性愛 ---母であり、恋人であったあの人---

来夢モロラン

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第7章 同級生美智子ーアイヌの美少女ー

 崖と丘に囲まれたこの港町は、町の至る所に、港を見下ろす眺望スポットがある。岬の突端、海抜百三十メートルの断崖の上にある地球岬展望台からは太平洋を一望でき、晴れた日には遠く函館の恵山や蝦夷駒ケ岳も見える。足下の断崖絶壁を覗き込むと深い青い海に吸い込まれそうになる。地球岬の名称はアイヌ語で「断崖」を意味する「チケプ」に由来する。「チケプ」から「チキウ」、そして「地球岬」となったと言われている。
 十五歳になり、僕は地球岬の近くにある高校に入った。家から高校まで上田美智子と一緒に通った。美智子とは家が近所だったので、毎朝、家の近くの郵便局の前に設置されている円筒形の赤い丸ポストの前で待ち合わせて、バス停まで一緒に歩き、バスも並んで座り、校門の前で別れるのを日課としていた。
 二瓶美智子とは小学六年生の時、金田鉄男と静香の養子となり転校した小学校で出会った。僕は転校生で、養子で、養父母は在日朝鮮人なので、転校当初はよくいじめられた。僕はいじめにあっても、先生に告げ口をすることなく、じっと耐えるタイプであった。親にも黙っていたので、美智子が僕をかばって、いじめっ子に憤然と抗議し、担任の先生に相談しなければ、いじめは卒業まで続いたことだろう。美智子が先頭に立って僕のために手を尽くしてくれたのは、学級委員長としての責任感もあったが、アイヌの血を引く美智子自身の出自も関係していたと思う。
 僕のことを心配し、心をくだいてくれた美智子にずっと好意を抱いていたが、特段仲が良いということはなく、二人きりで会話するということもほとんどなかった。美智子が美しい少女であることにも気付いていなかった。美智子のことを意識し始めたのは、中学二年生の頃である。ソフトボール部のキャプテンでエースの美智子が、髪をポニーテールに結び、ホームめがけて力いっぱい投げている姿をグランドの片隅から眺める愉しみを知ったのは中学2年の夏だった。美智子は白い半そでの体操着と紺の短いパンツを穿いて、肩のあたりでロングヘアーをなびかせていた。汗に光る日焼けした脚がまぶしかった。
 美智子の祖先はシベリア経由のコーカソイド(白人)の血も受け継いでいるのだろうか?美智子は透き通るように白い肌とほりの深いくっきりした顔に大きな目と細く濃い眉を持つ美形であった。その上、キャプテンでエースのスポーツウーマンなので、男の子のフアンが大勢いた。中学生になってからは、美智子に話しかける機会もなく、僕は高根の花を遠くから眺めているだけだった。小学六年生で同じクラスだったことを美智子は覚えていないと思っていた。
 だから、中体連が終わった三年の秋に「葵君はS高校に進学するのでしょう。私も葵君と同じS高校に入りたいので、勉強を教えて下さい」と頼まれた時は驚いた。S高校はこの地方のトップの進学校で難関校である。ソフトボールの部活が忙しくて、勉強がおろそかになり、現状S高校は合否ぎりぎりであるが、一緒に勉強して確実に合格できる水準に引き上げて欲しいという依頼であった。僕はもちろん即座に快諾した。
 十一月から一日の授業が終わった放課後の教室で僕は教え始めた。僕は勉強が得意だった。生まれつき高い知能に恵まれていた上に、ひ弱で体つきがきゃしゃなためスポーツでは勝てないので、得意な勉強に集中した結果である。僕の中学では、中間や期末のテスト結果の上位者が廊下に張り出されたが、僕はいつも一番だった。学年トップの成績優秀者なので、僕を勉強相手に選んだと理解し、同級生の皆も納得したようだった。美智子が僕に好意を寄せていると考えた者はいないようだった。
 入試は二月なので、受験まで四か月しかない。基礎から勉強し直す時間はないので、出題の可能性の高い分野を予想して、予想問題を解くことがベストの方法であろうなどと教え方を色々考えたが、教え始めて僕はすぐに『美智子は現状でもS高校に合格できる学力を身に着けている』ことに気が付いた。美智子が自分の学力を過小評価していたのだろうか。いやそうではないと思う。勉強を教えて貰うのは口実で、美智子は僕と親密になりたかったのだ。僕はそう推測した。
 しかし、美智子はそういう素振りを見せなかった。美智子が僕に好意を抱いているなら、放課後に約束の教室で落ち合ったとき、もっと嬉しそうな笑顔になったり、普通よりうきうきした口調になったりするはずなのに、自分のために時間を割いてくれることに毎回感謝の言葉を丁寧に述べたが、態度はむしろ素っ気なかった。僕は美智子の真意を測りかねて戸惑った。
 でも、僕は美智子と一緒にいるだけで幸せだった。両手を頬にあて真剣に問題を解いている美智子はキュートで可愛い。問題用紙からふと顔を上げ、見つめている僕を見て、「何」と問うように視線を返してくる時、あるいは数学の難問を簡単に解く僕に美智子が目を見開いて尊敬のまなざしをむける時、僕は幸福な気分に包まれた。セイラー服姿で椅子に座っている美智子と二人きりで机を並べているだけで僕は満足だった。
 
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