虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
109 / 109
アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑩後編Ⅲ

しおりを挟む
「貴様は……実行役では無かった……!」
 ジェフ・ケルトス。彼は零弥を知りすぎていた。ただの工作員が、ここまで生きていられるほど甘い組織ではない。
 また、彼はもう一人の青年によって硬く守られた。つまり、幹部以上のクラス。
「……フフッ」
 彼はクスリと笑った。
「全く。休暇を取ってて良いって言ったのに」
「もう1ヶ月経ちます。体が鈍っては困りますから」
 突如現れた青年を気遣うように、ジェフは語りかけた。長身の青年の魔術は硬く、彼もまた、上位のクラスであると分かった。
「君の方は覚えていないみたいだね。まぁそうか。強い力を持つものは弱いものなど見りゃしない。そうだろう?光の魔術師」
 佇む、緊張感。
 零弥は確かに、魔術を放った。人類である彼の背後には、確かに魔方陣が存在している。

 椎名零弥は能力持ちアビリストであるとともに、魔術師でもあった。

 その事実が、今明らかとなった。

「最強の魔術師ウィザードであるとは知っていたけど、まさか能力アビリティまで使えるとは。驚いたよ」
 ジェフは魔術を解いた。それに合わせ、零弥の魔方陣も崩れる。
 だが、それは魔力の節約のため。戦闘を止めるつもりはない。
「貴様がトップなのだろう?ならばここで決着をつけてやる」
 光子剣フォトンブレードの刃。魔力によって光子を集める手間をカットしたため、刃は直ぐに取り戻す。これが早い修復効率の正体。
「……ここは私が」
「いや、いいよ。まだ終わらせたくないし」
 ジェフの笑顔は消えない。
「椎名零弥。君が正体を表したからこっちも見せないと不公平アンフェアだよね。だから言っちゃうよ」
 青年が退く。零弥も斬りかかろうとはしなかった。
「ジェフ・ケルトスなんて此処にはいない。いるのはただの魔術師だけだ」

「アラン・ドローヴ。フェイルノートのリーダーだ」

 ジェフ……ではなく、アラン・ドローヴ。彼は零弥の元へと歩いていく。目線は合わない。合わせようとしない。一体化の魔術師は、第一位には怖じ気づかない。堂々と、リーダーとして歩いていく。
「あぁ、そう。今回の事件だけど、あれ、僕が命令も作戦の実行を許可した訳じゃないから」
「……!?」
 意外な一言に、零弥は驚いた。さっと、アランを一瞥する。
「アビスクロージャーの収益なんてちょっとしたもの。無くても別の手段がある。スペルキーパーなんてよっぽど追い詰められない限り、怖くて誰も使えないさ」
 アビスクロージャー。確かに、リーピタン王国からの産出量、取引は莫大なものだ。だが、それだけではなかった。元々、リーピタン国王襲撃事件の解決の糸口だけを探っていたラウムツァイト一行も、フェイルノートの悪行全てが把握できていた訳ではない。流雅ならば可能かもしれないが、関連していた証拠、フェイルノートのアジトさえ突き止めれば十分だった。だからこそ、見誤っていた。
 このような巨大組織が、ただ単に単機突入を仕掛けるほど愚かではないことを。
「アビスフリードは手にいれれば相当の価値と力があるかもしれない。だけど、それはただの宝石に他ならない。もしかしたらデマかもしれないし、そこまで効果はないかもしれない。しかも、あそこには第五位がいる。攻めようとも思わないし、意味がない。
 だけど、その宝石に目が眩んだヤツがいた。どうやらそいつは僕達が何も手を出さないのをいいことに、勝手に計画して勝手に突撃したんだって」
 ぶっきらぼうに説明するアランに、零弥はありのままの言葉を口にした。
「貴様は……何も知らなかったと言いたいのか……?」
「いいや?実行の数日前には把握していたさ。うちの組員が何処まで戦えるか、そこに興味はあったけどね。まぁ、面倒くさいから期待はしてなかったんだけどさ」
 アランは実行犯ではなかった。
 一連の事件をただ傍観していただけなのだった。
 だが、その行為は襲撃事件の実行を許可したに等しい。
 他人に対して興味を持たない零弥でも、この態度には納得がいかなかった。本心から計画したのなら、容赦なく切り裂くことが出来たのに。一国のリーダーである以上に、オスカー達はスフィアの家族、心の支えだ。だが、彼はそれを容赦なく奪い取ったのだ。
 紅緒を失った零弥は、彼女の苦しみに共感していた。事件で、スフィアがどれだけの悲しみの淵に立たされていたのか、零弥は自分なりにも理解していた。
 だからこそ、許せない。 
 アイツを許すことは、絶対に出来ない!
 零弥は悔しさと怒りのあまり歯を食い縛った。
「勿論、着石競争への参加はさせなかった。うちのネズミだって勝手に働くだけ働いて、最後は地獄の道に飛んでいったよ」
 アネイザの位置も把握していた。日本が安全ではないことを知りながら、アランはそこへ飛ばした。日本軍が待ち伏せしていることも、当然掴んでいた。
「全てお見通しだったと言うわけか」
「さぁ。国王が無理とは思ってたけど、まさか子供の方は両方生き残るとは思ってなかった。彼女もなかなか悪運強いね。そして、君がアビスフリードの在りかを思っていなかった。なかなか頭がキレるんだ」 
「チッ……」
 零弥が軽く舌打ちする。
 計画を暴かれたのだ。悔しくて当然。
 それはいいとして、零弥はまだ当たり前のことを聞いていない。
「聞こう、アラン・ドローヴ。貴様らの『目的』は何だ」
 これだけの大きな組織を築くにも必ず理由があるはず。この雰囲気なら、話してもおかしくないと思った。最悪実力行使に移ってもいい。
「言わない。けどまぁ、一つ良いことを教えておこうか」
 要求には応じなかった。だが、アランは会話を止めなかった。
「何で第五位への攻撃をためらっておいて、第一位きみに対して何も恐怖を感じていないと思う?」
 アランが耳元で質問してきた。
「貴石競争で、君はほとんど魔術を使わなかった。今回だってそうだ。本来の力を行使すれば数秒で済んでた。だけど君は選ばない」

「本当の実力も扱えないヤツに、たとえ第一位だって怖くないのは当たり前だろう?」

「何らかのデメリットか何かがあるのは分かるんだけどさ。だけど、いつまでもそのままじゃ、君が求めるものは永遠に手に入らない」
 最強の魔術。それを持つ零弥は、魔族からすれば驚異でもあれば、嫉妬の対象でもある。その強さに苦しむと言っても、それこそを切望するものだっている。力を持っている、その条件を満たした彼が、自らその土俵を降りようとすることを、アランは許さない。
「それでも良いのなら、その道を選ぶといい。だけど、もう避けられないよ?どのみち、誰も君を待ってくれないからさ」
「そんなことは……分かっている」
 京紅緒。彼女は厳しい人だった。特訓では傷だらけになり、血反吐を吐き、ボロボロになった。
 京紅緒。彼女は優しい人だった。閉ざされた零弥の内面をこじ開け(決して丁寧かと言ったらそうではないが)、ハッキリと目的を得られるようにした。
 京紅緒。彼女は……

「……まぁいいさ。結論は今得られなくても、そのうち見つかるよ。特に、君にも仲間はいるみたいだしね」
 アランは満足げに言い切った。零弥の煮え切らない戦法に不満はあったが、零弥なりに悩ますことが出来て満足したのだろう。一体化という魔術も希少であるが、零弥の光の魔術も特異性が高い。その手の内もある程度は見えた。
 命のやり取りこそ無かったものの、駆け引きではアランに軍配が上がる。これは紛れもない事実だった。まぁ、お互いそこを気にしている訳ではないのだが。
「アラン・ドローヴ。俺は貴様を許さない。たとえ、俺の行く道が間違いだろうとも、俺は絶対に、答えを見つけてやる」
 それが零弥の精一杯の決断だった。
「……いいだろう。楽しみにしてるよ。椎名零弥」
 お互いに、目線は合わなかった。振り向きもしない、背中を向けた状態。
「そうだ、獲物は君に譲るよ。君のことだ。どうせ掴んでいるんだろ?」
「……あぁ。もとより、渡す気は無かったが」
  零弥はそう言いつつ、目を閉じた。そして開く。
「じゃあ。今度はもっと良いことを教えてあげる。それまでは、せいぜいウチへの襲撃の言い訳を考えておくことだね。行くよー。
「かしこまりました」
 カイト。その青年はアランの後を追うように、零弥の横を通り過ぎた。
「……」
 そうして、彼は呟く。
「ペルティエの件のご活躍、とくと拝見させて頂きましたよ」
「……」
 振り替えると、そこには二人の姿はなかった。
 何らかの魔術を使ったのか。
 サーチをかけるが反応はない。もう、行方を眩ませたのだ。
「やはり……繋がっていた」
 ペルティエ。彼はハッキリと言った。これで、ペルティエとフェイルノートが繋がっていたことが確定した。
 彼が、元凶だった。その事実を簡単にには受け止められない。
 滴る鮮血に指を当てる。
 壁になぞったその言葉。

 ─hiderays─

 hideous醜い……その言葉にray光線を合わせた言葉。その魔術で、あらゆるものを壊してきた。その事実を戒めるものだ。
 いつも忘れない。第一位として生きるときは……絶対に。


 ピリリリリリリ……

 零弥の電話が鳴る。戦地ではバレてしまうので、最小限の振動で感じ取らせた。
「……今、どこにいるの?」
「……どうした」
 通話の相手は、以外にも亜芽だった。
「質問に答えて。今は何処にいる?」
「リーピタン王国の宮殿。答えるまでもないだろ」
「……そう。ならいい。一つ聞きたいことがあって……」
「何だ?」
 零弥はぶっきらぼうに聞いた。すると、亜芽の声色が一瞬で変わる。
「零弥達……何か企んで無いよね?」
「急にどうした」
 零弥は笑い混じりに答えた。だが、若干冷や汗をかく。『達』という言葉に引っ掛かったのだ。
「流雅が、最近プログラムと闘っているんだ。依頼が完成しても、ずっと何かを考えている様子だった。もしかしてだけど……」
「気のせいだろ。もとより、アイツがよくわからないプログラムを組むのは日常茶飯事だろ?特に変わりゃねぇよ」
 誤魔化した。果たしてそれが通じるのか。
 画面越しで本当に良かった。妙に鼻がいいというのは本当だった。
「ならいいけど……」
 何とか誤魔化したつもりだが、やはり不服の様子が感じ取れる。言うわけにもいかないのが心苦しい。
「じゃあ、次」
「まだあるのか」
 質問が変わってほっとする。
「スフィアの様子」
「スフィア?」
「そう」
  話題は、スフィアについてだった。事実、彼女は数週間スフィアとともに暮らしている。ゲーセンにも連れていった。それだけに、心配しているのだろう。
「明日は……戴冠式。スフィアが正式に王になる日」
「それで?」
「……あの子は……一国を背負うには幼すぎるし、スフィア自身、国王になることを望んでいないんじゃ……」
 やはり、気がついていた。ゲーセンで遊ぶ姿は心から楽しそうにしていた。その位の変化には気がつくのだろう。
「いくら決まっていたとはいえ、やっぱり可哀想。このままだったら、スフィアが潰れてしまう……」

「案外……そうでもないと思うぞ?」

「……えっ」
 帰ってきたのは意外な反応だった。ともに面倒を見た零弥なら、自分の主張にも共感すると思っていた。それ故に、驚きの言葉が漏れてしまった。
「彼女はハッキリと選んだ。確かに、彼女弱気になって迷ったさ。だが、自分自身を待ち受ける運命と正面から向き合った。大丈夫。彼女なら、きっといい国を作れるはずだ」
「何か……意外」
「……そうか?」
 とぼける零弥。若干、間があった。
 その間を亜芽が気づかないはずもなかったが、敢えて突っ込まない。画面の向こうで無表情で居るままだ。
「スフィアが無事ならそれで良かった。ところで、あのフードの男はどうなったの?」
 そう。日本で襲ってきたフードの男。あの瞬間では全くの謎だった。だが、男の手内、貴石競争で得られた情報、考えられる動機。それらの情報をまとめれば、自ずと答えは得られるはずだ。
「……見当はついてる。後は任せろ」
「分かった。そうする」
 亜芽も解決できて良かったのだろう。冷たい声でもそれが分かる。
「帰国する前に戴冠式を見る予定だ。その時にまた連絡する。スフィアも会いたがってるようだしな」
「切望する」
 その言葉とともに、通話が切れる。
 今日は満月。光は優しい。色々な事実と向き合う、重要な日になった。
 アラン・ドローヴ。彼は一体何者だろう。取り逃がしたのは残念だった。だが、それもまた必然だったのだろう。
 また会うことになる。
 今の零弥には、何となくその事を感じていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...