異世界での異生活

なにがし

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28話 収納魔法の賞味期限

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「ハイルン」

 手の平から温もりを感じると、痛みがなくなり傷口が塞がってきているのが分かる。楽になってきた。

(うそ、発動した。賭けだったのだけど、どうして?)

 しばらくすると動けるようになる。起き上がり、周りを見渡した。
 そこは河のほとりで、大きな岩と木々に囲まれた日当たりの良い開けた場所だった。河はまだまだ続いていたが、流れは緩やかで下流の方なのだと想像ができる。目の前に木々が生い茂り、それが延々と続いているので、ここが森の中なのだと分かる。

「ここは、どこの森ですかねぇ」
(それよりも、まず荷物を探しましょう。歩けそう?)

「はい。ところで、さっきの魔法は何だったのですか」
(あれは、治癒魔法。それについては落ちついてから話ましょう。荷物を思い浮かべて、スチェと唱えて。検索魔法よ)

 目を閉じ荷物を思い浮かべ、手の平に意識を向ける。

「スチェ」
(どう?)

 頭の中に真っ黒な光景が広がり、白い点が点滅していた。白い点までの方向と距離が感覚的にわかる。眼を開き景色と重ね合わせ、それがどの辺なのか想定する。

「ありました。ここからさらに下流にいった所です。そう遠くないですよ。でも、どうやってそこまで行けばよいか?」

 周りの大きな岩に行く手を阻まれ、河からでないとその場所には行けない。

(やはり、私には伝わってこないわね。まぁいいわ。河を下っていきましょう。胸に手を当ててフルックと唱えて。飛翔魔法よ)
「ああ、落ちている時に唱えたやつですね」
(そう、あの時は失敗したけど、今回はできると思うわ)
「フルック」

 少し体が浮いた。そのまま河の上を飛んでいく。足元には川魚が泳いでいるのが見える。なんだか不思議な気分になる。

「へー面白いですね。行きたい方向を思うだけで、そこに行くのですか」
(ええ。でも、時間制限があるわ。あまり長い時間飛べないから注意してね。それから速度も速くできないから急ぐ時は使えないわ)
「ありました」

 荷物は河に浸かっていた木の枝に引っかかっていた。荷物を拾い上げ、振り返り戻る。あと少しの所で突然、コントロールが難しくなり、左右に揺れ始めた。

──ドボン。

目的地手前で時間が超過したのか、河に落ちた。水の中で川魚が驚いて逃げる様子が見える。

「ぶひゃー。溺れるかと思った」

 泳いで何とか岸にたどり着いた。せっかく乾いた装備が濡れてしまった。

「これ、時間になれば落ちるしかないのですか?」
(重ねがけができるわよ。時間前にもう一回唱えればいいのよ。それにしてもヤスオ、泳げるのね。すごいじゃない)
「ええ。装備品と荷物で泳ぎにくかったけど、岸が近くて助かりました」
(レスボンの街の人は、ほとんど泳げないからこれは自慢できるわよ)

「なら、ヘーカーは、俺が死んでいると思っているでしょうね。ところで、自慢にはならないのですが、これだけ魔法を使っているのにまだ、込み上げてくるものがないのですが」
(それは、魔力が回復したからでしょ)
「ですが、さっきは強化魔法を使っただけで出しちゃったのに」
(ヤスオの言うさっきって、朝、昼、晩のいつよ?)
「そりゃあ夕方ですよ」
(今は?)

空を見上げ、太陽を探した。ヤスオの記憶では、空はうっすらと赤く陽が落ち始めた頃だったはず。でも今は、空は青々としており、陽も記憶より高い位置にある。

「今は、朝かな?えぇ!俺、一晩中意識を失っていたのですか?」
(魔力は完全回復したみたいね。昨日より魔力量も増えているわ)

「それで、これからどうしましょう。とりあえず、お腹空きました」
(ここは、東の森よ。ここで水浴びをした覚えがあるわ。この森ならよく知っているから安心して。まずはこのまま、真っすぐ進んでちょうだい。この先にリンゴの木があるはず)
「リンゴですか。口に入れば何でもいいです」
(残念ながらこの森には果物しかないのよ。辛抱してね)
「わかりました」

 濡れた衣服が纏わりついて歩き辛い。乾かしてから移動したいが、空腹の方が辛いので木々の隙間を進んでいく事にした。

(あったわ。あれよ)

 そこには自生した数十本のリンゴの木があった。見渡すとリンゴ以外にも実がなっている木がたくさんあった。まずは、リンゴをもぎ取って頬張る。

「うん。美味しい」
(ちょうど良い甘さね。それはそうと、飲み込むのが早すぎる。しっかり噛んで味わって飲み込んでよ)
「すいません。お腹が空いていて、気をつけます」

──頭の中にお母さんがいる。

 悪い気はしない。むしろ嬉しいかも。
 アリ母さんと呼んでみようかと頭をよぎったが、間違いなく怒られるのでやめた。
 その後、手にいっぱいのリンゴをもぎ取ると、その場に座り込み両手にリンゴを持って頬張った。お腹いっぱい食べると、余ったリンゴにさらにもぎ取ったものを加えて収納魔法を唱えた。

「あれは?」

 リンゴの木から少し離れた所に緑色の実が付いた木を見つけた。それに近づき、じっくりと眺めた。
(これは、甘蕉かんしょうね。硬くてえぐみがあるらしくて、食べられないわよ。調理して食べる人がいるらしいけど、ほとんどの人が食べないわね)

 ヤスオはアリアドネの意見を無視して、それを摘み取り始めた。

(ちょっとー)
「やってみたい事があります」

 それを、30個摘み取り魔法で収納した。

(もう気が済んだ?まったく時間の無駄よ。先に進むわよ)

 摘み取り中、延々と文句を言われたが、それに耐え忍んだのでアリアドネのもどかしさが頂点に達していた。

「アリ姉様。収納したものを長い時間放置するとどうなりますか?」

 怒って黙り込んでしまったので、ヤスオは質問で気を紛らわそうとした。

(ん?別にあまり大きな変化はないわ。さすがに数十年放置したら、食べ物なんかは腐っちゃうけど)

 まだ少し、怒っているようだが、返事してくれて安心した。

「数十年放置したことがあるのですね?」
(え?ええ、まぁ。以前、収納袋がボロボロになったことがあって、交換しようと中身を全部出したらヘロヘロなのが、出てきた。どうもボロボロになったのはヘロヘロのせいみたいね。テヘ)
「何年くらいまで食べられますか」
(ちょっとぉ。こう見えても元王女よ。何年も放置した物を食べるはずないでしょう)

 こう見えてもって、姿がないじゃないかと思ったが、突っ込むと話がそれそうなので、聞き流す事にした。それより、ヘロヘロになるまで放置する人が、ヘロヘロでないものを食べないはずはないと自信があった。

「それで、何年くらいです?」
(15年ものは、問題なかったわ。20年ものは、お腹を下した。25年ものは見るからにダメだった)
「やっぱり、食べていましたか。でもそれ、凄い研究結果かも知れませんね。だったら、アリ姉様の私物。収納しとけば、俺に譲渡する必要はなかったのでは?」
(あ、気がついちゃった?まぁ、そうなのだけど。いいじゃない、もらってよ。私がヤスオにあげたいのよ)

 ヤスオは、アリアドネの様子が変に思えた。そもそも、ヤスオに譲渡したくなる理由がない。理由があるとしたら一つしかない。

「アリ姉様。何か俺に後ろめたいことがありますか?」

 ──ギクッ

(べ、べ、別にないわよ)
「そうですか?それは追々聞かせてもらうとして」

 そんな話をしていたら、木々のない開けた場所に出た。そこは、日当たりがよく草花が多く自生していた。

「ここが、目的地ですか?」
(そう、ここで薬草採取を行います)

 アリアドネ流、薬草採取が始まる。子供達はただ、がむしゃらに薬草を採取していたが、アリアドネ流は薬作りを考え在庫が残らないよう偏った採取を禁じた。なので、より高度な調薬知識が要求された。
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