異世界での異生活

なにがし

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48.譲渡

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ヤスオは2人に鋭い視線を送り、恫喝した。

自身が信用されないのは百も承知だが、何としてでも、ソフィアにイリスを届けたかった。

「わかりました。近親ではない、わたし達が、これ以上は妨害するのは無粋ですね。」

息子さんが、ヤスオの迫力に負け、ソフィア宅を教えてくれた。
ヤスオは教わった家の前に立ち入口をノックした。

──コンコン。

「はい、どちら様でしょう。」

扉が開いて出てきたのは、ヤスオにとってど真ん中の女性だった。
その女性は、“黒き瞳”の女性によく似ていて、ヤスオの心臓を破裂寸前まで追い込んだ。
さらに直立不動になり、顔は耳まで赤く、頭からは大量の蒸気が発生した。
ヤスオは憧れの女性に会ったかのように緊張していた。

「本日は、娘さん、イリスさんの件でお伺いいたしました。」

ソフィヤはヤスオの上から下まで見渡した。
ヤスオの顔は知らないようだが、格好から冒険者だとはわかっている。
ソフィアは用件の、おおよその想像がついた。

「イリスの?そうですか。どうぞ中にお入りください。」
「失礼します。」

手と足を同じ方向に出し、肘や膝などの関節をまげることもできず、ぎこちない歩き方で家に入る。
ソフィアは、台所に案内して椅子に座るよう求め、お茶を入れる。

「こんにちは。」

突然やってきて、変な歩き方をする男に興味が湧いたか、ミニソフィアがヤスオに挨拶し、近寄ってきた。

「わたしはリリー。お姉ちゃんのお友達ですか?」

アイルと同じ歳くらいの女の子。イリスはこの子とアイルを重ね合わせたのか。
イリスが前後を忘れ、身を賭してアイルを助けようとした理由が分かった気がした。

「こんにちは。ごめんね、友達じゃないよ。」
「リリー。これから大事な話があるから、向こうで遊んでいて。」

お茶をヤスオの前に差し出しながら、ソフィアはリリーに部屋を出るよう求めた。
リリーは少し寂しそうな顔をして、トボトボと部屋を出ていく。

「イリスが見つかったのですね。」

リリーが部屋を出たのを見届けると、ソフィアは座ることなく話し始めた。

「まだ、本人かどうか分かりませんので、確認していただきたいのです。」
「わかりました。どうぞこちらへ。」

ソフィアは歩き出し、台所を出てしまった。

──あち。

お茶を一気に飲み干して、慌ててソフィアを追った。

「娘の部屋です。」

イリスの部屋に案内され、2人は部屋に入る。部屋の中は収納タンスに机とベッドがある。
ヤスオはベッドに歩み寄り、遺体をベッドの上に載るように解放魔法で出した。

「どうでしょう?娘さんですか?」

振り返り、ソフィアの表情をうかがう。
ソフィアはエプロンの太もも部分を握りしめ、瞳を強く閉じたまま、その場で立ちすくむ。
ヤスオは黙ってソフィアの決意が固まるのを待った。
ソフィアの瞳が少しずつ開放されてくる。半分ほど開くと一気に全開放され、大量の涙が放出された。
足元から崩れ、両膝と左手を床につけ、外に声が漏れぬよう右手で口を塞ぎすすり泣く。
もはや返事を聞く必要はなかった。ヤスオはかける言葉を見つけられず、ただ立ちすくんだ。
少し落ち着いたのを見計らい、イリスがゴブリンに捕まっていたこと。アイルのために必死に戦ったことを伝えた。
すべてを伝え終えると、まだ泣き止まぬソフィアを置いて退室し、そのまま家を出る。
最後の別れに自分は邪魔だと判断しての、行動だった。
そして教会に向かった。

太陽が真上を通過しようとしている頃、ヤスオは教会への道筋を辿っていた。

(お腹すいたわね。)
「はい。教会に俺の分の昼食があるかな?」
(ないかもね。でも、大丈夫。確か串焼きがあるわよね。子供達に多少分けたけど、まだ十分の量があったはずよ。)
「ああ、確かに。でも、今食べたら寝ちゃいませんかね?」
(寝ちゃえばいいのよ。もうやることないし。アイルを埋葬するときは誰か起こしてくれるわよ。)
「そうですね。」

教会に到着したのは、お昼をとっくに過ぎていた。
ヤスオは、礼拝堂の方から入り、アイルの様子を見ることにした。
棺の周りには誰もなく、右側長椅子の1列目にトイ爺が、3列目にシンシアが座っていた。
2人は参列者の案内役としてここにいるのだろうが、誰も来ないのであろう、寝てしまっていた。
昨夜は2人とも、ほとんど寝ていないので無理もない。
孤児院の方からは、子供達の声が聞こえる。おそらく授業をしているのだろう。
2人を起こさぬよう静かに歩き、アイルの顔を見たら、左側1列目の長椅子に座った。
どこで昼食を摂ろうかと考えていたら、強烈な睡魔に襲われそのまま眠ってしまった。

「こんにちは、運搬業者です。」

礼拝堂の入口で大声を出す若者がいる。この声に3人はびっくりして目を覚ます。

──いてぇ。

ヤスオはびっくりし過ぎて、椅子から滑り落ち尻餅をついた。

「あら、もうきたのですか。早すぎるのでは、ないですか?」

声を聞き、孤児院の方からセメレがやってきた。

「すみません。立て込んでいまして。それに先方さんの準備もできていますし。早めに引き取りたいのですが。」

それは、貴族の老夫婦が依頼した運搬業者で、アイルを引き取りにきていた。
急きょ子供達を呼んで、みんなで最後の別れを行う。

「皆さん、アイルは貴族様のお墓に入るので、私たちは行くことができません。ですから、これが本当に最後です。みんなで手を合わせましょう。」

貴族霊園。貴族専用の霊園で一般市民は許可なく入ることはできない。
セメレの合図で全員、手を合わす。改めて全員がすすり泣く。
セメレがうなずくと、運搬業者2人が手際よく棺の蓋を閉める。

「アイル、アイル、アイル。」

子供達の最後の声が、礼拝堂に響き渡る。
その中を、2人の男が軽々と棺を担ぎ、礼拝堂を出て、去って行った。

葬儀が終わった。

「随分、あっけないのですね。」

礼拝堂の入口まで移動し、荷車に棺を固定する運搬業者を眺めていた。

(そうね。でもいつまでも後ろを向いているわけにはいかないから、この方が前を向きやすくていいかもよ。それで、明日からどうする。)
「薬草採取をして、薬を作ります。ですが、この近辺の小鬼は根絶やしにしたいですね。」
(大きくでたわね。では、西の森に行くしかないわね。)
「西の森。」

「なに、ぶつぶつ言っているの?」

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