オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第2章:仲間集め―前半

第8話「作良の工房潜入」

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夕暮れの工業地帯、古びた倉庫街の奥まった場所で、宅男と森下は箱根秋奈の案内を待っていた。

「本当にここに工房があるんですか?」森下は周囲を見回しながら不安そうに言った。

人気のない倉庫群の間に、錆びた看板と雑草が生い茂っている。とても人が住んでいるようには見えない場所だった。

「あった」秋奈の声が響いた。

振り返ると、彼女が倉庫の裏手から現れている。高級ブランドのバッグを持つ彼女が、この薄汚れた場所にいるのは奇妙な光景だった。

「小林作良の工房は、この先よ」秋奈は指差した。「ただし、気をつけなさい。彼女は商売第一の人間だから、うまく話を持っていかないと、すぐに追い出されるわ」

三人は薄暗い路地を進んだ。突き当たりにある古い倉庫の前で、秋奈は特殊な手順でドアをノックした。三回短く、二回長く、最後に一回短く。

しばらくすると、ドアの小窓が開いた。

「秋奈ね。今日は何の用?」女性の声がした。

「お客さんを連れてきたの」秋奈は答えた。「面白い話があるのよ」

小窓が閉じられ、複数の鍵を外す音が聞こえた。やがて、重いドアが開かれる。

現れたのは、二十代後半と思われる女性だった。作業服を着て、手には工具を持っている。髪は短く刈り込まれ、実用性を重視した服装だ。しかし、その瞳には聡明な光があり、機敏な動きからは高い技術力がうかがえる。

「小林作良です」女性は宅男と森下を見据えた。「で、何の用?時間は金なのよ」

「僕たち……」宅男が口を開きかけたが、作良は手で制した。

「中で話しましょう。ここじゃ目立つ」

工房の内部は、宅男の想像を遥かに超えていた。

天井まで届く棚には、見たこともない金属の塊や鉱石が所狭しと並んでいる。床には複雑な魔法紋が刻まれ、淡く光っている。機械仕掛けのアームが天井から吊り下げられ、精密な作業を行っている。

空気は金属を加工する時の独特な匂いと、魔力のオゾン臭が混じり合い、絶えず低い振動音が響いている。現代の工場と異世界の工房が融合したような、異様な空間だった。

「すごいですね……」宅男は息を呑んだ。

「当然よ」作良は得意そうに答えた。「異世界技術と現代工学を組み合わせた工房なんて、世界でもここだけでしょうね」

彼女は作業台に腰かけた。

「それで、用件は何?秋奈が『面白い話』って言ってたけど」

宅男は核ミサイルの件を説明し始めた。作良は最初は半信半疑といった表情で聞いていたが、技術的な詳細になると、だんだん真剣になってきた。

「……つまり、迎撃用の装置を作ってほしいと?」作良は腕を組んだ。

「はい」宅男は頷いた。「氷川結さんの結界を補強する材料や、ミサイルを物理的に迎撃する装置など……」

「ちょっと待ちなさい」作良は手を上げた。「タダ働きはごめんよ。私は慈善事業じゃない」

「もちろん、報酬はお支払いします」宅男は慌てて言った。

「いくら?」作良は即座に聞いた。

宅男は困った。具体的な金額など考えていなかった。

「その……」

「具体的な数字を言えないなら、帰って」作良は立ち上がった。「机上の空論に付き合ってる暇はないの」

「待ちなさい」秋奈が割り込んだ。「話はこれからよ」

「秋奈?」

「作良、あなたはいつも『大口の取引がしたい』って言ってるでしょ?」秋奈は商人らしい笑みを浮かべた。「これ以上の大口はないわよ」

「どういうこと?」

「政府よ」秋奈は説明した。「防衛省、自衛隊。国家予算が動く規模の話」

作良の目つきが変わった。

「本当?」

「この青年の話、すでに防衛省が調査を始めてるの」秋奈は続けた。「今のうちに協力しておけば、軍事技術の独占契約も夢じゃない」

作良は宅男を見直すような目をした。

「あんたが?」

「僕は何の力もありません」宅男は正直に答えた。「でも、必要な人たちを集めて、最適な役割を振り分けることはできます」

「役割?」

「はい」宅男は手帳を開いた。「氷川結さんは防御担当。斎藤勇さんは攻撃担当。そして、小林作良さんは生産・技術担当」

「私がね……」作良は考え込んだ。

「あなたの技術がなければ、作戦は成功しません」宅男は真剣に言った。「僕の策を、形にできるのはあなただけです」

作良は工房を見回した。確かに、彼女の技術は他に類を見ない。異世界の錬金術と現代技術を融合させたノウハウは、彼女だけが持っている。

「具体的には、どんなものを作ればいいの?」作良が質問した。

宅男の目が輝いた。

「まず、結界補強材。氷川結さんの結界を物理的に支える支柱のようなもの」

「可能ね」作良は頷いた。「魔力導体と金属フレームを組み合わせれば」

「次に、迎撃装置。ミサイルを破壊、または軌道変更させる装置」

「面白いわね」作良は興味を示した。「レーザー系?それとも物理衝撃系?」

「両方です」宅男は答えた。「複数のシステムを組み合わせた多段階迎撃」

作良の瞳が生き生きとしてきた。技術者としての血が騒いでいるのが分かる。

「でも、問題は時間よ」作良は現実的な問題を指摘した。「そんな複雑なシステム、普通なら数ヶ月はかかる」

「どのくらいでできますか?」宅男が聞いた。

「試作品レベルなら……」作良は計算した。「三日。でも、完璧なものは無理よ」

「試作品で十分です」宅男は断言した。「完璧である必要はありません。機能すればいいんです」

「本気なのね、あんた」作良は感心した。

「はい」宅男は頷いた。「この国を救いたいんです」

作良は長い間考えていた。秋奈が横で期待のまなざしを送っている。

「分かったわ」作良は最終的に決断した。「やってみる」

「本当ですか?」宅男は喜んだ。

「ただし、条件がある」作良は指を立てた。「第一、材料費は前払い。第二、政府との取引は私も同席。第三、技術的な判断は私に任せること」

「分かりました」宅男は即答した。

「それから」作良は宅男を見詰めた。「あんたの『策』、本当に実現可能なの?」

「分かりません」宅男は正直に答えた。「でも、やってみる価値はあると思います」

作良は小さく笑った。

「面白い答えね。普通は『絶対成功する』とか言うものよ」

「嘘はつけません」宅男は答えた。「でも、最善は尽くします」

「気に入ったわ」作良は作業台から立ち上がった。「私の手で、あんたの策を形にしてあげる」

作良は工房の奥から、設計図用の大きな紙を持ってきた。

「じゃあ、詳細を教えなさい。結界補強材の仕様は?迎撃装置の出力は?設置場所の制約は?」

宅男は手帳を開いて、今まで考えてきたアイデアを説明し始めた。作良は専門知識を駆使して、それを技術的に実現可能な形に修正していく。

森下はその様子を見ながら、感心していた。

「宅男さん、すごいじゃないですか」

「え?」

「人を動かす力ですよ」森下は説明した。「氷川結さん、斎藤勇さん、そして小林作良さん。みんな、最初は協力を拒んでいたのに、結局あなたの話を聞いてくれている」

「僕は何もしてませんよ」宅男は謙遜した。

「それが力なんです」森下は断言した。「リーダーシップです」

秋奈も頷いた。

「確かにね。最初はただのオタクかと思ったけど、人を説得する才能があるわ」

作良が設計図を完成させた。

「できたわ」彼女は満足そうに言った。「結界補強用のアンカーポイント。魔力増幅器付きの支柱システム。それと、レーザー誘導型迎撃装置」

図面には、複雑な機械構造と魔法紋様が組み合わさったシステムが描かれている。

「三日で試作品を完成させる」作良は宣言した。「ただし、テストは必要よ」

「もちろんです」宅男は頷いた。「氷川結さんや斎藤勇さんとも連携テストを行います」

「楽しみね」作良は機械仕掛けのアームに指示を出した。「久しぶりに、本気で作り甲斐のある仕事だわ」

工房に金属を加工する音が響き始めた。作良は既に作業に取り掛かっている。

「それじゃ、私たちは戻りましょう」秋奈が提案した。「作良は集中すると、他のことが見えなくなるから」

三人は工房を出た。外は既に夜になっている。

「三人目ですね」森下が言った。

「はい」宅男は手帳に記入した。「防御の結さん、攻撃の勇さん、そして生産の作良さん」

「順調ね」秋奈は満足そうだった。「でも、まだ足りないでしょ?」

「そうですね」宅男は考えた。「空戦担当、諜報担当、それに兵站管理……まだまだ必要です」

「時間はある?」森下が心配した。

「あと四日」宅男は空を見上げた。「でも、必ず間に合わせます」

工房の中では、作良が夜を徹して作業を続けていた。機械の音と魔法の光が、薄暗い倉庫街を照らしている。

「面白くなってきたじゃない」作良は独り言をつぶやいた。

彼女の手が、宅男の策を現実の形にしていく。それは、日本を救うための第一歩だった。

第8話 終わり
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