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夏、装備、そして恋
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まずい。こんなの、久しぶりだ。
午前5時、下半身の違和感で目が覚めた。
「勃ってる……」
元々、性欲は薄いほうだ。発情期以外の自慰なんてほとんどしたことがない。
「はぁ……」
ため息をつきながら、自分のそれに手を添える。
僕の身体を淫らに変えた男の顔が浮かぶ。
そういえば、あんたは騎乗位の僕を腰の上に乗せ、下から突き上げながら──僕の陰茎にオナホをはめて、滅多に見せない笑顔で、「気持ちいいか?」と囁く、そんな男だった。
いや、ないないない。自分を振った男なんて忘れろ。
今、僕がこんな状態になったのは、蒼真くん……。
初めて会ったとき。
背中に回された腕の力強さ。
耳朶に触れた熱い指先。
マメだらけの手のひらの厚み。
腰に回った手に、そのままつかまれたなら──。
想像だけで、達してしまった。
手のひらに、熱い飛沫がこぼれる。
身体はけだるいが、思考はクリアだ。けれど、後ろは疼いている。
「僕、もう女の子とは無理そう」
冴えた頭で出した結論を、ひとりごとのように吐き出す。
寝汗を流そうと、風呂場へ向かった。
♾️
「まあ、ご機嫌な顔ね」
シャワーを浴びてリビングに行くと、コーヒー片手の母さんが声をかけてきた。
「うん、恋してるからね」
「あらまあ、それは素敵」
「うん」
母さんの正面、昔から変わらない自分の席に座る。今日は日曜日。父さんはキッチンで弁当の準備に追われている。
「デートに着ていく服、あるの?」
「ないんだよね。困ってる」
「テニスから帰ったら、買い物に行く?」
「いいよ。待ってる」
「ふふっ、テニス友達に『午後から息子とデートよ』って自慢しなくちゃ」
「小学校低学年のとき以来かな?」
「そうね。あなた、買い物に興味なかったものね」
「恋をすると、変わるんだよ」
「ほんとそうよね~」
母さんにとって、Ωの僕は“息子で、少し娘”なのかもしれない。思春期を離れて暮らしてきたけれど、この距離感は心地いい。
♾️
「さあ、狩りの前に自前の装備を確認よ」
母さんはゲーマーだ。僕が子どもの頃も、夜中にこっそり新作ゲームをプレイしていた。
殺風景な僕のクローゼットを開ける。
「……貧相ね」
「ほんとにね」
「ちょっと待ってて」
母さんは夫婦の寝室へ行き、ブランドの箱をいくつか抱えて戻ってきた。
「これ、あげるわ」
「女物なんて着ないよ?」
「アクセサリーよ。小物で雰囲気は変えられるから」
出てきたのは、ユニセックスなシルバーのバングルや革のブレスレット。ごつめの指輪は、母さんには似合いそうにない。
「こんな高いの持ってたの?つけてるの見たことないけど」
「だって似合わないんだもの」
「じゃあ、なんで買ったのさ」
「全部もらい物よ?」
「父さんって、実は趣味が悪い?」
「父さんがくれたネックレスは“ここぞ”って時につけてるわよ」
「授業参観のときの、あれね。じゃあこれは──」
「昔の男の貢物」
ぶっ、と吹き出した。
「悪い気とかこもってない? よく取っておいたね。捨てなよ」
「物に悪意はないわ。物はただの物。ほら、モンスターから素材を剥ぎ取って武器にするでしょ? あれと同じ」
「ちょっ……ゲーム脳すぎない?」
母さんは構わず僕の腕にバングルをはめる。
「ほら、似合う」
「たしかに格好いいけど……“昔の男”」
「違うわ、モンスター。素材よ、素材」
「もしかして、母さんが振られたとか?」
「ん? 妻子持ちのくせに私を口説くために貢物してくる男は、正気じゃない=化け物でしょ」
「ははっ、確かにモンスターだ」
二人で“モンスターから剥ぎ取った素材”を眺めて、笑い転げた。
「じゃあ、もらおうかな。物は所詮、物だね」
「そうよ。じゃ、狩りに行きましょうか?」
「うん、よろしく」
シンプルなTシャツにシルバーのバングルをはめ、ラフな装いで、母と久しぶりの買い物に出かけた。
午前5時、下半身の違和感で目が覚めた。
「勃ってる……」
元々、性欲は薄いほうだ。発情期以外の自慰なんてほとんどしたことがない。
「はぁ……」
ため息をつきながら、自分のそれに手を添える。
僕の身体を淫らに変えた男の顔が浮かぶ。
そういえば、あんたは騎乗位の僕を腰の上に乗せ、下から突き上げながら──僕の陰茎にオナホをはめて、滅多に見せない笑顔で、「気持ちいいか?」と囁く、そんな男だった。
いや、ないないない。自分を振った男なんて忘れろ。
今、僕がこんな状態になったのは、蒼真くん……。
初めて会ったとき。
背中に回された腕の力強さ。
耳朶に触れた熱い指先。
マメだらけの手のひらの厚み。
腰に回った手に、そのままつかまれたなら──。
想像だけで、達してしまった。
手のひらに、熱い飛沫がこぼれる。
身体はけだるいが、思考はクリアだ。けれど、後ろは疼いている。
「僕、もう女の子とは無理そう」
冴えた頭で出した結論を、ひとりごとのように吐き出す。
寝汗を流そうと、風呂場へ向かった。
♾️
「まあ、ご機嫌な顔ね」
シャワーを浴びてリビングに行くと、コーヒー片手の母さんが声をかけてきた。
「うん、恋してるからね」
「あらまあ、それは素敵」
「うん」
母さんの正面、昔から変わらない自分の席に座る。今日は日曜日。父さんはキッチンで弁当の準備に追われている。
「デートに着ていく服、あるの?」
「ないんだよね。困ってる」
「テニスから帰ったら、買い物に行く?」
「いいよ。待ってる」
「ふふっ、テニス友達に『午後から息子とデートよ』って自慢しなくちゃ」
「小学校低学年のとき以来かな?」
「そうね。あなた、買い物に興味なかったものね」
「恋をすると、変わるんだよ」
「ほんとそうよね~」
母さんにとって、Ωの僕は“息子で、少し娘”なのかもしれない。思春期を離れて暮らしてきたけれど、この距離感は心地いい。
♾️
「さあ、狩りの前に自前の装備を確認よ」
母さんはゲーマーだ。僕が子どもの頃も、夜中にこっそり新作ゲームをプレイしていた。
殺風景な僕のクローゼットを開ける。
「……貧相ね」
「ほんとにね」
「ちょっと待ってて」
母さんは夫婦の寝室へ行き、ブランドの箱をいくつか抱えて戻ってきた。
「これ、あげるわ」
「女物なんて着ないよ?」
「アクセサリーよ。小物で雰囲気は変えられるから」
出てきたのは、ユニセックスなシルバーのバングルや革のブレスレット。ごつめの指輪は、母さんには似合いそうにない。
「こんな高いの持ってたの?つけてるの見たことないけど」
「だって似合わないんだもの」
「じゃあ、なんで買ったのさ」
「全部もらい物よ?」
「父さんって、実は趣味が悪い?」
「父さんがくれたネックレスは“ここぞ”って時につけてるわよ」
「授業参観のときの、あれね。じゃあこれは──」
「昔の男の貢物」
ぶっ、と吹き出した。
「悪い気とかこもってない? よく取っておいたね。捨てなよ」
「物に悪意はないわ。物はただの物。ほら、モンスターから素材を剥ぎ取って武器にするでしょ? あれと同じ」
「ちょっ……ゲーム脳すぎない?」
母さんは構わず僕の腕にバングルをはめる。
「ほら、似合う」
「たしかに格好いいけど……“昔の男”」
「違うわ、モンスター。素材よ、素材」
「もしかして、母さんが振られたとか?」
「ん? 妻子持ちのくせに私を口説くために貢物してくる男は、正気じゃない=化け物でしょ」
「ははっ、確かにモンスターだ」
二人で“モンスターから剥ぎ取った素材”を眺めて、笑い転げた。
「じゃあ、もらおうかな。物は所詮、物だね」
「そうよ。じゃ、狩りに行きましょうか?」
「うん、よろしく」
シンプルなTシャツにシルバーのバングルをはめ、ラフな装いで、母と久しぶりの買い物に出かけた。
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