ご褒美みたいな交わりを 〜捨てられΩの新たな恋〜

水主

文字の大きさ
37 / 43

妊夫の姫おさめ

お風呂から上がり、パジャマに着替えてから、互いの髪を乾かし合う。

それを終えると、僕は年越しそばを受け取りに、三階にある両親の住まいへ向かった。

我が家は、一階に共通の玄関があり、一階と二階が若夫婦である僕たちの生活スペース、三階が両親の家という造りになっている。上下階の移動は、階段かエレベーターを使う。

一階には玄関のほか、キッチンとリビング。
二階には主寝室と子供部屋、そして浴室がある。

母に「やっぱり二人で過ごす」とメッセージを送ってから年越しそばを受け取り、再び自分たちのキッチンへ戻る。

待っていてくれた蒼真と合流し、二人で寝室に籠もる準備を始める。

さっとそばを食べ、おつまみや飲み物を抱えて、僕たちは二階へ向かった。今の僕たちには、ゆっくりディナーを楽しむ余裕はない。

「お腹は、張ってない?」

「大丈夫だよ。来て、キスしたい」

寝室のベッドの上で、結婚祝いにもらったモコモコの温かなパジャマのまま、唇を重ねた。

僕の背中の下には、たっぷりの枕とクッション。お腹に負担がかからないよう、ゆったりと身体を預けながら、もう一つのトレーニング──産道マッサージを始める。

蒼真はカレンドュラオイルを片手に取り、準備を整えていく。

男性Ωのここは、他のバースに比べて柔軟性が高いとはいえ、男性器より大きなものを迎え入れた経験はない。

だからこそ、オイルを使い、時間をかけて少しずつ伸ばしていく必要がある。

産道をより柔らかく、しなやかにしておくことで、お産をスムーズにし、産後の身体への負担を和らげる──そのためのトレーニング。

女性でも、出産時に赤ちゃんが“つるん”と生まれず、分娩時に会陰が裂けることがあるらしい。

無事に出産を終えたとしても、下半身に裂傷を抱えたまま育児を始めるのは、あまりにも過酷。

医療が未発達だった時代には、十代の男性Ωは分娩時の死亡率が高かったという。

身体が十分に成長していないこと、マッサージの知識がなかったこと、いきみすぎて産道が裂け、大量出血に至るケース。

あるいは、傷の治りが遅れ、産褥病で命を落とすこともあったらしい。

……怖い。
でも、想像できてしまう。

現代では、さすがに命を落とすことはほとんどない。

それでも、出産後のトラブルを防ぎ、できるだけ穏やかに、"つるん"と安産を迎えるため、今日からこのトレーニングを始める。

やり方は、病院で教わっていた。
けれど、乳腺マッサージに比べて心理的なハードルが高く、なかなか踏み出せずにいた。

それでも今日は、二人で頑張りたい。
そんな気持ちが、静かに背中を押してくれていた。

蒼真が、僕のズボンを少し下ろして、オイルをまとった、温かな手で僕に触れる。

「……挿れるよ?」

「うん」

妊夫検診の内診で触れられる先生の指は、どうしても強い異物感があるのに。

蒼真の指は、久しぶりなのに、蒼真の指のままだった。

温かくて、やさしくて。
自然と、身体を委ねてしまう。

……これが蒼真の「好き」という気持ちの力なのかもしれない。

恋が始まったばかりの頃の胸が、ぎゅっと締めつけられるような高鳴りとは違う。
もっとじんわりと、内側から温まっていく感じ。

まるで温泉に浸かっているみたいに、安心して、ほどけて。僕は蒼真に、全身をゆっくり溶かされていく。

「蒼真……すごく好き」

「俺も、大好きだよ」

僕の隣に腰を下ろした蒼真が、えくぼを深くして笑った。

「どうしたの? 琉生、すごく優しい顔してる。思わず見惚れちゃった」

「……蒼真を好きな気持ちが、ちょっと暴走してるのかも」

「はあ……好きすぎる」

そう言いながら、蒼真は小さくため息をつくように微笑み、僕の内側を、変わらず丁寧に、そしてやさしく解していく。

奥まで指を入れると子宮を刺激し、収縮を招く恐れがあるため、触れるのは入口だけ。左右へゆっくりと圧をかけ、無理のない範囲で広げていく。

妊娠後期になると、多くの妊婦さんも同じような会陰マッサージを行うらしい。

けれど、彼女たちには、きっと起こらない変化が僕の身体にはあった。

男の身体には、前立腺がある。
どうしても、この位置では、そこに触れてしまう。

「はぁ……気持ちいい……」

抑えようとしても、熱を含んだ吐息がこぼれてしまう。

蒼真は僕の隣に身を横たえ、空いていた腕をそっと差し入れて、自然な形で腕枕にする。そのまま身体ごと抱き寄せられるが、利き手は変わらず、内側をやさしくほぐし続けた。

密着した身体越しに、蒼真の体温と呼吸が伝わってくる。

「……はふっ……はぁ……」

思わず零れた小さな声に、蒼真の呼吸が、ほんのわずかに揺れた。

肩に触れている胸が、ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐く。その一定のリズムが、静かに伝わってくる。

ほんの十分ほどのマッサージのはずなのに、次第に息が上がっていく。

「……痛くない?」

耳元で囁かれる声は、低く、ひどく慎重だ。

「気持ちいいだけ……だよ」

身体を繋げているわけじゃない。
それなのに、大切な場所を蒼真に任せ、身を委ねている。

任せる、というより。
信じて、手放す、に近い感覚。

繋がった瞬間と同じくらいの幸福感が、波のように全身を包み込む。

それと同時に、胸の奥から競り上がってくる熱も、はっきりと感じていた。

「蒼真……ここも」

そう囁きながら、パジャマのジッパーを首元から胸元まで、ゆっくりと下ろす。

ジジジと、
小さなはずの音がやけに大きく響いた。

隣で、蒼真がかすかに笑う気配がする。

「任せて。……ここも、俺の担当だから」

上体を起こした蒼真の気配が近づき、視線の先でその顔が、ゆっくりと僕の胸元へ降りてくる。

次の瞬間、熱を帯びた感触がやさしく先端に触れた。

「んん……っ」

吸われ、含まれ、かすかに噛まれ、硬くした舌先で確かめるようになぞられる。

蒼真の指は変わらず僕の内側で、舌はまるで別の生き物みたいに、僕の身体の表面を丁寧に辿っていく。

この人は、強くて、頼もしくて、僕の心も身体も守ってくれる存在なのに、どうしようもなく愛しいって心が叫ぶ。

不思議。
こんなにも頼れるかっこいい人なのに、今はひどくかわいい。

気づけば、蒼真の頭を包み込むように抱き寄せていた。指先に伝わる髪の感触を確かめるように、ゆっくり撫でる。

頭の中が、少しずつ白く染まっていく。

好き。
すき。
スキ。
大好き。

そう思った瞬間、もう堪えきれなかった。

「あ……ぁ……」

触れられていない、男性器から溜まっていた欲望が溢れ出した。

「いっぱい出たね。気持ちよくなった?」

「気持ちよすぎた……」

「もう、そろそろ終わりの時間だよ」

そう言って、蒼真は静かに身体の中から指を抜いた。

オイルを纏ったままの掌が、やさしく僕の欲をなぞる。自分が溢したものとオイルが混ざり合い、ほんの一撫でするだけで、また兆しそうになってしまう。

「これ以上は、身体に負担がかかるから……今日はここまでにしよう」

落ち着いた声で告げてから、

「拭くね」

と短く付け足し、蒼真は静かにティッシュを取った。

雲の上にいるみたいに、ふわふわとした心地よさに包まれる。全身が温かく、ゆっくりと眠気が満ちてくる。

蒼真は丁寧に僕を拭き、唇にちゅっと小さなキスを落とした。そのまま下着とズボンも整えてくれる。

「眠たそうだね。疲れたでしょ。……もう寝る?」

「うん……眠い。蒼真、お願い」

「なに?」

「さっきみたいに、腕枕して」

「眠り姫のお望みのままに」

僕の王子様は、瞳をやわらかく緩ませて、羽毛布団をそっとかけ、首の下に腕を差し入れる。

静かな夜。
蒼真の規則正しい呼吸だけが、僕の鼓動と重なっていく。

今年が、静かに終わっていった。
感想 15

あなたにおすすめの小説

腐男子ってこと旦那にバレないために頑張ります

ゆげゆげ
BL
おっす、俺は一条優希。 苗字かっこいいだって?これは旦那の苗字だ。 両親からの強制お見合いで結婚することとなった優希。 優希には旦那に隠していることがあって…? 美形×平凡です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

消えることのない残像

万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。 しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。 志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。 大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。 律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。 家族大好き料理研究家年上α×天真爛漫健気な年下Ω

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……