オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第5章:迎撃作戦―準備編

第21話「衛星画像の解析」

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深夜の統合作戦室は、まるで船の機関室のような唸り声に満たされていた。仮設サーバーの冷却ファンが回転し、モニター列が青白い光を放っている。散らばった紙地図の上には、コーヒーカップと計算尺、赤いペンで引かれた無数の線が交錯していた。窓の外では雨が降り続き、時折遠雷が空を震わせている。

間二屋宅男は中央の卓に立ち、手にしたノートを見つめていた。発射拠点の特定。これまで集めてきた情報の断片を、ひとつの結論へと導かなければならない。

「データを持ち寄りましょう」宅男が声をかけると、箱根秋奈と米田美咲が資料を抱えて近づいてきた。

秋奈がアイテムボックスから膨大なファイルを取り出す。見た目以上の容量から次々と現れる資料に、もはや誰も驚かない。

「港湾物流の異常パターンを三日分まとめました」秋奈が地図の上に書類を広げる。「スロットのキャンセルと即時再予約、トレーサビリティの空白時間、そして使われていなかった倉庫番号の急な復活。数字は嘘をつきません」

米田が操作盤を叩き、メインモニターに衛星画像を表示した。

「こちらはIR画像とSAR解析の結果です。点在する微小熱源が呼吸のように同期している箇所、屋根材の再塗装痕、雨天時の反射ノイズの差異を検出しました」

宅男はノートを開き、手順を確認した。

「照合の手順です。合図、実施、復唱、停止。秋奈さんの物流データと米田さんの衛星データを相互照合し、候補地を絞り込みます」

「了解」秋奈と米田が同時に答える。

作業が始まった。秋奈は港湾ログを読み上げ、米田は熱源分布図を更新していく。二つの異なるデータソースが交差する地点で、不自然なパターンが浮かび上がってくる。

「候補地を三つに絞れました」宅男が地図に印をつけながら発表した。

「A地点、港湾倉庫群。熱源の増大が顕著ですが、貨物動線は比較的正規に近い」

米田が衛星画像を拡大表示する。倉庫群の屋根から立ち上る熱源が、規則正しく点滅している。

「B地点、内陸の廃工業団地。夜間のみ活性化し、搬入ログはあるが搬出ログが存在しない」

秋奈が物流データを指差した。深夜の時間帯だけ、大型車両の出入りが集中している。

「C地点、山中の施設。電波沈黙が完璧すぎて、古典的な偽装の可能性あり」

早川修一が資料を確認しながら口を開いた。

「どの候補地も一長一短ですね。決定打に欠ける」

その時、作戦室の隅から声が聞こえた。根黒凪が影から姿を現し、不安そうな表情を浮かべている。

「風の向きが変わった」

「何ですか?」宅男が尋ねる。

「影が、巻かれている」凪が地図のB地点を見つめる。「画面には映らない冷たい沈みを感じる」

米田が眉をひそめた。

「具体的には?」

「白影の気配よ」凪の声に緊張が混じる。「あの男の魔術が、B地点周辺に漂っている」

白影。黒幕として名前だけ聞いていた存在が、初めて明確に言及された。宅男は背筋に冷たいものを感じた。

秋奈が物流データを再確認しながら発言した。

「数字の観点から言えば、B地点の金の流れが最も不自然です。深夜だけの活動、搬入のみで搬出なし、そして使用電力量の異常な増大」

米田が反論する。

「しかし衛星データは明確にA地点の熱源増大を示しています。熱の癖は誤魔化せません。B地点の熱源は相対的に小さい」

「でも私の感覚では—」凪が割り込もうとする。

「感覚では証明になりません」米田がきっぱりと言う。

秋奈も負けじと応戦した。

「衛星だって万能じゃない。地下施設や遮蔽された熱源は検出できないでしょう」

「技術的限界はありますが、現在得られる最も客観的なデータです」

二人の対立が激しくなる中、早川が手を挙げて仲裁に入った。

「お二人とも、冷静になってください。最終判断は宅男さんに委ねましょう」

全員の視線が宅男に集中した。A地点を支持する衛星データ、B地点を指す物流データ、そして凪の直感的な警告。どれも説得力があり、どれも決定的な証拠に欠けている。

宅男は深呼吸をして、ノートに書かれた「優先度:命の線→迎撃線→補給線」を見つめた。

「同時に正しい可能性があります」

「同時に?」秋奈が聞き返す。

「A地点は陽動と広域擾乱、B地点は実機搭載の最終組立、C地点は退避と予備発射。敵が複数の施設を並行運用している可能性です」

米田が納得したように頷く。

「なるほど、分散配置ですね」

「ただし」宅男が続ける。「限られたリソースで全てに対処するのは不可能です。優先度をつけて対応します」

宅男は地図上の三点を指差しながら説明した。

「B地点を主軸とします。凪さんの影監視と地上観測、人目に触れぬ方法で実態を掴んでください」

「了解」凪が頷く。

「A地点は龍一さんの高高度索敵で遠巻きに監視。米田さんのIR継続観測と組み合わせて、出港遅延の遅らせ策を検討してください」

「可能です」米田が答える。

「C地点は早川さん、地元警察との連携で薄く監視線を張り、不自然な静けさの検知のみ行ってください」

「承知しました」早川がメモを取る。

遠雷がまた響き、非常灯の赤い光が壁を照らした。壁の時計は午前二時を指している。時間は刻々と過ぎていく。

「停止語と退避方向の確認です」宅男が全員を見回す。「カット、右後方。これが安全網です」

「復唱」全員が答える。

その時、作戦室のドアが開いて小林作良が顔を出した。

「宅男さん、結界ブロックの量産についてですが」

「どうぞ」

「通常スケジュールでは間に合いません。前倒しが必要です」

宅男は即座に答えた。

「前倒しで構いません。必要な資源は確保します」

作良が工具箱を抱え直しながら続ける。

「それと、異世界素材の調達も急ぐ必要があります。エリスさんからの支援が期待できるなら」

「秋奈さん」宅男が振り返る。「夜間搬送の追加枠は確保できますか?」

「割増料金になりますが可能です」秋奈がアイテムボックスから手帳を取り出す。「ただし、ルートの変更が必要かもしれません」

「お任せします」

凪が影に沈む準備をしながら最後に言った。

「白影の名前、初めて口にしたわね」

「ええ」宅男が頷く。「もう隠している場合じゃありません」

「そうね。なら私も本気を出させてもらう」

凪が完全に影に溶けた後、作戦室には緊張した静寂が戻った。

米田が衛星画像を更新しながら報告する。

「A地点の熱源、さらに増大しています」

「B地点の物流動向は?」宅男が尋ねる。

秋奈が最新データを確認した。

「深夜の搬入が激化しています。明らかに何かの準備が進行中です」

「C地点の静けさは?」

早川が通信機を確認する。

「異常なし。静寂が続いています」

宅男はノートの最後のページに作戦概要を書き込んだ。

「全線で遅らせ、全線で掴む」

秋奈が手帳を閉じながら確認した。

「つまり、敵の準備を可能な限り遅らせつつ、真の発射拠点を特定するということですね」

「その通りです」宅男が答える。「時間を稼ぎながら、確実性を高める」

米田が新しい衛星画像を表示した。

「熱源分布が変化しています。何らかの活動が活発化している模様」

「予想通りです」宅男が冷静に分析する。「敵も時間に追われている。だからこそ、隙が生まれる」

早川が資料をまとめながら立ち上がった。

「それでは、各自持ち場につきましょう。連絡体制は随時確認します」

作戦室から人影が消えていく中、宅男は一人残ってデータを見つめ続けた。A、B、C三地点の監視網、結界ブロックの量産前倒し、搬送ルートの確保。すべてが同時進行で動き出している。

外では雨が激しさを増していた。雷鳴が遠くから響き、非常灯の赤い光が不規則に明滅する。しかし、作戦室内では冷静な分析と判断が続けられている。

宅男は手帳を閉じ、最後の確認を行った。B地点を主軸とした監視網、A地点の遅延工作、C地点の静寂監視。そして結界素材の量産と搬送体制の強化。

白影という黒幕の存在が明確になったことで、戦いの構図がはっきりした。単なる核ミサイル迎撃ではなく、異世界の魔術師との対決でもある。

「誰も切り捨てない」

宅男は小さく呟いた。複雑化する状況の中でも、この原則だけは曲げられない。七人全員で戦い、七人全員で勝利を掴む。

モニターに表示された衛星画像では、三つの候補地それぞれで異なる動きが観測されている。真の発射拠点はどこなのか。白影の本拠地はB地点なのか。すべての答えは、これから始まる監視と分析の結果次第だ。

宅男は作戦室を出て、嵐の夜に向かった。時間との勝負が始まっている。敵の準備が完了する前に、迎撃体制を整えなければならない。そのために必要な情報は、必ず掴んで見せる。

第21話 終わり
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