追放されたJR職員ですが、異世界で救援列車を無双運行して英雄になりました

K2画家・唯

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第24章 磔状態の大博打

第24章 磔状態の大博打

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聖鉄連節車両が王宮前広場に停車した瞬間、勇樹は信じられない光景を目の当たりにした。

車両の後部、17号車と18号車の連結部付近で、崩れた建物の瓦礫が線路を塞いでいた。そしてその瓦礫の隙間から、か細い子供たちの声が聞こえてくる。

「お母さん!」

「助けて!」

「怖いよ!」

ミナの鋭い聴覚が状況を正確に把握した。

「瓦礫の下に子供たちが4人います。年齢は5歳から8歳くらい。みんな生きていますが、瓦礫が重くて自力では脱出できません」

アルテミスが古代のアーティファクトで構造を分析した。

「建物の残骸が複雑に絡み合っています。通常の方法で瓦礫を除去すると、さらなる崩落を招く危険があります」

リリアは魔導蒸気で周囲の状況を調査していた。

「周辺の魔王軍兵士が気づいています。あと2分もすれば、この場所も攻撃対象になるでしょう」

勇樹の胸が締め付けられた。5,000人の避難民は無事に救出したが、まだ4人の子供たちが取り残されている。JR九州で働いていた頃の信念が蘇ってくる。「乗客を一人も置き去りにしない」。それが運転士としての絶対的な掟だった。

しかし状況は絶望的だった。瓦礫の除去には時間がかかる。魔王軍の攻撃は迫っている。そして何より、聖鉄連節車両に乗車している5,000人の避難民の安全も考えなければならない。

「勇樹さん」リリアが心配そうに声をかけた。「時間がありません。このままでは……」

勇樹は深く息を吸い込んだ。頭の中で【緊急運行】が様々な選択肢を計算している。しかし、どの選択肢も一長一短があった。

その時、勇樹の脳裏に一つの奇策が浮かんだ。それは常識を遥かに超えた、まさに「大博打」とも呼べる作戦だった。

「みんな、聞いてくれ」勇樹は振り返って仲間たちを見つめた。「俺には一つ、方法がある」

「どんな方法ですか?」ミナが身を乗り出した。

勇樹は車両を指差した。

「聖鉄連節車両を一時的に磔状態にする」

仲間たちの表情が凍りついた。

「磔状態って……まさか」アルテミスが息を呑んだ。

「そうだ」勇樹の瞳に強い決意が宿っていた。「列車を完全に固定し、動けない状態にする。その間に子供たちを救出する」

リリアが震え声で言った。

「でも、それでは列車が敵の格好の攻撃目標になってしまいます。避難民の皆さんが危険に……」

「だからこそ大博打なんだ」勇樹は覚悟を込めて答えた。「【乗客保護】を最大限に拡張し、車両全体を完全防御する。その間に、お前たちが子供たちを救出する」

ミナが前に出た。

「危険すぎます。もし【乗客保護】が破られたら、5,000人全員が」

「破らせない」勇樹の声に迷いはなかった。「俺は絶対に、この車両に乗っている全ての命を守り抜く」

ガンドルフが重い口を開いた。

「理屈は分かる。しかし、お前一人でそれほどの負荷に耐えられるのか?」

勇樹は自分の手を見つめた。先ほどの王都救援作戦で、既にかなりの精神力を消耗している。【緊急運行】と【乗客保護】の同時使用は、彼の限界を超えた負担を強いるだろう。

しかし、瓦礫の下から聞こえてくる子供たちの泣き声が、彼の決意を固めた。

「やるしかない」勇樹は仲間たちを見回した。「俺一人の命と、4人の子供たちの命。どちらが重いかなんて、考える必要もない」

その時、車両内から避難民の声が聞こえてきた。

「機関士さん、どうしたんですか?」

「まだ出発しないんですか?」

不安そうな声々が勇樹の耳に届く。5,000人の人々が、彼の判断を信じて待っている。

勇樹は車両の乗客に向かって声をかけた。

「皆さん、申し訳ありません。まだ救うべき人がいます。少しの間、お待ちください」

その声を聞いた避難民たちの間に、静かなざわめきが広がった。しかしやがて、一人の老人が声を上げた。

「分かった。私たちも待とう」

「そうだ、最後の一人まで救うのが筋というものだ」

「子供たちが取り残されているなら、当然だ」

避難民たちの理解と支持が、勇樹の心を強くした。彼らもまた、見捨てられることの辛さを知っているのだ。

「ありがとうございます」勇樹は深く頭を下げた。

そして仲間たちに向き直った。

「作戦開始だ。リリア、魔導蒸気で車両の固定装置を作れるか?」

「やってみます」リリアは既に蒸気エネルギーを集中させていた。「古代技術と組み合わせれば、一時的な固定は可能です」

「ミナ、瓦礫の除去作業を頼む。君の俊敏性と力が頼りだ」

「了解しました」ミナは既に戦闘態勢に入っていた。「必ず子供たちを救い出します」

「アルテミス、古代技術で構造解析を続けてくれ。安全な救出ルートの算出が必要だ」

「承知いたしました」アルテミスは複数のアーティファクトを起動した。

「ガンドルフは?」

ドワーフの鍛冶師は既に特殊な工具を用意していた。

「わしは車両の構造強化を担当する。磔状態でも車両が損傷しないよう、応急的な補強を施そう」

勇樹は深く頷いた。

「それじゃあ、始めるぞ」

彼は【鉄道召喚】のスキルで聖鉄連節車両の制御権を完全に掌握した。通常なら動的バランスを保って走行する車両を、完全に静止させる。それはまさに列車を「磔」にするような状態だった。

リリアが魔導蒸気を車両の下部に向けて放った。蒸気が結晶化し、車両の車輪を地面に固定する装置が形成される。

「固定装置完成」リリアの声に緊張が込められていた。「ただし、この状態では車両は全く動けません」

ガンドルフが車両の各部を補強し始めた。磔状態での攻撃に耐えられるよう、構造的な強度を向上させる。

「補強作業開始」ガンドルフの手際は流石だった。「あと3分で完了だ」

アルテミスは古代のアーティファクトで瓦礫の構造を詳細に分析していた。

「救出ルート算出中」アルテミスの瞳が光った。「最適経路を発見しました。南東の角度から侵入すれば、崩落のリスクを最小限に抑えられます」

そしてミナは、既に瓦礫の山に向かって駆け出していた。

「行きます!」

しかしその瞬間、魔王軍の斥候が聖鉄連節車両の異常に気づいた。

「列車が動かなくなったぞ!」

「今がチャンスだ! 総攻撃を仕掛けろ!」

王宮前広場の四方から、魔王軍の兵士たちが一斉に攻撃を開始した。重装甲兵の突撃、魔法攻撃部隊の集中砲火、空からは飛竜部隊の急降下攻撃。あらゆる方向から攻撃が降り注いだ。

勇樹は【乗客保護】を最大出力で発動した。

「【乗客保護】全開! 5,000人全員を守る!」

光のバリアが聖鉄連節車両全体を包み込んだ。それは今まで彼が展開したどのシールドよりも巨大で、強固で、美しかった。

敵の攻撃がシールドにぶつかり、まばゆい閃光が広場を照らした。しかしバリアは微動だにしない。勇樹の意志の力が、物理法則を超えた防御を実現している。

「すごい」車両内の避難民たちが歓声を上げた。「本当に守ってくれている」

しかし勇樹の表情は険しかった。【乗客保護】の最大出力維持は、想像以上の精神的負担を強いている。額に汗が浮かび、呼吸が荒くなっていく。

「勇樹さん!」リリアが心配そうに声をかけた。

「大丈夫だ」勇樹は歯を食いしばった。「この程度で倒れるわけにはいかない」

一方、ミナは瓦礫の山で奮闘していた。狼族の爪で石塊を砕き、俊敏な動きで崩落を回避しながら、子供たちに近づいていく。

「もう少しよ」ミナは瓦礫の隙間に向かって声をかけた。「お姉ちゃんがすぐに助けに行くからね」

「お姉ちゃん?」子供の声が聞こえた。

「そうよ。みんなを安全な場所に連れて行ってあげる」

しかし瓦礫の除去は困難を極めていた。一つの石を動かすと、別の場所で崩落が始まる。まるでジェンガのような危険なバランスの上で作業を続けなければならない。

「アルテミス、もっと詳細な構造解析を!」ミナが叫んだ。

「やっています」アルテミスは汗をかきながら複数のアーティファクトを同時操作していた。「あと少しで、完全に安全なルートが……」

その時、魔王軍の攻撃が激化した。動かない標的と分かった敵軍が、総力を挙げて聖鉄連節車両を攻撃してくる。

勇樹の【乗客保護】シールドが激しく明滅し始めた。限界が近づいている証拠だった。

「持ちこたえろ」勇樹は自分自身に言い聞かせた。「みんなを守るんだ」

車両内の5,000人の避難民が、不安そうに外の戦況を見守っている。子供たちは母親にしがみつき、老人たちは祈りを捧げている。全ての人が、勇樹の力を信じて待っていた。

リリアは魔導蒸気でバリアの補強を試みた。

「私の魔導蒸気を勇樹さんのシールドに注ぎ込みます」

蒼い蒸気エネルギーが光のバリアと融合し、防御力がさらに向上した。リリアとの連携により、勇樹の負担が少し軽減される。

「ありがとう、リリア」勇樹は感謝の気持ちを込めて言った。

「当然です」リリアの瞳に強い決意が宿っていた。「私たちは仲間です。一人で背負う必要なんてありません」

ガンドルフも車両の補強作業を完了し、戦場に合流した。

「車両の補強完了だ」ガンドルフはハンマーを構えた。「今度はミナ嬢の援護に回る」

彼は瓦礫の山に向かって駆け出した。ドワーフの技術と力で、ミナの救出作業を支援するつもりだった。

戦況は膠着状態に陥っていた。勇樹のシールドは敵の攻撃を完全に防いでいるが、時間が経つにつれて彼の体力は消耗していく。そしてミナとガンドルフの救出作業も、瓦礫の複雑な構造に阻まれて難航していた。

「急がなければ」アルテミスが焦りを見せていた。「このペースでは、勇樹さんが力尽きてしまいます」

その時、瓦礫の奥から子供の声が聞こえてきた。

「お母さんに会いたい」

「お腹すいた」

「怖いよ」

その声を聞いた瞬間、勇樹の心に新たな力が宿った。JR九州で働いていた頃、乗客の笑顔を守るために働いてきた日々。今度は、異世界の子供たちの笑顔を守るために戦う番だった。

「絶対に諦めない」勇樹の瞳がさらに強く光った。「俺は、この子たちの未来を守り抜く」

【乗客保護】のシールドが再び輝きを増した。勇樹の意志の力が、物理的な限界を超えて発動している。

磔状態の大博打は続いていた。勇樹と仲間たちの命をかけた救出作戦が、いよいよ正念場を迎えようとしていた。



瓦礫の山の奥で、ついにミナが突破口を見つけた。

「見つけた!」ミナの声が戦場に響いた。「子供たちがいます!」

アルテミスの古代技術による構造解析と、ガンドルフの力技による瓦礫除去、そしてミナの狼族としての本能的な探索能力が組み合わさって、ついに安全な侵入ルートが確保されたのだ。

「急いで!」リリアが魔導蒸気バリアを維持しながら叫んだ。「勇樹さんの【乗客保護】が限界に近づいています!」

勇樹の全身から汗が吹き出していた。5,000人の避難民を守りながら磔状態を維持する負担は、彼の精神力を急速に削り取っている。視界の端がぼやけ始め、立っているのがやっとという状態だった。

しかし彼の意志は折れていない。

「まだだ」勇樹は歯を食いしばった。「まだ全員を救えていない」

ミナは瓦礫の隙間に身を滑り込ませた。狭い空間に4人の子供たちが身を寄せ合って震えている。6歳ぐらいの女の子が一番年上で、他の3人の子供たちを守ろうとしているのが見て取れた。

「大丈夫よ」ミナは優しい声で語りかけた。「お姉ちゃんが迎えに来たの。みんなで一緒に安全な場所に行きましょう」

「本当?」女の子が涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。「お母さんに会える?」

「きっと会えるわ」ミナは女の子を抱き上げた。「約束する」

しかし子供たちを救出するには、さらに狭い隙間を通らなければならない。一人ずつ運ぶのが限界だった。

「一度に全員は無理です」ミナが報告した。「少なくとも2往復必要です」

「時間が」アルテミスが焦りを見せた。「構造が不安定になっています。いつ崩落してもおかしくありません」

ガンドルフが瓦礫を支える金属の支柱を急造していた。

「わしが構造を支える」ガンドルフの声に力が込められていた。「その間に、一人でも多く救い出せ」

ミナは最初の子供、6歳の女の子を抱きかかえて瓦礫の隙間から這い出してきた。女の子は恐怖で震えていたが、ミナの温かい体温に安心して小さく微笑んだ。

「一人目、確保」ミナは女の子を安全な場所に下ろすと、すぐに瓦礫の中に戻っていった。

二人目、三人目と、ミナは必死に子供たちを運び出した。狼族の体力と敏捷性を最大限に活用し、崩れ落ちる瓦礫をかわしながらの救出作戦だった。

しかし最後の一人、5歳の男の子を救出する時に、アクシデントが発生した。

「危ない!」アルテミスが叫んだ。

瓦礫の上部で大きな石塊が崩れ始めたのだ。このままでは、ミナと最後の子供が生き埋めになってしまう。

ガンドルフが咄嗟に飛び出した。ドワーフの怪力で石塊を受け止めようとする。しかし150年の年齢が足枷となり、完全に支えきることができない。

「ガンドルフさん!」リリアが魔導蒸気を瓦礫に向けて放った。

蒸気エネルギーが石塊を包み込み、落下速度を緩める。しかしリリアは勇樹のシールド補強と、この瓦礫の制御を同時に行わなければならない。二つの作業の並行は、彼女の魔導蒸気制御能力を限界まで押し上げていた。

「リリア、無理をするな」勇樹が心配そうに声をかけたが、彼も【乗客保護】の維持で精一杯だった。

「大丈夫です」リリアの額に汗が浮かんでいたが、その瞳には強い決意が宿っていた。「私たちは仲間です。みんなで力を合わせれば、どんな困難でも乗り越えられます」

アルテミスは古代のアーティファクトを総動員して構造の安定化を図っていた。複数の魔法具から放たれる光が瓦礫を包み込み、崩落を防ごうとしている。

「あと30秒」アルテミスの声に緊張が走った。「それ以上は構造を維持できません」

ミナは最後の子供を抱きかかえて瓦礫の中を駆け抜けた。狼族の野性的な直感が、最も安全なルートを瞬時に判断している。

「急いで、ミナ」勇樹が心の中で祈った。

ついに、ミナが最後の子供と共に瓦礫の外に飛び出してきた。5歳の男の子は泣いていたが、ミナの腕の中で安心したように眠っていた。

「全員救出完了」ミナが勝利の笑顔を浮かべた。

しかしその瞬間、瓦礫の山が完全に崩壊した。ガンドルフ、アルテミス、そして勇樹の努力によって持ちこたえていた構造が、遂に限界を超えたのだ。

轟音を立てて石塊が崩れ落ちる中、4人の子供たちは全員、無事に救出されていた。

「やった」車両内の避難民たちから歓声が上がった。「子供たちが助かった」

勇樹は安堵の息を吐いた。しかし同時に、【乗客保護】の維持が限界に達していることも感じていた。

「みんな、車両に戻ってくれ」勇樹は仲間たちに指示した。「磔状態を解除して、すぐに出発する」

ミナは4人の子供たちを抱えて車両に向かって走った。ガンドルフとアルテミスも、急いで撤収の準備を始めた。リリアは魔導蒸気で車両の固定装置を解除し、再び走行可能な状態に戻そうとしていた。

しかしその時、魔王軍の指揮官が最後の大攻撃を命令していた。

「今だ! 列車が動き出す前に、総砲撃で粉砕しろ!」

王宮前広場の四方から、魔王軍の全火力が聖鉄連節車両に集中された。魔法大砲、火炎放射器、巨大な投石機。ありとあらゆる攻撃手段が同時に発射された。

勇樹は咄嗟に【乗客保護】を最大展開した。しかし長時間の磔状態維持で消耗した精神力では、この規模の攻撃を完全に防ぐのは困難だった。

「くそ」勇樹の膝が震えた。「力が」

その瞬間、リリアが勇樹の前に飛び出した。

「私の魔導蒸気、全てを勇樹さんに」

リリアが持つ魔導蒸気の全エネルギーが勇樹のシールドに注がれた。エルフとしての魔法技術の粋を込めて、彼女は自分の全てを勇樹に託した。

ミナも子供たちを車両に押し込むと、勇樹の傍らに立った。

「私の力も使ってください」ミナの狼族の野性的なエネルギーが勇樹と同調した。

ガンドルフは鍛冶ハンマーを構えて前に出た。

「150年の人生で培った技術と魂、全てをお前に預ける」

アルテミスも古代のアーティファクトを総動員した。

「古代の知恵と現代の技術、この融合こそが真の力です」

五人の力が一つになった瞬間、【乗客保護】シールドが前例のない輝きを放った。

しかし魔王軍の攻撃も凄まじかった。数十発の魔法砲弾が同時にシールドに衝突し、爆発的なエネルギーが解放された。

光と音の暴風が王宮前広場を支配した。爆発の衝撃で周囲の建物が崩れ落ち、地面に巨大なクレーターが形成される。

煙が晴れた時、聖鉄連節車両は奇跡的にその姿を保っていた。勇樹と仲間たちの連携により、5,000人の避難民と4人の子供たち、全員が無事だった。

「やった」勇樹は安堵の笑みを浮かべた。「みんな無事だ」

しかしその時、空から新たな脅威が迫っていた。

魔王軍の最後の切り札、超大型の飛竜が上空から急降下してきたのだ。その飛竜の口には、通常の火炎とは比較にならない規模の炎が蓄えられていた。

「上から来ます」アルテミスが警告したが、時既に遅かった。

超大型飛竜の口から、巨大な火炎球が放たれた。それは小さな太陽のような大きさで、着弾すれば広場全体を焼き尽くす威力を持っていた。

勇樹は最後の力を振り絞って【乗客保護】を展開しようとしたが、既に彼の精神力は底をついていた。

「だめだ」勇樹の膝が崩れ落ちた。「もう」

その瞬間、巨大な火炎球が聖鉄連節車両に直撃した。

轟音と共に、列車全体が爆炎に包まれた。赤い炎が車両を飲み込み、黒煙が立ち上る。まるで地獄の業火のような光景が王宮前広場に出現した。

「勇樹さん!」

「みんな!」

車両内の避難民たちの悲鳴が炎の音に混じって響いた。

しかしその炎の中で、微かに光るものがあった。勇樹が最後の瞬間に発動した【乗客保護】の残滓が、わずかながら車両の一部を守っていたのだ。

完全ではない。しかし絶望的な状況の中で、一筋の希望の光だった。

炎は激しく燃え続けていた。聖鉄連節車両の運命は、まさに炎の向こう側にあった。勇樹と仲間たち、そして5,004人の人々の生死は、この業火の中で決まろうとしていた。

王宮前広場に響くのは、炎の音と崩れ落ちる瓦礫の音だけ。まるで世界の終わりのような光景の中で、奇跡を信じるしかない状況が続いていた。

魔王軍の兵士たちも、この光景に言葉を失っていた。まさか自分たちの攻撃がこれほどの破壊をもたらすとは思ってもみなかった。

爆炎は燃え続けていた。その向こう側に、希望があるのか絶望があるのか、誰にも分からない状況だった。

ただ一つ確かなことは、勇樾と仲間たちが最後まで諦めなかったということ。5,000人の避難民と4人の子供たちを守るために、彼らは全てを賭けたということだった。

炎の中で、奇跡が起こることを祈るしかない。磔状態の大博打は、最も困難な局面を迎えていた。
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