虚構幻葬の魔術師

crown

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く①

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 ルールは、時に互いに矛盾しあう。
 そしてルールは、その一文だけで表と裏の解釈が出来てしまう。
 本来、人の手で作られるルールというものは、人が利用する以上その地位は人より上にたつものではなく、平行に並ぶべき存在である。人が作るという大前提を忘れていないなら。しかし、『ルール』というものは、常に人の上に存在し、我々を支配していると言っても過言ではない。
 ある人は法を崇め、ある人は法に抗い、ある人は法を作り替える。時代が進み、人の生死が繰り返され、そして法も、予測できない不具合バグが生じる。そうして法を新たに作り替えるからこそ、再び別の場所で矛盾が生まれるのだ。
 では、なぜ我々は矛盾に溢れた法のもとでこうして何の問題もなく生きていられるのだろうか。いや、決して問題が無いというわけではないが。
 それはさておき、その理由はルール以前に『常識』という名の暗黙のルールが存在するからである。
 常識というものは恐ろしい。
 どんなにルールに則り、論理的に進めても、常識という言葉だけですべての覆されかねないのだ。それがたとえ、絶対的な法を味方にしていたとしても。
 正式なルールではないためにいくらでも解釈が可能であり、ここぞというときに都合のいいタイミングで発動できる。まさに、『ワイルドカード』である。
 さて、過去二回と世界をゲームとして見立てる視点を提供してきたが、今回もその一つであると考えていただきたい。ここまではあまり関係の無いことだと思うだろうが、それは決して違う。
  それを証明するため、今回は二つ目の例、『民間の職業』を解決していこうと思う。
 さて、前回挙げた民間の職業をゲームとして見立てるとして、一番これがレパートリーが多いとは用意に予測できる。何故ならば、職業自体がゲームであり、我々は無数に存在するそのゲームを選び、報酬を得ている。
 しかし、働くことにも当然ルールは存在する。
 数多なる残業がさらに積み重なれば体を壊しかねない。それを防ぐために労働基準法というものがあるのだが、仕事効率を下げたくはないので残業を積み重ねる。
 過労死問題が多く発生しているのは、過労死に至ってしまう環境がそもそもの問題であるが、そうなるまでの残業が日常的に行われることが常態化してしまっているのだ。つまり、残業すること自体がその会社での『常識』となっている。
 社員は当然、法をもって対抗することができる。だが、こういう常識によって覆されているからこそ、過労死問題は無くならない。
 話が逸れかけたが、理解していただいただろうか。
 ゲームの進行中にルールが変更されることは原則許されないことだ。しかし、それでもルールには欠陥が生じることがよくあるため、一概にはそう言えない。貴石競争でも、どこかでルールの穴があるのなら、当然、『規則破りオーダーディフィート』は見逃さないのだろう……




「おはよー……」
 玄関から鳴り響くチャイムの音。
 朝っぱらから客人が来たようだ。無論、予告などなく、突然に。
「あれっ、亜芽ちゃん?早いね?」
 『早いね』というのは、集合時間よりも早い、というわけではなく、単純に朝早いということである。
「やること無かったから」
 流雅の反応も待たずに亜芽は靴を脱いだ。狭い廊下を抜けた先の『仕事部屋』に、亜芽はすたすたと向かう。
「まだプログラミングの依頼は来てないんだけど?」
「そっちの用事じゃないから。あっ、電源つけるよ」
 亜芽は流雅の仕事部屋に入るや否や、いきなりモニターの電源をつけ、ゲームの電源も同時に入れる。遊ぶのは当然、バイタル・ソリッドだ。
 三人に出会ってまだ数ヵ月だが、こうやってずかずか入るだけの関係にはなっている。
 特に流雅と亜芽はあの時の戦闘から何故か親密になった(?)。付き合っているか否かはどうでもいいとして、とにかく距離は縮まっている。半ば成り行きによるものだが。
「……何気にレベル上がってるし」
「まぁ、こっそりやってたらこうなるよね~」
 流雅はコーラが入ったペットボトルを手にしながら、亜芽の隣に座る。
「それで?何かあったの?」
「それはこっちのセリフ」
 亜芽はコントローラをさばきながら言う。
「何で二人についていこうとか、そういう考えはなかったわけ?」
 亜芽は流雅の顔を見ない。
「別に?あの二人がいたら戦闘面では申し分ないし、どうせ僕の出番はやってこないよ?」
 流雅も亜芽の顔を見ない。
「そういうことじゃなくて」

「アビスフリードについて何か知っていること、もしくは知りたいことがあるんじゃないの?」

 流雅の笑顔が少し歪んだ気がする。
 どうやら、図星のようだ。
「アビスフリード……魔力に関する強大な可能性を持っている宝石。これに興味を示さないわけにはいかないよね?」
「やっぱり。流雅もそうだと思った」
 亜芽が少し呆れた。珍しく饒舌なのはそれだからなのだろうか。
「零弥くんは放っておいたら危ない代物だって言ってた。魔力関係なら、それがどう意味するかは何となく予想できない?」
 魔力に関係して、それが危険だというのなら、何となく見当がつく。ペルティエの一員として戦っていた亜芽なら尚更だ。
「軍事利用……」
「僕もそう考えている。だから、魔力を持たない人類がすぐに掴まなきゃいけないんだ」
 流雅も同じ考えをしていることに亜芽はほっとした。時々、何を考えているのかわからないことがあるが、そこまで危ないことではないことには安堵した。
 だが、一つ安堵できないことがあった。
「だけど、零弥は、アビスフリードを?」
「……」
 そう。問題はプレイヤーの方だった。目的を達成するためには、相手を殺害することだって可能な零弥ならば、何か問題を起こしかねないのか心配になる。ルールもあまり理解できていない状況で、ユミを連れていっているのなら、殺し合いにならないのか。それが唯一の心配だ。
「彼は僕が思い付かないような手段を取る。だから、結局は彼に任せるしかない」
「だったら、なおさら一緒に行こうとしなかったの?自分の目で見ることが一番の信用って考える流雅が何故?」
 亜芽は流雅の方を見た。だが、流雅は真顔になったまま、こちらを向かない。
「生憎だけど。僕は動くのが嫌いなんだ。狭い部屋でキーボードを叩く方が性に合うみたいでね」
 流雅は立ち上がって、パソコンの前に座る。そうして、パソコンの電源も開いた。
また、亜芽が覗きみることを省みずに、流雅は先ほどウソをついた、『プログラミングの依頼』を進めることにした。
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