虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く⑧後編

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 零弥はユミの手を取り、無重力グラヴィティ・ゼロを発動させた。
「飛ぶぞ!」
 零弥によって重力はコントロールされ、二人の体は簡単に中に浮く。ふわふわとした不思議な感覚に、ユミはジェットコースターに落ちる前の僅かな恐怖心を思い出す。
「うわぁ……」
 零弥のコントロールは確かに正確だ。だが、それは零弥が行える範囲での話。
 無重力グラヴィティ・ゼロはそのままの通り、重力を操る能力アビリティである。重力はその物体を引っ張る斥力である。ならば、その斥力の向きをコントロールすれば、その方向に飛んでいく。
 そこで思い付く能力アビリティ。それは『飛行』 だろう。
 零弥も理論上では可能だと考えている。ただ、あくまで理論上。どのように重力を操作し、鳥のように自由に出来るのか。それを行う技術が自分にあるのか。まだ手探りの状態である。
 そこで、零弥はそこらに並ぶ木を利用した。
 太い枝に向かって着地できるように重力をコントロールし、高速で前に進んでいく。獣人ビーストよりも速く、魔術師ウィザードよりも正確に。二人は森林の林冠部を駆け抜けていく。
 それは、ペルティエの隊員を追いかけたあのときの姿と同じだ。
「他の陣営も、そろそろラストスパートをかけ始める時間帯だろう。万が一アビスフリードをギリギリで発見されたら防ぐ手段はない。ならば、時間稼ぎの牽制を仕掛けていくしかない」
 零弥はさらにスピードを上げていく。すると、ジャンプしたときの高さも必然的に上がる。その時の景色は、ユミが今まで見たことの無いような景色だった。
(これが、零弥が普段見ている景色……)
 ユミは心の中で考えた。
 今まで見たことの無いような景色、味わったことの無い感覚。安全装置も、特別な技術も無い、完全にフリーな状態。その感覚を、こんな異常な状況で味わって良いのか?いや、この状況だからこそ味わえている。そのはずだ。
(……ゾクゾクする。もっと遠くへと行きたい)
 流れ行く景色と空気抵抗は二人の行き先を阻む。
 だが、決して落ちたりはしない。
 はじめから存在しない翼は折れない。
 燃料は零弥の体が許す限り。
 だからこそ、どこまでも行ける。
(いいな……)
 ユミは心の中で呟く。
(どこまでも行けるって)
「あれは……」
 零弥は人影を発見する。 
 その付近は多くの穴があり、これは戦闘の跡というよりかは人為的に掘った、もしくは穴を開けたというものだ。
「いっぱい荒らした跡があるね。降りてみよう?」
「そうだな」
 零弥は重力を徐々に戻し、二人はゆったりと地上に着地する。
 そこは先ほどの森林とは違い、開けた空間だった。 
 そして、目の前には別のプレイヤーが一体。
「お前は……」
「何でここに来やがった……」
 獣人ビースト陣営、ドルガ・デイトス。
 彼もまた、一人アビスフリードを求めて探していた。
「なんだって良いだろう。それとも、目的の品は見つかったのか?」
「無かった。わざわざ言わせるな!」
 ドルガはやはり口が悪い。
 あちこちを荒らした跡を背景に、こちらに敵意を向ける。そもそも、零弥の方から向かってきたのでこうなることは百も承知だが。とにかく、逃げる準備をしつつ、情報を引き出していく。これが最良の選択肢だと、そのときは思う。
「なぜここを集中的に調べた?他にも候補はあるだろう?」
「関係ねぇだろ!それともテメェ、俺を邪魔しに来たんだろうな!」
 零弥は辺りを見渡す。
 そこには、数々の銅像が置かれていた。
 歴代の国王、そしてそれに仕えた数々の偉人達を讃えた像。
 なるほど。宮殿からはそれなりの距離があり、『大切なものの近くにいる』という条件の元では合っている。
「その通りだ。アビスフリードの居場所に見当はついていないのでな。獣人ビーストの運動能力ならば広範囲に動けるだろう?後半で最も探すことができるだろうと考えたが、とんだ思い違いだったな」
「ちょっと、零弥?」
 怒りを振り撒くドルガを他所に、零弥は煽る煽る。正直必要性はあまり無かったが、こちらに集中を向けるという意味としては間違ってはない。
「テメェ……死にてぇのか?」
「死なねぇよ。お前がどうあがこうとも、ルールの支配からは逃れられない。俺達は所詮、ゲームマスターの掌で転がされるプレイヤーに過ぎない。その……便利で醜い力があってもな」
 零弥の最後の言葉……それは魔術を指す。
 八千年前……いや、その前も、その後も。人類の命を奪う要因になってきた、人類には無い力。
 自らの力に溺れなければ、あんな大戦は起こらなかったのかもしれない。零弥だって、微かに人類の歴史を我が身のように考える瞬間はある。
 しかし、己の魔術に誇りを持った者だっているのだ。それは、目の前の獣人ビーストにも当てはまる。
「テメェ……!」
「逃げるぞ」
「えっ?」
 零弥は放していたユミの腕を再び握る。すると、すぐに能力アビリティは発動し、二人の体は宙に浮いた。
「待て!逃がすか!」
 ドルガも必死に追いかける。
「……速い」
「……!えぇぇぇぇっ!追い付かれるって!大丈夫なの!?」
 いかに身体能力が高いとはいえ、あそこまでのスピードはでないはずだ。あれは確実に魔術を使っている。そう感じた。 
 事実、零弥の考えは当たっている。
 『筋骨強化』。文字通り、ドーピングだ。
 魔術によって自身の運動能力や防御力を一定期間強化する魔術。もちろん、使いすぎると相当な負担がかかる。
 対して、零弥は更に加速した。
「クソッ、追い付かねぇな」
 ドルガは魔術を中断。そして、魔力を錬成し、弾丸へと変貌させた。
 その弾丸は、零弥はおろかその進行方向へと向かっていく。
「チッ……」
 零弥は舌打ちと共に、こちらも能力アビリティの使用を徐々に緩め、回避の行動をとっていく。
「わっ!」
 ユミの手を離し、遠くへと押しやる。どうやら、一人で相手をする気だ。ユミは零弥に向かうようなことはしなかった。むしろ、他の敵がいないのか、精一杯見張っている。
「食らえッ!」
 ドルガは大ジャンプの後、零弥に覆い被さるように殴りかかってくる。
 零弥は横によけ、もう一度間合いを取る。すると、その付近には大きな衝撃と穴が生まれた。
 しかし、ドルガは追いかけることを止めず、また右手で殴ってきた。
 零弥はこれもよける。動きが読めなかったので、触れるようなことはしなかった。
 しかし、ドルガもまたしぶとさを見せる。避けられたと思いきや、すぐに方向転換。その後、強烈なパワーを込め、落ちていた石を投げつける。
「しぶといな……」
 弾丸は僅かに外れた。
 しかし、弾丸に木をとられていた隙に、ドルガは零弥の眼前まで切り込んできた。
「死ねやァァァァ!」
 零弥に向かって、大きな拳は向かってくる。
 その先に、零弥の左手が待ち構えていた。
(そんなもので何を……)
 ドルガはお構いなしに殴り付ける。そして、零弥の左手を突破しようと、無理矢理振りきった!

「俺の手に……触れたな?」

 その時、吹き飛んだ。ドルガの体が、真後ろへと。その先には、一本の大木。ドルガはそこに打ち付けられた。
「ガァァァッッ!」
 ドルガは絶叫しながらも、自身に起こった現象が全く理解できなかった。その事に混乱したまま、立ち上がれなかった。 
「何だ……今のは」
 零弥の手に触れた瞬間、能力アビリティを発動した。ドルガ自身の重力の情報を書き換え、ドルガを後ろへと飛ばした。その強靭な体力とエネルギーを利用したパンチを持ってしても、変えられる重力には敵わなかった。
能力アビリティの発動速度をなめるな。攻撃が読めれば、あれぐらいのカウンターは簡単に行える」
 零弥はそう吐き捨て、歩いていく。
「……大丈夫なの?」
「あぁ。なんとか無傷だ。ヤツもすぐにピンピンするだろ」
 そう言いつつ、零弥は最小限の力の行使だけで倒せたことに安堵している。
 後は、この残された僅かな時間を過ごすだけだ。
 そして……

 パァン!

 終了を告げる号砲。
 確かに、もう日は沈んだ。
「零弥……」
「あぁ」
 宮殿に着いたとき、確かに確信した。
「どうやら、一日目は乗りきったようだな」
 アビスフリードの居場所を示す強い輝きは、そこには無かった。
 零弥は、一日目を無傷で乗りきり、二日目に繋げることが確かに行えたのである。
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