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アビスフリード争奪戦
幻影 ~phantom~ ⑤前編
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「ふぅっ……ふぅ……」
ユミは腕を振って全力で逃げる。刀を持った訓練は数多ものの訓練で鍛えているが、それでも辛いものは辛い。刀の重みがバランスを崩してしまうので、無理に走ると無駄に疲れてしまう。
「どこに逃げたら良いの?アイツ、敵を引き連れろとか何とか言ってたけど……」
右も左も木が立ち並ぶ。墓地が近くにあったとは言え、あそこまで暗い空間にしておき、周辺のこの地域まで日が通りにくい。
ユミはこう考える。本当に先代を弔う気があったのか、と。
それはどうでもいいとして、ユミは一つ心配事がある。零弥の安否だ。洞窟から脱出する際に大きな爆発が起きた。重力を操れるとは言え、接近できなければ直接叩くことはできない。エリア設定で何とかできるかもしれないが、それでも心配ではある。
そのときだ。
横影から魔術が繰り出されたのは。
まぁ、そういう自分も安心できないが。
「あら、あの男の子とは一緒じゃないのね?」
「……あなたは!」
目の前に現れたのは妖霊獣陣営、リンジー・テーリア。蒼い髪を揺らして、彼女は立ちはだかる。
「あなた、必死に走っていたけど、どうかしたのかしら?男の子は結構戦えてるみたいだけど、あなたはそんな素振りは見せないわねぇ。なのに一人。もしかして、目的の品を持っているんじゃないですわよね?」
「ギクッ」
ユミは凍りついてしまった。その動揺を、リンジーは見逃さなかった。
「生憎、私の種族はこういった細かく複雑な魔術を得意としているので。簡単に逃れるとは思わないこと」
『紫宵の眼』。魔力を眼球に消費させ、目標物体のわずかな動作を読み取る魔術。心理学と組み合わさればその心理状態まで読み取れる者までいる。
しかもユミは焦りに焦った極限状態。魔術をかわすような心の余裕はない。やろうとしても余計に顔に出てしまうのだ。
「うぅ……人類相手だったら戦えたのに」
「……?何を言ってるのかよくわからないけど、とりあえず、捕まっていただくことね!」
リンジーは再び魔術を発動する。ユミの頭上に魔方陣が展開されていく。
「まずい!」
ユミは急いでこの場を離れようとした。瞬発力は訓練でいやというほど鍛えられている。反応と最高速度へと至る加速は一級品だ。
展開された魔方陣はユミを捕まえ損ねた。
「……なかなかやりますわ。まぁ、他の種族も動き出すでしょう」
リンジーはユミの後を追いかける。足はそこまで早くないのだが、同時に展開される魔術が多い。精霊獣は展開速度、威力が少ない代わりに魔術の正確性、そして魔力保有量が高い。また、種族特性として『魔力の高速回復』を持つ。
「これならどうでしょ!」
リンジーの展開した魔術は魔方陣そのもので攻撃するのが特徴のようだ。クモの巣のように張られた魔方陣が、ユミの行く手を阻む。
「危ない!」
クイックステップ、大ジャンプ、受け身、再加速……ユミの身体能力は発動速度を越えずとも劣らない。
魔方陣そのものが覆い被さってくる魔術は非常に厄介で、一旦見逃せばそこでアウトだ。捕まれば手も足もでない。そこは分かっている。 だから攻撃が出来ない。桐鋼を抜いたとしても、能力しか無効化できない結論改竄なら太刀打ちできないだろう。
(ヤバい、魔術の回数が多すぎる。これは……ムリ)
だから、逃げる。
「逃がすと思う?」
リンジーはより多くの魔力を込める。かざした右手の先に、魔方陣が多数展開。
その時だった。
「!?」
リンジーに魔力弾が降ってきたのは。
「この儂を差し置いて何を楽しんでおるのかのう。勝負はまだついておらんぞ」
呪霊種陣営、ウィリアム・コールドホム。老父のような口調だが、そこには根拠のない力強さがある。
呪霊種の種族特性は「魔力の隠密性」。魔力が検出されにくいため、予測や不意打ちに長けている。
「じゃましないでいただけます?老父人は下がっておき!」
(……!今だ)
リンジーの魔方陣が新たに展開された。その隙をついてユミは逃走を試みる。
「あっ!待ちなさい!」
「ほぉ。よく動けるもんじゃのぉ。人類にしてはなかなかやりおるわい」
二人はユミを追いかけはじめた。
「あぁ~もう!零弥は何をやってるのかなぁ!」
「クソッ!逃げ足の速い奴め!」
洞窟から脱出した零弥は、森の中を飛び回っていた。それを暁介が必死に追う。炎の魔術は爆発も操れるようで、その威力と衝撃波で零弥から引き剥がされることはなかった。
「ふぅ……」
対して、零弥も疲れてきている。度重なる能力の使用で、体の悲鳴も上がってきている。もう迷っている暇はない。
「中々器用だな。逃げ回っても仕方がないし……ならば……」
零弥は地面に降り立つ。
「直接叩くしか無い!」
地面に降り立った零弥とは対照的に、暁介はまだ上空にいる。炎の推進力を得たまま落下してくれば、新たに攻撃を食らう可能性がある。
「くたばれオラァ!」
右手に炎をまとった暁介が殴りかかってくる。
対して、零弥は光子銃を向ける。
「ハッ、そんなもので……あ゛っ!?」
その時だった。暁介は空中でバランスを崩した。
零弥の左拳が握られている。
暁介が飛ぶ空間の重力が重くなっている。わずかな一瞬だったが、それでも効果的だ。
零弥、数発放った後、同時に飛び上がった。左手には光子剣。光子の収集も終えている。重力を操作し、地面を強力なジャンプ台として飛び上がる。
「あめェんだよ!」
しかし、その刃は眼前の炎に防がれた。思わず腕で体を守ってしまう。
「熱い!なんて火力だ。
しかし……」
「相討ち以上には持っていける!」
零弥は構わず振りに行った。この選択は間違っていない。炎は魔術のため、すぐに対処できるのだから。
しかし、さすがに予想外の出来事が起こっていた。
「フッ……」
刃は受け止められていた。形がないはずの炎の剣に。
「何!?」
「オルァ!」
気を抜いていた矢先に、零弥は鳩尾を蹴られ、地面に叩きつけられる。暁介の重力を変える暇はなかった。
一瞬の後に着地した暁介はニヤリと笑い。立ちすくむ。
「勝負はこれからだぞォ?人類。さっさとくたばりやがれ!」
ユミは腕を振って全力で逃げる。刀を持った訓練は数多ものの訓練で鍛えているが、それでも辛いものは辛い。刀の重みがバランスを崩してしまうので、無理に走ると無駄に疲れてしまう。
「どこに逃げたら良いの?アイツ、敵を引き連れろとか何とか言ってたけど……」
右も左も木が立ち並ぶ。墓地が近くにあったとは言え、あそこまで暗い空間にしておき、周辺のこの地域まで日が通りにくい。
ユミはこう考える。本当に先代を弔う気があったのか、と。
それはどうでもいいとして、ユミは一つ心配事がある。零弥の安否だ。洞窟から脱出する際に大きな爆発が起きた。重力を操れるとは言え、接近できなければ直接叩くことはできない。エリア設定で何とかできるかもしれないが、それでも心配ではある。
そのときだ。
横影から魔術が繰り出されたのは。
まぁ、そういう自分も安心できないが。
「あら、あの男の子とは一緒じゃないのね?」
「……あなたは!」
目の前に現れたのは妖霊獣陣営、リンジー・テーリア。蒼い髪を揺らして、彼女は立ちはだかる。
「あなた、必死に走っていたけど、どうかしたのかしら?男の子は結構戦えてるみたいだけど、あなたはそんな素振りは見せないわねぇ。なのに一人。もしかして、目的の品を持っているんじゃないですわよね?」
「ギクッ」
ユミは凍りついてしまった。その動揺を、リンジーは見逃さなかった。
「生憎、私の種族はこういった細かく複雑な魔術を得意としているので。簡単に逃れるとは思わないこと」
『紫宵の眼』。魔力を眼球に消費させ、目標物体のわずかな動作を読み取る魔術。心理学と組み合わさればその心理状態まで読み取れる者までいる。
しかもユミは焦りに焦った極限状態。魔術をかわすような心の余裕はない。やろうとしても余計に顔に出てしまうのだ。
「うぅ……人類相手だったら戦えたのに」
「……?何を言ってるのかよくわからないけど、とりあえず、捕まっていただくことね!」
リンジーは再び魔術を発動する。ユミの頭上に魔方陣が展開されていく。
「まずい!」
ユミは急いでこの場を離れようとした。瞬発力は訓練でいやというほど鍛えられている。反応と最高速度へと至る加速は一級品だ。
展開された魔方陣はユミを捕まえ損ねた。
「……なかなかやりますわ。まぁ、他の種族も動き出すでしょう」
リンジーはユミの後を追いかける。足はそこまで早くないのだが、同時に展開される魔術が多い。精霊獣は展開速度、威力が少ない代わりに魔術の正確性、そして魔力保有量が高い。また、種族特性として『魔力の高速回復』を持つ。
「これならどうでしょ!」
リンジーの展開した魔術は魔方陣そのもので攻撃するのが特徴のようだ。クモの巣のように張られた魔方陣が、ユミの行く手を阻む。
「危ない!」
クイックステップ、大ジャンプ、受け身、再加速……ユミの身体能力は発動速度を越えずとも劣らない。
魔方陣そのものが覆い被さってくる魔術は非常に厄介で、一旦見逃せばそこでアウトだ。捕まれば手も足もでない。そこは分かっている。 だから攻撃が出来ない。桐鋼を抜いたとしても、能力しか無効化できない結論改竄なら太刀打ちできないだろう。
(ヤバい、魔術の回数が多すぎる。これは……ムリ)
だから、逃げる。
「逃がすと思う?」
リンジーはより多くの魔力を込める。かざした右手の先に、魔方陣が多数展開。
その時だった。
「!?」
リンジーに魔力弾が降ってきたのは。
「この儂を差し置いて何を楽しんでおるのかのう。勝負はまだついておらんぞ」
呪霊種陣営、ウィリアム・コールドホム。老父のような口調だが、そこには根拠のない力強さがある。
呪霊種の種族特性は「魔力の隠密性」。魔力が検出されにくいため、予測や不意打ちに長けている。
「じゃましないでいただけます?老父人は下がっておき!」
(……!今だ)
リンジーの魔方陣が新たに展開された。その隙をついてユミは逃走を試みる。
「あっ!待ちなさい!」
「ほぉ。よく動けるもんじゃのぉ。人類にしてはなかなかやりおるわい」
二人はユミを追いかけはじめた。
「あぁ~もう!零弥は何をやってるのかなぁ!」
「クソッ!逃げ足の速い奴め!」
洞窟から脱出した零弥は、森の中を飛び回っていた。それを暁介が必死に追う。炎の魔術は爆発も操れるようで、その威力と衝撃波で零弥から引き剥がされることはなかった。
「ふぅ……」
対して、零弥も疲れてきている。度重なる能力の使用で、体の悲鳴も上がってきている。もう迷っている暇はない。
「中々器用だな。逃げ回っても仕方がないし……ならば……」
零弥は地面に降り立つ。
「直接叩くしか無い!」
地面に降り立った零弥とは対照的に、暁介はまだ上空にいる。炎の推進力を得たまま落下してくれば、新たに攻撃を食らう可能性がある。
「くたばれオラァ!」
右手に炎をまとった暁介が殴りかかってくる。
対して、零弥は光子銃を向ける。
「ハッ、そんなもので……あ゛っ!?」
その時だった。暁介は空中でバランスを崩した。
零弥の左拳が握られている。
暁介が飛ぶ空間の重力が重くなっている。わずかな一瞬だったが、それでも効果的だ。
零弥、数発放った後、同時に飛び上がった。左手には光子剣。光子の収集も終えている。重力を操作し、地面を強力なジャンプ台として飛び上がる。
「あめェんだよ!」
しかし、その刃は眼前の炎に防がれた。思わず腕で体を守ってしまう。
「熱い!なんて火力だ。
しかし……」
「相討ち以上には持っていける!」
零弥は構わず振りに行った。この選択は間違っていない。炎は魔術のため、すぐに対処できるのだから。
しかし、さすがに予想外の出来事が起こっていた。
「フッ……」
刃は受け止められていた。形がないはずの炎の剣に。
「何!?」
「オルァ!」
気を抜いていた矢先に、零弥は鳩尾を蹴られ、地面に叩きつけられる。暁介の重力を変える暇はなかった。
一瞬の後に着地した暁介はニヤリと笑い。立ちすくむ。
「勝負はこれからだぞォ?人類。さっさとくたばりやがれ!」
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