異世界での異生活

なにがし

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29話 秘密基地は枝の上

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始めた頃は、アリアドネに怒られながら採取していたが、慣れたのか覚えたのか分からないが、怒られなくなってきた。怒られないので雑談する余裕ができた。

「ところで俺、昨夜は無防備に寝ていたのですよね。よく無事でしたね。普通なら、何かに襲われていませんか?」
(わたしが強力な結界を張って、あなたを守ってあげたのよ)

「そうだったのですね。すごい、ありがとうございます。さすが、神様です」
(と言いたいところだけど、そんな事できないし。単純に運が良かっただけよ)

「俺の感謝を返してください。でも俺、そんなに強運だったかな?」
(半年くらい前、冒険者組合の行事でこの森の大討伐が行われたわ。30人くらいの冒険者が森に入り魔物や肉食獣は、ほとんど討伐したの。だから今、この森は、草食動物の天国ね)
「ああ元々、俺を襲うものがいなかったからですね。納得です」
(それでも半年前だから、少しは戻ってきているはずよ。やっぱり運が良かったのよ)

 やたらと運の良さを強調したがる。アリアドネの後ろめたさに関係があるような気がする。

「それにしても、森一つすべての討伐とはすごい。そんな事できるのですね」
(この森はぎりぎり森と呼べるくらいの小さな森なの。大討伐は毎年行われるから、数も少ないし。定期的に木々の間引きも行っているから、陽当たりもいい。この森は完全に人の手が入った森だからできるのよ)

「へー、凄いですね。…ちょっと待って下さい。そんなに小さいのなら、森を抜けられるのではないですか、街に帰れませんか?」
(ええ。その気になれば今日中にでも帰れるわよ)
「だったら帰りましょうよ」
(ダメよ)
「なぜです」
(今帰ってもヤスオの汚名は完全に返上されてないわ。また、早まった奴が出てこないとも限らない。それに、ヤスオはこの世界で生きていく覚悟ができてないわ。覚悟ができるまでは、この森を出てはダメ)

覚悟?それならできている。できたから独り立ちを決断したのだ。それは孤児院の子供達のためでもある。それを、否定されたのでヤスオは苛立ちを覚えた。

「覚悟ならできています」
(あなた、人以前に生き物を殺す覚悟があるの?スライムは殺せたけど、血が出る角うさぎは殺せるの?自分が殺されかけたのに、刀を抜くことすらできなかったのよ。それで、何を覚悟したの?今回は防具強化で運よく助かったけど、それがなかったら死んでいたわ)

 アリアドネが泣きながら、叫んでいるように思えた。ご指摘はもっともで、ヤスオは自立する覚悟をしただけで、人を含む生き物を殺す覚悟まではしていなかった。

(生き物を殺す覚悟。襲われたら相手の命を奪ってでも生き残る覚悟。それがないと、この世界では生きていけないわ。それを身に付けるために、修行よ)
「…分かりました」

 気がつけば眼に涙を溜めて、自分の覚悟の中途半端を反省していた。いつの間にか、その場で正座をして、別の世界に来たのだと、改めて実感した。


(ここよ。上を見て)

 薬草採取を終え、今日は早めに休もうと決めた。まだ太陽が真上を通過したばかりだが、寝床を探すことにした。アリアドネは寝床にも心当たりがあるようで、その場所へ案内してくれた。その場所は森の中央に位置し、樹齢何百年も経っているような大きな木だ。

「あれは…、家?」

 太い枝と枝を渡ってたくさんの木の板が並べられ、その板で四角形を形成している。その上に家のようなものが建てられていた。

(そう、家よ。私が作ったの)
「あんなところに家を作ったのですか?すごいですね」
(正確に言うと、作ってもらった家をここまで運んであそこに乗せて固定しただけよ)
「それでも、すごい。それであそこまで、どうやって行くのですか?」

家は、高い位置に作られ昇って行くのは難しい。そもそも簡単に昇って行けるのなら高い所に作った意味がない。そう思い、そこに行くには何か特別な方法があるのではと聞いてみた。

(飛翔魔法で行くの)
「あんな高い所に?」

やはり、家に行くには魔法が必要だった。だが、あの高さまで上がるのは、勇気がいる。

「フルック」

上に意識すると体が浮き始め、みるみる地面から離れていく。
 この時アリアドネはヤスオが普通ではない事に確信を持つ。今、使っている飛翔魔法は、補助魔法4位の魔法。まだ、5位の調薬魔法を覚えていないヤスオに使えるはずがない。さらに生活補助魔法4位の検索魔法がいきなり使えて、属性の違う回復魔法7位の治癒魔法まで使えた。これが、どういう事なのか不思議だが、理由が自分なのだと理解した。

「うわー、怖い、怖い、怖い」
(動揺してはダメよ。集中して)
「体が浮く感覚ってなんか落ち着かないですね」

 何とか目標の高さに到達すると、横に移動して土台の板に乗る。飛翔魔法は横移動だけではなく、上にも浮き上がることができるのか。そして、着地すると持続時間に関係なく効力が切れた。

──ガチャガチャ

「鍵、かかっていますよ」

ヤスオは土台に着地して中央に固定してある家の入口扉を開けようとしていた。

(昨日、収納していて鍵束がなかった?)
「ああ、ありました。あれかー」

 青玉の袋を持ち、開放魔法を使うと十個くらい鍵がついた鉄の輪が出現した。それを手に持ち、すべての鍵を凝視した。どれも似たような形をしていて、ヤスオにはすべて同じに見えた。

「これの、どれですか?」
(どれかよ)
「はい?」
(ど、れ、か、よ。)
「はい」

 慌てて開けようとしたせいか、全てを試したが開かなかった。2周目も開けることができなかった。

「これ、本当に開きます?」

(落ち着いて、丁寧に開けなさい。落ち着きがないと、急な事に冷静に対応できないわよ)

 鍵を開けるだけで、怒られてしまった。結局、三周目で開けることができた。

「これは、掃除が必要ですね」
(久しぶりに来たからね。修行だと思って頑張ってね)

 家の中は一部屋しかなく、中央に四角いテーブルと背もたれがない椅子が置いてある。奥には横幅いっぱいの台が固定されていて、台の下は4つの箱が並べて収納されていた。部屋の手前隅にはホウキや雑巾、ちり取りなどの掃除道具が立てかけてあった。それらすべてに埃が溜まっていた。
 部屋には一つだけ、大きな窓がある。その窓は、上を蝶番で固定した板が窓に蓋をしていて、中から棒で突いて開ける構造になっていた。
 ヤスオは早速、玄関扉と窓を開けっぱなしにして掃除を始め、すべての埃を取り除いた。

「終わりましたね。次は何しましょう?」

(こらぁ。雑巾がけもせんかい。あなた結構、大雑把ね)

 薬草採取で怒られ、鍵で怒られ、掃除で怒られ、情けなくて落ち込んだ。落ち込みながらも掃除を続けて、一通り拭き終わる。部屋は一つしかないので、それほど時間はかからなかった。

「この引き出しには、何か決まった物を入れるのですか?」
(収納箱として便利かなと思って作ってもらったけど、使ったことないわ)
「じゃ、俺が使わせてもらいますね」

 台の下の収納箱、4つすべてに摘み取った甘蕉かんしょうを重ならないように入れた。

(放置しないでよ)
「ちゃんと持って帰ります」

 入れ終わると、椅子に腰を下ろし落ちつく。

(ヤスオ、黒い箱と丸い箱と煎じ用陶器と籠を出して)
「ビファイオン」
「あれ、4つ同時に出せましたね」
(思い浮かべる印象がきちんとできていたら何個でも出せるわよ)

出現したのは、薬草が入った籠、何かが入っている黒い箱と丸い木箱。そして、見た目は急須なのだがとにかく大きい陶器。普通の急須の3倍はありそうな陶器をアリアドネは煎じ用陶器と呼んでいたので、ヤスオもそう覚えていた。
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