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アビスフリード争奪戦
侵掠すること火の如く⑧前編
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貴石競争は始まった。
アビスフリードを探す……単純に言えば、それだけのゲームだ。
複雑なルールも、意外な解法も、特殊勝利条件も無い、ただの宝探しゲーム。アビスフリードを純粋に求めるのならそうとしか映らない。
ただ、このゲームに特殊性を求めるとしたら、それはこのゲームは実際に戦闘を起こすことを禁じられていないことである。アビスフリードの奪い合い、妨害、牽制……攻撃の動機はいくらでもある。
ただし、プレイヤーを死亡させることは禁じられている。『こちらで総攻撃させていただく』とスフィアは言った。飛躍的に考えると言ったら、もしかすると死亡させたプレイヤーを再起不能に致すかもしれない。もしそうなら、プレイヤーは他のプレイヤーを死亡させない程度で攻撃する器用さが必要である。だったら、そもそも攻撃する必要がない。もしあるなら、それは本当に負けが見えている状況だ。
零弥はそれまでは攻撃は飛んで来ないと考えた。だから、目立ちすぎない程度に動いて最後の最後で奪いとる。『他の種族に謎を解いてもらう』。この真意はここにあった。
それでも、アビスフリードを見逃すことは出来ない。零弥はそもそも、アビスフリードの力云々よりも、アビスフリードが他の手に回り、戦力となることを危惧している。つまり、アビスフリードが然るべき扱いを受けるように動けばよいのである。
だが、他のメンバーがそう考えているだろうか?いや、違うだろう。
だからこそ、『アビスフリードを手に入れる』という面では、結局は同じ行動になるのだ。
とにかく、今はアビスフリードを探すことに重点を置く。それだけだ。もし戦闘に巻き込まれても、零弥は一人で何とかするだろう。
零弥はユミに諭されながらも、まだ責任と引け目を感じている。ならば、ユミには傷をつけさせない。それが、無理矢理連れてきたことに対する最良の詫びとなるのなら、それで良い。
「ねぇ、零弥」
「……どうした?」
歩いてしばらく、二人は口一つ開かなかったが、ユミがようやくその均衡を破った。
「零弥は、魔術についていくらか知ってることはあるの?」
「……無い、と言ったら嘘だな。魔術は確かに見たことがある」
零弥はっきりと言った。
「魔力の有無の差は確かに感じ取れる。能力のように、結果を重視したものとするなら、魔術は過程を重視することで良い結果をもたらさせるものだ。その分、威力や発動の確実性は高い。はっきり言って、大戦時代は回復を抜きにしても、人類には勝ち目がなかっただろうな」
零弥は淡々と喋る。
「回復……か。人類にも、そんなことをできる人はいたのかな……?」
「さぁな。だが、そいつは他の力が使えないということだ」
あっけらかんとした態度のように見えるが、なんとなくそれが悲哀に満ちたような雰囲気を醸し出している。
「まぁ、そんなことはどうでも良いさ。おそらく、勝負は遠距離対決。桐鋼が効かないのなら、すぐさま逃げたら良い。とにかく下手な戦闘は避けていこう」
「そうね。じゃあ適当に探していこう」
ユミはそう答える。
舞台は森林の中。いつ他のプレイヤーが襲ってくるかわからない。だが、二人は『死ぬことがない』という安易な考えに、緊張感が解かれていた。
ある程度リラックスしたこの状態は良いのか悪いのか。それは零弥にも解らなかった。
「まず、アビスフリードは器の中って言ってたね。ということはアビスフリードは何かの中に入っている……」
「『何かの中に入っている』という考えはアリかもしれないな。別に小型の器じゃなくとも大きな箱、彫った石の中、オブジェの内部だって考えられる」
零弥は辺りを見回しながらヒントをあげていく。
「次、アビスフリードは近いようで遠い……どういうこと?」
「俺もそこはわからん。単に距離的な問題とするならこの林付近か、もしくは反対側のガーデンになるが……」
「やみくもに探しても日が暮れちゃうし……あんまり気にしない方が良いかもしれないね」
近いようで遠い。
ユミは気にしない方が良いといったが、零弥はいささか無視できなかった。
近いようで遠いという言葉は、自分達が考えるようなヒントとは思えない。もっと抽象的な、ヒントでありながらも表現に近い。そのような気がした。
まぁ、あくまで気がしただけで最もらしい根拠はない。
「後は……ヒントなのかなぁ?」
「聞いただけじゃヒントとして成り立ってないよな……これ」
零弥は考え込むが、具体的な解法は見つからなかった。
暗闇の中にいる者とか、それが我々に明るみを照らすとか、単なる言い伝えにしかなっていない。もはや先代達の中二心が働いたとしか思えなくなってくる。
「……まぁ、零弥が言ってたように、この辺りも隠し場所の候補なんでしょ?じゃあ、何らかのケースとか、そういうのを探していこうよ」
「そうするしかないのか……」
零弥はとぼとぼとユミについていく。
零弥は負けず嫌いなのは既にご存じだろう。そのため、自分が納得しないことに悔しさやもどかしさを感じることが多々ある……というかほとんどだ。
自分の推理はとことんまで突き詰めるこの男が、簡単に謎を諦めるはずがない。
ただ、情報量が少な過ぎて今は進めないだけだ。
それでも、悔しい。
それを紛らわせようとしても、やはり頭からは簡単に離れなかった。
それらを振り払うように、零弥はユミの後をついていく。
そして、その先に、二手に別れたY字路にぶつかった。
「分かれ道だ……とりあえず右に……」
「──!?」
ユミは呑気にも進もうとしたが、左にあった小さな気配を、零弥は見逃さなかった。
「伏せろ!」
零弥はユミに覆い被さるようにどかす。
そして、零弥の目の先数センチ前に、炎の弾が通過した。その炎は木にぶつかった後、燃え広がることなく消えた。
「いったたた……」
痛がるユミはほっといて、零弥炎が飛んできた方向へ視線を向ける。
「……お前は」
そして、そこにはもう一つの日本陣営、燎暁介の姿が確かにあったのだ。
アビスフリードを探す……単純に言えば、それだけのゲームだ。
複雑なルールも、意外な解法も、特殊勝利条件も無い、ただの宝探しゲーム。アビスフリードを純粋に求めるのならそうとしか映らない。
ただ、このゲームに特殊性を求めるとしたら、それはこのゲームは実際に戦闘を起こすことを禁じられていないことである。アビスフリードの奪い合い、妨害、牽制……攻撃の動機はいくらでもある。
ただし、プレイヤーを死亡させることは禁じられている。『こちらで総攻撃させていただく』とスフィアは言った。飛躍的に考えると言ったら、もしかすると死亡させたプレイヤーを再起不能に致すかもしれない。もしそうなら、プレイヤーは他のプレイヤーを死亡させない程度で攻撃する器用さが必要である。だったら、そもそも攻撃する必要がない。もしあるなら、それは本当に負けが見えている状況だ。
零弥はそれまでは攻撃は飛んで来ないと考えた。だから、目立ちすぎない程度に動いて最後の最後で奪いとる。『他の種族に謎を解いてもらう』。この真意はここにあった。
それでも、アビスフリードを見逃すことは出来ない。零弥はそもそも、アビスフリードの力云々よりも、アビスフリードが他の手に回り、戦力となることを危惧している。つまり、アビスフリードが然るべき扱いを受けるように動けばよいのである。
だが、他のメンバーがそう考えているだろうか?いや、違うだろう。
だからこそ、『アビスフリードを手に入れる』という面では、結局は同じ行動になるのだ。
とにかく、今はアビスフリードを探すことに重点を置く。それだけだ。もし戦闘に巻き込まれても、零弥は一人で何とかするだろう。
零弥はユミに諭されながらも、まだ責任と引け目を感じている。ならば、ユミには傷をつけさせない。それが、無理矢理連れてきたことに対する最良の詫びとなるのなら、それで良い。
「ねぇ、零弥」
「……どうした?」
歩いてしばらく、二人は口一つ開かなかったが、ユミがようやくその均衡を破った。
「零弥は、魔術についていくらか知ってることはあるの?」
「……無い、と言ったら嘘だな。魔術は確かに見たことがある」
零弥はっきりと言った。
「魔力の有無の差は確かに感じ取れる。能力のように、結果を重視したものとするなら、魔術は過程を重視することで良い結果をもたらさせるものだ。その分、威力や発動の確実性は高い。はっきり言って、大戦時代は回復を抜きにしても、人類には勝ち目がなかっただろうな」
零弥は淡々と喋る。
「回復……か。人類にも、そんなことをできる人はいたのかな……?」
「さぁな。だが、そいつは他の力が使えないということだ」
あっけらかんとした態度のように見えるが、なんとなくそれが悲哀に満ちたような雰囲気を醸し出している。
「まぁ、そんなことはどうでも良いさ。おそらく、勝負は遠距離対決。桐鋼が効かないのなら、すぐさま逃げたら良い。とにかく下手な戦闘は避けていこう」
「そうね。じゃあ適当に探していこう」
ユミはそう答える。
舞台は森林の中。いつ他のプレイヤーが襲ってくるかわからない。だが、二人は『死ぬことがない』という安易な考えに、緊張感が解かれていた。
ある程度リラックスしたこの状態は良いのか悪いのか。それは零弥にも解らなかった。
「まず、アビスフリードは器の中って言ってたね。ということはアビスフリードは何かの中に入っている……」
「『何かの中に入っている』という考えはアリかもしれないな。別に小型の器じゃなくとも大きな箱、彫った石の中、オブジェの内部だって考えられる」
零弥は辺りを見回しながらヒントをあげていく。
「次、アビスフリードは近いようで遠い……どういうこと?」
「俺もそこはわからん。単に距離的な問題とするならこの林付近か、もしくは反対側のガーデンになるが……」
「やみくもに探しても日が暮れちゃうし……あんまり気にしない方が良いかもしれないね」
近いようで遠い。
ユミは気にしない方が良いといったが、零弥はいささか無視できなかった。
近いようで遠いという言葉は、自分達が考えるようなヒントとは思えない。もっと抽象的な、ヒントでありながらも表現に近い。そのような気がした。
まぁ、あくまで気がしただけで最もらしい根拠はない。
「後は……ヒントなのかなぁ?」
「聞いただけじゃヒントとして成り立ってないよな……これ」
零弥は考え込むが、具体的な解法は見つからなかった。
暗闇の中にいる者とか、それが我々に明るみを照らすとか、単なる言い伝えにしかなっていない。もはや先代達の中二心が働いたとしか思えなくなってくる。
「……まぁ、零弥が言ってたように、この辺りも隠し場所の候補なんでしょ?じゃあ、何らかのケースとか、そういうのを探していこうよ」
「そうするしかないのか……」
零弥はとぼとぼとユミについていく。
零弥は負けず嫌いなのは既にご存じだろう。そのため、自分が納得しないことに悔しさやもどかしさを感じることが多々ある……というかほとんどだ。
自分の推理はとことんまで突き詰めるこの男が、簡単に謎を諦めるはずがない。
ただ、情報量が少な過ぎて今は進めないだけだ。
それでも、悔しい。
それを紛らわせようとしても、やはり頭からは簡単に離れなかった。
それらを振り払うように、零弥はユミの後をついていく。
そして、その先に、二手に別れたY字路にぶつかった。
「分かれ道だ……とりあえず右に……」
「──!?」
ユミは呑気にも進もうとしたが、左にあった小さな気配を、零弥は見逃さなかった。
「伏せろ!」
零弥はユミに覆い被さるようにどかす。
そして、零弥の目の先数センチ前に、炎の弾が通過した。その炎は木にぶつかった後、燃え広がることなく消えた。
「いったたた……」
痛がるユミはほっといて、零弥炎が飛んできた方向へ視線を向ける。
「……お前は」
そして、そこにはもう一つの日本陣営、燎暁介の姿が確かにあったのだ。
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