虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ①前編

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「……あぁ~……疲れた」
「お疲れ。よく頑張ってくれた」
 人類陣営の部屋では、どんよりとした疲労がのし掛かり、何とも重苦しいものだった。二日目に持ち込ませるという最良の結果にもかかわらず、だ。
 それだけ、暁介とドルガの二連戦はヒヤヒヤした。主にユミが。
 その分、零弥は余裕を見せる。
 殺害禁止ルール、そしてユミの護衛が無かったとしたら瞬殺だっただろう。それだけ、重力操作の力は強力なのである。
 でなければ、ドルガをあんな簡単に吹っ飛ばせやしない。
「そう言うけど、零弥は疲れてないの?私なんてもうくたくたなんだけど」
 ユミはそう言いつつ、風呂上がりの髪を匂わせる。良いシャンプーを使ったようで、香り成分は全くくどくなく、それでいて良い香りがした。
能力アビリティの使用だってかなりの体力を使うんだ。魔力を使わないからって、そう簡単に多数使える訳じゃない」
 零弥はペットボトル入りの天然水を片手に説明を続ける。
「えっ、そうなの?」
能力アビリティは使用自体は慣れてしまえば簡単だが、その後に疲労が来るんだ。今回だって、重力操作を多段発動している。結構辛いんだぞ、あれ。
 言うなれば、長い距離の中で多数のダッシュを加えながら走りきる、言わばインターバル走をしている感覚。長い発動時間の物はずっとダッシュだ」
「うえぇ……」
 ユミは想像して少し吐き気がした。
 訓練時代もインターバル走は基礎練の一つだ。しかも、武器を携帯して行うときが多い。だからこそ、嫌な思い出しか無い。
「私も桐鋼を振り回してるときはホントに疲れちゃうけど、やっぱり簡単に使えるもんじゃないのね」
「良いものには必ず代償が付きまとう。そう考えるなら、この感覚も不自然ではないがな。まぁ、その後の回復は長い経験の中で体が勝手に行ってくれるから、昔よりは発動回数は格段に増えている」
 そう言いつつ、零弥は消耗した左腕を右手でさする。
「ところで、明日はどう立ち回るつもり?」
 ユミが横目で見つめる。
「明日は最終日だ。当然、アビスフリードを狙いに行くに決まっている……が」
「が?」
 気になる語尾をユミは逃さなかった。そこに疑問と心配事を抱えていることは用意に読める。
「何か引っ掛かる……」
 零弥は呟く。
 それは、過去に落としてきた情報を改めて拾っていく様で、新しい情報を産み出している様でもあった。
「引っ掛かるって……アビスフリードを手に入れたらそれで良いんじゃないの?元々私たちってそのつもりで来てるんだし、それ以上もそれ以下も無くない?」
 ユミは首を傾げながら言う。
「そもそも、先代はなぜこのゲームを開催させたのか?」
「それ、昨日言ってたヤツだよね」
「俺は昨日、一見意味がなくデメリットでしかない貴石競争開催を非難した。他国に戦力を売り渡す行為は、一つ間違えれば戦争にだってなりうる。それは先代にもわかっているはずだ。なのに、それを省みず、貴石競争を開催した」
 零弥は思考を巡らせる。
 まだ足りない。
 もっと深く。
 そうでなければ、自分が何をするべきか分からない。
「先代は国民から厚い信頼を受けていた。もちろん、先代はその期待に応えてきている。
 ならば……アビスフリードを他種族に渡す理由は何だ?そして、プレイヤーを種族で選んだ理由は何だ?」
 見逃した情報は無いのか。
 これらを逃していれば絶対に真相にはたどり着かない。
 零弥は必死に追う。
「……待て、一つおかしいところがある」
「どうしたの?」
 ユミは突然の疑問に戸惑いながら、改めて疑問で返す。
「アビスフリードの存在は表向きには知られていない。だが、あっという間にプレイヤーは集まった。おかしいだろ?機密情報が特定の人物に即座に伝わるなんてな」
「まぁ……そうなのかな」
「ならば、考えられる疑問は一つ浮かぶはずだ。それは……」
 零弥は小さく、深く息を吸い……
「……その機密情報が漏れていたからだ」
「そうなるけど……」
 だからどうした、としか思えない。
 機密情報が漏れるようなトラブルはいくらでも聞いたことがある。だが、それだけでは「おかしい」と言えるほどの説得力は無い。
「先代が情報が漏れていたことを知っていながら、スパイの正体を掴みかねていたとしたらどうする?」
「……どうにもならない」
 ユミは考えたが、その結論は出なかった。
(……ユミには、この一件は伏せておくか)
 零弥は一つの選択肢を選んだ。そして、後にその言葉を続ける。
「そうだ。探すだけではどうにもならない。だが、先代は何とかしてあぶり出そうとした、その結果……」
「無残に、殺されてしまった……」
 ユミが息を詰まらせるように呟く。同じく家族を殺されたユミは、その痛みがわかるのだ。
 いきなり消えていく希望、叩き落とされた絶望。十一才の少女が、まともに耐えられるはずがない。
「まぁ……そういうことに、なるな」
 それと同時に、零弥はフェイルノートの事を口にしなかった。元々、ユミは連れてくるべきではなかったのに、更に厄介事に巻き込むのは気が引けていた。いかに抑制師サプレッサーといえども、国際的な事件を扱うものはいない。
 結果、オスカーが動きすぎたがために襲撃事件が起こったという結論に至ってしまっている。
 だが、襲撃事件の引き金が何であったのかはどうでも良い。一連の証拠と形跡をたどっていけば、オスカーが襲撃されるのは明白だったからである。
 問題は、フェイルノートに対してオスカーはどのような対策をとっていたか、だ。
「あれだけの人数だったんだ。おそらく、相当な組織だったんだろう。スパイがいなければ、襲撃のタイミングも掴みづらい。でなければ、あれだけの襲撃事件は起こせない」
 零弥の推理は続く。
「スパイは最小限の人数で行われる。つまり、最小限の情報しか引き出せない。ならば、スパイはどんな情報を引き出すか?」

「……アビスフリードの存在!」

(──そう来たか)
「……俺はそう考えている」
 驚くユミとは対照的に、零弥は落ち着いた素振りをする。
「──零弥は、その組織の一員が、貴石競争に関わってるって言いたいの?」
「……そうだ」
 思わずどきりとしそうだった。
 だが、組織を追おうだとか、潰しにかかろうだとか、そういう会話に発展しなかっただけ安堵した。
(……スパイ?)
 零弥の中で考えが新たに浮かんだ。
「スパイがアビスフリードの情報を抜き出そうとしたのなら、それに対するオスカーの対応も限られてくる」
「どういう対応?」
 ユミが首を傾げた。
「アビスフリードの情報を出来るだけシャットアウトすることだ。一日目で誰も見つけられていないということは、オスカーは居場所を本当に誰にも教えていない。そして、スフィアに遺言として厳重に扱わせた」
 零弥はまだ続ける。
「スフィアはそれを律儀に守り続けた。手紙もセキュリティをかけていたのだろう。スパイはそれを破れなかった。だから……」
 そう、その続きの推理は、零弥が予定していないものである。
 今まで、零弥はフェイルノートの目的をアビスクロージャーとばかり考えていた。そのための波となる、国王の死去。これを起こすためであると。その考えの根拠として、貴石競争及びアビスフリードの居場所と存在を、フェイルノートが知らなかったということを前提として推理していたからである。
 だが、アビスフリードの存在が事前に知らされていたとしたら、それを伝える存在が場内にいたとしたら事情は大きく変わる。
 魔力に関する力がある。つまり、アビスクロージャーの上位互換になるかもしれない。
 そんな代物を、巨大組織が見逃すはずがないだろう。
 そこから導き出される答えは、一つしかない。

「しびれを切らして、スパイの指示の元、襲撃を行った。これが悲劇の始まりだ」

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