異世界での異生活

なにがし

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85.作り置き

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噂を鵜呑みにし、過剰な仕打ちを指示したことを大いに反省した。

「ヤスオ殿。この後は、どうされるのだ?」
「帰って、くつろぎたいと思っています。」
「では、ここでお別れだな。失礼する。」
「チャーフィーさん、ありがとうございました。おかげで胸のつかえが取れたような気持ちです。」
「いや、あの店は以前から苦情が多く、何とかしなければと思っていた。いい機会になったよ。と言うか、あの店主の顔…。楽しかった。わたしからも、ありがとうだ。」

 こうして、二人は別々の道を進む。チャーフィーは立ち止まり、振り返った。すでに、ヤスオの姿は消えていたが、無意識にその残像を想像した。年の近い男は既婚者か、部下ばかり。街の人も団長の地位に頭を下げる。はじめて、対等…いや、それ以上の年の近い独身男性に出会い、チャーフィーは胸躍った。

──あの人には、神が宿っている。

 頭を左右に振り、我に帰ろうと努力する。だが、高鳴る胸の鼓動を抑えられなかった。

 ここのところ、家に戻るたびに誰かが立っているので、今日は誰だろうと楽しみにしていた。だが、そんな時に限って、誰もいない。少し期待外れだが、それが普通なのだと思いアリアドネ邸に入る。そして、かまどに火を入れ、買ったばかりの鍋を置き調理を始めた。

(ヤスオ、夜ご飯には、まだ早いわよ。)
「いえ、料理を作り置きして、遠征先で食べようかと思いまして。」
(いい考えね。でも、冷めたら美味しくないわよね。)
「そこで、アリ姉様に聞きたいのですが、温かい物を収納して、どのくらいまで温かいままで収納できるのですか?」
(いい質問ね。でもそれは、検証したことないわ。今までの経験上だけど、開放して温かいものが出てきた記憶がないわ。)
「それは、俺も同じです。おそらくそれは、放置したのと同じ条件なのですね。」
(えぇ、おそらくすぐに冷めるわね。)
「そこで、鍋です。焚火で温めれば美味しいでしょう。」
(それで、蓋付きで金具の取手が付いたものばかり買っていたのね。上から吊るすんだ。)

 鼻歌を演奏しながら、楽しそうに調理をしていく。アリアドネは、自宅に人がくれば手料理を振舞うこともあったが、通常は自分一人なのでいつも簡単に済ましていた。自分用の食事にこんなに楽しそうにするヤスオが、理解できなかった。さらに、ヤスオの鼻から流れる曲が気になった。

(ねぇ、それなんて言う曲なの?)
「え?何のことですか?」
(その、鼻歌よぉ。)
「あぁ。これは鬼のパンツの歌ですけど。」
(なに、その変な題名。鬼は小鬼の事?)
「違います。どちらかと言うとオーガですかね。替え歌でして、正式な名前は確か、…フリクリフリクラだったと思います。」
(へぇぇ。なんかいい曲ね。ノリがよくて好きだわ。)

 ヤスオも知らず知らずのうちに選曲していて、何故この曲を鼻歌にしたのか、分からなかった。それによく考えたら、この曲を初めから最後まで聞いたことがない。なので、終わりが分からず、ゲームのBGMのように何度も同じリズムを繰り返していた。
 
 結局、調理に時間がかかってしまい、夕飯が遅くなってしまった。しかし、この日は調薬用の薬草の持ち合わせがないので、調薬ができない。少し、くつろいだら、早めに休むことにした。

 翌朝、ご近所から、まな板の音が響き、煙突から、煙が出始めた頃、アリアドネ邸の玄関扉が開き、ヤスオが出てくる。

(今日は何する?)
「南門から、西の森を目指します。まずは薬草採取です。」

 南門を抜けて、西の森に入ると西森湖の西側を目指す。先日、歓喜した薬草の群生地を目指した。前回は野生動物によく出会ったが、今回はいないようだ。何か運のようなものがあるのかと首を傾げる。結局、何者とも遭遇することなく目的地に到着した。こんなこともあるのだなと、感心しながら薬草採取を始める。
 薬草採取を行っているとヤスオの様子が、いつもと違ってくる。やたらと空を見上げ、太陽の位置を確認している。落ち着きがなく、たまに手が止まり何かを妄想しているようで、口元がにやけていた。

(何を企んでいるの?そわそわ、しているわよ。)
「ばれましたか。このあと、サーチェさんの所に行こうと思いまして。」
(なるほど、昼のタイミングに合わせて、食事を振舞う気ね。)
「はい。」
(ははーん。それで、昨日楽しそうに料理していたのね。)
「え?楽しそうでしたか?」
(楽しそうだった。と言うか、今も楽しそうよ。何だろう、少し妬けるわね。)
「そう思っていただけるとは。光栄です。」

 陽も真上に近づいてきたので、サーチェの住む洞窟を目指した。足取り軽く、鼻歌交じりに歩いて行く。

「初めて、女子の家に遊びに行く中学生の気分です。」
(まったく、意味がわからないけど、ようは胸が高まるのね。)

 洞窟近づくにつれ、洞窟の中が見えてくる。サーチェはいるだろうか遠目から見るが、いる様子がない。洞窟の中に入ってみたが、誰もいなかった。それどころか、先日来た時と同じ状況で、誰かが住んでいる様子もない。

──そうか。子供達のために、ここを用意しただけで、住んでいるとは限らないか。

 空を飛べるサーチェが、洞窟に住む必要はない。むしろ外敵が少ない、高い場所に住んでいると考えた方が自然だ。この場所には、雨でも降らない限り来ないかもしれない。途方に暮れ、どうしようかと、しばらくその場で考え込んだ。

「わっちに何か用か?ヤスオっち。」

 例によって背後から声をかけて、マウントを取ってくる。

「サーチェ。良かった。会えないかと思った。」

 前回同様、両手を上に向けて、戦闘の意思がないのを伝える。サーチェは照れくさそうに、ヤスオの正面にまわった。

「わっちに会いにきたさぁ。うれしいさぁね。」
「サーチェ、腹は減ってないか?その、一緒にと思ってきたのだが。」
「ヤスオっちの食べ物は、美味しいから満腹でも、食べられるさぁ。」

 ヤスオはすぐに焚火の準備をし、火を起こした。そして両サイドにYの字になった木の枝を設置すると、それに解放して出した鉄の棒をかける。鉄の棒にS字フックをかけ、鍋を吊るし加熱する。しばらくすると鍋が煮込む。ヤスオは、お椀に鍋の中身を移し、先割れスプーンを添えてサーチェに渡す。

「熱いから気を付けてね。」

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