虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション⑤前編

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 それは暑い暑い日本国。
 本格的に夏に差し掛かり、夜でも涼しさが感じられなくなってきた今日この頃、とある女子高生は夜道をずっと歩いていた。
 女子高生が夜道を一人で歩いてはいけないよ。襲われても仕方ないから、と、本当に危ないのだが、彼女の場合は別だ。
 そう、彼女とは大剣ポニーテール少女こと、相崎悠海だ。
 ゆうみ、ゆうみと読んでいるうちに、何故か『う』が呼び手も呼ばれ手も鬱陶しく感じたから省略された……という説はあながち間違っているものではなかったりする。
 まぁ、そんなことは置いといて、本来重要なのは、『何故ユミがこの夜道を歩いているか』だろう。
 左手には買い物袋。とにかく飲み物とゼリー飲料が入っている。せっかく憧れのファッションやJK生活に馴染み始めたのに、食は体育会系が若干顔を出す。嗚呼、ユミよ、そなたはゼリー飲料で何がしたい。
 そして、右手は手ぶら。重そうな(あくまで重そうな、である)買い物袋を片手で軽々とぶら下げて、若干うつむきながら無表情で歩き続ける。しかもそのルートは無茶苦茶で、はっきり言って家に帰ろうとしているのか理解できない。
 まぁいいだろう。彼女には大きな理由があるのだから──




「えーと、ここまで来たのはいいのですが……」
 さて、こちらの少女も夜道をずっと歩いていた。衣・食は何とかなったのだが、いかんせん住だけがなんともならない。異国の地で飛び入りでチェックインしようとしても出来ないのが現状である。
 ならば、今までどのように夜を過ごしていたのだろうか?
 答えは簡単。そこらで適当に寝ていたのだ。公園でも、駅のホームでも、路地裏でも。とにかく人の目につかないところならばどこでも良かった。これで今まで襲われたりしなかったのが奇跡と言えよう。
 服はできるだけシンプルな物にした。髪だけはどうにもならなかったが、変に染めたりするよりも、旅行に来て適当に歩いている外国人の方がより自然で、むしろ良かったのかもしれない。
 季節も気温が上がってくる頃。体温低下による衰弱の危険性も比較的低い。いざとなったときは……一応対抗手段も、実はあったりする。あまり使い勝手のいいものではないが。
 さて、こちらの少女の目的と言えば……それは零弥たちを追いかけていたことから予測がつくだろう。
 実際、今は『彼』を探すだけの段階に来ている。
 しかし、ここからが難しい。
 この辺りは、家や工場が立ち並び、道が非常に入り組んでいるのだ。ただただ歩いているだけでは目的の人物を取り逃がす可能性が格段に上がるうえ、それがいつまで続くのか、見当もつかない。
 だが、彼女にはもうそれしか手段は残されていない。ここまでくれば力ずくだ。
「もう夜中ですし……また野宿ですか……もう何日目ですの?」
 少女はげんなりと肩を落とす。
「ホテルに入ろうとすればチェックインで身バレするし……かと言って一般家庭に入り込めば警察に引き渡される可能性大。この国の者は警察への信頼度が高いらしいですしね……」
 野宿を重ねれば重ねるほど、疲れは取れるどころか積もっていく一方である。この少女にもそろそろ限界が近づいていた。
 ゆっくりゆっくり歩いていて、また寝床を探し始めようとしたその時……

「──誰ですの?」

 後ろを振り返れば、見知らぬ者が立っていた。フードを被っているので外見はつかめないが、体型からして男だろう。とりあえず、男と仮定して行動する。
「……」
 男は何も喋らない。その代わり、手をポケットに突っ込んだまま、ゆっくりゆっくりと近づいてくる。
「止まりなさい。それ以上近づけば……」
 少女は構えを取る。自身などどこにもないが、とりあえず何とかなるだろう……という謎の自身が存在していた。
 しかし、外見は小学生の女子だ。普通は言うことなど聞かない。
「……」
 だが、男は歩みを止めた。すんなり、少女の要求に応えたのだ。
「……何かしゃべったらどうですの?そのフードも、この季節では暑いでしょうし」
 少女は作り笑いをする。この状況で、それをするだけでも大したものだ。なかなかできることではない。
「……」
 だが、それには応じなかった。明らかな拒絶だ。その代わりとして、男は右手を出し、少女に──正確には少女の後ろに標準を向ける。

 バァン!

「!?」
 背後から確かな爆発音。少女は思わず怯んでしまった。すぐさま背後を確認する。
 だが、そこには銃弾と思えるものは何処にもなかった。しかも、少女にケガの跡は一切見受けられない。
「まさか……魔術?いや、この国は人類国家。たしか、いわゆる能力アビリティ……」
 少女の額には一筋の雫。能力アビリティの恐ろしさにはいくらかの知識がある。
「魔力を必要とせず、発動速度も魔術より圧倒的に速い。魔族とは違い、多種多様にはつかえないが、それでも強力で、過去の大戦を生き残ることに貢献した……」
 しかし、知識だけでは生き残ることなどできない。重要なのは『男がどのような技を使えるか』だ。
 そして、少女はもうひとつのパターンも思い付いていた。

「まさか……ここまで追ってきた?」

 そう、零弥たちを追いかける前に、この少女は逃げていたのだ。ここで捕まってしまえば、元も子もないどころか、命も危ない。
 男はもう一度手をかざす。今度はしっかり少女に向けている。先ほどの攻撃は威嚇、警告だろう。つまり、次は攻撃だ。
「っく……」
 能力の正体が掴めていない以上、対処方もわからない。少女には、ただそこで立ちすくむしか出来なかった。
「……なしくしろ」
 相手が何を呟いたのかはわからない。そんなことを考えられる余裕も持ち合わせていないが。
「!……熱い!」
 周囲が歪んで見える。目眩?確かに意識が薄れてくるのはわかるが、それ以上にたまらなく熱い。
「これは……何ですの……?」
 熱さに加えて息苦しくなる。酸素を求めて胸が激しく起伏するが、それが更に息苦しさを増す。
「う……うぅ……」
 せっかく逃げてきたのに、それでも捕まるのか?
 幻術かよく分からない技に、自分はまんまと捕らえられてしまうのか?
 それだけは……イヤだ。
 死にたくない。
 誰か……

 スッ──

 それは日本刀が鞘から抜かれる音。
 そして、背後から確かな気配。だがそれは後ろの者が直前まで近づいてきたから感じられたのであって、すぐそこまで感じられなかった。
「うっ……ケホッ、ゴホッ……」
 少女は咳をしながらうずくまる。身体中に酸素が巡る。視界もだんだんと開けてくるのがわかった。
「大丈夫?ゆっくり息をして!」
 そこには、ポニーテールの女性がレジ袋と刀を構えながら見下ろしている。ユミがこの場に駆けつけたのだ。
「……」
 少女はうなずいて安全のサインを送る。
「あなた、何者?この子に攻撃するなら、抑制師サプレッサー権限で拘束してもいいのだけれど」
「チッ……」
 男は明らかに舌打ちをした。
 そして、手を拳銃のように見立て、人差し指をユミに向ける。そして、その先には赤い弾丸が形成され、ユミの元へ連発して襲いかかる。
 しかし、今回のユミは桐鋼を装備している。弾丸の方向へ標準を合わせ、切り裂く……
 すると、弾丸は拡散し、その形は失われた。
「あなた……能力持ちアビリストね?さっきこの子が苦しんでいたのも、それが原因かしら?」
「……」
 何を思ったか、男は手を地面に叩きつける。すると、辺りに水蒸気が起こる。
「!見えない……」
 水蒸気がいい目眩ましになったようだ。蒸気が溶けると、そこに男の姿はなかった。

 

「大丈夫?たてるかな?」
 ユミは笑顔で聞く。
(……この人は、あのとき一緒にいた……)
 少女は思い出した。そして、考え付いた。一般人なら警察に引き渡される可能性が高いが、ユミならば引き渡される前に零弥に接触出来るかもしれないと。
「名前、言える?」
 つまり、正体は零弥の目前で明かせばいい。
 少女は何も返答しなかった。
「どこから来たの?お家は?」
「……ない」
「ない……!?まさか、孤児とか、そういう感じの?」
「……」
 ここも答えない。
「とりあえず、もう夜だから、うちに泊まりに来る?」
(来たっ……)
 少女はコクりとうなずいた。
 こうして、少女の野宿生活は幕を閉じたのだ。それと同時に、物語は随時加速していくことになる……
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