虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く⑧中編

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 オープニングで他とは違った雰囲気を醸し出していた妖霊獣ドワーフ、燎暁介。彼はアビスフリードを持っていないことを知っているにも関わらず、ユミを攻撃した。
 魔術で錬成された炎は、弱々しく消える。
「よう。人類。そんなオーバーな演出は要らネェンだよ。それともなにかァ?脱法的に二人で参加できて勝ったとでも思ったりしてねぇよなァ」
 暁介は独特な口調で零弥達を見下すように詰め寄る。
「いきなり攻撃とはあまりにも無鉄砲だな。燎 暁介。正直言って、戦略の欠片もない。まさか、さっきの一手を戦略の一部だと言い張るつもりか?」
 零弥も負けずに煽り返す。
「うるッセェ。そんなことはどうでもいいだろ。テメェらが何考えてるかは知らねぇが、この場に女を連れて来るたァ、魔族を舐めてんのか?あぁ?」
 暁介は荒い口調を直す気配がない。それどころか、メインで戦うのは零弥だと決めつけ、明らかにユミを侮辱している。
「さっきから何回か見ていたが、テメェは何度かよく分からねぇ能力アビリティを発動していたが、そっちの女は全くといって何もしてねェ。まさかとは思うが、生身の人間で戦おうとざ、思ってねェよなァ?」
「……」
 零弥は言い返さない。
「アビスフリード。この為だけに全力を捧げるいかれたヤツらの闘技場に、遠足気分の観客は一切要らねェ」
 暁介の煽りはまだまだ続く。
「がっかりしたぞ。人類。ルールの隙を突いておきながら何もできねぇお荷物を、呑気に持ち歩いていたとはなァ!」
「お前……」
 さすがに零弥も言い返そうとした。しかし、ユミを連れてきたことに責任を持っていること、桐鋼の活躍場所が見えないことに矛盾を感じ、言葉がでなかった。
「零弥」
 それをユミが制止した。零弥の前に右手を振りかざし、暁介に近寄る。
「あなたの言う通り、私は戦えない。だけど、このゲームはアビスフリードを探すことが勝負の分かれ目。何も攻撃できなくたって、勝負には勝てる」
 ユミの口は止まることを知らない。さっきまでの緊張はどこ吹く風。
「じゃあ、アビスフリードを探さずに私に攻撃してきたあなたは何でしょうか?時間制限があるなかで、あろうことか無駄な手順を踏んでいる。さて、魔族を舐めているのははたしてどちらのことなのでしょうか……?」
「……チッ」
 暁介は言い返さなかった。
 柄の悪い舌打ちだけ残して、じっとこちらをにらみ続ける。
「……今回は見逃してやる。せいぜいそこらでくたばっているんだな。今度は俺が全て燃やし尽くしてやるよ。それまで呆気なく死ぬんじゃねェぞ?人類」
 炎の魔術使い、燎 暁介は零弥達の姿を一切見ず、ゆっくりと歩いていく。先ほど攻撃した相手に背中を見せるのは自殺行為であり、『殺してください』と言わんばかりの行動である。しかし、このゲームはプレイヤーの殺害を禁じられている。だからこそ、攻撃されたとしても自らの命が危なくなるような事には至らない。
 零弥達も暁介を見送った。
 ユミがプレイヤーへの攻撃を否定した以上、その言葉を嘘にさせたくなかった。それが零弥の本音だ。
 被害を振り撒く相手は深追いしない。戦闘面では吉にも凶にもなる選択だ。だが、今回は間違えていない。そう信じたい。
 とにかく、暁介の不意討ちを無傷でやり過ごせただけよかった。
「はぁ~」
 ユミは一気に脱力する。
「あぁ~緊張したぁ……」
 先ほどのセリフを吐いた人物と同一とは思えない、気の抜けた情けないため息を吐き出す。さっきの侮辱は全く気にしていないようで、ただひたすら、緊張から解き放たれた反動を抑えている。
「はぁ……?」
「……」
 一方、零弥は全くといって動かなかった。
 思い立ったら先を読んですぐ行動するいつもとは違う。先ほどのやり取りをずっと思い出している。
「どうしたの?零弥」
 思わず、ユミは話しかけた。
「あっ……あぁ。何でもない」
 明らかに何でもないはずがない。その返答をユミは見過ごさなかった。
「もしかして、あの人の言ってることを気にしてるの?」
「……」
  零弥は口をつぐんだまま、何も言わない。
「攻撃されたのだって、私が回りをよく見てなかったからじゃない。零弥は無傷で守ってくれた。あの人は私が役に立たないって言ったけど、事実そうじゃん」
「……は?」
「桐鋼が使えない今じゃ、私は無力に近い。近接勝負に持ち込めないのなら、私は本当に荷物だよ?」
「違う……」
 零弥は消え入る声で否定する。
「私自身、なんの力も持ってない。いつも零弥や流雅に頼ってばかり。今回だって、零弥の推理や閃きがなかったら、ここにすらこれなかった。桐鋼を知るチャンスも無かったんだよ?」
「違う」
 零弥ははっきりと否定する。
「これから先、どんな事が起こるかわからない。だから、私は……潔く身を引くね」
「……?」
 ユミはうつむく。瞼に、一滴の粒が浮かぶ。
「私みたいな荷物がいない方が、零弥は自由に動けるから……その方が……」

「違う!」

 零弥は大きな声で否定した。
 暁介の煽りは関係ない。
 それは零弥が、心の中でずっとそう思っていた言葉だ。
「俺は……この戦いに、ユミが必要だと思ったから連れてきたんだ」
 零弥はそう口にする。その眼差しは、誤魔化しの無い、真っ直ぐで澄んだ瞳をしていた。
「今まで、ユミの力があったから、俺達の目的に近づくことが出来ていた。桐鋼だけではない。ユミ自身が、大きな力を持っていたからだ」
 ユミを連れてきた理由……それは桐鋼ではない。
 あのとき、零弥は自分の本心が解らなかった。この戦いにユミを連れてくることは悪手中の悪手。責任をずっと感じていたのは、連れてきた本当の理由を見つけ出せず、理性が責任を負うことへと逃げていたからだ。だから、桐鋼というを使った。
 だが、ようやく気づけた。
「ユミがいなければ、スフィアの命は危なかった。ユミがいなければ、ペルティエは探せなかった。ユミがいなければ……俺は生きていなかった」
「……大袈裟だよ」
「ユミの力……その正体はわからない。だからどうした。その力は目の前にあるんだよ」

「目の前に起きていることを、根拠だか何だかで目をそらすわけにはいかないんだ!」

「……あはっ……」
 ユミから乾いた笑いが出た。
「本当に……零弥らしくないね」
「あぁそうだ。俺が誰か忘れそうだ」
 零弥も応えるように笑いかける。
「だいぶ時間が経ってしまった。今日はとにかくドローに持ち込むぞ。ユミ」
「わかった!」
 零弥はユミの手を引く。
 それは無重力グラヴィティ・ゼロの効果をユミに与える……だけでは無さそうだ。むしろその方が面白いだろう。
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