虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く⑤後編

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幻影の暗殺者ファントム・アサシン……?」
 聞いたことの無い言葉に、ユミは首を傾げる。
「そう。現時点で最強と見なされている人物だ。第一位が関わっているであろう事件では、既に何百人……いや、何千人もの生命体が絶命している」
 零弥が念を押すように解説する。
「ファントム……アサシン……か」
 ユミは呟き続ける。何度も確かめるように。
序列ランキング制度が本来の役割を果たさなくなったというのはそういうことだ。正体不明の魔族に第一位を任せる事が、どれだけの異常性を抱えているかは小学生でもわかるだろう?序列ランキングについての説明は以上だ。まだ質問は続くのか?」
「……あぁ、じゃあ三つめ」
我に帰ったように、ユミは問い直す。
「零弥は何故……」

「私をここに連れてきたの?」

 当然の質問だ。
 王女を介抱しただけなのに。
 少しだけの良心が働いただけなのに。
 抑制師サプレッサーとしての役割を果たしただけなのに。
 何故、異国の地に連れてこられて、戦いに巻き込まれているのか。当然、知りたくなるはずだ。誰だって。
「言ったはずだぞ?ルールには『陣営は一人では無くてもいい』ってな」
「違う。あのときは誰しもが陣営は一人だと決めつけていた。勿論、スフィアだってその一人。だからこそ、ベッドは一つしか置かなかったし、今さら新しく用意出来なかった。もしかしたら、零弥だって、そういった考えで突っぱね返されることを予期してたんじゃない?」
 ユミは白を打つ。オセロはもう終盤だ。
「だけど、実際はルールに『穴』があった。スフィアはお父さんの遺言に忠実だから、零弥の対応に即座に反応することが出来なかった」
 そして、ユミは盤面から目を離し、零弥へ目を向ける。
「まとめると、私を呼んだのは『ルールに二人で参加できる項目がある』ことを見越したのではなくて、それはあくまで、別の目的があった上での口実だったんじゃないの?」
 ゆっくりと見つめた零弥の顔は少し、ほころんだように見えた。しかし、まだ目は笑っていない。
「いい推理だ、ユミ」
 零弥は認めた。ユミを連れてきた理由が別にあることを。
「お前が言うとおり、ユミをここに連れてきた理由は、確かに他にもある」
「……というのは?」
 ユミが聞き返した。

「──桐鋼だ」

「桐鋼?」
 ユミは後ろに立ててある、鞘に納められた大剣の方へと目をみやる。
「お前がスフィアを、流雅の家に連れてきた時を覚えているか?」
「あぁ……まぁ」
 ユミはそう言いながらも完全には思い出せていない。覚えているフリだけは忘れないが。
「そこからお前の家まで、そして貴石競争への参加を決めるまで、スフィアはずっとその剣を意識していた」
 流雅の家まで連れていったときも、ユミは護衛の意味を込めて、ちゃんと桐鋼を装備していた。
「まぁそれは、ただ気になっているというほどの見方ではなかったな。何か、『知っている』という雰囲気だった」
「そんな……別の国に住んでるスフィアが?」
「こればっかりは勘頼りだがな。ただ、問題なのはスフィアがただ知っているという訳ではない。俺達、ユミすらも知らないことを知っているかもしれないことだ」
 零弥はあまり『勘』という言葉を信用しない。大体、根拠を持って初めて行動する。ただ、全く信用しないというわけではない。今回はそれに頼ってみた。
「私も、これについて全然知らないよ?スフィアが知っている事なんてあるの?」
 ユミはスフィアが桐鋼について知っている事を想定できないようだ。
「訓練学校を卒業する時、これを渡された時は、『お前に相応しいものだ』っていきなり渡されたし、元は何なのか、向こうも知らないみたいだったし……」
 聞いていなかったのかよ……とは敢えて聞かない。ただ、能力アビリティ を内蔵した武器は聞いたこともない。逆に、ユミ手渡されたにもかかわらず、一切の実用化を為さないままユミに手渡したのはいささか疑問が残る。それをスフィアが知っているなら重大な事態だ。
「俺も自信はない。だが、ここに連れてくる意味はあった」
 零弥ははっきりと言う。

「なぜなら、陣営は二人でも参加出来ることは十分予想できたからな」

「──えっ……?」
 ユミは情けない声を出す。『拍子抜け』をそのまま表したような声に、零弥は失礼ながら笑ってしまいそうになっていたりする。まぁ、後々面倒くさいので口にはしないが。
「嘘よ!さっき『私をここに連れてきたのは陣営が二人で参加できるという事じゃない』って、言ってたじゃない!」
「言ってねぇよ」
 確かに言っていない。零弥が認めたのは『他に理由がある』のであって、『ルールの抜け穴を想定していない』事は認めていない。
 こういう辺り、抜け穴を作らないのは零弥らしいと言ったところである。いや、ユミが勝手に落ちに来ただけなのだろうが。
「とにかく、桐鋼について知ることが出来るチャンスでもあるんだ。まぁ、これがお前を連れてきた理由といったところか」
 零弥は久し振りに黒を打つ。
「……じゃあ四つ目」
「まだあるのか」
「これで最後。明日はどうやって立ち回るの?」
 ユミの質問コーナーは作戦会議へと急変した。
「……まぁ、アビスフリードをなんとか探せばいいんじゃないか?」
「ざっつ……」
 ユミは目を細めて呆れる。そして、一呼吸おいた後に白を打つ。
「嘘だ。そこまで焦る必要はないぞ」
「えっ、探さなくて良いの?」
「探さない……とまでは言わないが、こだわらなくて良いということだ」
「どういうこと……?」
 零弥はそう言いつつ、Xと呼ばれる、隅から斜め一マス内側の位置へと置く。本来なら、これは最悪手だ。
「やった!隅っこもーらい」
「はいかかった」
「えっ……あぁぁぁぁぁ!」
 ユミが一つ前に打った白。その結果、外辺に白が五つ並んでいた。これは『ウィング』と呼ばれる陣形で、悪形と言われている。なぜ悪形なのか、それは二つ空いた部分の隅に迂闊に打ってしまえば、その間に黒が打たれる。そうなると、反対側の隅に次ターンで黒を打たれるため、多大なマイナスとなるのだ。今回、ユミがそれを再現した。
「貴石競争ははっきり言ってやる意味がないゲームだ」
「意味がない?」
 外辺を一気に潰されたユミが首を傾げる。
「アビスフリード……それが多大な力を持っているってわかっているなら、それをわざわざ他の種族に渡すか?しかも種族で争わせるのも意味がわからん。今回だって、日本陣営が二つ出来ただろ?」
「確かに……他の国に渡って戦力になったら大変だ」
 ユミは必死に考えながら、零弥の思考に追い付こうとする。
「欠陥だらけのゲームをわざわざさせる……先代は本当に尊敬されるようなヤツなのか?反対に尊敬されるようなヤツがそんな事をするのか?」
 零弥も考える。
「じゃあ……やっぱりアビスフリードを探さなくちゃ」
「そう考えたら逆に負けるぞ」
「えっ……?」
 零弥の言葉を、やっぱりユミは理解できなかった。
「先代を信じるなら、アビスフリードは簡単に見つかるような場所じゃない。もしくはいくつかの仕掛けが施されているだろう。ならば話が速い」

「他の種族に謎を解いてもらうんだよ」

 零弥には珍しく、消極的な作戦。あまり賛成出来ることではなかったが、ユミは他に出来るような事は思い付かなかった。
「でも……大丈夫なの?他の種族に自由にさせて」
「大丈夫だ。リカバリーも出来る。そうだ、これだけは言っておこう」

『オセロは隅を取るゲームではない。自らの確定石を増やしていくゲームだ』

「急いで本丸に攻めるのではなく、むしろ本丸に攻めずに勝つのが戦の理想だ。そうすれば、人員も減らさずに済むからな」
 零弥はそう口にした。
 おそらく、大戦時代はそんな考えは無かっただろう。ただリーダーを倒しにいく、それが正しいとは限らないという問題提起は、ユミの奥底に響いた感触があった。
「さて、もう寝ようか」
「さっき昼寝したのに?」
「寝ようと思えば案外眠れるもんだぞ?明日寝坊されたら困るからな」
 そう言って零弥は電気を消そうと、スイッチのもとへと歩いていった。
 スマホの盤面は黒の勝ち。四隅のうち、黒は最終局面の一つだけ。残りは白が陣取っていたのである……
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