ご褒美みたいな交わりを 〜捨てられΩの新たな恋〜

水主

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水曜日▶︎Side 蒼真

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 特救の訓練施設に併設されたシャワー室。白いタイルに水音が跳ね、薄い湯気が仕切りの上で揺らいでいる。

「なぁ、日向」
「なんですか、安達さん」

 仕切り越しに先輩の声。シャンプーの泡立つ音が響く。

「昨日、宴会で見せてくれた写真の……かわいい子。あれ、Ωだろ?」

 一拍だけ、水音が弱まる。

「……そうです」

 返事は、シャワーのあいだに溶けるほど小さい。

「やっぱりな。襟の下にネックガードがのぞいてた」

 安達は声を落としたまま続ける。

「お前、大丈夫か。俺たちβは、Ωの“番”にはなれない。どれだけ惹かれても……最後に選ばれるのはαだ」

 忠告というより、事実の確認。湯気の向こうで、先輩の呼吸が静かに整う。

「それとな。酷かもしれないが、今お前に向けられてる感情は“吊り橋効果”かもしれん。命を救われた直後の高揚だ。ある日、違ったって気づくこともある」

 日向は静かに蛇口をひねり、水を止めた。額の水滴を手の甲で払う。

「……わかってます」

 それでも──喉まで出かかった言葉を飲み込み、短く息を吐く。

「ただ、守りたいと思ったんです。付き合うとか番になるとかじゃなくて……そばにいたい」

 仕切りの向こうで、安達が小さく鼻を鳴らす。

「……そう来たか。相手に“運命のα”が現れたとき、引く覚悟は?」

「……はい。昨日、初めてαを見て、一瞬で敵わないって悟りました。もし彼が運命に巡り会えたら、幸せになってほしい。見届けます」

 タオルの布音。先輩の声がわずかに硬くなる。

「覚えとけ。“守る”ってのは距離も含めてだ。相手にとって安全な距離を、いつでも選べ。踏み込み過ぎるな。退く勇気も、消防隊員の仕事だろ?」

「はい」

 先ほどより、芯のある即答。

 湯気がほどける。日向はタオルで髪を拭きながら、短く頭を下げるように言った。

「……ありがとうございます」

 少し間を置いて、安達が思い出したように付け加える。

「あ、そうだ。ひとつ良い材料もある。あの写真、両手が写ってたよな。しかも家っぽい背景だ」

「そうですけど……何か?」

「撮ってるのは第三者=親御さんだ。その写真をお前に送ることも黙認されてる。『お母さんに睨まれた』って話も、今は強い拒絶までは出てないってことだ。……頑張れ」

 それ以上は何も言わず、安達はレバーをひねる。再び、均一な水音だけがタイルに降り続けた。

 日向はロッカーの扉を開け、隊服に手を伸ばす。胸の奥で、静かに燃え続ける火を確かめながら。
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