ご褒美みたいな交わりを 〜捨てられΩの新たな恋〜

水主

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閑話 ある男の独白

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 琉生と会う約束をしていたのに、厄介な男に捕まり、部屋に着いたのは日付が変わってからだった。

 明朝も海外支店との会議がある。それでも、どうしても会いたくなって、合鍵を差し込む。

 静寂の中で眠る琉生の寝顔は、あどけなく穏やかだった。俺が泊まるときに使う枕を、まるで俺の代わりのように抱きしめている。

 その光景が可愛らしくて、唇の端がゆるんだ。

 シャワーを済ませ、同じ布団に潜り込めば、途端に香りに当てられて滾る。

 いつもそうだ。この香りは、俺を離さない。

 眠ったままの琉生を後ろから抱き寄せ、その間に割り入る。文句は言うだろうが、口だけだ。最後には必ず甘えてくる。

 押しに弱い。それが琉生だ。

 今日はなんと言ってくるか。想像するだけで笑みがこぼれる。

「あっ……あっ!!」

 琉生が目を覚ます。

「そんな、いきなり……苦しい……」

 乳首を摘むと、中がびくびくと震えた。

「気持ちいいだろ? ……中が柔らかいな。一人で慰めていたのか?」

 抽送を始めれば、愛液があふれ、ちゅうちゅうと吸い付いてくる。

「……っ、待ってたの、誠司さんを……すぐできるように……ごめん、寝ちゃってた……」

 やはり、可愛い奴だ。
 耳の裏に顔を埋め、その香りを堪能する。
 今夜は、このまま眠らせてやるつもりはない。

 欲に脆いこの男は、朝になればきっと「すごかった」と恍惚の笑みを見せるだろう。実に分かりやすい。

 琉生は、この一人の部屋でもネックガードをはめている。細く長い首筋を舐め上げると、内側がきゅっと収縮した。

 Ωの本能が、俺を求めている。
 同時に、俺の本能もこの柔らかな皮膚を食い破り、獲物を完全に自分のものにしろと叫んでいる。

 だが──まだ、できない。

 番にするには、発情期の最中に注ぎながら頸を噛む必要がある。男のΩの場合、その瞬間に排卵が促される。

 つまり、番うという行為は“孕ませる”ことと同義だ。琉生の甘い瞳が、いつか俺ではなく“俺の子”を見つめる日が来る。

 そう想像するだけで、どうしようもなく虫唾が走る。

 この歳になってようやく分かった。父が俺を見るときの、あの敵意の籠もった目の理由を。俺は、彼にとって“彼のΩを奪った敵”だったのだ。

 我が子を愛することを知らぬα。

 それが霊長類の頂点に立ちながら、なお獣の域を出ぬ生き物の業だと思うと、呆れるほかない。

 αが増えれば国力が増す。かつては“αを増やす計画”まで立てられたと聞く。おそらく発案者はβだ。
 
 だが、その理性の企てを、αの本能が否定した。

 琉生の発情期に交わる夜は、まるでご褒美だ。甘く、蕩けるような夢。

 その日を指折り数えながら、発情期が近づくたびに強くなるフェロモンの香りに、溢れそうな涎を飲み込む。

 数多のαが、琉生に焦がれている。だから俺は、αの集まる場には決して彼を連れ出さない。

 琉生に許すのは、職場とマンションの往復だけ。

 休日に出かけるときは、必ず前夜に抱き潰して俺の香りを纏わせる。誰にも渡すつもりはない。

 琉生は、俺を心の底から愛している。

 声も、行動も、瞳の奥までも琉生のすべてが、俺を愛していると囁いている。

 それは、湯に浸かるような、やわらかな温かさだ。

 けれど、俺にはまだその感情が分からない。

 番になれば、いつか理解できるのだろうか。この“愛”という名の、この不可解なものを。

 ただ今は、琉生が傍にいればそれでいい。

 この願いは叶う。

 なぜなら、琉生が俺以外を見つめることは決してないのだから。

 ──この先も、ずっと。
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