虎造さんと最期の夏休み

尾寺山ぱんだ

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8月3日AM11:00

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お兄ちゃん今日夜ヒマ?
虎造とらぞうさんと花火やろう٩(๑ơ ڡơ๑)۶♥

妹からメッセージが来て、まなぶは適当に「OK」のスタンプを返した。

今日も最高気温が更新された。
暑い…日差しではない。もはや空気が暑い。
暑い空気が、まとわりついてくる。

虎造とらぞうさん、大丈夫?何かフラフラしてない?」

エレベーターを出て、駐車場に向かっていたが、なかなか虎造とらぞうさんが来ないので心配になって立ち止まる。
やっぱり元気が無い。
お墓参りは、明日とかの方が良かっただろうか。

「ああ…すまない。ただの立ちくらみだ」

車に乗り込み、スーパーへ寄った。
仏花と、線香とライターを買う。

虎造とらぞうさんは、花を購入するという事に驚いていた。虎造とらぞうさんは、花を買ったことがないらしい。
畑で調達できるから、との事だった。

「しかも…高いな…」と、虎造さんは花の値段に驚いていた。多分物価が違うと思うが、まなぶも、2セット買ったら意外にいい値段するな、と内心思っていた。
いつも母親が持参していたので仏花の値段は知らなかった。

物価の説明をしながら、車を走らせお墓へ向かう。
バイトの時給とか、就職先の初任給とかの話をしたが、まなぶも何となくで話しているので分かって貰えたのかどうか分からない。

虎造とらぞうさんは、少し体調が回復したようで、顔色が良かった。


母方の時とは違い、お寺はかなり街中にあった。
小学校の向かいに保育園があり、その隣に寺と墓地がある。
夏休み中だったが、オルガンの音と、子ども達の声が少しだけ聞こえた。

まなぶくん、蝉が、居ないのか?」
虎造とらぞうさんが、木々を見上げて不思議そうな顔をしていた。

「多分…居るには居るけど昔よりは少ないんじゃないかな~?あと暑すぎて鳴かないんじゃない?朝は少し鳴いてたよ」

大学の授業で、ヒートアイランド現象で100年前に比べて大都市の平均気温が3℃ぐらい上がったとか言ってたな、とまなぶは思い出した。

こんなに暑いのに、日本の夏じゃないみたいだな。と虎造とらぞうさんが小さな声で呟きながら、車から降りて、墓石が並ぶ方へ吸い寄せられるように歩き出す。

花と線香とライター、バケツに水を入れて、まなぶは、慌てて着いて行った。





外浦家そとうらけ、と書かれた墓石の前に到着して虎造とらぞうさんは墓石に手を添え側面の文字を読んでいた。

「ああ…良かった。父も母も長生きだ」

虎造とらぞうさんの両親と思われる人の名前と、亡くなった日と年齢が彫ってある。
その隣に「きぬ」と「忠雄ただお」の文字があった。

ふじさんの妹のきぬさんが、お婿さんを迎えたんだな、と分かった。

やはり虎造さんの名前はここには無い。
という事は、それを知ったふじさんが、あっちのお墓に虎造とらぞうさんを入れた可能性が高い。

外国で亡くなった人はお骨が日本に戻ってない人も多いと聞いたことがある。
虎造とらぞうさんも、実際にはお墓には入っていないのかもしれない。

「学くん、昭和は何年で終わった?これは次の年号か?なんて読む?」

虎造さんは、「平成」の文字を指さしていた。

「えーっと、昭和は確か64年まで。次は平成へいせいって読むよ」
「そうか、ありがとう。今は平成へいせいか」

「んーと、今は令和れいわだね」
「…平成天皇はご短命だったか…」

「まだ生きてるよ」
「???」

お花と水を綺麗にして、虎造とらぞうさんは手を合わせて長い事目を閉じてしゃがみ込んでいた。

まなぶも途中までは同じようにしていたが、あまりにも長いので途中から虎造とらぞうさんの横顔をじっと見つめていた。

大丈夫かな。
亡くなったのが最近じゃなければ墓石に名前刻まない事もあるだろうし、遺骨も無いかもしれないし、気にしてないと良いけど。

もしかしてゲイって事バレてて親に勘当されてたとかなのかな…昔ってそういうの厳しそうだし。
いや、さすがにそれは無いか?
でもふじさんの方の墓には入れたんだから有り得るか。

ごちゃごちゃと、まなぶは確認しようも無い事を考える。
線香が随分と短くなって、ようやく虎造とらぞうさんが目を開けた。

「行こうか。長くなってしまって申し訳ないな」
「ううん、全然。大丈夫」

バケツを片付け、取り替えた花を捨てて、駐車場へ戻った。
帰りの車の中で、虎造さんに平成と令和の年号の事を説明した。

「なるほど、そういう事か…」

「うん。あ、妹が夜、花火しようって言ってるんだけど良い?」
「花火?ああ。分かった」

またスーパーによって適当に食材を買い揃え、家に戻って虎造とらぞうさんと素麺そうめんを食べた。
食後のデザートは、虎造さんのリクエストでわらび餅を食べる。
実に、夏っぽい。

食後に虎造さんが、ソファーに座っていたが目を閉じてウトウトし始める。
やはり、あまりちゃんと夜眠れていないようだった。
その様子を見ていて、まなぶもなんだか眠くなる。
普段日差しを避けている生活をしているので、今日は日光に当たりすぎて疲れたのかもしれない。

特に用事もないし、夕方までダラダラしようと考え、寝室に移動しようかとも思ったが、虎造とらぞうさんをこのままソファーに置いていって良いものか迷う。

「ねぇねぇ、虎造とらぞうさん。俺、寝室に居るからね、何かあったら呼んでよ」

声を掛けるが返事はなかった。
何となく、目を離すのが怖い。
一人にして大丈夫だろうか。
消えてしまうかもしれない。

「…起こさずに運べるかな?」

座っている虎造とらぞうさんを、ちょっと持ち上げて、まなぶは様子を伺う。
完全に脱力し、寝息を立てていた。

抱き上げて、ベッドまで運び、横たえて毛布を掛けた。
良かった。全く起きない。

いそいそと隣に潜り込んでまなぶも横になった。
もしこのまま、ちゃんと虎造とらぞうさんがこの時代に生きていけるのであれば、今度こそちゃんとお墓に入れるだろう。
その頃には同性婚も普通になっているといいなぁ。
そんで虎造とらぞうさんが好きになった人と、同じお墓に入れるとハッピーエンドだ。

戸籍について色々調べたが、事情次第で市役所に相談すればなんとかなる可能性もあるようだった。

思ったより何とかなりそうで、まなぶは安心して、寝息を立てている虎造とらぞうさんの顔を見つめる。
眠っている虎造さんは、幼く見える。
髪が短く坊主頭なので、中学生みたいだった。

そうだ…17時ぐらいにアラームを設定しなきゃなと、考えている内に、瞼が開かなくなり何度か意識を飛ばして、まなぶはストンと完全に意識を失った。




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