虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション④

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 ─成川宅─

 カタカタカタと、キーボードが叩かれる音は聞いていて気持ちがいい。特に、タイピングが速い流雅は格別だろう。速すぎて落ち着きが無くなるだろうが。
 冗談はさておき、ラウムツァイト三人衆は、迫り来る締め切りにあわせて、休む暇なくプログラムを打ち込み続ける。実は今回の依頼はかなり複雑で、それに気づいたのが一昨日のことだった。プログラムを組み立てる段階で何かしらの違和感を感じた亜芽が、依頼内容を見直したところ、三人全員が見落としていた部分が見つかり、結局組み直すはめになった。
 そのため、今回はそこまで忙しくなっているのだ。
「零弥くん、そっちの様子は?」
「とりあえず第一段階は終了だ。一旦そちらに送るぞ」
「私もそれぐらい。とりあえずチェックしておく」
 と、まぁこんな感じで、作業は進んでいる。
 何だかんだといえ、亜芽が加入したのは絶大な効果があった。流雅にノウハウが教えられたとはいえ、その吸収速度は速かった。
 彼女が加入しなければ、今ごろどうなっていたのだろうか。ここでは割愛する。
 しかし、ずっと作業するだけで会話が無いという環境はいささか疲れるようで、流雅は、ずっと気になっていたことを始めて口にした。
「零弥くん」
「何だ?」
 ぶっきらぼうな返答をしながらも、キーボードを叩く手は止まらない。
「何か忘れていることはないの?」
「あっ、いけね……ここ飛んでるわ」
「おっと、それは困る……じゃなくて」
 流雅が椅子を回転させて……
「『スペルキーパー』について何か教えてくれるんじゃなかったっけ?」
「あぁ、それか」
 零弥が不意に手を止める。それに対応するように、亜芽もそれに同調するように、こちらを振り向いた。
「じゃあ、まずはそれについて振り替えるとしようか」
 零弥は両手の平を合わせ、両肘を膝の上に乗せる。
「そもそも、スペルキーパーは国内外で厳しく監視かつ規制されているのはわかっているな?」
 この質問は亜芽に向けられている。
「うん。まさかリーダーが隠し持ってたなんては思ってなかったけど、相当危険なものとは理解してる」
「ならいい。それには個人で回せるほどの事ではない。よって、相当な組織が絡んでいる可能性が高い。恐らく、ペルティエの比ではないだろう」
 流雅がうんうんと頷く。
「ところで、亜芽ちゃんに聞きたいんだけど、取り引き相手について何か知ってることは無いの?」
「申し訳ないけど、私みたいな使い捨てはそんなことは教えてくれない。リーダーもめったに会うようなことは無かったから、あの日はホントにびっくりしたっけ」
 当然だ。毒薬を持たせ、まるでロボットのように扱うペルティエが、容易に情報を漏らしてしまうようなことを避けないはずがない。
「そうだな。ペルティエを捜索するだけでも大きな事態だが、いかんせん、スペルキーパーを所持することは、麻薬を売買することの数百倍は難しい」
 この表現は決して誇張ではない。八千年前の大戦争から学んだこと──魔力に対する警戒や忌避、それは言い方が悪いかもしれないが、それが人類という種族をここまで紡いできた最大の理由であり、また、世界からの孤立を招いている。
 警戒する──裏を返せば、他国への絶対的信頼を寄せないということだ。貿易等、世界はグローバル化しているが、日本は明確な協力国はない。そのため、固有の軍隊が存在し、数少ない他のの国との協力を結んだりしている。
「だから、俺たちは危なかった。あそこで唐木を仕留められなければ、証拠が警察にバレてしまえば、俺たちに不意にふりかかる敵は強大すぎる。スペルキーパーについて、構成員たちに一切話していなかったことも、偶然とはいえ、功を奏したと言ってもいいだろうな」
 話がそれたが、ここで零弥がさらに続ける。
「また、流雅と先に相談したことは、素材の問題についてだ」
「素材はゼロから作り出すことは出来ない。特に、スペルキーパーなんてものは、例え錬金術でも無理だね」
 素材、エネルギーなどはゼロから生み出すことはない。まったく、物理法則とは偉大なものだ。
「錬金術……物体の構成を操ることで物体を融合したり分解したりするアレ?」
 亜芽が質問する。
「そうだ。だが、合成しても新しい物体が生まれるわけではない。それは合成前の物質同士を、原子レベルでだけだ。俺は気になっていくつか調べてみたが、スペルキーパーの素材は鉱石、それはスペルキーパーの種類によっては異なってくるが、最も知られているもので、『アビスクロージャー』というものが必要らしい」
「アビスクロージャー?」
 珍しく流雅があからさまに疑問を口にした。まずスペルキーパーについての知識が無いだけに、別に不自然なことではないが、それでも珍しいのだ。
「俺も詳しいことはよく知らん。画像的には一般的過ぎて、にはまともに見分けようが無いがな」
 両手の平を上に向けて、首を振る零弥。しかし、もう一人はその文章に違和感を感じていた。
「……?ちょっと待って。 って、どういうこと?」
 技術的に言えば、グローバル化した今なら何とも言えないが、人類が一番技術的には発達しているといわれている。八千年前の大戦争を生き延びた理由にも関わっているからだ。実際、多くの国を渡る者の体験談では、日本の技術力は他国と比べ物になら無いほど優れている──と、書かれたほどだ。
 だが、今回の理由は、人間にはどうしようも無いことであった。
「良いところに気がついたな、亜芽。はっきり言うと、『魔力を注ぎ込む』ことで反応があるらしい」
「なーるほど。そりゃ無理だわ。それを見分けるためにわざわざスペルキーパーを使ってちゃ、本末転倒だもんね」
 流雅がおもむろに背伸びをする。
「見分けるには魔力が必要……確かに、人類には無理だね。こればっかりは技術とか分析だとか、そういう問題じゃない」
 亜芽もようやく疑問が剥がれ落ちたようだ。
 
 …………

 …………

 …………

 …………

 しばらくの沈黙。

「ところでさぁ……今何時?」
「今か……まだ午後十三時だ」
 午後十三時、つまり午前一時だ。
「徹夜決定……乙」
 ラウムツァイトの戦いはまだまだ続く……
 
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