異世界での異生活

なにがし

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36.白眼

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「止まれ。貴様、見ない顔だな。その格好は冒険者か。部外者が、この街に何の用だ。」

「部外者ではありません。この街の住民です。」

 荷物から冒険者証をだし、門番に見せた。

「ヤスオだと。貴様の顔に覚えがない。しかも白い冒険者証など聞いた事もないわ。」

 門番は恐ろしい形相でヤスオの足の先から頭の先まで見渡した。

「街を出る時は、南門から出ました。東の森に用ができたので寄ってきました。あと冒険者証が白いのは、俺がG級の冒険者だからです。」

 ヤスオは小さく手を上げ門番に敵意がない事を示した。

「なに?貴様、まさかあの有名なG級ヤスオか。」

──G級ヤスオ。またか。

 門番の顔が急に緩んだ。

「いやー、この度は災難だったな。領主様に命を狙われるなんて。我々衛兵には、誤解がとけているから安心しろ。ただ、街全体にはまだ浸透しておらんから気をつけろよ。」

 門番はヤスオに冒険者証を返した。

「それで、東の森に何か異変はなかったか。」

 入門者から情報を聞き出し、報告するのも門番の仕事。
だが、この場にはヤスオしかおらず、少し暇つぶしがしたいようだ。

「小鬼に遭遇しました。取り逃がしましたけど。」
「東の森にゴブリンが?逃がしたのか、いや無事で何より。時々メスゴブリンに欲情して取り逃がす輩がいるから、それに比べればマシだよ。ハハハ。」

 その場を和ませようと冗談を言ったのだが、ヤスオは下を向いて固まってしまった。

「ハハハ?まさか、欲情しちゃいましたか?そういえば、G級ヤスオは変態で女性とみれば見境ないという噂があったような。」
「ち、違います。ただ逃がしたのがメスゴブリンだったので。そのような誤解を受けるかと心配になっただけです。」
「そうですか。ゴブリンの件、承知しました。通ってよし。」

 そう言いながら、門番のヤスオを見る目が明らかに普通とは違っていた。
ヤスオは一礼して門を通り抜けた。

(クスクスクス。やっぱりG級ヤスオが名前だと思われているのね。それに変態で見境ないって言われているなんて。)

「ゆっくり休んでくださいよー。G級欲情さん。」

 後ろから門番が大きな声を出した。

「誰が、欲情だぁ。」

 ヤスオは振り返り言い返した。
 
(アハハハハ。もはや、ヤスオでもないのね。)

 商店街に到着した。と言っても屋台が並ぶいつもの場所だが。

「アリ姉様。お昼、何にします?」
(そうね~。とりあえず、肉だわ。)
「肉ですよね。問題は何肉にするかだけど、先に雑貨屋に寄ってもいいですか?」
(いいわよ。)

 欲しい物があり、忘れないうちに買っておきたくて、雑貨屋に向かった。

「兄ちゃん。兄ちゃん。そこの兄ちゃん。」

 誰かがヤスオに声をかけていた。しかし、自分が兄ちゃんだと自覚がなく無視してしまう。

「待ってくれ。兄ちゃん。」

 男がヤスオの肩に手をかけ引き止めた。

「お、俺か?」
「そうだよ。兄ちゃん。この前は悪かったから無視しないでくれ。」

 その男は頭に布をまき商売人風の格好をしていた。

「串焼き屋の親父さん?」
「ああそうだ。この前は門前払いをして悪かったな。あのあとマイヤちゃんに、こっぴどく怒られちまってよ。あんなに怒る子とは思ってなかったからビックリしたよ。」
「それで、汚名は返上できましたか?」
「もちろんさ。この街でそんな事を信じている奴はもういねぇよ。」

 ヤスオは街の人と門番で温度差があるのが気になった。
さらに、門番はヤスオの顔を知らないのに、街の人はみんな知っている。
門番の仕事は意外と閉鎖的なのかなと思った。

「それで兄ちゃん。お詫びにサービスするから、うちの串焼き買ってくれ。」
「お昼に串焼きですか?」
(いいわねー。全種類、買いなさいよ。)
「じゃ、買います。」

 こうして串焼きを買ったのだが、親父さんのお詫びの品がとても多く、一人では食べきれない量になっていた。

「毎度あり。また来ておくれよ。それと女もんの服を着るのは、やめといた方がいいぞ。」

(アハハハハハ。)
「親父さん。それも濡れ衣。俺、そんな趣味ないです。」

 ヤスオは顔を真っ赤にしてその場を去った。
どうやらその手の噂が広まっているようだ。
道を歩いていると、まるでモーセの奇跡のように多くの女性が、両端二つに割れ、道をあけてくれる。
そして、白い目で見つめながら通り過ぎるのを待つ。
ヤスオの通り過ぎた道は、まるでエジプト軍のように女性たちに、呑まれていく。
 次に寄った雑貨屋では、ヤスオを見つけた女性店員が隠れ、女性客は店外へ出てしまう。
しかも買ったのが紐だったので余計な誤解を招き、周りの女性から白い目で見られた。

「うぅ。どうしてこうなった。アリ姉様。他に欲しい物がありますか?」
(ひぃひぃひぃ。今日はこのくらいに、しておきましょう。これ以上笑ったらおかしくなりそう。)
「そうですね。俺も早く帰りたいです。」

 以前とは違う女性限定の白い目線を浴びながら帰宅する。

──いったいどんな噂が流れているのだろう。

そんなことを考えていたら、アリアドネが察して答えてくれた。

(これ、人によって聞いた話が違うと思うわ。元はヤスオに女装癖がある。それに尾ひれ背びれがついて、いろんなとこで一人歩きをしているのよ。)
「いろんな噂を聞いて、警戒されているのかな。」
(今回、紐を買っちゃったから、紐にまつわる噂話が追加されるでしょうね。)
「あと、メスゴブリンの噂も追加されそうですね。その場合、犯人はあの門番だろうけど。はぁぁぁ。しかし、どうしてこうなった。」

 あと少しで、アリアドネ邸に着くというところで家の前に人影があるのに気がついた。

「あっ帰ってきた。ヤスオ―。」

 人影は三人。孤児院の子供、ビル、トムの男の子二人、リンの女の子一人だった。

「お前たち、どうした。今は薬草採取しているはずだろ。」
「トイ爺さんに気分が悪いと言って、休ませてもらった。」
「で、俺に用か?ははーん。一週間、行方不明だったから心配してくれたのか?」
「ゆくえ、ふめい?」
「何それ。俺達知らないよ。」
「今日はお願いがあってきたの。」
(クスクスクス。一週間いなかった事すら気付かれないなんて。なかなかの存在感ね。ヤスオ。)

 ヤスオは悲しさを抑え、子供達を家に招き入れた。
まず、装備を脱ぎ着替える。そして、買ってきた串焼きを皿に移し、子供達に振る舞った。

「それで、お願いは何かな。」

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