オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

文字の大きさ
33 / 50
第7章:迎撃作戦―実行編Ⅱ

第33話「結界ホールド」

しおりを挟む
聖剣の一閃が成功した直後、東京上空に細かい破片の雨が降り始めた。ミサイルは安全に分断されたものの、その衝撃波と微小な金属片が都市全体に散らばっている。氷川結は新宿の高層ビル屋上で、額に汗を浮かべながら広域結界の再編に取り組んでいた。

「プロトコル確認」宅男の声が無線に響く。疲労が蓄積しているが、声に迷いはない。

「停止語は?」

「カット」結が答える。呼吸が浅くなっているが、意識ははっきりしている。

「退避方向は?」

「右後方」作良が応える。端末の数値を見つめながら、同調装置の再調整を続けている。

「第三者接近時は?」

「即停止」秋奈が言う。アイテムボックスから予備の触媒を取り出しながら、次の補給ポイントを確認している。

結は深呼吸をして、これまでとは異なる結界の構造を思い描いた。広域を均一に覆うのではなく、六角形の面で分節化する蜂巣構造。一つ一つの六角が面で衝撃を受け、縁で流し、芯で冷却する循環システム。

「蜂巣への再編、開始」結が宣言する。

氷精たちが一斉に動き、結界の構造を組み替え始める。青白い光の網が六角形のパターンに変化し、まるで巨大なハニカム構造が都市を覆うように見える。

「面受け、縁流し、芯冷却」結が呟きながら魔力を注ぎ込む。

各六角の面が衝撃を受け止め、縁部分でエネルギーを逃がし、中心部で熱を冷却する。従来の均一結界よりも複雑だが、局所的な負荷を分散できる構造だった。

「同調にズレが出てます」作良が警告する。「位相が±0.8度ずれてる。触媒の配列を外周から内周に再配分します」

小林作良は各ノードの触媒配置を見直し、魔力の流れを最適化していく。外周に配置していた大型触媒を内周に移し、エネルギーの伝達効率を向上させる。

「配列変更、完了」作良が報告する。「位相ズレ、±0.2度まで改善」

しかし、各ノードでは様々な問題が発生していた。電源不足、同調のズレ、避難民の流れによる人流混雑。それぞれが結界の安定性を脅かしている。

箱根秋奈は都内各所を駆け回り、緊急補給を続けていた。裏搬入口、屋上ヘリポート、貨物用リフト。あらゆるルートを使って燃料、予備触媒、ケーブルを運び込む。

「補給ライン、維持中」秋奈が報告する。「でも、この消耗ペースは長続きしない」

米田美咲は安全回廊の確保に奔走していた。避難民の流れを整理し、医療搬送の通路を確保し、混乱を最小限に抑える。

「避難経路、確保済み」米田が報告する。「医療搬送も順調です」

その時、結界の一部で異常な振動が発生した。白影の逆共振の残響が、まだ各ノードに残っているのだ。

「逆共振の棘、再燃」作良が警告する。「複数ポイントで同時発生」

根黒凪は影を操り、隠された送信機の位置を特定していく。非常階段の影、機械室の隅、換気ダクトの奥。白影が仕掛けた小型の妨害装置を一つずつ摘出していく。

「送信機三基、摘出」凪が報告する。「でも、まだあるかもしれない」

同時に、都市の各所で小さな事故が発生し始めた。飛散した金属片が足場を直撃し、倒壊しかける構造物。強風で舞い上がった煙と粉じん。

斎藤勇は不可視の聖剣を使い、落下物を最小限の介入で処理していく。点で突くのではなく、面で受けて流す。エネルギーを逸らし、被害を無傷化する。

「面受け、継続中」勇が短く報告する。

赤城龍一とミニドラゴンのシルフは上空で乱流を整形し、煙と粉じんを押し流していく。縦列飛行から平行飛行に切り替え、層流を作って大気を安定させる。

「風整形、完了」龍一が報告する。「視界、改善中」

宅男は各ノードの状況を監視しながら、三語以内の短い指示で負荷を再配分していく。

「維持、いま、集中」

「供給、北面、優先」

「負荷、分散、継続」

声は疲れているが、指示は的確だった。

結は蜂巣構造の結界を維持しながら、自分の限界と向き合っていた。身体の痛み、魔力の枯渇、精神的な疲労。全てが限界に近づいている。

しかし、その痛みの向こうに、新しい感覚が芽生えていた。守られる側の弱さを守る強さ。力のない者を支える責任。それが彼女を支えている。

「まだ、いける」結が呟く。氷精たちが彼女の意志に応え、蜂巣構造をより安定させていく。

避難所では、人々が青白い天井を見上げていた。複雑な六角形のパターンが美しく、まるで天然の結晶のように見える。

「きれいですね」避難民の一人が呟く。

「私たちを守ってくれてるんです」別の人が答える。

森下優斗が実況を続けている。「現在、東京上空の防護システムが正常に機能しています。いま、持ちこたえています」

作良の端末に表示される数値が徐々に改善していく。振動RMSが2.1から0.9に低下し、温度が上皿38度から33度まで下がる。

「数値、安全域に復帰」作良が安堵の息を吐く。

結界の各部分が安定し、二次被害の発生が完全に止まった。微小破片は全て無害化され、衝撃波は蜂巣構造で吸収され、火災の危険も消失した。

「二次被害ゼロ、達成」米田が正式に報告する。

都市に短い静寂が訪れる。結界は青白い輝きを保ち、街の人々は安全な場所で静かに過ごしている。

しかし、結の消耗は深刻だった。蜂巣構造の維持は予想以上に魔力を消費し、彼女の限界は近づいている。

「結、大丈夫か?」宅男が心配そうに問う。

「まだ、少しなら」結が答えるが、声に疲労が滲んでいる。

作良が端末の数値を確認する。「魔力の消耗率、予想の1.5倍。このペースだと、あと30分で限界です」

秋奈も厳しい表情を見せる。「予備の触媒も底をつく。外部からの供給が必要」

宅男は状況を整理した。聖剣の一閃と結界ホールドで、第一段階の危機は乗り越えた。しかし、蓄積した消耗は深刻で、次の攻撃に耐えられるかは分からない。

「外部からの魔力供給を要請する」宅男が決断する。「エリスに連絡を」

早川修一が頷く。「異世界との通信回線、開きます」

結は蜂巣構造の結界を維持しながら、仲間たちの支えを実感していた。一人では絶対に無理だった。みんなの力があるからこそ、この強さを維持できる。

「みんな、ありがとう」結が小さく呟く。

氷精たちが彼女の周りで舞い踊り、疲労を癒すように優しく光っている。

結界ホールドは成功した。二次被害は完全に阻止され、都市の安全は確保された。しかし、戦いはまだ続く。次の段階では、外部からの魔力供給が必要不可欠だった。

東京上空の蜂巣構造は、夕日を受けて虹色に輝いている。美しく、強く、そして儚い光だった。

第33話 終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...