オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

文字の大きさ
49 / 50
第10章:エピローグと余波

第49話「絆の継続」

しおりを挟む
白影との戦いから一か月が経った。東京の街には復旧の槌音が響き、人々の顔にも少しずつ日常が戻ってきていた。間二屋宅男は自宅の小さな書斎で、手帳を開いてペンを走らせていた。

「週次点検、即応三名、退避右後方」

Gatewatchの通信網を正式化するためのルールを整理している。戦闘時の最小プロトコルは、日常の監視活動にも応用できた。シンプルで確実、誰でも覚えられる体系。

携帯が鳴り、氷川結からの連絡だった。

「宅男、避難所の様子を報告します。今日も保護膜を張りました」

結は北区の避難所で、相変わらず生活インフラとしての魔法を提供していた。戦闘用の結界から転用した保護膜は、冷暖房の補助として機能している。

「みなさん、本当に喜んでくださって。おばあちゃんが『魔法みたいね』って笑ってくれました」

結の声は明るかった。戦いの時とは違う、穏やかな達成感がある。

「公に認められなくても、こうして直接感謝されると、やっぱり嬉しいですね」

宅男も微笑んだ。

「それが一番大切なことだよ。週次点検、了解した」

通信を切って、宅男は次の連絡を待った。

斎藤勇からの報告は、いつものように軽妙だった。

「今日は瓦礫処理の現場で子どもたちと話した。『おじさん、強いの?』って聞かれたから、『勇者試験、落ちたんだぞ』って答えたら大爆笑された」

勇の声には笑いが混じっている。

「勇者に選ばれなかった俺の方が、案外子どもにはウケるみたいだ。『じゃあ僕でも勇者になれる?』って言われて、『君の方がなれそうだな』って答えたら、すごく嬉しそうにしてた」

挫折を笑いに変える技術。それも勇らしい戦い方だった。

「即応要員として待機してる。何かあったら呼んでくれ」

小林作良は病院からの連絡だった。

「宅男、後輩たちに図面を渡してきた。『次は君らがやれ』って言ったら、みんな燃えてた」

作良の声には満足感があった。

「技術は人から人へ伝わるもの。私一人が抱え込むより、みんなで共有した方がいい」

病床での指導は続いているが、次世代への橋渡しも始まっていた。

「復帰まではもう少しかかるけど、設計だけなら問題なくできる。遠慮なく頼んで」

赤城龍一は復旧現場からの連絡だった。背景に重機の音が聞こえる。

「今日はシルフと一緒に瓦礫をどかした。みんなから拍手をもらったぞ」

龍一の声は嬉しそうだった。

「竜の力って、戦う時だけじゃなくて、こういう時にも役立つんだな。シルフも嬉しそうにしてる」

派手な戦闘から地道な復旧作業へ。龍一にとっても新しい経験だった。

「明日も現場に出る。何か異常があったら、すぐに駆けつける」

根黒凪からの報告は、いつものように簡潔だった。

「遺留品を三件返した。みんな泣いて喜んでくれた」

凪の声は感情を抑えているが、満足感がにじんでいた。

「『ありがとうございます』って何度も頭を下げられて、正直戸惑った。でも、悪い気分じゃない」

チームを信じることを覚えた凪にとって、市民からの感謝は新鮮な体験だった。

「影で動くのは慣れてるから、監視活動は得意分野だ」

箱根秋奈は物流センターから連絡してきた。

「今日も物資の再配分をやった。『損を覚悟すれば回る』って、最近の口癖になってる」

秋奈の声には新しい価値観が反映されていた。

「利益より持続。これが私の新しいビジネスモデルかもね。意外と手応えがある」

金銭的な損失を受け入れることで、かえって信頼と協力を得られている。

「物資の流れで異常を感知するのは得意。何かあったら報告する」

政府サイドからは、早川修一と米田美咲が非公式な協力を続けていた。

「記録に残らない協力、了解しました」

早川の声は慎重だったが、確固たる意志があった。

「政府として公式に認めることはできませんが、個人として支援します」

米田も同様の立場だった。

「部隊としては関与できませんが、個人の判断として協力します。安全確保は任せてください」

森下優斗は報道の枠を超えた活動を始めていた。

「『無名の誰かが守った』という記事を仕込んだ。直接的な表現は避けたが、読む人にはわかるようにした」

ジャーナリストとしての良心と、真実を伝える使命感のバランスを取っている。

「匿名の英雄譚。これが俺の新しいテーマかもしれない」

高野彩乃からは、SNSでの活動報告があった。

「匿名アカウントを作って、感謝のメッセージを拡散してます。『見えない守護者たちへ』というハッシュタグが広がってます」

彩乃の活動は市民レベルでの支持基盤を作っていた。

「みんな、本当は気づいてるんです。誰かが守ってくれたって。それを言葉にする場所が欲しかっただけ」

各地からの報告を受けて、宅男は通信網の全体像を確認した。戦闘チームから監視ネットワークへの転換は順調に進んでいる。

夕方になって、宅男は仲間たちに一斉連絡を送った。

「週次点検完了。全員の安全と活動継続を確認。次回は来週同時刻」

短いメッセージだが、絆を確認する重要な儀式だった。

夜になって、宅男は一人で街を歩いた。復旧の進む東京を眺めながら、この一か月を振り返っている。

商店街では、シャッターが上がり始めた店もある。避難所では、仮設住宅への移転が進んでいる。人々の表情も明るくなってきた。

街角で、若い母親が幼い子どもに話しかけているのが聞こえた。

「大丈夫よ。見えないところで、誰かが守ってくれてるから」

宅男は立ち止まった。公式には認められない活動だが、確実に人々の心に届いている。

自宅に戻って、宅男は手帳を開いた。新しいページに、今日の感想を書き留める。

「匿名の絆」

短い言葉だが、すべてを表現していた。名前も知られず、記録にも残らない。それでも確実に存在する絆。

宅男は手帳を閉じて、窓の外を見た。東京の夜景が静かに光っている。どこかで仲間たちも同じ空を見上げているだろう。

結は避難所で、明日の保護膜の準備をしている。勇は自宅で、子どもたちからもらった手紙を読み返している。作良は病室で、新しい設計図を描いている。龍一はシルフと一緒に、明日の作業計画を立てている。凪は夜の街を巡回し、異常がないか確認している。秋奈は物流データを分析し、明日の配分を計算している。

みんな、それぞれの場所で、それぞれの方法で、街と人々を守っている。

携帯が鳴り、彩乃からのメッセージが届いた。

「今日のハッシュタグ、一万件を超えました。みんな、感謝してます」

宅男は微笑んだ。数字では測れない価値がある。それが彼らの戦いの意味だった。

翌朝、宅男は新しい一日を迎えた。Gatewatchの活動は続いている。門の監視、市民の支援、絆の維持。それが彼らの新しい使命だった。

戦いは終わったが、守るべきものは残っている。人々の笑顔、日常の平和、見えない絆。それらを守り続けることが、本当の勝利なのかもしれない。

宅男は手帳を開き、今日のスケジュールを確認した。平凡な一日の始まり。でも、その平凡さの中に、確かな意味がある。

誰に知られなくても、この線をつなぎ続けよう。それが彼らの誓いだった。

匿名の英雄たちの物語は、静かに続いている。

第49話 終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

処理中です...