オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第10章:エピローグと余波

最終話「ラノベ脳、再び走る」

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静かな朝だった。間二屋宅男は狭いアパートの机で、Gatewatchのダッシュボードを眺めていた。地図上に散らばる微弱な点滅が、昨夜よりも少し増えているように見える。

「週次点検、三名即応、退避右後方」

宅男は小さくつぶやいて、無線のスイッチを切った。最小プロトコルは今日も生きている。戦闘時のルールが日常の監視に馴染み、仲間たちを支える骨格になっていた。

手帳を開き、昨日までの報告を確認する。結は避難所で保温膜の運用を続けており、勇は復旧現場で子どもたちと交流している。作良は病床から若手技術者への指導を続け、龍一は瓦礫処理と空中監視を両立させていた。凪は遺留品の返還と残滓の封止を静かに進め、秋奈は赤字覚悟の物流管理を回している。

どれも地味な活動だが、確実に街と人々を支えている。公式記録には残らない仕事。それでも意味がある。

午前中、氷川結から短い連絡があった。

「体育館の保温膜、順調です。今日は湯気のように温度が行き渡って、みんな喜んでくれました」

結の声は穏やかだった。戦闘用の結界から転用した生活魔法は、日常に馴染んでいる。

「おばあちゃんが『魔法使いさん』って呼んでくれるんです。照れちゃいますけど、悪い気分じゃありません」

弱さを守る強さ。それが日常の中で花開いている。

昼過ぎ、斎藤勇からも報告があった。

「今日は面受けの手を子どもに教えた。『危ないものが飛んできたら、こうやって手を出すんだ』って」

勇の声には笑いが混じっていた。

「『勇者のおじさんすごい』って言われて照れた。勇者じゃないんだけどな」

挫折を笑いに変える技術。それも勇らしい戦い方だった。

小林作良からは、病室での指導報告が届いた。

「手描きの配線図を三枚渡しました。『復唱してみて』って言ったら、みんな真剣に覚えてくれて」

作良の声には満足感があった。

「技術は人から人へ。私一人が抱え込むより、みんなで共有した方がずっといい」

知識の継承。それが彼女なりの戦いの続け方だった。

赤城龍一は空からの報告だった。

「シルフと低空の層流を作ってる。空のしわを撫でるような感じで飛んでると、街全体が見えて気持ちいい」

龍一の声は明るかった。

「瓦礫処理も空中監視も、どっちも大切な仕事だからな。シルフも張り切ってる」

風の面で街の上に新しい通り道を描く。それが彼らの空中作業だった。

根黒凪からは簡潔な報告があった。

「残滓袋を三つ封じた。遺留品も二件返した」

凪の声は相変わらず感情を抑えているが、充実感がにじんでいた。

「影で動くのは慣れてるから、この仕事は性に合ってる」

静かな封止作業。それが彼女の日常になっていた。

箱根秋奈からは物流状況の報告があった。

「台帳に赤い線を引きながら倉庫の鍵を開けてる。赤字覚悟だけど、回る算段は見えてきた」

秋奈の声には新しい手応いがあった。

「持続可能な帳尻。それが私の新しい商売のやり方かもね」

利益を超えた価値。それを彼女なりに模索していた。

早川修一と米田美咲からも、記録に残らない協力の継続が報告された。森下優斗は記事の行間に無名の守り手の物語を忍ばせ続けていた。高野彩乃は匿名アカウントで定時巡回レポートを続け、人々の小さな不安を受け止めている。

みんな、それぞれの場所で、それぞれのやり方で線をつないでいる。

夕方になって、宅男は一人で窓の外を眺めた。東京の空に薄い雲が浮かんでいる。復旧現場の音が遠くから聞こえてくるが、街は確実に日常を取り戻している。

匿名の火種が各地で燃えている。森下の短いコラムを読んだ人が希望を感じ、彩乃の巡回レポートを見た人が安心する。早川と米田の「紙が力になる」瞬間が、現場を支えている。

目に見えない線。でも確実に存在する絆。それが今の彼らの力だった。

夜更け、宅男は手帳を整理していた。Gatewatchの活動記録、各地の状況報告、次週の予定。すべてが順調に推移している。

午前零時を回った頃、端末に古い短波のような音階が響いた。宅男は身を起こした。エリスからの通信だろうか。

画面に文字が浮かび上がる。送信者の表示は「G.S.」。ガルド・ストームブリンガーからの電文だった。

「援軍要請。境界のほつれ増大。座標添付」

簡潔な本文の後に、いくつかの座標データが続いた。そして最後に、エリスの符丁に似た追記があった。

「星座は崩れても、道は残る。E.R.」

エリスからのメッセージも含まれていた。異世界で何かが起きている。そして、再び協力が必要な状況になっているようだった。

宅男は深呼吸をした。静かな日常が再び揺らぐ可能性がある。でも、今度は準備ができている。仲間がいて、システムがあって、市民の支持もある。

「行けるかじゃない。行く方法を書く」

宅男は手帳の新しいページを開いた。ペンを走らせて、新しい章の最初の行を記す。

「誰も切り捨てない」

次の行に続ける。

「段打ちで開路」

三行目を加える。

「門は閉じずに管理」

これが次の戦いの指針だった。前回の教訓を活かし、より良い方法を見つける。それがライトノベル脳の真骨頂だった。

窓の外で雲が割れ、月光が差し込んだ。同時に、Gatewatchの地図上で微弱な点滅が一瞬だけ揃った。まるで何かの合図のように。

宅男はノートを軽く叩いた。ラノベ脳のスイッチが入る音だった。

新しい物語が始まろうとしている。今度はもっと準備ができている。仲間との絆も深まり、市民との信頼関係も築けている。何より、誰も切り捨てない戦い方を学んでいる。

携帯が鳴り、結からの連絡だった。

「宅男、空の様子が変ですね。何か感じませんか?」

「感じてる。みんなに連絡してくれ。非常時プロトコルに移行する」

「了解しました。三名即応、退避右後方」

結の復唱が心強かった。最小プロトコルは今夜も生きている。

次々と仲間からの連絡が入った。勇、作良、龍一、凪、秋奈。みんな空の変化を感じ取っていた。Gatewatchのシステムが機能している証拠だった。

宅男は手帳のページをめくった。新しい章の始まり。今度はもっと良い結末を書ける。そんな確信があった。

午前三時、地図上の点滅が完全に同期した。各地で門の揺らぎが活性化している。でも、今度は監視網がある。即座に対応できる体制がある。

「みんな、準備はいいか」

宅男の問いかけに、一斉に返事が返ってきた。

「いつでも」

仲間たちの声に迷いはなかった。

宅男はノートを閉じ、立ち上がった。新しい戦いが始まる。でも、今度は一人じゃない。匿名の絆で結ばれた仲間がいる。市民の支持がある。システムがある。

ライトノベル脳、再び走る。

今度は必ず、誰も切り捨てずに勝利する。それが彼らの新しい物語だった。

窓の外で夜明けが近づいていた。新しい日、新しい戦い、新しい希望。すべてが始まろうとしている。

宅男は微笑んだ。続編の始まりだ。今度はもっと面白い物語になる。そんな予感があった。


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