追放されたJR職員ですが、異世界で救援列車を無双運行して英雄になりました

K2画家・唯

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第25章 世界を覆う総攻撃

第25章 世界を覆う総攻撃

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爆炎が消え去った王宮前広場に、静寂が戻っていた。

煙の向こうから姿を現した聖鉄連節車両は、奇跡的にその美しい姿を保っていた。勇樹の最後の【乗客保護】と仲間たちの力が結集して生み出した光のバリアが、超大型飛竜の火炎攻撃から車両を守り抜いたのだ。

「生きてる」車両内から避難民の声が漏れ聞こえた。「みんな生きてるんだ」

勇樹は車両の前に立ち、深く息を吸い込んだ。全身の力が抜け、膝をつきそうになったが、仲間たちが支えてくれた。

「勇樹さん、大丈夫ですか」リリアが心配そうに声をかけた。

「ああ」勇樹は微かに微笑んだ。「みんな無事だ。それが一番大事だ」

ミナは4人の子供たちを抱きかかえていた。子供たちは泣いていたが、ミナの温かい腕の中で安心したように眠り始めている。

「全員救出、任務完了ですね」ミナの尻尾が小さく揺れていた。

ガンドルフは煤だらけになったハンマーを肩に担いだ。

「150年生きてきた中で、こんな体験は初めてだったぞ」

アルテミスは古代のアーティファクトを片付けながら、車両の損傷状況を確認していた。

「構造的な問題はありません。古代技術と現代技術の融合が、予想以上の耐久性を発揮しました」

その時、広場の周囲から歓声が上がり始めた。

「救援列車だ!」

「英雄が帰ってきた!」

「子供たちも無事だ!」

王都の市民たちが、瓦礫の陰や建物の屋上から姿を現した。魔王軍の攻撃から身を隠していた人々が、救援列車の無事を確認して安堵の表情を浮かべている。

「ありがとう!」

「本当にありがとう!」

感謝の声が広場に響き渡った。老人も、子供も、兵士も、商人も、皆が勇樹たちに向かって手を振っている。

勇樹は車両から降りて、広場の人々に向かって頭を下げた。

「こちらこそ、ありがとうございました。皆さんの協力があったからこそ、全員を救うことができました」

その謙虚な姿勢に、人々の歓声はさらに大きくなった。

車両内から5,000人以上の避難民たちが次々と降車していく。長い間車両に閉じ込められていた不安から解放され、皆が清々しい表情を見せていた。

「機関士さん、本当にありがとうございました」一人の老人が勇樹に深々と頭を下げた。

「いえ、俺たちは救援列車です。これが仕事ですから」勇樹は手を差し出して老人と握手した。

救出された4人の子供たちも、広場で家族との再会を果たしていた。

「お母さん!」

「よかった、無事で」

涙と笑顔の再会劇が、あちこちで繰り広げられている。ミナはその光景を見て、目頭を熱くしていた。

「良かったです」ミナは小さく呟いた。「みんな笑ってる」

リリアも安堵の息を吐いた。

「これで一件落着ですね」

しかしその時、広場の端から一頭の馬が猛スピードで駆けてきた。騎手は王国軍の伝令兵で、その顔には深刻な表情が浮かんでいた。

馬が勇樹たちの前で急停止し、伝令兵が飛び降りた。

「救援列車の皆様ですね」伝令兵は息を切らしながら言った。「緊急報告があります」

勇樹の表情が引き締まった。

「何があった?」

伝令兵は震え声で報告を始めた。

「各地から緊急通信が入っています。セレスティア連邦のヴェルス市、アルドナ学術都市、そして霜牙山地のドワーフ集落。全てが同時に魔王軍の襲撃を受けています」

一行の表情が凍りついた。

「同時に?」アルテミスが眉をひそめた。

「はい」伝令兵は続けた。「午後3時を境に、大陸各地で一斉に攻撃が始まったとのことです。これは明らかに組織的な作戦です」

ガンドルフが重い口を開いた。

「つまり、王都攻撃は陽動だったということか」

「恐らく」伝令兵は頷いた。「魔王軍の真の狙いは、救援列車を王都に釘付けにして、他の地域を無防備にすることだったと思われます」

勇樹は拳を握りしめた。魔王軍の策略に完全に嵌められていたのだ。王都の5,000人を救うことに集中している間に、他の地域で数万人規模の被害が発生している可能性がある。

「被害の詳細は?」勇樹は冷静に尋ねた。

「ヴェルス市では商業地区が炎上し、約2万人の住民が避難を求めています。アルドナ学術都市は魔法学院が包囲され、学生と研究者約5,000人が取り残されています」

伝令兵の報告は続いた。

「そして霜牙山地では、ドワーフの鉱山都市が地下で爆発攻撃を受け、約3,000人が坑道内に閉じ込められています」

リリアが計算していた。

「合計で3万人以上」

「しかも、それぞれ全く違う種類の災害です」ミナが指摘した。「火災、包囲、地下閉じ込め。救援方法がそれぞれ異なります」

勇樹は【緊急運行】のスキルで状況を分析した。3つの災害現場は大陸の異なる方角に散らばっており、通常の方法では同時対応は不可能だった。

「距離は?」

「ヴェルス市まで約200キロ、アルドナ学術都市まで約150キロ、霜牙山地まで約300キロです」伝令兵が答えた。

アルテミスが古代の地図を展開した。

「この距離を救援列車で移動するとなると、それぞれ最低でも2時間は必要です。3箇所を順番に回っていては、最後の現場に到着する頃には」

「手遅れになる」勇樹は呟いた。

その時、新たな伝令兵が駆けてきた。

「追加報告です!」

二人目の伝令兵は更に深刻な表情を浮かべていた。

「紅蓮峰の火山地帯でも魔王軍の攻撃が確認されました。溶岩流が人工的に誘導され、温泉街に流れ込んでいます。約1万人が緊急避難を要請しています」

「4箇所目」ガンドルフが歯噛みした。「完全に計画的な同時攻撃だな」

勇樹の頭の中で、【緊急運行】が複雑な計算を続けていた。4つの災害現場、合計4万人以上の避難民。通常の救援方法では、到底対応しきれない規模だった。

しかし、諦めるわけにはいかない。JR九州で働いていた頃も、複数の緊急事態に同時対応することはあった。ただし、今回の規模は前例がない。

「勇樹さん」リリアが心配そうに声をかけた。「どうしますか?」

勇樹は深く考え込んだ。一つの列車では4箇所同時の救援は不可能だ。しかし、もし複数の救援列車が同時に稼働できれば……。

その時、ガンドルフが口を開いた。

「わしに考えがある」

仲間たちがガンドルフに注目した。

「各地には、わしたちが建設した鉄道拠点がある。そして、それぞれの拠点には現地の協力者がいる」

ガンドルフの提案は大胆だった。

「鉄道網を連携させるんだ。各拠点で救援列車を同時展開し、大陸全体で救援作戦を実行する」

アルテミスが目を輝かせた。

「なるほど。分散型の救援システムですね。各地の拠点が独立して動きつつ、全体として連携する」

ミナも尻尾を振った。

「それなら4箇所同時の救援も可能です」

リリアは魔導蒸気の応用を考えていた。

「魔導通信で各拠点との連絡を取れば、リアルタイムで情報共有ができます」

勇樹の心に希望の光が宿った。確かに、これまで各地に建設してきた鉄道拠点には、現地の駅長や技術者、そして協力者たちがいる。彼らの力を結集すれば、大陸規模の救援作戦も夢ではない。

「分かった」勇樹は立ち上がった。「全大陸鉄道救援網を構築する」

その言葉に、仲間たちの表情が明るくなった。

「ただし」勇樹は続けた。「これは今までにない大規模作戦だ。成功の保証はない」

「でも、やらなければ4万人以上の人々が危険にさらされたままです」リリアが強い口調で言った。

「その通りです」ミナも頷いた。「私たちは救援列車。困っている人がいる限り、諦めるわけにはいきません」

ガンドルフは胸を張った。

「150年の人生で培った技術と人脈、全てを使ってやろうじゃないか」

アルテミスも眼鏡を光らせた。

「古代技術による通信網があれば、大陸全域での連携も可能です」

勇樹は仲間たちの決意を感じ取った。そして、自分の中に新たな力が湧き上がってくるのを感じた。これまでは単体の救援列車として行動してきたが、今度は鉄道網全体を指揮する「総指揮官」として行動しなければならない。

「よし」勇樹は王宮の方向を見上げた。「王宮に鉄道救援本部を設置する。そこから大陸全域の救援作戦を指揮する」

伝令兵たちが敬礼した。

「承知いたしました。王国軍も全面協力いたします」

勇樹たちは急いで王宮に向かった。5,000人の避難民救出という大仕事を終えたばかりだが、さらに大きな挑戦が待っている。

しかし、彼らの表情に疲労の色はなかった。なぜなら、今度は一人で戦うのではないからだ。大陸各地の仲間たちと連携して、史上最大の救援作戦を展開するのだ。

王宮前広場を後にする勇樹たちの背中を、人々の感謝の声が見送っていた。そして彼らは知らなかった。この大陸規模の救援作戦が、やがて魔王との最終決戦へと繋がっていくことを。

救援列車の新たな戦いが、今まさに始まろうとしていた。



王宮内に設置された仮設指令所は、慌ただしい活動に満ちていた。

アルテミスが古代技術を駆使して構築した魔導通信装置が、中央の大テーブルに設置されている。水晶の塊から放たれる光が天井に大陸全体の地図を映し出し、各鉄道拠点の位置が星のように輝いていた。

「通信装置の準備が完了しました」アルテミスが報告した。「古代の通信網と現代の魔導蒸気を組み合わせることで、大陸全域への同時通信が可能です」

勇樹は深く息を吸い込んだ。これから行うのは、史上初の大陸規模での救援作戦の呼びかけだった。これまで各地で築いてきた信頼関係と友情が、今こそ試される時だった。

「始めるぞ」勇樹は通信装置の前に立った。

リリアが魔導蒸気で通信の安定化を図り、ミナが受信状況を監視する。ガンドルフは各拠点との過去の連絡記録を整理し、効率的な連絡順序を提案していた。

勇樹が通信装置に向かって語りかけた。

「こちら王都救援列車本部、野中勇樹だ。緊急事態につき、全鉄道拠点への一斉連絡を開始する」

通信水晶が強く光り、勇樹の声が大陸各地へと伝わっていく。

最初に応答があったのは、セレスティア連邦のヴェルス商業都市からだった。

「こちらヴェルス駅、駅長のマーカス・フリートウッドです」通信装置から中年男性の声が聞こえてきた。「野中機関士、お疲れ様です。こちらの状況は深刻です。商業地区の火災が拡大しており、約2万人の避難民がターミナル周辺に集まっています」

「分かった、マーカス」勇樹は落ち着いた声で答えた。「そちらでの救援列車展開は可能か?」

「はい。こちらには貴方が残していった魔導蒸気車両が3両あります。それと、ガンドルフさんが作ってくれた緊急用の軌道敷設装置も完備しています」

ガンドルフが満足そうに頷いた。

「あの時に準備しておいた甲斐があったな」

次に応答があったのは、アルドナ学術都市からだった。

「こちらアルドナ駅、エルフの駅長エリアナ・シルバーリーフです」美しい女性の声が通信装置から流れてきた。「野中機関士、リリアさんもお元気でしょうか」

リリアが前に出た。

「エリアナさん、お久しぶりです。私は元気です」

「良かった。こちらの状況ですが、魔法学院が魔王軍に包囲され、学生と研究者約5,000人が建物内に閉じ込められています。しかし幸い、貴方たちが設置してくれた地下鉄道が無事です」

アルテミスが身を乗り出した。

「地下鉄道があれば、包囲を突破して救出が可能ですね」

三番目の応答は、霜牙山地のドワーフ集落からだった。

「こちら霜牙駅、ドワーフ族長のグレイムハンマーだ」低く重い声が響いた。「ガンドルフ、お前が王都にいるのか」

「ああ、グレイム」ガンドルフが通信装置に向かって答えた。「久しぶりだな、古い友よ」

「こちらの状況は厳しい。鉱山の爆発で坑道が崩落し、約3,000人が地下に閉じ込められている。だが、お前が設計してくれた緊急用エレベーターシステムが稼働している。救援車両があれば、地下からの大量避難も可能だ」

最後に応答があったのは、紅蓮峰の温泉街からだった。

「こちら紅蓮駅、獣人族の駅長ライラ・フレイムテールです」明るい女性の声だった。「ミナさん、元気にしてる?」

ミナが尻尾を振りながら答えた。

「ライラさん、私も頑張ってます」

「良かった。こちらは溶岩流が温泉街に迫っていて、約1万人が緊急避難を必要としています。でも、あなたたちが作ってくれた高温対応車両があるから、溶岩地帯でも救援活動ができそうです」

勇樹は四つの拠点からの報告を総合して、救援作戦の全体像を把握した。

「分かった、みんな」勇樹の声に力が込められた。「今から大陸規模の同時救援作戦を開始する。各拠点は独立して救援活動を行うが、情報共有と相互支援を継続する」

各拠点から力強い返事が返ってきた。

「ヴェルス駅、了解」

「アルドナ駅、承知いたします」

「霜牙駅、任せろ」

「紅蓮駅、頑張ります」

リリアが感動で目を潤ませていた。

「みんな、応えてくれました」

ミナも尻尾を大きく振っていた。

「私たちは一人じゃない。仲間がいる」

アルテミスは通信装置の調整を続けながら言った。

「これが真の鉄道ネットワークですね。技術だけでなく、人と人との絆で結ばれた」

ガンドルフは胸を張っていた。

「150年かけて築いてきた友情の力だ」

勇樹は大陸地図を見上げた。4つの拠点が光を放ち、それぞれが希望の星のように輝いている。

「作戦開始だ」勇樹は宣言した。「各拠点は30分後に救援活動を開始する。目標は4万人全員の安全確保。絶対に諦めるな」

通信装置から各拠点の確認の声が響いた。大陸全域で、史上最大の救援作戦が動き出そうとしていた。

しかしその時、指令所の窓の外が急に暗くなった。

「何だ?」ガンドルフが窓の方を見た。

外を見ると、雲一つなかった青空が、突然黒い影に覆われていた。それは雲ではない。無数の巨大な影が天空を埋め尽くしているのだ。

ミナの鋭い聴覚が異常を察知した。

「上空から巨大な羽音が聞こえます。それも、数百、いえ数千の」

アルテミスが古代のアーティファクトで上空を調査した。

「信じられません。魔王軍の大艦隊です。飛行船、飛竜、そして見たことのない巨大な浮遊要塞まで」

リリアが魔導蒸気で探知範囲を拡大した。

「規模が尋常ではありません。王都全体を覆うほどの大艦隊です」

勇樹は窓から空を見上げた。そこには、まさに悪夢のような光景が広がっていた。

黒い飛行船が雲のように空を覆い、その間を無数の飛竜が舞っている。そして最も巨大な浮遊要塞が、王都の真上にゆっくりと降下してきていた。

街の人々が空を見上げて恐怖に震えている。つい先ほどまで救援列車の成功に歓声を上げていた市民たちが、再び絶望に包まれていた。

「どういうことだ」ガンドルフが歯噛みした。「王都攻撃は陽動だったのではないのか」

アルテミスが状況を分析した。

「恐らく、二段構えの作戦だったのでしょう。まず各地への同時攻撃で我々を分散させ、その隙に王都に決定的な打撃を与える」

通信装置から各拠点の声が聞こえてきた。

「王都上空に巨大な艦隊が現れました」

「こちらからも確認できます」

「どうしますか、野中機関士」

勇樹は深く考え込んだ。4万人の救援作戦を中止して王都防衛に集中するか、それとも計画通り各地の救援を続行するか。究極の選択だった。

しかし、彼の答えは明確だった。

「作戦続行だ」勇樹の声は決然としていた。「各拠点は予定通り救援活動を開始しろ」

「しかし」ヴェルス駅から心配な声が聞こえてきた。「王都が危険では」

「俺たちがここにいる」勇樹は力強く答えた。「4万人の命を救うのが最優先だ。王都のことは俺たちに任せろ」

通信装置から各拠点の了解の声が聞こえた。みんな、勇樹の決断を信頼してくれている。

浮遊要塞から巨大な影が王都に落ちる中、勇樹は仲間たちを見回した。

「みんな、覚悟はいいか」

「もちろんです」リリアの瞳に強い決意が宿っていた。

「いつでも」ミナが戦闘態勢を取った。

「当然だ」ガンドルフがハンマーを握りしめた。

「古代技術の全てを投入します」アルテミスがアーティファクトを起動した。

勇樹は空を見上げた。魔王軍の大艦隊が王都を完全に包囲している。これまでで最大の危機だった。

しかし、彼の心に恐れはなかった。なぜなら、大陸各地に仲間がいるからだ。そして何より、守るべき人々がいるからだ。

「鉄道がある限り、俺たちは諦めない」勇樹は宣言した。「必ず、全ての人を救ってみせる」

その言葉が通信装置を通じて大陸各地に響いた。各拠点の仲間たちが、同じ決意を胸に救援作戦に向かっている。

天空を覆う黒い艦隊と、地上で光る鉄道のネットワーク。希望と絶望が激突する、史上最大の戦いが始まろうとしていた。

王都の上空で、浮遊要塞がゆっくりと降下を続けている。そしてその甲板に立つ黒い影が、勇樹たちを見下ろしていた。

最終決戦が、いよいよ近づいていた。
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