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アビスフリード争奪戦
幻影 ~phantom~ ⑤後編Ⅱ
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「あなた正気?賞品が欲しくないわけ!?」
信じられない光景にリンジーは動揺を隠せない。魔術を発動することも忘れ、目の前で起きていることの整理をする外無かった。
「おぬしらには関係なかろう。文句なんて言わずにさっさと掛かってきたらどうじゃ」
「……チッ……」
リンジーが舌打ちする。クレイアも嫌悪感を漂わせる。ユミには耐え難い悪い空気が流れ始めた。
「まぁいいよ。遊び相手になってくれるなら」
「おぉ。小童がいい度胸じゃのぉ」
「うるさい!」
クレイアが魔力を錬成し始めた。暴れだした鞭は二人に飛びかかる。だが、ギリギリのところで外れ、大木に絡まり、離散する。
二人は飛び込んでいたので事なきを得た。
「お嬢ちゃん」
「はい!」
勢いよく返事をする。それに呼応して、ウィリアムは戦闘の構えに入る。
「ここは儂にまかせぃ」
「えっ、でも……」
「いいんじゃ。おぬしにはその宝石を守り抜くという大事な役割があるんじゃろ?儂もその宝石を奪うつもりはない。特にやることも無いしな」
ウィリアムはユミに優しく言い聞かせる。
「だけど、一人にするわけにはいかないでしょう!私は役に立たないけど、あなたが足止めする義理はない!」
「気にするな。儂にはやることがないと言ったばかりじゃろ?少々ここらで動かんとな、なまってしまうわい。お嬢ちゃんは人数差を気にしているんじゃろ?大丈夫。これでも儂は経験を積んどる。ルール上、完全には止めきれんでも、時間稼ぎにはなるじゃろ。まぁずっとと言われれば、それは保証せんが」
うぉっほん、と咳払いをし、ウィリアムはユミに逃避を促す。ウィリアムの意図はわからなかったが、ユミには一つわかる。
ウィリアムの行動には真意がある。
だが、今はそれを見極めている暇などない。
「ありがとうございます。私、必ずやりとげて見せますから!」
「おう。頑張れ」
ユミは疲れを気にせず走り出した。
「行かせるかぁ!」
魔術の錬成が終わったクレイアは、再び鞭をしならせる。標的はユミ。ウィリアムになるふりかまっていられないと判断した。
「うぉっと」
ウィリアムの右手には魔方陣が宿る。鞭に対し、払うように叩く。
「魔力の相克!?なんて器用な……」
鞭は真っ二つに割れ、魔力に逆錬成。解消した。
「呪霊種の特性は魔力関連。まぁ、色々と魔力には敏感でなぁ。隠密性が高いのが目立っているだけで、魔術に関しては全体的にお主らに引けは取らんぞ」
魔力の相克。
練り上げられた魔力が形成されて魔術を発動させるのなら、それには組み立てられた構造そのものが存在する。当然、それが脆ければすぐに魔術は崩れ去る。
相克は大きく分けて三種類存在する。
1、実力不足等による弱い構造の自然消滅
2、魔術同士のぶつかり合いによる構造の破壊
3、魔術の構造を分断する技術
それを利用したのがウィリアムの魔術、『魔構造の分離』。魔術の構造を認識、それに僅かにひびを入れることで魔術を不発に追い込む魔術。
「仕方ないわね……これでどうかしら!」
リンジーはさらに魔方陣を展開。一気にウィリアムを追い込む。
魔方陣はウィリアムに向かって一直線に追い込んでくる。
しかし、これも右手で叩き破壊。しかし、いくつか破壊できないものもあった。
「お主、なかなか純度が高いのぉ。隙が見当たらんわい」
「ごちゃごちゃ言って……」
リンジーが次の一撃を加えようとした、その瞬間であった。
「あぁっ!?」
地面が突然割れる。ただただひびが入り、僅かな穴が空いただけだ。しかし、それはリンジーの右足を正確に捉えていた。
「ふんぬ!」
ウィリアムの一撃。魔力弾を浴びせる。
「くっ……」
リンジーはクモの巣を目の前に張る。バリアの様に張り巡らされた魔術は、魔力弾の嵐からリンジーを守るが……圧倒的な球数に破壊されてしまう。
「うぁっ!」
リンジーは後ろに飛ばされ、尻餅をついた。
地面はもちろんウィリアムの仕業だ。特性を生かし、気づかれないように地面に魔術を発動した。動けなければ狙いは定まる。バリアを張られることも想定済みだ。
「あーもう!ホント邪魔だなぁ!さっさと退いてよ!」
クレイアは再び鞭を用意した。しかし、その方角はウィリアムに向いていない。
向かった先は大木。鞭は巻き付く。すると、それに連なってクレイアも引っ張られる。
高速移動は戦局を有利に運ぶための手段としては最も手っ取り早い。魔術破壊をくぐるならば敵の盲点を突く外ないのだ。
「よし……とにかく動いて、アイツをホンロウしてやれば……!」
視界の、森の中の木々が暴れ回る。ウィリアムは一歩も動かない。振り向きも、構えもとらない。ただただ自然体でいる。
そうして、第二波を食らわせようとした、その時だった。
「……いない」
ウィリアムが見当たらなくなったのは。木に隠れた瞬間、ウィリアムが消えた。仕方なく、クレイアは足を止める。
「甘い」
「えっ……!」
背後に、目の前にいたはずの男が佇んでいた。
ウィリアムはすぐにクレイアを蹴り飛ばす。
「うぁっ!」
余裕を見せていたクレイアも、さすがに痛さを隠せない。起き上がるまでに時間をかけた。
「こん……のー!調子にのって……」
「さて……どこまで行けるかのぉ。あのお嬢ちゃんは。いや、それより今の儂を心配するべきか」
目の前の二人はまた戦闘体勢に入っている。休ませてはくれない。人数不利も働き出すこの時に、ウィリアムはある人物を浮かべていた。
「彼女は言った。『彼を信じる』と。
椎名零弥と言ったか……彼は一体、どんな男なのじゃろうか……」
零弥の顔を浮かべたウィリアムは、気持ちを切り替え、目の前の敵に相対した。結果はどうなろうと。
信じられない光景にリンジーは動揺を隠せない。魔術を発動することも忘れ、目の前で起きていることの整理をする外無かった。
「おぬしらには関係なかろう。文句なんて言わずにさっさと掛かってきたらどうじゃ」
「……チッ……」
リンジーが舌打ちする。クレイアも嫌悪感を漂わせる。ユミには耐え難い悪い空気が流れ始めた。
「まぁいいよ。遊び相手になってくれるなら」
「おぉ。小童がいい度胸じゃのぉ」
「うるさい!」
クレイアが魔力を錬成し始めた。暴れだした鞭は二人に飛びかかる。だが、ギリギリのところで外れ、大木に絡まり、離散する。
二人は飛び込んでいたので事なきを得た。
「お嬢ちゃん」
「はい!」
勢いよく返事をする。それに呼応して、ウィリアムは戦闘の構えに入る。
「ここは儂にまかせぃ」
「えっ、でも……」
「いいんじゃ。おぬしにはその宝石を守り抜くという大事な役割があるんじゃろ?儂もその宝石を奪うつもりはない。特にやることも無いしな」
ウィリアムはユミに優しく言い聞かせる。
「だけど、一人にするわけにはいかないでしょう!私は役に立たないけど、あなたが足止めする義理はない!」
「気にするな。儂にはやることがないと言ったばかりじゃろ?少々ここらで動かんとな、なまってしまうわい。お嬢ちゃんは人数差を気にしているんじゃろ?大丈夫。これでも儂は経験を積んどる。ルール上、完全には止めきれんでも、時間稼ぎにはなるじゃろ。まぁずっとと言われれば、それは保証せんが」
うぉっほん、と咳払いをし、ウィリアムはユミに逃避を促す。ウィリアムの意図はわからなかったが、ユミには一つわかる。
ウィリアムの行動には真意がある。
だが、今はそれを見極めている暇などない。
「ありがとうございます。私、必ずやりとげて見せますから!」
「おう。頑張れ」
ユミは疲れを気にせず走り出した。
「行かせるかぁ!」
魔術の錬成が終わったクレイアは、再び鞭をしならせる。標的はユミ。ウィリアムになるふりかまっていられないと判断した。
「うぉっと」
ウィリアムの右手には魔方陣が宿る。鞭に対し、払うように叩く。
「魔力の相克!?なんて器用な……」
鞭は真っ二つに割れ、魔力に逆錬成。解消した。
「呪霊種の特性は魔力関連。まぁ、色々と魔力には敏感でなぁ。隠密性が高いのが目立っているだけで、魔術に関しては全体的にお主らに引けは取らんぞ」
魔力の相克。
練り上げられた魔力が形成されて魔術を発動させるのなら、それには組み立てられた構造そのものが存在する。当然、それが脆ければすぐに魔術は崩れ去る。
相克は大きく分けて三種類存在する。
1、実力不足等による弱い構造の自然消滅
2、魔術同士のぶつかり合いによる構造の破壊
3、魔術の構造を分断する技術
それを利用したのがウィリアムの魔術、『魔構造の分離』。魔術の構造を認識、それに僅かにひびを入れることで魔術を不発に追い込む魔術。
「仕方ないわね……これでどうかしら!」
リンジーはさらに魔方陣を展開。一気にウィリアムを追い込む。
魔方陣はウィリアムに向かって一直線に追い込んでくる。
しかし、これも右手で叩き破壊。しかし、いくつか破壊できないものもあった。
「お主、なかなか純度が高いのぉ。隙が見当たらんわい」
「ごちゃごちゃ言って……」
リンジーが次の一撃を加えようとした、その瞬間であった。
「あぁっ!?」
地面が突然割れる。ただただひびが入り、僅かな穴が空いただけだ。しかし、それはリンジーの右足を正確に捉えていた。
「ふんぬ!」
ウィリアムの一撃。魔力弾を浴びせる。
「くっ……」
リンジーはクモの巣を目の前に張る。バリアの様に張り巡らされた魔術は、魔力弾の嵐からリンジーを守るが……圧倒的な球数に破壊されてしまう。
「うぁっ!」
リンジーは後ろに飛ばされ、尻餅をついた。
地面はもちろんウィリアムの仕業だ。特性を生かし、気づかれないように地面に魔術を発動した。動けなければ狙いは定まる。バリアを張られることも想定済みだ。
「あーもう!ホント邪魔だなぁ!さっさと退いてよ!」
クレイアは再び鞭を用意した。しかし、その方角はウィリアムに向いていない。
向かった先は大木。鞭は巻き付く。すると、それに連なってクレイアも引っ張られる。
高速移動は戦局を有利に運ぶための手段としては最も手っ取り早い。魔術破壊をくぐるならば敵の盲点を突く外ないのだ。
「よし……とにかく動いて、アイツをホンロウしてやれば……!」
視界の、森の中の木々が暴れ回る。ウィリアムは一歩も動かない。振り向きも、構えもとらない。ただただ自然体でいる。
そうして、第二波を食らわせようとした、その時だった。
「……いない」
ウィリアムが見当たらなくなったのは。木に隠れた瞬間、ウィリアムが消えた。仕方なく、クレイアは足を止める。
「甘い」
「えっ……!」
背後に、目の前にいたはずの男が佇んでいた。
ウィリアムはすぐにクレイアを蹴り飛ばす。
「うぁっ!」
余裕を見せていたクレイアも、さすがに痛さを隠せない。起き上がるまでに時間をかけた。
「こん……のー!調子にのって……」
「さて……どこまで行けるかのぉ。あのお嬢ちゃんは。いや、それより今の儂を心配するべきか」
目の前の二人はまた戦闘体勢に入っている。休ませてはくれない。人数不利も働き出すこの時に、ウィリアムはある人物を浮かべていた。
「彼女は言った。『彼を信じる』と。
椎名零弥と言ったか……彼は一体、どんな男なのじゃろうか……」
零弥の顔を浮かべたウィリアムは、気持ちを切り替え、目の前の敵に相対した。結果はどうなろうと。
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