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アビスフリード争奪戦
幻影 ~phantom~ ⑤後編Ⅰ
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「ハァッ……ハァ。私、どんだけ走ったんだろ」
手札は無く、ただただ逃げ回るしかない状況で、休憩できたのは正直大きい。桐鋼を持った訓練は幾度となく積んでいるのだが、それでも疲れるものは疲れる。
「お嬢ちゃーん?どこにいるのかしら」
リンジーは無情にも追いかけてくる。しかも、ユミは一つ嫌な予感が付きまとっていた。
ウィリアムの介入。
呪霊種の種族特性は『隠密』。何と発動した魔術が検知されにくいのだ。
如何に人類といえども、魔力そのもの、魔術の発動には検知、反応することができる(他の種族に比べ微々たるものだが。また検知できない人物も多々いる)。その状況で魔術が検知できないとなると、避けることすら困難になるのは必至。本物の暗殺だ。
「なんか増えてきたし……呪霊種は攻撃が読み取りづらいから注意しろって零弥言ってたけどなぁ……。本当に見えなかったら終わりじゃん。これ」
肩で息をする姿は身体が限界に近づいている証拠。一旦深呼吸。それが案外手っ取り早く……
「あー!なんか面白そうなことやってるー」
吸血鬼陣営のクレイアが新たに乱入してきた。見た目幼女と言いつつ、言動はどことなく危うい。
「わぁっ!?」
「お姉ちゃん、持ってるんでしょ?例のヤツ。さっき見てたんだー。洞窟から出てくるところ」
鋭い歯を光らせたクレイアは、両腕を組んで近寄ってくる。
「……三人目!」
間合いを詰めさせるのはまずい。という本能がユミの身体を動かせた。
「……さすがに渡してくれないかー。だったら、力ずくで!」
クレイアは自らの手の甲を噛む。鮮血が溢れ出す中、その甲をかざす。
「『プリズネーション・スカーレットバインド』!」
手の甲の血が、暴れ回る生き物を形取って襲いかかってくる。無知のようにしなる鮮血が唸る。
種族特性、『吸血』。生き物の血液を魔術の触媒にする能力。また、魔力として取り込むこともできる。当然ながら自身の血液も魔術のグレードアップに補填することが出来るので、こういった行動はよく見られたりする。
それはさておき、問題はユミ自身にある。
「血が鞭になった!?ちょっとそれは……!」
身体が反応する。
だが、動かない。お陰で一歩目が遅れてしまった。
「あっ……」
鞭は激しく唸りながらも、攻撃は正確。ユミの左腕に巻き付いて、そのまま大木に絡まった。
「うぅっ!」
叩きつけられて苦しい肺と、酸素を求める全身。それらが全て、ユミという生き物を極限状態へと誘う。
「すごいね、今の攻撃で腕しか捕まえられないなんてビックリした。お姉ちゃん、普通の人類じゃないよね」
クレイアは楽しそうに見上げた。
笑っているが、どことなく危ない。
「私見てたんだ、お姉ちゃんは大切に物を握って洞窟から出てくるところ。そのポケットに入れたんだよね?」
「……」
ユミは口を開かない。
「……言わないか。まぁ、捕まったことには変わり無いんだし。じゃあ、じっとしてね」
クレイアが近寄る。
(ごめん、しくじった)
(零弥……零弥が何をしようとしたのかはわからないけど、これを渡しちゃいけないのはわかってた)
(だけど、ごめん。私はやっぱり、役立たずだったんだ)
「……楽しいお嬢ちゃんじゃの」
「……!?」
クレイアの背後から、一人の老父の声がする。
ウィリアムが介入してきた。音も立てず、いつの間にか背後を取られた。しかも、正面で相対するはずのユミすら気づかなかった。
「もー!せっかくのときに邪魔しないでよ!」
クレイアはバックジャンプした後、不機嫌そうに頬を膨らませる。
「お嬢ちゃん、元気かい?」
「……えぇ……まぁ」
苦しい状況だが、何とか気力を振り絞って応える。
ウィリアムは魔力で短剣を生成すると、何とユミに巻き付いた鞭を切断した。
「……えぇ!?」
「そんなに驚くことかい?儂はただその厄介な物を切っただけだが」
「おじさん!何してんの?」
「……なんですって?」
ウィリアムの行動は追い付いてきたリンジーを含め、不可解なものだった。 敵に塩を送る行為。アビスフリードを持っている可能性が高いユミを解放する行動は、自分を不利にする、チャンスをみすみす逃すようなものだ。
「あの……どうして、こんなことを?」
「お嬢ちゃん。君はどうして例のブツを集める?」
ウィリアムからの突然の質問。
「人類じゃ集めても意味は無いだろう?それなのに、どうして必死に逃げる」
「……私自身、どうしてこんな戦いに巻き込まれているのかわからない。アビスフリード自体、私に何か影響を与えるかと言えば、そうでもない」
「だけど、彼はそうじゃない。他の種族に渡ったらまずいとは言っていたけど、本心はわからないまま。だけど、そこには意味があるはずなんです。それを信じた。それが大事だと思えたから、私は進むんです」
「……ごめんなさい、意味わかんないですよね」
「──おもしろいのぉ」
ウィリアムは優しく微笑んだ。相対的にユミはキョトンとする。
「実におもしろい答えじゃ。自分の為でなく、あくまで人のサポートに徹する。いい心掛けじゃ。じゃが、お嬢ちゃんは一つ足りないことがあるのぉ」
「足りない……こと」
ユミが改めて問い直す。
「もう少し、自分を大切にすることじゃな」
「……」
ウィリアムはそういいつつ、手に持った短剣を解消する。
「実のところ、儂も例のブツには興味が無いんじゃ」
「……はぁ?」
ユミにが驚く。
「興味があったのは……」
「例のブツが惹き付ける物の正体よなぁ!」
ウィリアムはユミの前に立ち、戦闘の構えにはいる。
呪霊種陣営の、まさかの肩入れだった。
手札は無く、ただただ逃げ回るしかない状況で、休憩できたのは正直大きい。桐鋼を持った訓練は幾度となく積んでいるのだが、それでも疲れるものは疲れる。
「お嬢ちゃーん?どこにいるのかしら」
リンジーは無情にも追いかけてくる。しかも、ユミは一つ嫌な予感が付きまとっていた。
ウィリアムの介入。
呪霊種の種族特性は『隠密』。何と発動した魔術が検知されにくいのだ。
如何に人類といえども、魔力そのもの、魔術の発動には検知、反応することができる(他の種族に比べ微々たるものだが。また検知できない人物も多々いる)。その状況で魔術が検知できないとなると、避けることすら困難になるのは必至。本物の暗殺だ。
「なんか増えてきたし……呪霊種は攻撃が読み取りづらいから注意しろって零弥言ってたけどなぁ……。本当に見えなかったら終わりじゃん。これ」
肩で息をする姿は身体が限界に近づいている証拠。一旦深呼吸。それが案外手っ取り早く……
「あー!なんか面白そうなことやってるー」
吸血鬼陣営のクレイアが新たに乱入してきた。見た目幼女と言いつつ、言動はどことなく危うい。
「わぁっ!?」
「お姉ちゃん、持ってるんでしょ?例のヤツ。さっき見てたんだー。洞窟から出てくるところ」
鋭い歯を光らせたクレイアは、両腕を組んで近寄ってくる。
「……三人目!」
間合いを詰めさせるのはまずい。という本能がユミの身体を動かせた。
「……さすがに渡してくれないかー。だったら、力ずくで!」
クレイアは自らの手の甲を噛む。鮮血が溢れ出す中、その甲をかざす。
「『プリズネーション・スカーレットバインド』!」
手の甲の血が、暴れ回る生き物を形取って襲いかかってくる。無知のようにしなる鮮血が唸る。
種族特性、『吸血』。生き物の血液を魔術の触媒にする能力。また、魔力として取り込むこともできる。当然ながら自身の血液も魔術のグレードアップに補填することが出来るので、こういった行動はよく見られたりする。
それはさておき、問題はユミ自身にある。
「血が鞭になった!?ちょっとそれは……!」
身体が反応する。
だが、動かない。お陰で一歩目が遅れてしまった。
「あっ……」
鞭は激しく唸りながらも、攻撃は正確。ユミの左腕に巻き付いて、そのまま大木に絡まった。
「うぅっ!」
叩きつけられて苦しい肺と、酸素を求める全身。それらが全て、ユミという生き物を極限状態へと誘う。
「すごいね、今の攻撃で腕しか捕まえられないなんてビックリした。お姉ちゃん、普通の人類じゃないよね」
クレイアは楽しそうに見上げた。
笑っているが、どことなく危ない。
「私見てたんだ、お姉ちゃんは大切に物を握って洞窟から出てくるところ。そのポケットに入れたんだよね?」
「……」
ユミは口を開かない。
「……言わないか。まぁ、捕まったことには変わり無いんだし。じゃあ、じっとしてね」
クレイアが近寄る。
(ごめん、しくじった)
(零弥……零弥が何をしようとしたのかはわからないけど、これを渡しちゃいけないのはわかってた)
(だけど、ごめん。私はやっぱり、役立たずだったんだ)
「……楽しいお嬢ちゃんじゃの」
「……!?」
クレイアの背後から、一人の老父の声がする。
ウィリアムが介入してきた。音も立てず、いつの間にか背後を取られた。しかも、正面で相対するはずのユミすら気づかなかった。
「もー!せっかくのときに邪魔しないでよ!」
クレイアはバックジャンプした後、不機嫌そうに頬を膨らませる。
「お嬢ちゃん、元気かい?」
「……えぇ……まぁ」
苦しい状況だが、何とか気力を振り絞って応える。
ウィリアムは魔力で短剣を生成すると、何とユミに巻き付いた鞭を切断した。
「……えぇ!?」
「そんなに驚くことかい?儂はただその厄介な物を切っただけだが」
「おじさん!何してんの?」
「……なんですって?」
ウィリアムの行動は追い付いてきたリンジーを含め、不可解なものだった。 敵に塩を送る行為。アビスフリードを持っている可能性が高いユミを解放する行動は、自分を不利にする、チャンスをみすみす逃すようなものだ。
「あの……どうして、こんなことを?」
「お嬢ちゃん。君はどうして例のブツを集める?」
ウィリアムからの突然の質問。
「人類じゃ集めても意味は無いだろう?それなのに、どうして必死に逃げる」
「……私自身、どうしてこんな戦いに巻き込まれているのかわからない。アビスフリード自体、私に何か影響を与えるかと言えば、そうでもない」
「だけど、彼はそうじゃない。他の種族に渡ったらまずいとは言っていたけど、本心はわからないまま。だけど、そこには意味があるはずなんです。それを信じた。それが大事だと思えたから、私は進むんです」
「……ごめんなさい、意味わかんないですよね」
「──おもしろいのぉ」
ウィリアムは優しく微笑んだ。相対的にユミはキョトンとする。
「実におもしろい答えじゃ。自分の為でなく、あくまで人のサポートに徹する。いい心掛けじゃ。じゃが、お嬢ちゃんは一つ足りないことがあるのぉ」
「足りない……こと」
ユミが改めて問い直す。
「もう少し、自分を大切にすることじゃな」
「……」
ウィリアムはそういいつつ、手に持った短剣を解消する。
「実のところ、儂も例のブツには興味が無いんじゃ」
「……はぁ?」
ユミにが驚く。
「興味があったのは……」
「例のブツが惹き付ける物の正体よなぁ!」
ウィリアムはユミの前に立ち、戦闘の構えにはいる。
呪霊種陣営の、まさかの肩入れだった。
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