した。「作戦を立てるために、正確なデータが必要です」

勇は少し興味を示した。

「作戦?」

「はい。核ミサイル迎撃の作戦です」宅男は真剣に答えた。「氷川結さんの結界実験は成功しました。次はあなたの能力を組み込んだ戦術を考えたいんです」

「俺を勇者扱いしないと言ったな」

「はい。あなたは勇者である必要はありません」宅男は断言した。「ただ、その剣の性能を教えてください」

勇は長い間考えていた。やがて、小さくため息をついた。

「十五分だけだ。それ以上は付き合わない」

「ありがとうございます」

二人は竹林の中に入った。朝の光が竹の葉を通して差し込み、幻想的な空間を作り出している。

「まず、安全管理について確認させてください」宅男は周囲を見回した。「剣を振る範囲は?」

「半径三メートルくらいか」勇は答えた。

「刃の長さは調整できますか?」

「ある程度は」勇は右手を伸ばした。「見てろ」

勇が拳を握ると、手の中から淡い光が漏れ始めた。昨日と同じく、透明な剣の柄のようなものが浮かび上がる。

そして、柄から伸びる不可視の刃が、朝霧に触れることで微かに輪郭を現した。霧の粒子が刃に沿って流れ、まるで見えない線を描くように動いている。

「短くできます」勇は集中した。刃の長さが三十センチ程度に縮んだ。「長くもできます」

今度は三メートルほどに伸ばした。竹林の中で、霧と蜘蛛の糸が不可視の刃に触れ、その存在を示している。

「すごいですね」宅男は感嘆した。「角度の調整は?」

「少しなら」勇は剣を傾けた。刃の角度が変わると、竹の葉が音もなく切れ落ちた。

宅男は手帳にメモを取りながら、さらに質問を続けた。

「切断以外の使い方はありますか?」

「何だって?」

「例えば、防御とか受け流しとか」

勇は少し考えた。

「やったことはないが……理論的には可能かもしれない」

「試してもらえますか?」

勇は躊躇した。

「危険だぞ」

「大丈夫です」宅男は自信を見せた。「距離を取ります。それに、停止語を決めておきましょう」

「停止語?」

「危険を感じたら『ストップ』と叫びます。その瞬間、能力を解除してください」

勇は頷いた。宅男は十メートルほど離れた場所に移動し、小石を拾った。

「この石を投げます。切らずに、受け流してもらえますか?」

「やってみる」

宅男が石を投げると、勇は不可視の剣を横に構えた。石は刃に当たって軌道を変え、地面に落ちた。切断されずに、確かに受け流されている。

「できますね」宅男は興奮した。「これなら、ミサイルの破片を受け流すことも……」

その時、竹林の奥で大きな音がした。

「何だ?」勇が振り返った。

古い石垣が崩れる音だった。段々畑の縁が朝露で滑りやすくなっており、積み上げられていた農具が一斉に滑り落ちそうになっている。

「危ない!」宅男が叫んだ。

石垣の下では、村の老人が早朝の作業をしていた。このままでは巻き込まれてしまう。

「ストップ!」宅男が叫んだが、今度は能力を解除する指示ではない。

「右に三歩!角度上向き!面で受けて!」

宅男の指示に従い、勇は不可視の剣を盾のように構えた。剣の刃を平らに広げ、滑り落ちる農具を受け止める。

重い鍬やスコップが不可視の面に当たり、軌道を変えて老人の横に落ちた。老人は何が起こったか分からず、呆然としている。

「おじいさん、大丈夫ですか?」宅男は駆け寄った。

「え?あ、ああ……何だか分からんが、道具が横に飛んで行った」老人は首をかしげた。

「石垣が崩れそうになってたんです」宅男は説明した。「危なかったですね」

老人は石垣を見上げた。

「確かに古くなってたからなあ。気をつけないと」

老人が去った後、勇は不可視の剣を解除した。

「お前の指示、的確だった」勇は宅男を見詰めた。

「ありがとうございます」宅男は息を切らしていた。「咄嗟でしたが、うまくいきました」

「俺は……」勇は自分の手を見詰めた。「誰かを救った」

その手が微かに震えているのに、勇は気づいた。恐怖ではない。違う感情だった。

「久しぶりだ」勇は小さくつぶやいた。「誰かのために剣を振るったのは」

宅男は何も言わなかった。ただ、勇の変化を静かに見守っている。

「でも、俺は勇者じゃない」勇は念を押すように言った。

「名前は要りません」宅男は答えた。「役割があればいいんです」

「役割?」

「はい。あなたには『守る剣』としての役割がある」宅男は手帳を閉じた。「勇者である必要はありません」

遠くの森の中で、双眼鏡を構えた女性が一部始終を観察していた。陸上自衛隊特殊作戦群の米田美咲。早川の指示により、状況を監視している。

「異常なし。能力者の制御は良好。民間人への影響も最小限」

米田は無線で報告した。

「了解。引き続き監視を継続してください」早川の声が返ってくる。

「ただし」米田は付け加えた。「彼らの連携は予想以上です。指揮官役の青年、相当優秀ですね」

「そうですか」

「はい。危機管理、即応指示、事後処理。全て的確でした」

早川は興味深そうに応答した。

「分かりました。詳細は後で報告書で」

竹林で、宅男と勇は検証結果をまとめていた。

「刃の長さ、三十センチから三メートル。角度調整、左右に約三十度。防御用途も可能」宅男はメモを確認した。「十分です」

「で、次はどうする?」勇が質問した。

「他の仲間を集めます」宅男は答えた。「氷川結さんと合流して、さらに詳しい作戦を練りたいと思います」

「俺も行くのか?」

宅男は勇を見詰めた。

「あなたの意志次第です」

勇は考え込んだ。先ほど、老人を救った時の感覚が忘れられない。あの震えは、久しぶりに感じた充実感だった。

「条件がある」勇は言った。

「何でしょう?」

「勇者扱いしない。報道にも出さない。終わったら、また一人にしてくれ」

「分かりました」宅男は頷いた。

「それから」勇は続けた。「お前の指示に従う。だが、俺の判断で危険だと思ったら、独断で行動する」

「それも承知しました」

勇は小さく微笑んだ。

「面白い奴だ、お前は」

「よく言われます」宅男は苦笑いした。

二人は竹林を出た。朝霧が晴れ始め、谷間に陽光が差し込んでいる。

「次はいつ連絡する?」勇が聞いた。

「明日か明後日には」宅男は答えた。「氷川結さんと合流してから、改めて連絡します」

「分かった」

宅男は山道を下りながら、手帳に新しい項目を書き加えた。

斎藤勇、協力承諾。条件付きだが、実戦投入可能。不可視剣の座標同期と命中精度の向上が今後の課題。

米田は二人が去るのを確認してから、最終報告を入れた。

「対象者二名、解散。異常なし。能力の実証確認。協力関係が成立した模様」

「了解しました」早川の声に安堵が含まれていた。「お疲れ様でした」

米田は双眼鏡を仕舞いながら考えた。あの青年たちが本当に日本を救うことができるのだろうか。半信半疑だが、希望の光が見えてきたのは確かだった。

宅男は村に戻り、森下に報告した。

「斎藤勇さん、協力してくれることになりました」

「本当ですか?」森下は驚いた。

「条件付きですが」宅男は手帳を見せた。「これで、攻撃担当は確保できました」

「次はどうしましょう?」

「大阪に戻って、氷川結さんと合流します」宅男は決意を固めた。「そして、さらに仲間を集めましょう」

あと五日。核ミサイル発射までの時間は着実に減っている。しかし、宅男のチームは確実に強化されていた。

防御の結、攻撃の勇。そして、統率の宅男。

「日本を救うための戦いが、本格的に始まったんですね」森下が感慨深げに言った。

「はい」宅男は空を見上げた。「でも、まだ足りません。もっと多くの仲間が必要です」

山の向こうで、勇は小屋に戻りながら、久しぶりに希望というものを感じていた。選ばれなかった勇者。しかし、誰かの役に立てるかもしれない。

それは、小さな光だった。しかし、確実に彼の心を照らし始めている。

第7話 終わり
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