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アビスフリード争奪戦
街角は宵闇に灯されて⑦中編
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(もう二週間ほど前になるか)
零弥は一つ一つ、散りばめられた情報をかき集めていく。
(前国王、オスカーを始め、ヴァールリード家全員を相手取った襲撃事件。しかもそれは、第五位、クーゲルの存在も、ものともしなかった)
襲撃事件はクーゲルの魔術によって終了した。もちろん、殲滅という形で、だ。クーゲルが多用する魔術は歩兵としての能力が飛び抜けて強力だが、全体攻撃、広範囲攻撃も十分な戦力となる。軍勢まるごと吹っ飛ばすことぐらいは余裕だ。まぁ、大体の序列入りはそういった広範囲攻撃の手段を持ち合わせているものだが。当然、それにはあの新井和希も含まれる。
(仮にあの情報を信じるとして、かなりの組織力を持つフェイルノートなら、人員を切るような強硬作戦は可能だ)
事実、部隊は多数の犠牲のもとに壊滅した。クーゲルを気にせずに戦うとしたら、それは強硬突破と考えるのが妥当だろう。
やはり、似ていると感じた。
目的のために、平気で人員を捨てられる非情な組織。あの、ペルティエのように。
(……雑念は切り捨てろ。今は推理に集中するべき時だ)
零弥は深呼吸をした。ただし、水面から飛び出したような呼吸ではなく、細く長く、全身に酸素が巡るのを意識しながら呼吸する。ゆっくりと目を閉じ、もう一度。そうして目を開けてみると、今まで見向きもしなかった情報が、目の前に映し出された。
零弥は情報を選択する。それは、『フェイルノートは国王一家を殺害しに来た』ということだ。
(そもそも、一体どういう目的でこんな大それた計画を組み立てたのか。その理由は……
いや、理由を探すんじゃない。そうすれば、また同じループを繰り返すだけだ。
この計画が実行された際にどういう結果が現れるのか、それを追えば良いじゃないか。理由はそのあとでいい)
再び情報が動き出す。今までに見てきた映像、聞いてきた言葉、そして、スフィアの意志。それらを汲み取るために、零弥は動き出した情報を捕まえるのだ。
そして手にした情報が、先ほどのハッキング。
(フェイルノートは主にアビスクロージャーの密輸入で成り立っている。となると……
襲撃事件はアビスクロージャー絡みか!)
零弥の思考は進む。
(大体見えてきたな……)
「終わったかい?」
黙っていた流雅が不意に口を開いた。
「終わってはいないが……大体の見当はついた」
零弥の思考は一応まとまっている。流雅のハッキング、つまり情報を信用するとして、それに対する常識的思考で推理したつもりだ。
その結果が、次の説明として現れる。
「フェイルノートはなぜ国王一家を襲撃したのか、考えられる動機は二つ、もしくはその両方だ。
一つ、特産地の規制を突破するため。
アビスクロージャーがよく採れるぐらいなら、それに対する対抗策は既に練っている筈だ。特に、国民の絶大な信頼を得ていたオスカーならばなおさらそういう行動は既に取っているだろう」
オスカーが何の無抵抗に見逃していた訳がない。どんな対抗策かは零弥は把握していないが、それでもフェイルノートを始め、密輸組織にはいくらかの牽制にはなっているはずだ。
つまり、その対抗策が煩わしかった。だから取っ払おうとした。かなり単純な話だ。
「だが、これには違和感が生じる。ヴァールリード家を殲滅したところで法律は変わらない。恐らく、次期国王までコントロール出来なければ、捜査体制も緩和されないだろう。はっきり言って、あまり意味はない」
「確かに。そっちが目的なら殺害までには行かなくてもいいよね。事実、嗅ぎ付けられてるんだし」
これはペルティエの件でも同じ意見が出ていた。そこまで重要性のない事なら、ノイズを加えるにしても最小限でいい。王族一家襲撃にまでは動く必要がない。
しかし、実際に、確かに奴らは動いた。国王一家を殺害するため、襲撃し、周辺の人物を次々と皆殺しにし、宮殿を鮮血で染め上げた。元国王を、確かに殺害したのだ。
その事実は、次の予測が適切に物語っていると言える。
「二つ。それはより活発に、かつ力ずくで密輸入を遂行させるため」
「……さっきと何が違うの?」
「襲撃の手段は変わらなくとも、その過程は異なってくる」
零弥は新たな説明を加える。
「王族一家を襲撃したならば、当然国家は大変混乱する。指揮が取れなければ、当然警備も甘くなる。それが国家の中心的なものならば尚更だ」
流雅にも嫌な予感が背中を通った。それは確かな悪寒と、不確かな推測。そして、明らかな嫌悪感だ。
「まさか、混乱に乗じて密輸入を加速させようとしてたって言いたいわけ?」
「……今考えられることはそれぐらいだな」
その言葉を聞いて、流雅はいつもの笑顔をを消した。いや、消えたという方が正しいのだろう。この場合は。
「呆れた。国王一家を殺害しに来る位だから、相当な計画と謀略が働いてるって期待してたのに。たったそれだけ?」
流雅は興味深い事を好む。難事件、難解なプログラム、人間関係、心理戦……難しく、だが奥深い事は流雅の興味を更に惹き付ける。そういった面では、ある意味零弥よりも研究者らしいとも言えるのだろうか。それこそが、極地でも余裕の表情を持たせる原動力と制御となる。
逆に、興味深くないものは流雅を飽きさせる。複雑そうなパズルが案外簡単な仕組みで終わっていたり、相手がすぐに諦めてしまったりするようなことに、流雅は目を向けはしない。それだけ、どうでもいいと思っているからだ。
話が逸れたが、本題に戻る。
「まぁ、今ここで揃っている情報が少なすぎるが故の推理だと思ってくれ。時間は少ないが、出来るだけ考えは突き詰めようと思う」
「当然でしょ?いつもの零弥くんならね」
流雅は目をパソコンの画面に移した。
それと同時に、さっきの言葉を聞いて、零弥はもう一度推理を振り返った。
その動機やきっかけは特にない。ただ、情報の引き出しが甘くないか、それを確認するためだ。
(──何か忘れていないか?組織の推測はこれ以上追えないが、他には……)
そして、手にした『疑惑』は、この事件の更なる顛末を予測しているかのように、嫌な予感だけ引き連れてくる。
(──そういや、あのときの情報には、何が書いてあった……?)
零弥は必死に追いかける。これでもかと言わんばかりに、必死に追いかける。
そして、なんとかつかんだ紙のはしくれがこれだ。
(──『我が隊』?)
普通の情報ならば書かれない一文。
闇に手を染めるブローカーすらも書かない一文。
それは、別の組織、あるいはそれに匹敵するグループが関わっていることをそのまま表す一文だった。
「──流雅」
「何?」
「その情報の収集先は何処からだ?」
「──よくぞ聞いてくれたね」
流雅は難しい顔を保ったまま、零弥の質問に答えようとする。
当然、その回答が零弥に恐ろしい予測をさせることは、もはや言うまでもない。
「それは──」
「日本の国防軍だよ」
零弥は一つ一つ、散りばめられた情報をかき集めていく。
(前国王、オスカーを始め、ヴァールリード家全員を相手取った襲撃事件。しかもそれは、第五位、クーゲルの存在も、ものともしなかった)
襲撃事件はクーゲルの魔術によって終了した。もちろん、殲滅という形で、だ。クーゲルが多用する魔術は歩兵としての能力が飛び抜けて強力だが、全体攻撃、広範囲攻撃も十分な戦力となる。軍勢まるごと吹っ飛ばすことぐらいは余裕だ。まぁ、大体の序列入りはそういった広範囲攻撃の手段を持ち合わせているものだが。当然、それにはあの新井和希も含まれる。
(仮にあの情報を信じるとして、かなりの組織力を持つフェイルノートなら、人員を切るような強硬作戦は可能だ)
事実、部隊は多数の犠牲のもとに壊滅した。クーゲルを気にせずに戦うとしたら、それは強硬突破と考えるのが妥当だろう。
やはり、似ていると感じた。
目的のために、平気で人員を捨てられる非情な組織。あの、ペルティエのように。
(……雑念は切り捨てろ。今は推理に集中するべき時だ)
零弥は深呼吸をした。ただし、水面から飛び出したような呼吸ではなく、細く長く、全身に酸素が巡るのを意識しながら呼吸する。ゆっくりと目を閉じ、もう一度。そうして目を開けてみると、今まで見向きもしなかった情報が、目の前に映し出された。
零弥は情報を選択する。それは、『フェイルノートは国王一家を殺害しに来た』ということだ。
(そもそも、一体どういう目的でこんな大それた計画を組み立てたのか。その理由は……
いや、理由を探すんじゃない。そうすれば、また同じループを繰り返すだけだ。
この計画が実行された際にどういう結果が現れるのか、それを追えば良いじゃないか。理由はそのあとでいい)
再び情報が動き出す。今までに見てきた映像、聞いてきた言葉、そして、スフィアの意志。それらを汲み取るために、零弥は動き出した情報を捕まえるのだ。
そして手にした情報が、先ほどのハッキング。
(フェイルノートは主にアビスクロージャーの密輸入で成り立っている。となると……
襲撃事件はアビスクロージャー絡みか!)
零弥の思考は進む。
(大体見えてきたな……)
「終わったかい?」
黙っていた流雅が不意に口を開いた。
「終わってはいないが……大体の見当はついた」
零弥の思考は一応まとまっている。流雅のハッキング、つまり情報を信用するとして、それに対する常識的思考で推理したつもりだ。
その結果が、次の説明として現れる。
「フェイルノートはなぜ国王一家を襲撃したのか、考えられる動機は二つ、もしくはその両方だ。
一つ、特産地の規制を突破するため。
アビスクロージャーがよく採れるぐらいなら、それに対する対抗策は既に練っている筈だ。特に、国民の絶大な信頼を得ていたオスカーならばなおさらそういう行動は既に取っているだろう」
オスカーが何の無抵抗に見逃していた訳がない。どんな対抗策かは零弥は把握していないが、それでもフェイルノートを始め、密輸組織にはいくらかの牽制にはなっているはずだ。
つまり、その対抗策が煩わしかった。だから取っ払おうとした。かなり単純な話だ。
「だが、これには違和感が生じる。ヴァールリード家を殲滅したところで法律は変わらない。恐らく、次期国王までコントロール出来なければ、捜査体制も緩和されないだろう。はっきり言って、あまり意味はない」
「確かに。そっちが目的なら殺害までには行かなくてもいいよね。事実、嗅ぎ付けられてるんだし」
これはペルティエの件でも同じ意見が出ていた。そこまで重要性のない事なら、ノイズを加えるにしても最小限でいい。王族一家襲撃にまでは動く必要がない。
しかし、実際に、確かに奴らは動いた。国王一家を殺害するため、襲撃し、周辺の人物を次々と皆殺しにし、宮殿を鮮血で染め上げた。元国王を、確かに殺害したのだ。
その事実は、次の予測が適切に物語っていると言える。
「二つ。それはより活発に、かつ力ずくで密輸入を遂行させるため」
「……さっきと何が違うの?」
「襲撃の手段は変わらなくとも、その過程は異なってくる」
零弥は新たな説明を加える。
「王族一家を襲撃したならば、当然国家は大変混乱する。指揮が取れなければ、当然警備も甘くなる。それが国家の中心的なものならば尚更だ」
流雅にも嫌な予感が背中を通った。それは確かな悪寒と、不確かな推測。そして、明らかな嫌悪感だ。
「まさか、混乱に乗じて密輸入を加速させようとしてたって言いたいわけ?」
「……今考えられることはそれぐらいだな」
その言葉を聞いて、流雅はいつもの笑顔をを消した。いや、消えたという方が正しいのだろう。この場合は。
「呆れた。国王一家を殺害しに来る位だから、相当な計画と謀略が働いてるって期待してたのに。たったそれだけ?」
流雅は興味深い事を好む。難事件、難解なプログラム、人間関係、心理戦……難しく、だが奥深い事は流雅の興味を更に惹き付ける。そういった面では、ある意味零弥よりも研究者らしいとも言えるのだろうか。それこそが、極地でも余裕の表情を持たせる原動力と制御となる。
逆に、興味深くないものは流雅を飽きさせる。複雑そうなパズルが案外簡単な仕組みで終わっていたり、相手がすぐに諦めてしまったりするようなことに、流雅は目を向けはしない。それだけ、どうでもいいと思っているからだ。
話が逸れたが、本題に戻る。
「まぁ、今ここで揃っている情報が少なすぎるが故の推理だと思ってくれ。時間は少ないが、出来るだけ考えは突き詰めようと思う」
「当然でしょ?いつもの零弥くんならね」
流雅は目をパソコンの画面に移した。
それと同時に、さっきの言葉を聞いて、零弥はもう一度推理を振り返った。
その動機やきっかけは特にない。ただ、情報の引き出しが甘くないか、それを確認するためだ。
(──何か忘れていないか?組織の推測はこれ以上追えないが、他には……)
そして、手にした『疑惑』は、この事件の更なる顛末を予測しているかのように、嫌な予感だけ引き連れてくる。
(──そういや、あのときの情報には、何が書いてあった……?)
零弥は必死に追いかける。これでもかと言わんばかりに、必死に追いかける。
そして、なんとかつかんだ紙のはしくれがこれだ。
(──『我が隊』?)
普通の情報ならば書かれない一文。
闇に手を染めるブローカーすらも書かない一文。
それは、別の組織、あるいはそれに匹敵するグループが関わっていることをそのまま表す一文だった。
「──流雅」
「何?」
「その情報の収集先は何処からだ?」
「──よくぞ聞いてくれたね」
流雅は難しい顔を保ったまま、零弥の質問に答えようとする。
当然、その回答が零弥に恐ろしい予測をさせることは、もはや言うまでもない。
「それは──」
「日本の国防軍だよ」
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