異世界での異生活

なにがし

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86.葛藤

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「熱いから気を付けてね。」

 サーチェは、前回同様、食べ方が分からず、固まった。ヤスオは、器からスプーンですくい、口でフーフーと息を吹きかけ冷まして食べて見せた。そして、熱くもないのに、熱いそぶりを見せ、しっかり冷まさないと熱いよ、のアピールをして見せた。サーチェはヤスオの真似をして、フーフーと息を吹きかける。そして、口に入れようとするが、熱いのを警戒して口先が象の鼻のように器用に動いて、食材を探る。熱くないのを確認すると一気に口の中に放り込む。

「あっちぃぃぃぃい、……さぁ。」

 冷めていたのは、表面だけで中は、まだ熱かった。サーチェは口をおさえ、熱さに涙目になりながら味わう。

──すごく美味い。

 サーチェは口の中のやけどを忘れ、一気に食らいつく。そして、おかわりを要求した。
ヤスオは、嬉しそうにその要求に従った。
 鍋の中は、何もなくなり、ヤスオもサーチェも満足していた。サーチェは、満腹で眠くなったので、後を頼むと寝てしまった。ヤスオは仕方なく、調薬をして時間を潰した。サーチェが目を覚ましたのは夜になってからだ。身体を身震いさせると、洞窟から飛んで、どこかに行ってしまった。ヤスオが唖然とし途方に暮れていると、何事もなかったように、帰ってきた。

「ヤスオっち、なにか食べ物は、ないかさぁ?」
「あるけど、寝ていただけなのに、もうお腹が空いたの?」
「出す物、出したら、お腹空いたさぁ。」

──ああ、用を足しに出かけたのね。

 ヤスオは、こんなこともあろうかと用意していた、鍋料理パート2を出して、サーチェに振舞った。前回は醤油ベースで、今回は味噌ベースだ。これも、サーチェは気に入り、美味しそうに食べる。

「この味は、久しぶりさぁね。」
「味噌を知っているのかい?」
「みそって言うかさぁ。以前、亡くなった人から拝借して、食べたことがあったさぁ。野菜につけて食べたさぁ。」
「亡くなった人?」
「戦争さぁよ。」

 食事が終わり、軽く雑談をしたら、再び寝てしまった。森での生活は、ゆっくり寝ることができないのだろうか。安心しきった表情で寝ているから、頼られているようで嬉しい。その後、警告魔法を唱えてヤスオも眠りにつく。
 深夜、突然サーチェが、起き上がり叫び始めた。

「奴さぁ、ミノの奴が、暴れているさぁ。怖いさぁ、怖いさぁね。」

 全身、ブルブル震わせ両手で自分自身を抱きしめ、怖がっていた。ヤスオは、目を覚まし燻っていた焚火に薪を加えた。火が強くなり、周りの様子が見えるようになる。そして、サーチェの様子を伺った。

「サーチェ、どうした?何があった。」

 ヤスオの警告魔法には反応がなく、近くに魔物は、いないはずだが。念のため、探知魔法をかけ、周りの様子を探った。

「大丈夫かサーチェ?近くには、何もいないから安心してくれ。」

 サーチェはヤスオに飛びつき、しがみついた。そして、お腹のあたりに顔を埋め泣き叫ぶ。

「奴さぁ。ミノタウロスが暴れているさぁ。怖い…怖い…怖い…さぁ…。」

 ヤスオは何度もサーチェの頭をさすり、安心させようとした。その効果が生まれ、サーチェは目に涙をいっぱい溜めて子供の様に、お腹を枕にして寝息を立て始めた。

「何なの、でしょう?」
(おそらく、ミノタウロスの気配を感じて起きたのね。)
「サーチェの睡眠不足の原因ですか?子供達といる時はそんな事、ないようでしたけど。」
(理由は分からないけど、サーチェの様子から見るに、気配を感じるようになったのは最近みたいね。多分、気配は感じるけど、どこにいるか分からないから、寝ないで、どこかに隠れていたのでしょう。)

──まさか、昨日から。

 ヤスオは思い当たる節があり考え込んだ。今はどうにもならないと切り替える事にした。

「で、今、寝ているのはなぜです。」
(近くに何もいないと、聞いて安心したのでしょ。ヤスオもいるし。)
「今、どこかで、暴れているのですか。」
(たぶん。ハーピーの野生の勘は、侮れないからね。)

 ヤスオは、とても眠れそうにないので、朝まで、焚火を見張る事にした。しばらくアリアドネと話していたが、返事がこなくなった。寝てしまったようだ。

──こ、これは。

 ハーピーも一応、上半身は女性。それが、抱き着いて眠っている。太ももに当たる柔らかい感触。目じりが下がり、鼻の下が伸びる。アリアドネは寝ているようなので、今はヤスオ一人の感触。

──少しくらい触っても、気づきゃしねぇよ。

 心の悪魔がささやく。

──ダメです。嫌われてしまいますよ。

 心の天使が否定する。悪魔と天使はいがみ合い、頭の周りで空中戦を展開した。両者の攻防は互角で、決着がつかないまま時間だけが過ぎた。そんな空中戦が展開されている最中、ヤスオに新たな問題が発生する。

──あ、足が。

 足が痺れてきた。サーチェに抱き着かれ、身動きが取れなかったのが原因だ。さらに、サーチェはヤスオより一回り大きい。体重もそれなりにあり、結構な圧力がヤスオの足に襲いかかっていた。

 周りが明るくなってきて、スズメの鳴き声が聞こえてくる。サーチェは目を覚まし、ヤスオに抱きついていたことに気付き、慌てて起き上がる。

「ごめんさぁ。重かったさぁ?」

 ヤスオの足は血の気が引いて真っ白になり、まったく感覚がなくなっていた。とりあえず四つん這いになり、足の血行を戻した。足に血液が通い始めるのが分かる。それと同時に、強烈な痺れが、つま先を襲う。

(何、何、これ。痛い、いたい、いたい、いたい。)

 あまりの痺れに、アリアドネは目を覚ました。ヤスオにも苦悶の表情が浮かぶ。

「ごめんさぁ、ヤスオっち。つま先が痛いかさぁ。擦ろうか?」
「ま、待て、サーチェ。つま先には絶対に触れないでくれ。」

 そんなヤスオの警告を無視して、サーチェはつま先を擦った。

「(ギャァァァァァ。)」

 スケベ心を出したヤスオにはバチが当たり、アリアドネは巻き添えを食らった。

「ごめんさぁ、ヤスオッち。昨夜は怖くて、我を忘れたさぁ。」
「いえ、抱きつかれて嬉しかったですよ。」
「重かったさぁ?」

──はい。それは、もう、すごく。

 などと口に出せる訳なく、口元がピクピクと痙攣を起こす。

「いえ。そんな事より、気安く触らないよう抑える方が大変でした。」
「そんなこと、気にしたかさぁ。わっちはヤスオにどこを触られても、嬉しいさぁよ。」

──ホントに?それを早く言ってよ。昨夜の空中戦は無意味だったのか。


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